第 3 章 微小共振器 52
3.3 転送行列法による理論計算
3.4.1 フォトニック結晶
3.4 1 次元フォトニック結晶 63 の地点までの距離 dj だけ伝搬した場合の特性行列Dj を掛ければよい.反射・透過スペ クトルを考える場合と異なり,構造内部においては左側に進む光が存在する.従って,こ の地点における入射電場強度に対する膜内電場強度の倍率 G(z) を求めようとする場合,
Eout− は膜内で左に進む電場に相当し,ゼロにはならない.すなわち,求める G(z) は右 側に進む光電場の倍率 G+(z) と左側に進む光電場の倍率 G−(z) の和となる.このとき,
G+(z) および G−(z) は式(3.13)より,以下のように求められる.
G+(z) = M22(z)− RM12(z) M11(z)M22(z)−M12(z)M21(z) G−(z) = RM11(z)−M21(z)
M11(z)M22(z)−M12(z)M21(z) (3.42) また,G(z) =G+(z) +G−(z)を構造内の各地点で求めることで構造内の複素電場分布を 求めることができる.この時,モード体積は,式(2.4)より,
Vm = R
V ϵ(r)|E(r)|2dr3 (ϵ(r)|E(r)|2)MAX
=am
R
zϵ(z)|G(z)|2dz (ϵ(z)|G(z)|2)MAX
=am(z) R
zn2(z)|G(z)|2dz
(n2(z)|G(z)|2)MAX (3.43) と表される.このとき µr ≃ 1 として n= √
ϵrµr ≃ √ϵr を利用した.am は光電場が広 がっている面積を表す.
am = R
Sϵ(r)|E(r)|2dxdy
(ϵ(r)|E(r)|2)MAX (3.44)
Fabry-Pérot における光の閉じ込めは平面鏡に対して垂直な z 方向のみに限定される.
従って,x方向,y方向に関して光は共振器構造の影響を受けないと仮定すれば,式(3.43) における am は共振層が同じ媒質で構成される Fabry-Pérot 共振器においては大きな差 がないと考えることができる.従って,モード体積 Vm を am で除した値を比較すれば モード体積を概算的に比較することができると考えられる.
3.4 1 次元フォトニック結晶
(a) (b) (c)
Figure 3.10 The illustration of the (a) one-, (b) two-, and (c) three-dimensional photonic crystals. The domains filled with different colors have different refrac-tive index.
ことが許されない禁制帯(バンドギャップ)が交互に繰り返される.周期ポテンシャルに より電子の波がBragg反射することにより電子が存在できない禁制帯が形成されるので ある.
一方で1987年に Yablonovitch によりフォトニック結晶(Photonic Crystal: PC)と いう概念が提唱された [4].PC とは誘電率—すなわち屈折率—の異なる物質を電磁波の 波長程度のスケールで周期的に配置した構造である.電磁波が Maxwell 方程式により表 される電磁波としての性質を持つことは古典論による成果としてよく知られている.電場 に対する物質の抵抗を示す量である誘電率を周期的に変化させることで,電磁波に対する 周期ポテンシャルを作り出し,光伝播に対するエネルギーバンド構造を実現することがで きる.このような構造が「光に対する結晶」すなわちフォトニック結晶にあたると考えた のである.
Figure 3.10に示すように,PCは誘電率分布の次元により (a) 1 次元 [4–7],(b) 2 次 元 [8, 9],(c) 3 次元 [10, 11]に分類することができ,それぞれ1 次元,2 次元,3 次元に 渡って光伝搬を制御することができる.一般的には,1 次元フォトニック結晶(1DPC)は 分布 Bragg 反射鏡 (Distributed Bragg Reflector,誘電体多層膜ミラー) として知られ ており,レーザー光源用の高反射率ミラーとして用いられる.また,多層膜の光学膜厚を 適切に制御することで負の屈折率分散を持つミラーを作製することができる [5, 7].この ミラーは,超短パルスレーザーにおけるパルス幅と平均パワーの両方を維持したままレー ザー光を制御することができる光学素子として利用されている.また,屈折率の周期性を 乱す欠陥層を導入することで,欠陥層に光の局在モードが生じ,1DPC は微小共振器と して振舞うことが知られている [4–6].さらに,2次元,3次元フォトニック結晶を利用 するとサブ µm オーダーの光導波路や高 Q 値の光共振器を作製することができ,これら の構造を利用した光情報処理デバイスの実現に向けて盛んに研究が行われている [8–12]. この内,本研究では作製が容易な 1DPC を試料として用いた.
3.4 1 次元フォトニック結晶 65
3.4.2 1 次元フォトニック結晶の透過・反射スペクトル
1DPCは異なる屈折率を有する材料薄膜を,その膜厚と屈折率の積(光学膜厚)が関与 する光の波長程度になるように繰り返し配置することにより作製される.光伝播に対する
禁制帯(PBG; Photonic Band Gap)はそれぞれの薄膜の光学膜厚により決定される.
