4.4 音速測定による多孔質ガラス Gelsil 細孔中の 4 He の超流 動の観測
4.4.1 Gelsil の音速の温度依存性
4.4 音速測定による多孔質ガラスGelsil細孔中の4Heの超流動の観測
-0.2 0
T (K)
Run 1
Run 2
vÉv â103
-0.4 0.2
10-1 100
図4.15 試料に4Heが吸着していない,空の状態での多孔体試料Gelsilの音速温度依存性
4.4 音速測定による多孔質ガラス Gelsil 細孔中の
4He の超流
1920 1930 1940 1940 1950 1960
1984 1982 1980
0.06 0.85 1.54 2.01 2.30 2.95 3.57 4.21
T (K)
(m/s)
5.06 0.38 MPa 0.0
25.4
µmol/m2 23.0
23.9
31.0
0 1 2
(b) (a)
v
図4.16 (a)吸着膜状態と(b)加圧状態での音速温度依存性。(a)の数字は面密度を表 し,(b)の数字は圧力である。加圧状態のデータは最低圧の0.06 MPa を除き見やす いように垂直方向の平行移動を行っている。
は1.4K付近に至り,音速は空の状態からおよそ2.1% 遅くなっている。これら4He導入 に伴う音速の変化量と,Gelsilの密度(1.25 g/cm3),4Heの密度(0.145 g/cm3)から 多孔質ガラスGelsilの空孔率を0.4と求めた。
図 4.16(b) に 加 圧 状 態 で 測 定 し た 音 速 の 温 度 変 化 の 概 略 を 示 す 。2 K に お い て ,
0.06 MPa から2.30 MPa への圧力増加に伴う音速の減少は0.1 % にとどまっている。
これは加圧による密度の増加から求められる音速の減少の量よりも小さい。この食い違
4.4 音速測定による多孔質ガラスGelsil細孔中の4Heの超流動の観測
いは細孔中の4Heの弾性定数Cが増加していることを示している。
0.06 MPaでは,2 Kから温度下降に伴い音速は徐々に上昇し,Tc(1.43 K)で立ち上 がり,低温側では大きな傾きをもって変化している。この音速上昇は孔内の4Heの超流 動転移に伴い超流動成分が振動から離脱したことによるものである。圧力を増加させる とTc は低温側にシフトし,Tc より低温側の音速変化量は大きくなった。圧力3.75 MPa より高圧側では,孔内の4Heは固化しており[13],Tc の音速上昇は不鮮明になる。孔内 に液体が存在せず超流動に伴って離脱する成分が存在しないこの圧力においてもなお,温 度低下に伴う音速の上昇が低温域において観測されている。
4.4.2
4He 吸着膜状態での音速測定
多孔質ガラスGelsilの表面に4He を吸着させた状態で観測される音速変化について,
超流動に伴う薄膜4Heの離脱と基板のTLSの寄与により説明する[21, 22]。
トンネル効果モデルでは,TLSを非対称な二重井戸型ポテンシャル中の粒子として取 り扱う。二つの固有状態のエネルギー差は E =√
∆2 + ∆20 で,ここで∆はポテンシャ ルの非対称性で,∆0はトンネル振幅を表す。TLSの分配関数は
P(E, u) = P0
u(1−u2)(1/2−µ) (4.4.1)
と書かれ,ここでP0は平均状態密度,u= ∆0/E である。
低温領域では共鳴相互作用が支配的であり,音速の変化は次のように表される。
∆v v
res
= A
1 + 2µln (T
T0
)
(4.4.2) ここでT0は任意の参照温度で,Aは
A= P0γ2
ρv20 . (4.4.3)
である。ここでγはone-phonon-TLS結合係数,ρは多孔質ガラスの密度,v0はT0での 音速である。今回の測定温度領域では共鳴による吸収の温度変化は小さいと考えられる。
高温領域では熱フォノンによる緩和の寄与が重要である。音速の変化と対数減衰率は
次のように書かれる。
∆v v
ph
=−A 2
∫ dE
∫ du
√1−u2 ukBT
×sech2 ( E
2kBT
