日本銀行『貸出・資金吸収動向等』で国内 銀行の貸出残高(平残・特殊要因調整後)の 推移をみると、08年度上期は前年比2%台前 半の伸び率で推移していた(図表24)。しか し、リーマン・ショック後は金融不安が一気 に高まり、社債やコマーシャルペーパーの発 行などによる資金調達が困難を極めたことか ら、大企業の銀行借入れが急激に増加した。
08年11月から09年4月にかけては前年比4%
台の高い伸び率を記録した。信用金庫の貸出 残高(平残)は、08年度上期は前年比0.5%
前後の増加にとどまっていたが、緊急保証制 度の導入(08年10月末)後に貸出残高の増 加 ペ ー ス が 加 速 し、09年5月 に は 伸 び 率 が 2.0%に達した。
国内銀行・信用金庫の地域別預貸率の推移 をみると(図表25)、08年10月以降、関東で
急激に上昇した。資本市場が機能不全に陥る なか、世界同時不況による売上の減少や円高 の進行などで収益が急激に悪化した大企業 が、銀行借入れによって手元流動性を高めよ うとした影響が現れている。一方、近畿の預 貸率はすう勢的に低下しており、08年度下 期は東海の低下が顕著だった。ただ、近畿や 東海では、都市銀行等が貸出残高を圧縮して おり、地元の地方銀行や信用金庫の貸出残高 は、運転資金の確保や手元資金の積増しなど の需要の高まりを背景に増加している。
緊急保証制度の導入などで運転資金の調達 環境が改善し、資金繰り難が緩和されている とはいえ、倒産件数をみると、全国では07 年 度 の 前 年 比7.7% 増 か ら08年 度 に は 同 12.4%増に悪化した。08年度はすべての地域 で倒産件数が前年度の水準を上回っている
(図表26)。特に、中国、北陸、北海道は増 加率が20%を超えた。08年度は、上期は燃
09年4〜6月 09年1〜3月 08年10〜12月 08年7〜9月 08年4〜6月
全 08年度
国 北海道 東
北
関
東
北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
沖
縄
(%)
0.0
−1.5
−1.0
−0.5 0.5 1.0 1.5 2.0
(備考)1.四半期は年度全体に対する寄与度 2.新潟県は北陸に含めている。
3 .09年4-6月は08年度に対する寄与度 4 .総務省『消費者物価指数』より作成
図表23 消費者物価指数(前年比)
-1 0 1 2 3 4 5
07/1 07/4 07/7 07/10 08/1 08/4 08/7 08/10 09/1 09/4
(%)
国内銀行(特殊要因調整後)
信用金庫
(備考)1 .平残の前年比。国内銀行は、為替変動要因、貸 出債権償却要因、貸出債権流動化要因などの特殊 要因を調整している。
2.日本銀行『貸出・資金吸収動向等』より作成
図表24 国内銀行と信用金庫の貸出残高(前 年比)
料・原材料価格の高騰、下期は世界同時不況 による売上高の減少、信用収縮や資産価格の 下落、円高の進行などで企業の経営状態が悪 化した。業種別にみると、燃料価格の高騰や 荷動きの停滞が響いた運輸業、米国のサブプ ライム住宅ローン問題に起因する不動産市況 の悪化や不動産向け融資の厳格化などの影響 を受けた不動産業で、倒産件数の増加率が 30%を超えている。ただ、足元では、倒産 件数の増加率が縮小した地域や前年の水準を 下回っている地域が多い。景気が持ち直して いることに加えて、政府の金融支援策や公共 事業の前倒し執行などの政策効果が倒産の増 加傾向を食い止めている可能性がある。公共 事業の影響度が低い近畿や南関東といった都 市部では、倒産件数の増加率が比較的高い。
今後は、新政権による公共事業の抑制などか ら、政策効果が息切れし、体力の衰えた中小 企業の倒産が増加する恐れもあり、予断を許 さない状況が続こう。
おわりに
08年度における地域経済の動向を総括す ると、自動車産業の集積地として生産規模が 拡大し、雇用の受け皿の役割を担ってきた東 海地方が最も大きな打撃を受けた。また、大 幅減産に伴って、非正規従業員の雇止めなど で人員の削減が実施されるなど、輸出産業の 集積地を中心に雇用環境は急速に悪化した。
(備考)1.預貸率=貸出金÷預金。預金には譲渡性預金を含んでいない。
2.日本銀行『都道府県別預金/貸出金』、信金中央金庫資料より作成
図表25 国内銀行・信用金庫の預貸率の前年差増減幅
07/1 07/7 08/1 08/7 09/1 07/1 07/7 08/1 08/7 09/1 近畿
