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Fabry-Pérot 共振器における共振モードのチューニング

第 3 章 微小共振器 52

3.7 Fabry-Pérot 共振器における共振モードのチューニング

Table 3.1 The Vm/am of the several types of microcavities calculated by Eq.(3.43). 1DPC and MMC mean a one-diensional photonic crystal and a mi-crocavity made of Al mirrors, respectively.

Type of the cavity Number of layers Cavity length Vm/am (nm)

1DPC 21 3λ 740

1DPC 21 λ/2 262

1DPC 25 λ/2 258

MMC 3 λ/2 98.9

体積がどのように変化するかを見積もるため,1DPC 反射鏡における周期を 1 ずつ増や し,25 層構造とした場合の Vm/am を求めた.

Table 3.1 に計算した Vm/am を示す.まず,21 層で構成された 1DPC 微小共振器に おいて,共振器長が 3λ の場合と λ/2 の場合を比べると,後者の Vm/am は前者の約 2.8 倍小さいことがわかる.これは共振器長の減少に伴いモード体積が小さくなったものと解 釈できるが,共振器長が 1/6 となったのに対し,モード体積の減少はその半分以下に留 まっている.これは欠陥層以外の鏡の部分にも電場が分布しており,共振器長を変化さ せても鏡部分における閉じ込めの状態は変わらないからであると考えられる.21 層で構 成される微小共振器と 25 層で構成される λ/2 微小共振器において Vm/am にほとんど 差がないのも同様の理由で説明できる.すなわち,25 層で構成される 1DPC 微小共振 器においては 1DPC 鏡の反射率が増加したため,21 層で構成される 1DPC 微小共振器 に比べて閉じ込めが強くなる.一方で,1DPC 鏡の総数を 4 層増やしたことは鏡部分の 厚みを増加させモード体積を増加させるよう作用する.これら 2 つの効果が互いを打ち 消し合うことで,結果的に Vm/am はほとんど変化しなかったのだと考えられる.さら に,1DPC 微小共振器と金属鏡微小共振器の場合を比較する.金属鏡微小共振器におけ るVm/am は3λ 1DPC微小共振器の約 7.5倍,λ/2 1DPC微小共振器の 2.6倍小さい.

これは第 3.5.3 項でも述べたように,金属鏡は 1DPC鏡と異なり多重反射を利用しない

ためであると考えられる.

以上より,金属鏡微小共振器は 1DPC 微小共振器に比べて大きな真空 Rabi 分裂エネ ルギーを実現できるポテンシャルを持つことがわかる.

3.7 Fabry-Pérot 共振器における共振モードのチューニング

第 2 章で示したような強結合あるいは超強結合状態における分散関係を測定するため には共振モードエネルギーか物質の遷移エネルギーのどちらかを変化させる必要がある.

Photon energy

Transmission

Photon energy

Transmission

Photon energy

Transmission

M M

microcavity Insident position

(a) (b) (c)

(a) (b) (c)

Figure 3.19 The illustration of the microcavity with the wedge-shaped cavity layer and the transmission spectra at each incident positions.

そこでFabry-Pérot 型の微小共振器の共振モードをチューニングし,共振モードの波数を

変化させることを考える.これには大きく分けて 2 つの方法がある.1 つは Figure 3.19 に示すように,共振層の膜厚がウェッジ状になるように共振器を作製し,測定光の入射位 置を変化させることで共振層の実効的な膜厚を変化させ,共振モードエネルギーを変化さ せる方法である [23–25].この場合,共振器を構成するミラー 2 枚を別々に作製し,どち らかのミラーの上に共振層を形成した上で,もう 1 枚のミラーを共振層を挟み込むよう にして配置することで共振器を構成する.一方で,1 枚のミラーの上に共振層と他方のミ ラーを形成しモノシックな構造を作製する場合,ウェッジ状の共振層を形成することは容 易ではない.この場合には共振器に対する光の入射角度を変化させることで実効的な共振 器長を変化させ,共振モードエネルギーを変化させる方法がしばしば用いられる.