) 1
1 +ω2τph2 (4.4.4) αph =A
∫ dE
∫ du
√1−u2 ukBT
×sech2 ( E
2kBT
) ωτp
1 +ω2τph2 , (4.4.5) ここでω は音波の角周波数である。フォノンによる緩和時間τphは
τph−1 =Ku2T3F3
( E 2kBT
)
(4.4.6) である[23]。ここで
K = 4k3B π~4
γ2
ρv5 (4.4.7)
F3(x) =x3coth(x). (4.4.8)
である。
共鳴と緩和の寄与による音速変化 ∆v/v|TLS = ∆v/v|res+ ∆v/v|ph は音速のピーク をもたらす。図4.15に示した4He を吸着させていない空の状態のGelsilの音速温度依 存性では,音速は温度の下降に伴って対数的に上昇し,ある温度で最大値をとる。この振 る舞いはTLSの寄与により説明できる。ここで定数AとKはフィッティングパラメー
ターで,µ= 0.2 として適当に選んだ。
4Heを吸着させた状態では,4Heの導入で音速が最大となる温度が空の状態での0.35 K
から0.10〜0.15 Kに下降した。この変化は音速の温度依存性に対するTLSの寄与にお
いて,異なる定数AとKを適用することで説明できる。
図4.17に膜厚25.4µmol/m2で測定を行った音速と吸収の温度依存性を示す。Tc以下 では薄膜は超流動を示している。Tc以下の音速はTLSによる音速変化の寄与 ∆v/v|TLS において,パラメーターA= 5.0×10−4,K = 2.4×1010 K−3s−1 で説明できる。Tcの 前後では音速が7.0×10−4 だけシフトしているが,これは超流動4Heの振動からの離脱 によるもので ∆v/v|supとする。一方,音波の吸収については,計算よりも明らかに大き な振る舞いが見られた。この食い違いは吸収については薄膜4He の超流動転移に伴う別 の機構が寄与しているためと考えられる[24, 25]。このように4Heを吸着させた薄膜領 域での音速の振る舞いについてはTLSと超流動転移転移による離脱により説明できる。
4.4 音速測定による多孔質ガラスGelsil細孔中の4Heの超流動の観測
-4 -2 0
10
-110
00 20 40 60
T (K)
= 5.0â104
0 = 0.088 K
ë â 10
3(N p) v É v
AT4v=v sup = 7.0â10-4
â 10
3(a)
(b)
図4.17 吸着膜領域での音速と吸収の温度依存性。面密度は25.4 µmol/m2。 実 線 は 本 文 中 の フ ィ ッ テ ィ ン グ 計 算 に よ る も の で ,点 線 は 超 流 動 転 に 伴 う 変 化
∆v/v|supだけ移動した線である。
4.4.3 加圧状態
4He での音速測定
加圧された4He を多孔体に閉じ込めた状態でも超流動転移に伴う離脱が音速に影響を 与えている。しかし低温領域においては,4Heの超流動成分が飽和していることから,超 流動転移に伴う音速の温度依存性はそれほど大きくないと期待される。吸着膜での実験 で見られた音速のピークは加圧状態での実験でも観測されている。そしてこのピークと なる温度と,0.5 K以下の温度領域における音速温度依存性には圧力の変化に依存する 振る舞いはみられていない。つまり,TLSにより低温側の音速温度依存性を説明する際,
TLSの寄与が圧力に大きく依存していないことがわかる。
一方Tc 以上の温度領域では,音速温度依存性は圧力の変化に依存しており,圧力の増 加に伴い音速変化の傾きも増加している。この振る舞いはTLSの寄与に影響を与える,
他の機構の存在を示唆している。0.5 Kより高い温度領域ではTLSの寄与と実験データ
との違いが顕著に見られる。
この0.5 Kより高温領域における温度依存性を説明する機構は明らかでないが,一つ
の可能性として格子欠陥の拡散に伴う音波の緩和現象があげられる。この機構では音速 変化と対数減衰率は次のように書かれる。
∆v v
d
=−ϵ∞C
2σ0 · 1
