高知県高知市におけるねり製品加工業の現状と課題
写真 3 はMかまぼこ店で原料として使う生魚である。多種多様で、色々なサイズが混じっていること がわかる。これらを写真 4 のように 1 匹、1 匹手作業で頭と内臓をとりながら下処理をしていく。下処
理を済ませた魚は写真 5 、6 のような機械を使って身と皮や骨にわけ採肉する。この時、魚の種類の配 分をどのように混ぜて作業するかをみるのに長年の経験が必要になる。この作業は社長か写真の女性か のように限られた人にしかうまくできないという。その後、しばらく身を水にさらすが、この時間の見 極めも熟練が必要だという。これら魚の配分と水にさらす作業ができる人材がいるか否かが前浜物を原 料として使えるか否かのポイントとなる。
その後、擂り作業をし、カマボコなどに仕上げていく。Mかまぼこ店ではカマボコの成形も職人がし ており、ねり包丁で形を整えていく(写真 7 )。ねり包丁を使えるようになるには少なくとも 3 年はか かるという。高知県の練り物業者にはねり包丁文化が残っていて、それが規模は小さくても地元消費者 から愛されるカマボコを作れる練り物業者が生き残っている要因の 1 つだとみられる。また、カマボコ を蒸し上げる際には簾を使うが、簾をたたいた時に聞こえる音で蒸し加減を把握する。こうした感覚に
写真2 Mかまぼこ店の商品の一部
も熟練が必要となる。
(5)抱える課題
Mかまぼこ店は農林大臣賞を何度も受賞するなど、その賞品は高く評価されている。後継者もおり、
地元消費者ファンも多い。
しかしながら、原料不足という課題を抱えているのである。Mかまぼこ店のこだわりから、冷凍すり 写真7 職人によるカマボコの成形
写真8 焼きカマボコを焼いている様子 写真3 Mかまぼこ店で使う原料の一部 写真4 生魚を下処理している様子
写真5 魚をつぶす機械 写真6 身からはがされた皮
身は使わない。出来る限り、高知沖で水揚げされた魚を使いたいとの考えから、よほど原料がない限り、
愛媛などの近隣県からの仕入れも行わない。そのため、原料がなく店を閉めざるを得ない日も少なくな い。なぜそこまで高知沖で水揚げされた魚にこだわるのかと尋ねたところ、「おいしいから。ただそれ だけ」ということであった。素朴だが、職人的なこだわりといえる。
5.おわりに
今回みてきた事例は、水産加工業界の新たな取り組み−安定した原料調達に成功した事例、新商品開 発に成功した事例、産地の裾物魚を原料として新しい分野を開拓した事例など−にはいずれもあてはま らない。
しかし、今回の事例のように伝統的な加工業がなぜ残っているのか、そしてどのような課題を抱えて いるのかをみることも、今後の水産加工業界をみていく上では必要なことだろう。今、高知県内に存在 している練り物加工業者の中には、前浜原料にこだわっている業者も少なくないが、ほとんどが家族経 営規模であり、後継者がいないところも多い。この数年の間になくなっていく業者も多いだろう。せっ かく彼らがもっている技術を何とか残していく方法はないだろうか。今のところ、特に県や業界団体も こうした技術を残していくための支援体制などを整えてはいないようである。
またMかまぼこ店のように規模もある程度あり、後継者もいる業者であっても、原料不足という大き な課題を抱えている。前浜ものしか使わないこだわりあるYかまぼこ店も、原料が入らないために、今 では 1 年間にのべ 1 ヶ月加工作業をするかしないかという程度にまでになっている。こういう状況の中 で、既述のようにMかまぼこ店が主に原料として使っているのは、底曳網漁業で雑魚や潰し物と呼ばれ る水揚げ物である。県としては、こうした漁業の振興策として、中央部においてヒラメやエビの栽培漁 業など小型底曳網の振興策を行っているが、中央部の小型底曳網の衰退傾向は止まっていない。一方、
漁業経営の複合化を進めるために2006年に須崎地区で12件、そして2009年 3 月には幡多地区で16件の小 型底曳網漁業の許可を出しているが、加工業者は前浜原料の供給力回復という実感をまだ持ちえていな い。県は漁業現場の振興策には従前から取り組んできているが、後背地にある水産加工業に対しては 2006年ごろからようやく関心を持ち始めたという段階であり、当該加工業者は蚊帳の外に置かれている ためだと思われる。もちろん、漁業現場における漁業振興策も必要である。しかし、高知の特色ある水 産練り加工業が、このような漁業や資源の有効利用を支えてきたという事実もまた存在するのであり、
そのことをふまえた域内漁業と加工業の関係性の在り方を検討していく必要がある。地域の漁業も水産 加工業が今後も続いていくためには、漁業の生産現場からの視点と地域の水産加工業からの視点とどち らもふまえた上で、新しい枠組みの体制整備や総合的な漁業と加工業の振興策など、有効な施策を考え ていくべきではないだろうか。
参考資料:高知県「高知県水産物産地市場拠点化計画−土佐湾中央地域−」平成17年
河野光久・小林知吉「日本海南西海域で操業する沖合底びき網による漁獲物の投棄量と種組 成」『山口県水産研究センター研究報告』第6号、2008年.pp25〜29.
1.地域漁業の概要
(1)漁港と市場 1)漁港
長崎県には離島が多数あるため2008年の漁港数は合計で286と多く、全国の漁港数2,921の約 1 割を占 めている。内訳は第 1 種漁港が243、第 2 種漁港が28、第 3 種漁港が 4 、第 4 種漁港が10、特定第 3 種漁 港が 1 である。このなかで水産物の主要な水揚げ港は松浦、長崎、佐世保である。長崎港はかつては長 崎駅近くの市街地にあったが、1991年にそこから北に位置する三重地区に移転した。
2)市場開設状況
長崎県内で水揚げされる水産物の多くは、漁協等が開設者となっている26(2006年段階)の産地卸売 市場、あるいは産地水揚げ流通拠点である長崎、佐世保、松浦の卸売市場を経由するか、漁協系統共販 により出荷されている。
長崎、佐世保、松浦の 3 市場の取扱量については、近年、松浦のほうが長崎を上回り、2003〜2005年 の間は松浦が約16万トン、長崎が約12万トンであり、佐世保は約 5 万トンであったが、2006年には全体 的に減少し、特に佐世保と松浦では、まき網漁業の水揚げ量が減少した。2006年の平均価格は、長崎が 301円/㎏、佐世保が254円/㎏、松浦が152円/㎏であり、まき網漁業による多獲性魚種の水揚げが多い 松浦の平均価格が低い傾向にある。
(2)漁業生産・水揚げ活動 1)漁業生産量・金額
長崎県の2006年の漁業生産量は29万 6 千トンで全国の5.2%を占め、北海道、宮城県に続いて全国 3 位である。漁業生産金額でも長崎県は1,035億円と全国の6.8%を占め、北海道に続いて 2 位である。
1980年代後半から1990年代のはじめにかけては、長崎県の漁業生産量はまき網漁業のイワシ生産に支え られて80万トンを超える水準であったが、1991年以降、マイワシ資源の急激な減少や東シナ海等での中 国漁船との漁場競合等により大幅に減少した。
2)漁業経営体数
2008年の長崎県内の漁業経営体数は約 8 千849経営体で、全国の漁業経営体数の中では約 8 %を占め