• 検索結果がありません。

Friction transfer 法による液晶性 PTCBI 誘導体配向薄膜の作製

第 5 章 液晶性有機半導体を含む微小共振器の透過分光 116

5.3 Friction transfer を利用して作製した液晶性 PTCBI 誘導体薄膜を含む

5.3.1 Friction transfer 法による液晶性 PTCBI 誘導体配向薄膜の作製

ピークにおいても隣のピークとの間のエネルギー差は 0.16 から 0.17 eV でほぼ等間隔で あった.このことから溶液試料では分子のエネルギー準位は調和振動子モデルにより記述 でき,吸収スペクトルは単量体における振動電子遷移を反映したものであると考えられ る.次に液晶性 PTCBI 誘導体薄膜を作製し,吸収スペクトルの測定を行った.この薄膜

は第 5.4.1 項で述べる融液浸透法 [18, 19] によって作製されたものである.この薄膜中に

は溶媒が存在しないため分子は凝集し液晶相を形成していると考えられる.測定した吸収 スペクトルを Figure 5.4 に示す.凝集により分子間に相互作用が生じ,吸収バンドの線 幅は溶液試料の場合と比較して広がっている.この吸収バンドは複数のピークにより構成 されており,その大部分は溶液試料における吸収バンドと同じエネルギー帯に位置してい る.一方で,溶液試料よりも低エネルギー側の 2.26 eV に溶液試料では観測されなかった 新しい吸収ピークが観測された.凝集した perylene 系液晶性有機半導体をにおける同様 の現象は過去に報告されており [12, 14, 15],カラムナ―相が形成されたことに由来すると 考えられている.

5.3 Friction transfer を利用して作製した液晶性 PTCBI 誘導

5.3 Friction transfer を利用して作製した液晶性 PTCBI 誘導体薄膜を含む微小共振器 123

Rubbing direction

Columnar axis

Rectangular columnar LC phase Rubbing direction

PTFE Spin coating

PTFE ber

Figure 5.5 The schematic illustration of the friction transfer method [2]

Multi-channel spectrometer

Computer M

Halogen lamp M

Translation stage Sample

Polarizer

Figure 5.6 The schematic layout of the optical system for the transmission spec-troscopy depending on the polarization of the incident light in the linear region.

てマルチチャンネル分光光度計 USB2000(オーシャンフォトニクス株式会社製)を用い た.ここで入射光の偏光方向を偏光角度として定義することにする.入射光の偏光方向が rubbing 方向と一致する場合を 0 として,偏光角度を 0 から 90 まで 10 ずつ変 化させ,それぞれの偏光角度における吸収スペクトルを測定した.測定結果を Figure 5.7 に示す.吸収バンドの形状は Figure 5.4 に示した融液浸透法で作製した薄膜とほぼ同じ で,偏光角依存性はほとんど認められなかった.一方で吸光度の大きさは偏光角 0 で最 小, 90 で最大となり,明確な偏光依存性が観測された.これは吸光度が rabbing方向 と光の偏光方向が一致しているときに最大となり,直交しているときに最小になることを 意味する.従って液晶性 PTCBI 誘導体の遷移双極子モーメントはカラムナ―の積層方 向に対して垂直に近い向きで配向していると考えられる.第 5.3.2 項で詳しく述べるが,

今回の実験において液晶性 PTCBI 誘導体を共振層に挿入した際にその光物性に大きく 影響するのは 2.26 eV 近傍のピークである.このピークにおいて偏光角度 0 の時の吸 光度は 0.10,90 の時の吸光度は0.33 となった.従って,このピークエネルギーにおけ る偏光度は 0.70 となり,液晶性 PTCBI 分子は良好に配向していると考えられる [2].

2.0 2.5 3.0 0.0

0.2 0.4 0.6

Photon energy (eV)

Absorbance

Figure 5.7 Polarization dependence of absorption spectra of the film composed from LC PTCBI derivative at room temperature [2].

5.3.2 1 次元フォトニック結晶微小共振器の作製と評価

第 5.3.1 項で用いた方法を使って 1DPC 上に液晶性 PTCBI 誘導体薄膜を形成した.