1 +ω2τd2, (4.4.9)
αd = πϵ∞C
σ0 · ωτd
1 +ω2τd2, (4.4.10)
ここでτd は緩和時間で,ϵ∞ は応力σ0 がかけられたときに釣り合う歪みに対応する。C は弾性定数である。熱活性化過程を仮定し,アレニウス則によりτd を
τd =τ0exp ( ∆E
kBT )
, (4.4.11)
とする。ここで∆Eは活性化エネルギーで τ0 は頻度因子である。
図4.18 に圧力 4.21MPa での音速温度依存性と吸収を示す。この圧力領域では孔内
の 4He は完全に固化しているので,液体の超流動成分が存在しておらず音速変化に 寄与しない。0.5 K 以下の領域では TLS による音速変化 ∆v/v|TLS と吸収の大きさ の振る舞いが再現している。TLS のフィッティングパラメーターは A = 6.4×10−4, K = 2.4×1010 K−3s−1 となる。TLSの寄与は図4.18では破線で示されるものである。
一方高温領域では音速変化はTLS寄与から大きく離脱している。この差異を式4.4.9で フィッティングする。TSLの寄与 ∆v/v|TLS と ∆v/v|d との和を実線で示すと,音速変 化を全温度領域において説明できることがわかる。適用した ∆v/v|d のフィッティング パラメーターはϵ∞C/2σ0 = 0.0094, ∆E = 0.9 K and τ0 = 1.8×10−8 s である。
細孔内の4He が完全に固化せず液体成分が残っている圧力領域についても同様な解析
を行う。3.57MPa以下の圧力領域では,超流動転移温度Tc において超流動転移に伴う
振動からの離脱による音速の立ち上がりが観測されている。高圧で細孔内が完全に固化 している圧力領域から,液体が残存している領域まで,音速の温度依存性は連続的な変化 を見せている。また高圧の領域では完全に孔内が固化している状態と非常によく似た音 速変化の振る舞いが観測された。このことから完全に固化した圧力領域で見られる音速 変化の機構を,液体4Heが孔内に残っている領域に適用できるものと思われる。
0.5K 以 下 の 低 温 側 の 領 域 で は 音 速 変 化 は ∆v/v|TLS,Tc 以 上 で は ∆v/v|TLS と
∆v/v|d の和,超流動転移に伴う音速変化 ∆v/v|sup が寄与する。ここで超流動転移 による離脱に伴う音速の変化の寄与 ∆v/v|supは絶対 0度まで外挿したものである。Tc 以上の温度域において,音速の温度依存性はこれらの和でよく説明できることがわかる。
4.4 音速測定による多孔質ガラスGelsil細孔中の4Heの超流動の観測
-6 -4 -2 0
0 1 2
0 20 40 60
T (K)
αT LS
ë â 10
3(N p) v É v â 10
34v=v TLS
αd
4v=v d
(a)
(b)
図4.18 孔内の4Heが下善に固化した固化領域での音速温度依存性。図中の各線は本 文中のフィッティング計算によるものである。
このように,孔内に4Heを加圧状態で閉じ込めた状態では,TLSによる寄与と超流動転 移に伴う離脱に加え,熱活性過程による機構により音速の温度依存性を説明できること がわかる。
4.4.4 熱処理による音速への影響の検討
これまでの議論を受け,RUN1とRUN2の音速変化から室温での実験準備段階で試料 に施した熱処理による影響を明らかにする。今回の測定では多孔質Gelsilは,RUN1で は150 ◦Cで1.5時間,RUN2では2.5時間の真空電気炉での乾燥を行った。Gelsilは熱 処理に影響を受け変化し,TLSの寄与にわずかな変化があった。
図4.19にRUN1とRUN2で測定した加圧状態での音速温度依存性の比較して示す。
いずれの測定でもTc 以上の温度での温度依存性は圧力の増加に伴い大きくなる傾向が見 える。しかし近い圧力で比較するとRUN2での温度依存性はRUN1よりも小さいこと がわかる。この違いは,前述の音波の緩和の量に対応するパラメーター ϵ∞C/2σ0 の違