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第 3 章 微小共振器 52

3.3 転送行列法による理論計算

3.3.4 多層膜構造における特性行列と理論計算

Figure 3.7 に示すように,多層膜構造に対して電磁波が入射する場合を考える [2].こ

のときの各境界面における屈折角 θtjj =1, 2, 3)は,Snell の法則を繰り返し用いる ことにより,入射媒質—例えば基板—の屈折率 n0 と薄膜の屈折率 nj により,

θtj = sin1 n0

nj

sinθin

(3.35) と書くことができる.ここで θin は最初の薄膜—1 番の媒質—に対する入射角を表す.こ うして求めた屈折角を式(3.25)および式(3.31)に適用し,求めた特性行列を掛け合わせ

Figure 3.7 The electric fields propagating the multilayer structure.

3.3 転送行列法による理論計算 61 ることで多層膜全体の特性行列を求めることができる.例えば,Figure 3.5 のように薄膜 1,2 が媒質0 と媒質 3 に挟まれた構造の特性行列 M は,

M =

M11 M12

M21 M22

=D0−1D1P1D1−1D2P2D2−1D3 (3.36) と書くことができる [2].

薄膜の特性行列から反射率や透過率,構造内部における電場分布等の情報を計算するこ とができる.Figure 3.5 に示した構造を例にして考える.構造の左側から光を入射させる 場合,媒質 3 において左側に進行する電磁波は存在しないはずである.従って,式(3.13) においてEout = 0 として計算すれば,振幅反射率 R と振幅透過率 T を求めることがで きて,

R= Ein

Ein+ = M21 M11

, T = Eout+

Ein+

= 1

M11 (3.37)

となる [2].

振幅反射率および振幅透過率からエネルギー反射率 R およびエネルギー透過率 T を 計算するためには,光強度 I を計算する必要がある.光強度は Poynting ベクトルS と ビームスポット面積 a を用いて以下のように表される.

I =a· |S|=a|E ×H|=an rϵ0

µ0|E|2 (3.38)

ここで式 (3.18)を用いた.Figure 3.8 のように多層膜に入射する光ビームを考えれば

ビーム面積についても幾何的に計算できる.すなわち,入射光の強度 Ii,反射光の強度 Ir,屈折光の強度It は,aiarat をそれぞれ入射光,反射光,屈折光のビームスポット 面積として,

Ii =ain1 rϵ0

µ0|Ei|2 =a0cosθin1 rϵ0

µ0|Ei|2 Ir=arn1

rϵ0

µ0|Er|2 =a0cosθrn1 rϵ0

µ0|Er|2 =a0cosθin1 rϵ0

µ0|Er|2 It=atn2

rϵ0

µ0|Et|2 =a0cosθtn2 rϵ0

µ0|Et|2 (3.39)

と求められる.ここで a0 は界面におけるビーム面積を表す.これらの式は多層膜の場合 でも同様に成り立つ.従って,エネルギー反射率および透過率は式(3.37)および式(3.39)

Figure 3.8 The illustration of the spot size of the light beam propergating the interface of meadia.

Figure 3.9 The multilayer structure and transfer matrix at any point in it.

を用いて,

R=|R|2 = M21

M11

2 (3.40)

T = noutcosθout

nincosθin |T |2 = 1

M11

2 (3.41)

と書くことができる [2].

次に,構造内部の電場分布について考える.Figure 3.9 のように,多層膜構造中の任意 の地点における特性行列を考える.この地点における特性行列 M(z) は以下のように求 められる.まずこの地点よりも左側に存在する境界面の内,最も左側に位置する境界面ま での特性行列 ML を求める.さらに ML に対して,屈折率 nj の媒質中を境界面からこ

3.4 1 次元フォトニック結晶 63 の地点までの距離 dj だけ伝搬した場合の特性行列Dj を掛ければよい.反射・透過スペ クトルを考える場合と異なり,構造内部においては左側に進む光が存在する.従って,こ の地点における入射電場強度に対する膜内電場強度の倍率 G(z) を求めようとする場合,

Eout は膜内で左に進む電場に相当し,ゼロにはならない.すなわち,求める G(z) は右 側に進む光電場の倍率 G+(z) と左側に進む光電場の倍率 G(z) の和となる.このとき,

G+(z) および G(z) は式(3.13)より,以下のように求められる.

G+(z) = M22(z)− RM12(z) M11(z)M22(z)−M12(z)M21(z) G(z) = RM11(z)−M21(z)

M11(z)M22(z)−M12(z)M21(z) (3.42) また,G(z) =G+(z) +G(z)を構造内の各地点で求めることで構造内の複素電場分布を 求めることができる.この時,モード体積は,式(2.4)より,

Vm = R

V ϵ(r)|E(r)|2dr3 (ϵ(r)|E(r)|2)MAX

=am

R

zϵ(z)|G(z)|2dz (ϵ(z)|G(z)|2)MAX

=am(z) R

zn2(z)|G(z)|2dz

(n2(z)|G(z)|2)MAX (3.43) と表される.このとき µr 1 として n=

ϵrµr ≃ √ϵr を利用した.am は光電場が広 がっている面積を表す.

am = R

Sϵ(r)|E(r)|2dxdy

(ϵ(r)|E(r)|2)MAX (3.44)

Fabry-Pérot における光の閉じ込めは平面鏡に対して垂直な z 方向のみに限定される.

従って,x方向,y方向に関して光は共振器構造の影響を受けないと仮定すれば,式(3.43) における am は共振層が同じ媒質で構成される Fabry-Pérot 共振器においては大きな差 がないと考えることができる.従って,モード体積 Vmam で除した値を比較すれば モード体積を概算的に比較することができると考えられる.

3.4 1 次元フォトニック結晶