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アスペクトの定義およびその位置づけ

第 2 章 先行研究および研究課題

2.1 アスペクトの定義およびその位置づけ

これまで、一般言語学や個別言語のアスペクト研究では数多くの成果が挙げられてきた。

研究者によって、アスペクトに関する定義も様々である。Comrie(1976:3)のアスペクトに 対する定義をふまえ、本研究でいうアスペクトを、「事態の時間構成に対して、発話者のい ろいろな捉え方を表す形態論的なカテゴリーである」と規定する。すなわち、アスペクト を動詞の表す動作の流れの姿と考えると、1 つの事態の時間構成に対して、発話者は外部 の視点からひとまとまりとして捉える場合もあれば、事態の内部に立ち入って進行中の一 部分だけを捉える場合もある。また、動作の開始局面或いは 終結局面だけを捉える場合も あれば、動作・行為による結果の状態に焦点を当てる場合もある。このように、 動詞の表 す動作の流れのどの局面に焦点を当てて捉えているかというアスペクト的意味を表すには 様々な方法がある。

26 讃井(2002)は、中国語のアスペクトは「了」、「着」、「过」という言語形式によ って担われており、

「そもそもコムリーの言うような二項対立ではなく三項鼎立である」(p.74)と述べている。

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アスペクトには、「事態アスペクト(situation aspect)」と「文法的アスペクト(grammar aspect)」とが存在する。「事態アスペクト」は、「話し手の(主体的な)捉え方の中にある のではなく」(村木 1991:276)、動詞及び動詞句に内在するアスペクト的意味を指す。した がって、「事態アスペクト」は「語彙的アスペクト(lexical aspect)」、「アクチオンスアル

ト(aktionsart)」とも呼ばれる。「事態アスペクト」に関する研究はVendler(1967)、Dowty

(1979)、Durst-Andersen(1992)、Smith(1997)などが挙げられる。現在、広く受け入ら

れているのは状態(state)、活動(activity)、完成(accomplishment)、達成(achievement)

というVendler(1967)の動詞に対する4分類である。これらの分類は次のような特徴をも

っている。

状態:その本来的性質からして結果をともなわない非動的な 出来事。例えば、

ある、いる、等(日本語)

知道(知っている)、爱(愛している)、等(中国語)

活動:全体のうちどの部分も同じ性質である動的過程。例えば、

踊る、読む、笑う、等(日本語);

跑(走る)、吃(食べる)、喝(飲む)、等(中国語)

完成:終点に達する前に動きが存在しつつ、終着点に向かっていく出来事。例えば、

本を1冊読む、2km歩く、家を3軒たてる、学校まで歩く、等(日本語)

看一本书(本を1冊読む)、挖一个洞(穴を1つ掘る)、煮饭(ご飯を炊く)、盖 房子(家を建てる)、等(中国語)

達成:動きが付随することなく、ある状態から別の状態へと瞬間的に飛躍する出来事。

きづく、はじまる、レースにかつ、山頂につく、等(日本語)

毕业(卒業する)、结束(終わる)、消失(消える)、到(到達する)、等(中国語)

(副島2007:41;中国語の用例は筆者による)

このうち、「完成」と「達成」は、動作が必然的に終了し、新たな結果状態を生み出す限

界動詞(telic verb)である。一方、「状態」と「活動」は必然的な終了限界をもたないがゆ

えに、非限界動詞(atelic verb)である。限界に関しては、須田(2010)では以下のように 規定されている。

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限界は、動詞のさししめす動作の時間的な展開のし方の特徴として、なによりもまず、

動詞の語彙的な意味のなかに、その意味特徴の一つとして、含みこまれている。これ を内的な限界と呼ぶが、その意味特徴の有無により、動詞は、限界動詞と無限界動詞 に分けられることになる。たとえば、「倒れる」、「落ちる」などの動詞は、その動作が つきはて、それ以上展開しない限界という要素を、その語彙的な意味のなかに含んで いるが、「走る」、「ふるえる」などの動詞は、動作のつきはてる点が、その動作の性格 からは導きだせず、限界という要素を、その語彙的な意味のなかに含んでいないと言 える。前者が限界動詞であり、後者が無限界動詞である。

(須田2010:139)

上述したように、「限界」は動詞の語彙的な意味の中に含まれている 意味特徴であり、

工藤(1995)の言うところの「内的時間的限界」である。これに対し、「学校まで走る」、

「1 時間歩く」のように、動詞の語彙的な意味ではなく、他の限定的条件によって、動作 が限界に達することを表せる。これは工藤(1995)の言うところの「外的時間的限界」で ある。そして、特別な説明がない限り、本研究でいう「限界」を「内的時間的限界」とす る。動詞の表す動作が限界に達したら、動作の主体或いは客体の対象がある状態から別の 状態に変わることを表す動詞であり、「外的時間的限界」と区別する27

また、工藤(1995)は、アスペクト対立の有無の観点から、日本語動詞を「外的運動動 詞」、「内的状態動詞」と「静態動詞」に大別している。そして、奥田(1977)の見解に従 い、動作か変化かという観点と、主体か客体かという観点を組み合わせて、「外的運動動詞」

をさらに「主体動作・客体変化動詞」、「主体変化動詞」と「主体動作動詞」に分類してい る。

27 このような「限界」と「非限界」は 、事物を「限界」/「非限界」的に捉える話者の認知能力にその 基盤が求められる(Langacker 1987)。「限界」/「非限界」がモノに投射される場合に、空間的に境界が ある「可算名詞」と空間的に境界がない「不可算名詞」という区別が考えられる。そして、モノの「限 界」/「非限界」がコトに投射される場合に、事態の「完結」と「非完結」との区別が考えられる。

