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月末から 4 月いっぱいの 1 ヶ月程度と短い。この原因として考えられることは、冷 凍イカを加工するためには原料イカの保管料をはじめとする追加的コストがかかるが松前町のスルメ加

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北海道松前町・福島町におけるスルメ加工業の現状と課題

イカの加工期間は 3 月末から 4 月いっぱいの 1 ヶ月程度と短い。この原因として考えられることは、冷 凍イカを加工するためには原料イカの保管料をはじめとする追加的コストがかかるが松前町のスルメ加

工場の平均規模は福島町のそれよりも小さいこと、他の加工場の影響は労働力の移動範囲に留まると考 えられることから福島町の影響が松前町までは及ばないとみられること、同様に福島町では比較的狭い 範囲にスルメ加工場が集積しているのに対し松前町ではそれが広範囲に分散していること、などである。

(3)市場流通の縮小と系列化が進むスルメ流通

スルメの流通は、1990年代半ば頃までは東京都中央卸売市場(築地)を経由した市場流通が中心であ った。当時築地では、産地から出荷された何十トンものスルメが毎日セリで販売されていたといわれ、

スルメの集荷分散機能と相場形成機能を果たしていた。しかし、その後スルメの市場流通は縮小し、今 日スルメ加工業者がスルメを販売する先としては、築地を中心とする中央市場が 3 割、問屋と珍味加工 業者が 7 割といわれる。

スルメの市場流通が縮小した理由は、川上側(スルメ加工業者)と川中・川下側の双方にある。前者 については、かつてスルメ加工業者が中央市場に出荷する最大の理由は決済期間の短さ(決済期間は通 常市場では 1 週間、問屋では 1 ヶ月程度といわれる)にあったが、スルメ加工業者の淘汰が進み、残存 するスルメ加工業者の平均的な資金力が増加した結果、資金回収の早さよりも安定的な取引関係が重視 されるようになったことが、相場の変動が大きい中央市場よりも問屋やメーカーへの販売が増えた一因 といわれる。

しかし、より大きな理由は後者にある。これは、スルメの最大需要者である珍味加工業者の寡占化の 進行に伴い(拙著「函館地区におけるイカ乾燥珍味製造業の動向と特徴」『北日本漁業32号』参照)、大 手珍味加工業者が原料調達の安定化を図るためにスルメ納入業者の系列化を進めたことにある。例えば、

ある大手珍味加工業者は、アタリメ原料として国産スルメと輸入スルメを使用しているが、国産スルメ については、同社の差別化商品である「ソフト感」と「色の白さ」を備えたアタリメの原料となるひも 付きスルメとそれ以外のアタリメの原料となる通常のスルメ(本乾)の 2 種類に分けられる。そして、

前者を特定のスルメ加工業者からの直接取引で調達し、後者を特定の荷受と問屋から調達しているとい われる。同社に直販しているスルメ加工業者は4社確認できたが、そのうち中規模の 1 社は築地の荷受 を帳合とするものであった。この事例では、帳合の目的は、資金回収の早さや安全性の担保というスル メ加工業者の経済事情よりは、大手珍味加工業者が中規模クラスのスルメ加工業者と取引するに当たっ て安定供給を担保するために荷受を間に入れたものと思われる(この場合、スルメはスルメ加工業者か ら珍味加工業者へ直送されている)。また、大手珍味加工業者に直販しているスルメ加工業者は、全量 を珍味加工業者に販売しているのではなく、一部を市場や問屋にも販売している。これについては、無 選別の原料を使用することによるサイズ面での珍味加工業者の需要とのミスマッチが原因と思われる。

一方、築地市場では荷受 7 社全てがスルメを扱い、その取扱額は 7 社合計で約50億円(国産スルメと 輸入スルメが半々)といわれる。しかし、この特定の荷受 1 社の扱いが全体の 6 割を占めるといわれる など際立っている。これは、同社が十数社のスルメ加工業者から購入したスルメを大手珍味加工業者へ 納入すると同時に、大手珍味加工業者の需要動向を取引先のスルメ加工業者にフィードバックすること

(具体的にはサイズ別に干スルメに加工するかスルメダルマとスルメ足に分けるかの情報を与えること など)で、両者をつなぐ役割を果たすことによって実現している。また、同社は大手珍味加工業者以外

にも中小珍味加工業者、問屋、量販店等にスルメを販売しており、荷受でありながら積極的な問屋業務 を展開している。

このように、最近十数年の間に、大手珍味加工業者を頂点とする荷受、問屋、スルメ加工業者の系列 化が進んだ(これらの系列化は、基本的に資本関係を伴わないとみられる)。その結果、スルメの流通 経路としては、スルメ加工業者→大手珍味加工業者(直販)、スルメ加工業者→大手珍味加工業者へス ルメを納入する特定の荷受や問屋→大手珍味加工業者等、スルメ加工業者→その他の問屋や荷受等→中 小珍味加工業者、スルメ加工業者→スルメ加工業者(下請生産の場合)となり、前者ほど末端までの流 通経路が短いことからスルメ加工業者の利益率も高くなると考えられる。こうした系列への関与の度合 による利益率の違いは、スルメ加工業者に対して経営上の格差をもたらしてきたと考えられる。しかし、

国産アタリメ市場の規模は限定的と考えられ、その原料スルメについてもこれ以上の需要増大が困難と みられることから、こうした系列化についてはさらに拡大する状況にはないと考えられる。

