第 4 章
結果と議論
本研究では超音波測定による音速測定(RUN 1)と,ねじれ振り子と超音波測定を同 時刻に行う同時測定(RUN 2)の,二段階の測定を行った。RUN1とRUN2は同一の試 料を用い,試料準備段階での熱処理方法が異なっている。本章では,各測定方法の基本的 な諸元の取得結果について説明を行い,そして多孔体試料に4Heを導入し孔内に4Heを 閉じ込めた状態で行った超流動測定の結果を,吸着膜状態,加圧液体および固体状態につ いて説明する。同時測定においては超流動性の観測方法依存性について結果の評価を行 う。またRUN1とRUN2の結果を比較し,試料の熱処理の違いが多孔体試料に与えた影 響と,孔内の4Heの超流動性に与える影響について,音速測定の結果を基に議論を行う。
ことができるかどうか,また透過した信号を外部に取り出し正常に検出できるかの確認を 行う。音波の透過と検出を確認した後,パルス波形を取得し音速の絶対値を求め,PSD 検波による音速測定が可能であることを確認する。
4.1.1 ねじれ振り子の共鳴曲線の測定
ねじれ振り子測定では振り子の共振周波数の変化を捉える測定方法であるのでまず共 鳴周波数を知る必要がある。ねじれ振り子を電気回路を用いてフィードバックループに 組み込む形式で構成する測定系では振り子は自発的な発振を始める[18]。しかし本測定 では振幅をPSDにより位相検波し,位相成分の値からPCにより計算した結果をGP-IB の通信線を通して発信器にフィードバックする方式で測定を行うので,あらかじめ初期 の共振周波数が分からないと共振周波数を追跡することができない。したがって測定の 始めに共振周波数を探り当てる必要がある。
共振周波数を探り当てるには,設計で想定した周波数帯の範囲で振り子の励起信号の 周波数を変化させ,検出される振り子の振幅を測定する。振り子の振幅は,振り子の外力 を参照信号としてロックインアンプにより検出する。図4.1に励起信号の周波数を連続 して変化させて測定したねじれ振り子の振幅の周波数依存性,いわゆる共振カーブを示
す。約0.1 Kにおいてヘリウムガスが導入されていない状態で測定した。ロックインア
ンプの位相検波により得られた,振り子の励起信号に対する位相が90◦ 成分と0◦成分の 信号を,それぞれ色を変えて描いている。振り子の設計段階において,目標とする共振周 波数(およそ1 kHzから2 kHz)をあらかじめ想定し,式2.4.1と式2.4.2により各所の 寸法を決定して設計を行っている。正しく工作されたねじれ振り子の共振周波数は設計 からそれほど大きくずれることはあまりなく,共振周波数を探る共振カーブ測定はその 目標周波数の周辺を探索することになる。外力を受けて強制振動の状態にあるねじれ振 り子は外力により振幅が励起されるまでの緩和時間が長く,特にQ値が大きな振り子の 場合は数十秒から数百秒に達することがある。共振カーブの測定では,励起信号の周波 数を設定した後この緩和時間を考慮した待ち時間を置きながら測定を行った。
同時測定装置の共振のQ値は,共振カーブから式 2.4.4 を用いて次のように計算さ れる。
Q= 2428.658 [Hz]
0.009 [s] = 2.7×105 (4.1.1)
今回測定に用いたねじれ振り子のQ値は空の状態で2.7×105程度であった。ねじれ振 り子で超流動測定を行うには十分なQ値であり,同時測定装置のねじれ振り子は正常に
4.1 超音波とねじれ振り子の同時測定装置
2428.65 2428.7
-4e-05 -2e-05 0 2e-05 4e-05
Freqency (Hz)
Amp. (µV)
2428.658 4.28 uV
∆ : 0.009 Hz
Q : 2428.658/0.009 = 2.7E5
図4.1 ねじれ振り子の共鳴曲線。横軸が励起信号の周波数,縦軸が検出されたねじれ 振り子の振幅。90度位相が異なる2成分を示してある。
動作していると言える。
4.1.2 パルスエコー法による音速の絶対値の測定
図4.2はGelsil試料を透過し検出側トランスデューサで検出されたパルス信号である。
測定は,試料が空の状態で0.1 Kに設定した状態で行った。横軸は実時間で,音波発生ト リガーの時刻をゼロとして描画している。トリガーから実際に音波が試料に入射される までわずかな遅れが存在するので,入射した時刻は波形に混信した入射信号の立ち上が りを入射した時刻として基準とする。ここから音波が到達した時刻までの∆tと試料長L から音速の絶対値v0 を次にように求めた。
v0[m/s] = 1.84 [mm]
0.95 [µs] = 1.9×103[m/s] (4.1.2) なお,同時測定においては超音波測定に適用されている超音波の周波数は8.5MHz前 後である。定位相法による測定を行ったので,測定周波数は音速の変化にあわせてわず かに変動している。
0 2000 4000 -20
0 20
Amp. (mV)
Time (nS)
図4.2 長さ1.84 mmのGelsil試料を透過した波形。横軸が同期信号による音波発生 トリガーからの時刻,縦軸が検出された波形信号の振幅である。パルスのトリガーか ら実際に波形が検出されるまでの時間にもクロストークの波形が測定されており,こ の間にパルスが入射している。