使用した 1DPC の構造および共振器の作製には第 4.4.1 項で用いたものと同じ方法を採 用した.従って,入射位置を変化させることで共振ピークをチューニングすることがで きる.まず,共振ピークが液晶性 PTCBI 誘導体の吸収ピーク近傍になるよう入射位置 を調整した.その後,入射位置を固定した状態で偏光角度を 0 から 90 まで 10 ず つ変化させ,それぞれの偏光角度における透過強度スペクトルを測定した.測定結果を

Figure 5.8 に示す. 透過ピークは液晶性 PTCBI 誘導体における吸収ピークが存在する

2.26 eV 近傍で2 つに分裂した.また,共振ピークの分裂の大きさは入射光の偏光に依存

して変化し,偏光角度 0 の時に最小,90 の時に最大となった.

観測した共振ピークの分裂が共振器ポラリトンによるものか調べるために,偏光角度が 0 および 90 の時の透過強度スペクトルの入射位置依存性を測定した.この時,入射 位置はウェッジ状に形成した共振層の膜厚が変化する方向に変化させ,その測定間隔は 50 µm であった.測定結果を 5.9 に示す.次に測定した透過強度スペクトルに対して 2

つの Lorentz関数の和をモデル関数としてフィッティングを行い,共振ピークエネルギー

を算出した.結果を Figure 5.10 に示す.第 4.4.3 項で述べたように,共振ピークエネル ギーの光入射位置依存性を測定することは分散関係を調べることと対応する.なお,今 回実験に用いた 1DPC に光を垂直入射させた際の photonic band gap 1.64–2.40 eV

5.3 Friction transfer を利用して作製した液晶性 PTCBI 誘導体薄膜を含む微小共振器 125

2.1 2.2 2.3

Photon energy (eV)

Transmission intensity (arb. units)

Figure 5.8 Polarization dependence of the transmission spectra of the 1DPC microcavity with the cavity layer composed from LC PTCBI derivative formed by the friction transfer method [2].

である.これに対して,今回使用した液晶性 PTCBI 誘導体薄膜における吸収ピークの 内,この帯域に含まれるのは 2.26 eV 近傍のピークのみである.その他のピークと共鳴 する光子を微小共振器に閉じ込めることはできないため,これ以外のピークの影響は無視 し,疑似的な二準位系として扱ってよい.従って,第 4.4.3 項の場合と同様,式(2.124) を使って解析を行うのが妥当である.そこで,式(2.124) に示した理論式に基づくフィッ ティングを行い,Figure 5.10 にプロットした.実験値と理論値は比較的よく一致した.

このことから観測された共振ピークの分裂が共振器ポラリトンの形成に由来するものと考 えられる.フィッティングにより求めた真空 Rabi 分裂エネルギーは偏光角度 0 の時に 33.1 meV,90 の時に63.8 meV となった.

この系における真空 Rabi分裂エネルギーは第 4.4.3 項における議論から,式(2.87)お

よび式(2.126)に基づき,内部の物質の吸光度スペクトル面積の 1/2乗に比例すると考え

られる.この場合,吸収ピークの線幅の偏光依存性が無視できるなら,真空 Rabi 分裂エ ネルギーは吸光度スペクトルにおけるピークエネルギーにおける吸光度の 1/2 乗に比例 すると考えられる.第 5.3.1 項における実験結果から,2.26 eV 近傍のピークにおいて偏 光角度 0 および 90 の時の吸光度は,それぞれ,0.10 および 0.33 となった.これら を 2 乗して比をとると 1:1.82 となり,それぞれの偏光角度における真空 Rabi 分裂エネ ルギーの比である 1:1.93 と概ね一致している.このことからも,観測した共振モードの 分裂が共振器ポラリトンによるものだということが裏付けられる [2]

Position

2.1 2.2 2.3

Photon energy (eV)

T ransmission intensity (arb . units)

Position (a)

(b)

Figure 5.9 Incident position dependence of the transmission spectra of one-dimensional photonic crystal microcavity with the cavity layer composed from LC PTCBI derivative formed by the friction transfer method. Here, the polarization angle was set to (a) 0 or (b) and 90 [2], respectively.

5.3 Friction transfer を利用して作製した液晶性 PTCBI 誘導体薄膜を含む微小共振器 127

0.0 0.2 0.4

2.1 2.2 2.3

Incident position (mm)

Transmission peak energy (eV)

Figure 5.10 The incident position dependence of the energy of the transmission peak of the 1DPC microcavity with the cavity layer composed from LC PTCBI derivative formed by the friction transfer method [2]. The open and closed circles show the dispersion curves with the polarization angle set to 0and 90, respec-tively. The solid and dashed lines are the fitting curves described in Equation (2.124).

5.4 融液浸透法を利用して作製した液晶性 PTCBI 誘導体薄