24 主体動作・客体変化動詞

限界動詞 主体変化動詞

主体動作動詞 非限界動詞 図 2-1. 限界動詞と非限界動詞

図 2-1 のように、限界動詞は、動作主による動作が終わった後に、動作の主体に変化が 引き起こされることを表す主体変化動詞と、動作主が対象に働きかけて、客体の対象に変 化を引き起こさせる主体動作・客体変化動詞を両方含めている。

具体的に、工藤(1995)の分類を次の図 2-2 にまとめることができる。工藤(1995)の 動詞分類はアスペクト的特徴に基づく動詞の分類であり、しかも、主体か客体かという観 点からの分類である。本稿で論じている「V 有」、「有 V」、「V テアル」に用いられる動詞 の分類にも有効であると考えられる。

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客体の状態変化・位置変化を引き起す動詞:温める、入れる、外す、等 主体動作・

客体変化動詞 所有関係の変化を引き起こす動詞:預ける、あげる、買う、等 主体変化・主体動作動詞(再帰動詞):かぶる、着る、脱ぐ、等 主体変化動詞 人の意志的な(位置・姿勢)変化動詞:集まる、立つ、坐る、等 ものの無意志的な(状態・位置)変化動詞:落ちる、腐る、生える、等 主体動作・客体動き動詞:動かす、まわす、飛ばす、等

主体動作・客体接触動詞:押す、打つ、引く、等

主体動作動詞 人の認識活動・言語活動・表現活動動詞:聞く、言う、睨む、等 人の意志的動作動詞:遊ぶ、歩く、頷く、等

人の長期的動作動詞:営む、住む、付き合う、等

ものの非意志的な動き(現象)動詞:光る、揺れる、なる、等 思考動詞:思う、考える、疑う、等

感情動詞:諦める、憧れる、がっかりする、等 知覚動詞:感じる、聞こえる、見える、等 感覚動詞:痛む、しびれる、疲れる、等 存在動詞:ある、いる、等

空間的配置動詞:聳えている、面している、隣接している、等 関係動詞:当てはまる、示す、違う、等

特性動詞:優れている、似合う、泳げる、等

図 2-2. 工藤(1995)による日本語動詞の分類

一方、「文法的アスペクト」は、 動詞の屈折語尾や助動詞の付加などといった 文法的形 式によって表されている。「視点アスペクト(viewpoint)」(Smith 1997)、「統語的アスペク ト」(田川 2005)とも呼ばれる。日本語の場合、「Vテイル」、「Vテアル」、「V ツツアル」

などのアスペクト形式がある。中国語の場合、「V着」、「V 了」、「V 过」などのアスペクト 形式がある。中国語アスペクト研究では、このようなアスペクト形式は「体助词(体助詞)」

と呼ばれている。本研究でいうアスペクトは、動詞自体がもつ内部的時間の構成といった

「事態アスペクト」とは異なり、助動詞などの文法形式によって表される「文法的アスペ クト」を指す。ただし、「文法的アスペクト」と「事態アスペクト」は緊密な関係をもち、

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「文法的アスペクト」が実際の文上に実現されるアスペクト的な意味は、「動詞語幹お よび それらと補語が結びついたものにあらかじめ備わっている 」(副島 2005:26)ものである。

アスペクトの他に、文の中には、必ず表さなければならない動詞の文法カテゴリーとし て、出来事と発話時の時間関係を示すテンス、文の主語が事象においてどのような役割を 果たしているかを示すヴォイス、話し手の主観を表すムードという文法カテゴリーが存在 する。これらの文法カテゴリーはどのように区分されているのだろうか。以下 、これらの 動詞の文法カテゴリーを分類し、アスペクトと他の文法カテゴリーとの相対的な関係を説 明しておく。

Jakobson(1957)は一般言語学の立場から形態論的なカテゴリーを体系化し、「事象(event

[E])」、「参加者(participant [P])」、「発言それ自体(speech itself [s])」、「語られる内容

(narrated matter [n])」という4つの基本要素を立てている。これらを組み合わせると、語 られる事象(En)、発言事象(Es)、語られる事象の参加者(Pn)、発言事象の参加者(Ps)

という4つの項目とし、動詞の形態論的なカテゴリーのモデルを提示している28。副島(2005、

2007)は、Jakobson(1957)のモデルを以下の表 2-1のように単純化して提示している。

表 2-1. 動詞カテゴリーの分類(副島 2007:9)

参加者が含まれる 参加者が含まれない 非転換子

( 発 言 事 象 お よ び そ の 参 加 者への関連づけを含まない)

PnEn(ヴォイス) En(肯定否定)

En(アスペクト)

転換子

( 発 言 事 象 お よ び そ の 参 加 者への関連づけを含む)

PnEn/Ps(ムード) En/Es(テンス)

Jakobson(1957)のモデルに基づき、ヴォイスは語られる事象(En)と語られる事象の

参加者(Pn)を特徴づけた動詞の形態論的なカテゴリーである。話し手の視点が関与する

ことがある、発言事象(Es)には関与しない。ムードは語られる事象(En)と語られる事 象の参加者(Pn)との関係を発言事象の参加者(Ps)に関連づけて特徴づける動詞の形態

28 こ の モ デル は 個 別言 語 の分 析 に も 有効 と 思 われ 、 村木 (1991) はこ の モ デル を用 い て 日 本語 の 形 態 論的カテゴリーを分類している。