第 3 章 微小共振器 52
3.5 金属微小共振器
3.5.1 金属の光物性
さく,g をそれほど大きくできない物質系において強結合を観測するために適した構造で あると考えられる.
3.5 金属微小共振器 69 と比較すれば複素比誘電 ˜ϵr を以下のように求めることができる [13, 15].
˜
ϵr= 1− N e2 ϵ0m
f
ω(ω+iτ−1) = 1− f ω2p
ω(ω+iτ−1) (3.52) ここで,
ωp≡ s
N e2
ϵ0m (3.53)
はプラズマ周波数と呼ばれる [13].求めた比誘電率から式(3.19)を用いて複素屈折率を 求めることができる.前述のように光学領域における非透磁率は 1 と近似できることを 考慮すれば,複素屈折率 n˜M は以下のように書くことができる.
˜ n≃√
ϵr= 1− f ω2p ω(ω+iτ−1)
!12
(3.54)
求めた複素屈折率から光のエネルギー反射率を求める.空気と金属の界面に光が垂直入射 する場合を考える.空気に光が入射する場合の特性行列を DA,金属に光が入射する場合 の特性行列を DM とすると,これらは第 3.3.3 項より,
DA =
1 1 1 −1
, DM =
1 1
˜
nM −n˜M
(3.55) と書くことができる.したがって界面における光の伝搬を表す特性行列は,
DA−1DM = 1 2
1 + ˜nM 1−n˜M 1−n˜M 1 + ˜nM
(3.56) となる.これを式(3.40)に適用することでエネルギー反射率 R を求めると,
R=
1−n˜M 1 + ˜nM
2 (3.57)
となる.式(3.54)および式(3.57)を用いて金属表面における反射率の光子エネルギー依 存性を求め,Figure 3.15 に示す.この時,プラズマ周波数は ωp = 2.91 PHz,電子の散 乱時間は τ = 31.1THz とした[17].プラズマ周波数よりも低エネルギー側で反射率がほ ぼ1 となり,金属表面が良質な鏡として働くことが分かる.このような金属表面における 光反射は光が入射した際に金属中に振動電場が形成され,この電場を打ち消す方向に自由 電子が加速度運動することによる.加速度運動する自由電子は光電場と逆向きの電気分極 としてふるまうので,電場は遮蔽され光は金属中にほとんど侵入することができず,反射 されることになる.
Drude モデルは金属の基本的な光物性を理解する上で有用ではあるが,非常に単純化
されたモデルである.例えば,実際の金属においては自由電子による吸収の他にバンド構
0 5 10 15 0.0
0.5 1.0
Photon energy (eV)
Reflectance
Figure 3.15 The reflection spectrum of the metal theoretically calculated by Dorude model descripted in equation (3.54) and equation (3.57).
造による吸収帯が存在する [13, 14].このような吸収帯について考えるには Lorentzモデ ルを用いるとよい [14–16].Lorentz モデルは誘電体の光学応答を扱う際によく用いられ るモデルである.誘電体中の電子は金属中の自由電子のように固体中を自由に動き回るこ とはできず,静電引力によって原子核に束縛される.このような場合の運動方程式は式
(3.47)に復元力の項を加えることで以下のように得られる [15].
m¨r+ m
τ r˙ +mω02r =p
f eE (3.58)
これは Lorentz モデルにおける基本的な運動方程式で,左辺第 3 項が復元力に対応する
項である.なお,ω0 は吸収帯の中心周波数である.Drude モデルのときと同様に,光電 場と電子の位置が E =E0exp (−iωt),r =r0exp (−iωt) と書けるとすると,r0 は以下 のように求められる.
r0 =−
√f eE0
m(ω2−ω20+iτ−1ω) (3.59) 従って,電子の位置 r は,
r =r0exp (−iωt) =−
√f e
m(ω2−ω02+iτ−1ω)E (3.60) となる.これを式(3.48)に代入して,式(3.51),式(3.53)を用いると,複素比誘電 ˜ϵr は,
˜
ϵr= 1− f ω2p
ω2−ω02+iτ−1ω (3.61)
3.5 金属微小共振器 71 と求められる.従って複素屈折率 n˜ は,
˜ n=p
˜
ϵr= 1− f ωp2 ω2−ω02+iτ−1ω
!12
(3.62) となる [15, 16].
以上の計算を踏まえると,金属の複素屈折率は自由電子による光学応答とバンド構造に よる寄与を足し合わせた以下のような式で表現される [14].
˜ n=
1− f ω2p
ω(ω+iτ−1) −X
j
fjω2p ω2−ωj2+iτj−1ω
1 2
(3.63)
ここで,ωj,τj,fj はj 番目のバンド吸収帯の中心周波数,散乱時間,振動子強度である.