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第 2 章 微小共振器中における光と物質の相互作用 15

2.8 強結合におけるエネルギー固有値

き,Rabi 振動数の逆数の周期で電磁波と 2 準位系がエネルギーを繰り返し交換するとい う Rabi振動の描像が崩れていくことがわかる.なお,量子化された電磁波と 2準位系の 相互作用のダイナミクスに関する理論研究はいくつか報告されているが,定性的には上述 の計算結果と矛盾しない結果が得られている [42, 43].

2.8 強結合におけるエネルギー固有値 41

0

Energy

Two level system Quntum Field

Dressed state Bare state

Jaynes-Cummings ladder

Figure 2.3 The energy level diagram of Jaynes-Cummings ladder.

という式を得る.この固有値方程式を解くことで,

E = Efield +ETLS

2 ± 1

2 q

(Efield −ETLS)2+ 4V2 (2.124) という2つの解を得る.従って系のエネルギー固有値は2つに分裂する.このエネルギー 固有値の分裂は共振器のモードの分裂として観測される.共振モードが 2 準位系と共鳴 している(ωk= ω0)場合の共振モードの分裂の大きさは Rabi 分裂エネルギーと呼ばれ 以下の式により表すことができる.

∆En = 2

n+ 1ℏg= n+ 1

s

2ℏN ω02|µdu|2 ϵ0ωkVm

(2.125) 分裂の大きさは光子数 n および物質の遷移双極子モーメント µdu,分子数 N に依存 して変化することがわかる.求められたエネルギー準位図を 2 準位系および量子化さ れた電磁場のエネルギー準位図ととも Figure 2.3 に示す.このエネルギー準位図は Jaynes-Cummings の梯子と呼ばれている.

光子数がゼロ(n= 0)の場合のエネルギー固有値の分裂は真空Rabi分裂と呼ばれ,以 下のように定義される.

∆E = 2ℏg= s

2ℏN ω02|µdu|2 ϵ0ωkVm

(2.126) なお,微小共振器が誘電率 ϵ の物質で満たされている場合,式中の ϵ0ϵ で置き換えな ければならない.式(2.126)は n= 0 とn= 1 の間の遷移を考えた際のエネルギー固有

0.9 1.0 1.1 0.9

1.0 1.1

Normalized wavenumber

Normalized ener gy

Figure 2.4 The solid llines indicate the dispersion relation of the strongly cou-pled system calculated using Jaynes-Cummings Hamiltonian withg= 0.01,n= 0 andc=h=ωk=ω0= 1. The dashed and dotted lines indicate the resonant en-ergy of the naked cavity mode and the transition enen-ergy of the two level system, respectively.

値の分裂の大きさである.この分裂は真空場と誘電分極の間での相互作用により生じる と言え,微小共振器中で観測された場合には共振器ポラリトンあるいは真空Rabi分裂と 呼ばれる.一般的には,微小共振器内に挿入する2準位系として,原子を用いる場合に 真空Rabi分裂,それ以外の物質を使用し微小共振器内部に励起子を挿入する場合に共振 器ポラリトンという呼称が用いられることが多い.共振器ポラリトンという名称は,結 晶中を伝搬しながら励起子・光子を交互に生成・消滅するというポラリトン描像と,微小 共振器による閉じ込めを受けて光子・励起子が交互に生成・消滅する描像が物理的に同 等の現象であるとみなして与えられたものである.これは量子化された光電場と 2準位 系が強く結合し,可逆的かつコヒーレントにエネルギー交換を行っている状態で,物質 と光子が強く結合している—すなわち強結合状態—と表現される.強状態はあたかも物 質が光の衣をまとったかのような描像で理解することができ,強結合状態にある微小共 振器内において新しく生じるエネルギー状態は dressed 状態と呼ばれる.真空Rabi分 裂や共振器ポラリトンは光子数 n = 0 と n = 1 の間の遷移,すなわち Figure 2.3 に おける ℏω1 及び ℏω2 に対応した現象である.従って,微小共振器中に多数の光子が存 在する場合,Jaynes-Cummingsの梯子における高い準位間での遷移(例えば n 番目と n+ 1 番目の準位間での遷移)を考えることになる [29, 44, 45].ただし,前に述べたよう に共振器中に多数の 2準位系が存在する場合,光子数が多い状態での相互作用は必ずしも