まず,前者の方法について考える.共振層の厚みが完全にウェッジ状になっていると仮 定する.この場合,共振層の膜厚は光の入射位置に依存して変化する.式(3.1)より,共 振層の膜厚を変化させることで共振モードの周波数およびエネルギーをチューニングする ことができる.この時,共振モードのエネルギー Ec は入射位置の変化 ∆P の関数とし て以下の式で表せる.

Ec(∆P) =h c

nckc(∆P) =h c nc

m

2 (Lc(0)∆Ptan(θw)) (3.65) ここで,h はPlanck 定数,c は真空中での光速度,nc は共振層の屈折率,kc(∆P) は各 入射位置における光の波数,Lc(0) は初期入射位置における共振器長,θw はウェッジの 角度,m は任意の定数である.このとき,定数 m/2ncLc(0),θw に組み入れ,新た な定数 Lcf(0),θwf を用いると式 (3.65) は単純化出来て,

Ec(∆P) = hc

(Lcf(0)∆Ptan(θwf)) (3.66)

3.7 Fabry-Pérot 共振器における共振モードのチューニング 77 となる.式(3.66)によれば,共振器長が小さくなる方向に入射位置を移動させると共振 モードが高エネルギー側にシフトする.このことは Figure 3.1 や式(3.1)から直感的に 理解できる.またこの式 (3.66)を式(2.127) と比較すると,式(3.66)における分母は光 の波数に相当し,光の入射位置 ∆P と 光の波数 k は一対一で対応付けられることがわ かる.すなわち,共振ピークエネルギーの光入射位置依存性を測定することは系の分散関 係を測定することに相当する.

次に光の入射角度を変化させることで共振エネルギーをチューニングする後者の方法に ついて考える.式(3.22)より,媒質に対して光が斜入射する場合,その実効的な波数は 媒質への入射角によって変化する.このことを考慮して共振モードエネルギーを計算す ると,

Ec =h c

nc |k|=h c nc

pkz2+kx2

=h c nc

kz

s 1 + kx2

k2z

=Ec(0) s

1 + sin2θtc cos2θtc

=Ec(0) 1sin2θtc12

=Ec(0) 1sin2θtc12

=Ec(0)

1 n20

n2c sin2θin

12

(3.67) となる.ここで,Ec(0),および θtc はそれぞれ入射角度が0 の場合の共振モードエネル ギー,反射鏡と共振層の界面における屈折角である.計算過程で式(3.22)および式(3.35) を用いた.また,式(3.22)より,θin =θtc = 0 の場合,kx = 0,|k|=kz となることを 利用した.通常の実験条件では入射媒質は空気であるため,n0 = 1 として良い.従って 用いるべき式は,

Ecin) =Ec(0)

1 sin2θin

n2c

12

(3.68) となる.式(3.68)によれば,入射角度を大きくすると共振モードは高エネルギー側にシ フトする.このことを確かめるため,第 3.5.2項と同様の構造において,入射光が S偏光 の場合と P 偏光の場合について,入射角度を変化させた場合の透過スペクトルのシミュ レーションを行った.結果を Figure 3.20 に示す.どちらの偏光の場合でも入射角度を大 きくすると共振モードが高エネルギー側にシフトしている.一方で入射光が P 偏光の場 合の共振エネルギーの入射角度依存性は S 偏光の場合に比べて小さいことが読み取れる.

このような現象は過去に実験的に観測されており,金属反射鏡におけるプラズモンとの相

1.5 2.0 2.5 3.0 Incident angle

Incident angle

0 ° 20 ° 40 ° 60 ° 0 ° 20 ° 40 ° 60 °

Transmission

Photon energy (ev) (a)

(b)

Figure 3.20 The theoretically calculated transmission spectra dependent on the incident angle of light. The incident light was (a) S- or (b) P-polarized.

互作用により,P 偏光における実効屈折率 neff が増大したためだとされている [26].