中国 四国 九州 全国
(%ポイント)
5
0
−1
−2
−3 4
2 1 3
(%ポイント)
3
0
−1
−2
−3 2 1 北海道
東北 関東 北陸 東海
09年4〜6月 08年度 07年度
(%)
30 20 10 0
−10
−20
−30 全
国 北海道 東
北 甲信越北関東 南関東 北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
沖
縄
九
州
(備考)1 .負債総額1,000万円以上の倒産を集計している。
2.東京商工リサーチ『全国企業倒産状況』より作成
図表26 最近の倒産件数(前年比)
〈参考文献〉
財務省『全国財務局管内経済情勢報告概要』財務省
内閣府『地域経済動向』内閣府政策統括官室(経済財政分析担当)
日本銀行『地域経済報告−さくらレポート−』日本銀行
日本政策投資銀行『地域別設備投資計画調査』日本政策投資銀行調査部(2009年6月)
急激な人員の削減を背景に、非正規従業員に 対するセーフティーネットの充実や規制の強 化を行うべきとの議論が高まっているが、非 正規従業員への過度な保護や雇用規制の強化 がなされれば、雇用の流動性が低下し、国内 生産から撤退する企業が増加する恐れもある。
製造現場への派遣の原則禁止など、雇用に関 する規制強化は、企業の採用意欲の低下を通 じて、地域経済の停滞を助長するリスクがあ るだけに、慎重な政策対応が求められよう。
一方、将来的に成長が見込めるハイブリッ ド車、太陽光発電、薄型テレビなどのエコ関 連分野は、政策効果も相まって好調に推移し ている。近畿では、薄型パネルやハイブリッ ド車などに関連する工場の建設が活発化して おり、今後も生産規模の一段の押上げが期待 できよう。環境関連などの将来有望な分野に
関しては、行政の支援措置が地域経済を活発 化させる起爆剤となりうるため、行政がどの 分野に力点を置くのかが今後の地域経済の行 方を大きく左右する可能性がある。
今回の世界同時不況では、自動車産業など の裾野が広い産業が特定地域に集中し過ぎて いることが、地域経済における問題点として 露呈した。確かに、産業が集積することのメ リットは大きいだろうが、生産拠点の一極集 中は、需要が急激に減少した場合、特定地域 で過剰な労働力が大量に発生するなど、負の 側面を合わせ持っている。一極集中のデメ リットが注目されている今こそ、国内の各地 域が持っている特色を活かして、地域間でリ スクの分散が図られるような支援策を実施す ることが、地域政策において重要になってこ よう。
(キーワード) 確定申告書、認定農業者、単一経営、複合経営、酪農、農地、農業委員会、
スーパーL資金、農業信用保証保険制度、農業信用基金協会
(視 点)
農業は地域において主要産業となっている場合も多いことから、その活性化が地方の活力 を生む重要な要素となり得るだけでなく、政府が担い手の育成に向けて、法人化や新規参入 の促進などを積極的に後押ししている。それゆえ、地域金融機関によっては、農業分野を今 後取組みを強化すべきマーケットや新たなビジネスチャンスとして捉えている状況にある。
しかし、農業に対する保護的政策はいまだ継続されており、農業経営・農業金融において は、イコールフッティングが確保されていない面も多々見受けられる。そのため、今後、農 業金融への取組みを検討・開始する信用金庫においては、農業経営の実態はもちろんのこと、
経営の根幹となる法制度やその運用についても把握する必要があろう。
そこで、本稿では、農業経営の実状、特殊な法制度やその運用実態を紹介し、信用金庫が 農業金融への取組みを検討・開始する際の注意点を考察することとしたい。
(要 旨)
農業経営には、個人・法人、認定農業者・農業者、単一経営・複合経営などの経営形態や、
稲作、畑作、酪農などの営農類型があり、形態や類型の特殊性を把握する必要がある。
担保として農地を捉えた場合、農地法によって権利移動が厳格に制限されており、市場性 が乏しいことを考慮する必要がある。
農業経営の支援策として行われている政策金融は、政府系金融機関や系統金融機関以外の 金融機関を排除する、いわゆる「民業圧迫」となっている面がある。
政府は農業金融の円滑化に向けて、金融機関に対して農業信用保証保険制度の利用を促し ているが、利用条件について、農協系統とのイコールフッティングが確保されていない面 がある。
調 査
農業金融への取組みに関する注意点
−農林水産業の活性化に向けて④−
信金中央金庫 総合研究所主任研究員