Figure 3.10(a)のように2種類の物質により形成される 1DPC を考える.それぞれの 薄膜の屈折率を nA,nB,膜厚を dA,dB とすると,光が垂直入射したときには,
nAdA =nBdB= λl
4 (3.45)
という関係を満たす任意の波長 λl に対応するエネルギーが PBG の中心エネルギー となる.転送行列法により計算した 1DPC の透過スペクトルおよび反射スペクトルを Figure 3.11 に示す.この時,高屈折率層の材料として TiO2 (n= 2.35),低屈折率層の 材料として SiO2 (n= 1.46) を仮定し,λl = 577 nm (2.15 eV) に対して式(3.45)を満 たすよう,それぞれの膜厚を 61.3 nm, 98.7 nm とした.1DPCは高屈折率層と低屈折率 層を 1 組として 5 周期 10 層の繰り返し構造を持ち,光は高屈折率層から入射するとし
た.Figure 3.11において,ほとんどの光が透過することができる光伝搬に対する許容帯
(PB; Photonic Band) と,ほとんど光が透過せずに反射される PBG が形成されている
ことがわかる.波長 λl の光は薄膜界面で起こる Bragg 反射により 1DPC 内部に進入す ることができない.すなわち,光伝搬に対するエネルギーバンド構造の起源となっている のは固体結晶中における電子波の場合と同様に,電磁波の Bragg反射なのである.PBG
1.5 2.0 2.5 3.0
0.0 0.5 1.0
0.0 0.5 1.0
Transmittance Reflectance
Photon energy (eV)
Figure 3.11 The transmission (solid line) and reflection spectrum (dashed line) of the one dimensional photonic crystal theoretically calculated by the transfer matrix method.
2N 2N
A A B B A B X B A B B A A
meadium meadium
Figure 3.12 The structure of a one-dimensional photonic crystal containing the defect layer.
1.5 2.0 2.5 3.0
0.0 0.5 1.0
0.0 0.5 1.0
Transmittance Reflectance
Photon energy (eV)
Figure 3.13 The transmission (solid line) and reflection spectrum (dashed line) of the one dimensional photonic crystal containing the defect layer theoretically calculated by the transfer matrix method.
に相当する波長を有する光は 1DPC 中に進入することができず反射されるため,1DPC は特定の波長帯域に対する高反射率のミラーとして振舞うことが知られている.
次に Figure 3.12 のように,2N 層で構成される1DPCを向かい合わせに配置し,その 間に欠陥層 X を導入する場合を考える. このとき,各層の光学膜厚が任意の光の波長λl
に対して次の式のような関係を持つように各層の膜厚を設定する.
nAdA =nBdB = λl
4 , nXdX= λl
2 (3.46)
Figure 3.11 を計算する際に仮定した 10 層 5 周期の 1DPC を欠陥層を挟んで向かい
合わせに配置した構造に関して,透過スペクトルおよび反射スペクトルを転送行列法に より計算し,Figure 3.13 に示す.なお,欠陥層は高屈折率層に挟まれており,その屈
3.4 1 次元フォトニック結晶 67 折率は nX = 1.5,膜厚は dX = 192 nm であると仮定した.この欠陥層の光学膜厚は λl = 577nm (2.15 eV)の半波長に対応する.PBG の中のλl において透過ピークが形成 されていることが分かる.これは 1DPC に周期性を乱すような層(欠陥層)を導入 すると,PBG において特定のモードの光の存在が許容されるようになることを示してい る.すなわち光の局在準位が生じ 1DPC は微小共振器として振舞う.このことは電子の バンド理論において不純物元素をドープし静電ポテンシャルの周期性を乱した際に禁制帯 中に不純物準位が出現しそのエネルギーにキャリアが局在する現象に対応する.なお,透 過スペクトルおよび反射スペクトルにおける共振モードの Q 値は 243 であった.
3.4.3 1 次元フォトニック結晶内部における電場分布
転送行列法により 1DPC 内部における電場の強度分布を計算することができる.
第 3.4.2 項で取り扱った欠陥層を含む 1DPC と同様の構造における電場強度分布 G(z)
の2乗を式(3.43)により計算し,Figure 3.14に示す.電場は欠陥層だけではなく1DPC 全体に広がっている.これは 1DPC 反射鏡が多重反射を利用することで高い反射率を実 現するためであると考えられる.一方,後述の第 3.5 節の結果と比較すれば,1DPCは透 過型の金属鏡微小共振器と比べて Q が大きく,共振モードの減衰寿命 κ が小さくなると 予想される.従って 1DPC 微小共振器は遷移双極子モーメント |µdu| や分子数 N が小
0 500 1000 1500
0 20 40 60
z position (nm)
Figure 3.14 The thick solid line indicates the theoretically calculated distribu-tion of|G(z)|2 which is the square of the magnification of the electric field in the one-dimensional photonic crystal microcavity to the incident electric field. The thin solid lines indicate the interfaces of each layer.
さく,g をそれほど大きくできない物質系において強結合を観測するために適した構造で あると考えられる.