こうして、スルメの流通では系列間取引の比重が増す中で、いわゆる「待ちの商売」の域を出ない従 来型の市場流通が取り残される形となった(中央市場において、スルメの値決め方法がセリから相対中 心に変わったのは水産物の全体的な傾向によるもので、特定の荷受を除き問屋機能が大きく増した訳で はない)。その結果、全体としてみると、スルメの市場流通は大きく縮小している(従来型の市場流通 に関してはより一層縮小しているとみることができる)。その一方で、スルメの取扱量が増加する秋口 にセリを行うことで、スルメの相場形成機能をかろうじて維持しているというのが今日の中央市場の実 態である。

また、スルメ流通では、スルメ加工業者間の下請関係(賃加工)が、確認できただけで 4 事例( 1 対 1 の関係が 2 事例、1 対 2 の事例が 2 事例)あり、これ以外にスルメ加工業者間でのスルメの売買も行 われているという。こうした関係はいずれも同一町内に限らないことが特徴である。また、スルメ加工 業者と問屋や荷受とのスルメの取引関係は、注文生産(原料はスルメ加工業者側が購入)による場合が 多いが、委託加工(原料は問屋や荷受側が購入)による場合もある。さらに、問屋や荷受がスルメ加工 業者を下請としたり、それに近い関係にあるケースが 3 〜 4 事例確認できた。このうち、問屋の下請の スルメ加工業者では、加工内容は必ずしもスルメに限定されず、問屋が必要とする複数の生処理工程を 請け負っているといわれる。これらの下請関係や取引関係の中には上記した「系列」関係に含まれると みられる事例も数例あるが、その過半数は資金力や販売力の不足を主な原因とする単純な下請・取引関 係とみられる。

(4)収益構造と経営的特質

2009年の「前浜スルメ」中心サイズ( 4 − 5 サイズ)の産地価格は 1 箱10㎏で約12,000円であった。

それにかかるコストとしては、原料イカ、雇用労賃、ボイラーの燃料代、電気代、段ボール代、減価償 却費等である。ちなみに、4 − 5 サイズを委託加工した場合の加工賃は 1 箱4,000円程度といわれており、

その中には労賃以下が全て含まれる(下請加工を行っているあるスルメ加工業者の試算によると、スル メ 1 箱を作る経費は労賃2,500円位、ボイラーの燃料代(プロパン)400円、電気代100円、ダンボール 代140円等で、労賃が半分以上を占める。また小型の原料イカほど加工コストが割高になるため 6 〜 8 月は赤字になることが多いという)。従って、委託元は前浜スルメ 4 − 5 サイズ 1 箱10㎏の原料として 8,000円(12,000円−4,000円)の原料イカを調達できれば損失が出ない状態(損益分岐点)にあると考

えられる。また、10㎏のスルメを作るためには加工による歩留りを 2 割として50㎏の原料イカが必要と なることから、求められる原料イカの単価はキログラム単価で160円(8,000円÷50㎏)以下、通常購入 する20キロ入り木箱で3,200円以下となる。これに対して、この 2 〜 3 年の原料イカの産地価格は20キ ロ入り木箱で2,000〜3,500円の水準にあったが、4 〜 5 年前には5,000〜6,000円の水準にあったという。

また、最近では 1 箱3,000円(キロ150円)以下であれば利益が出るといわれていることからも、原料イ カのキロ単価が160円前後というのがスルメ加工の最近の採算ラインとみることができる。このように、

スルメ加工の損益は原料イカの価格水準によって大きく左右されている。また、昨今の水産加工では、

一般的に、原料価格が上昇すれば製品価格もそれに伴って上昇するものの、製品価格に反映されるまで にはタイムラグがあることに加えてその上がり幅は小さく、原料価格の変動リスクは川上ほど負担割合 が大きいといわれている。従って、スルメ加工業者は毎年安定的な経営を続けることは難しく、原料価 格の変動により、黒字の年が続いたり赤字の年が続くような不安定な経営状態となることが予想される。

また、3 章の(2)で述べたように、スルメの需要は秋から年末に集中していることから、スルメ加工は 単年度でも不安定な経営状態となっている。

スルメ加工は、全体としてみると、労働力が限定的なことや周年加工が事実上難しいことなどから零 細性が強いにもかかわらず、原料価格の変動性や需要時期の季節性によって資金力が必要とされるとい う相反する経営的特質を持っているということができる。また、前項で述べたように、スルメ加工業者 は、大手珍味加工業者を頂点とする「系列」への関与の度合によって利益率が異なっているとみられる ことから、関与の度合が低い加工業者は薄利多生産が求められる。そのため、大規模な生産を行う下請 加工業者がいるように、スルメ加工業では生産量と利潤とは必ずしも比例的な関係にないと考えられる。

6.おわりに

スルメ加工については、同様にイカ乾燥珍味類の一次加工であるダルマ加工と比較することでその特 徴がより明確になると考えられる。スルメ加工は生処理工程を中心とする労働集約的な加工内容のため これ以上の機械化が難しい。また、季節性が強いことから経営の効率化が難しいことに加え、外国人労 働力の利用も制約されている。さらに、原料価格の変動性の高さから安定的な経営が難しい。そのため、

珍味加工業者にとってスルメは必要不可欠な原料であるにも係わらず、あえてそれを自社加工で賄うこ とはせず、外注によって調達することで一次加工に伴う経営の非効率性や経営リスクの高さについても スルメ加工業者に転嫁してきたとみることができる。こうした一次加工と二次加工の関係は、ダルマ加 工の場合と基本的に同じである。但し、今日「函館こがね」に代表される国産ダルマを原料とした差別 化された国産皮付きサキイカ市場の大きさに比べて、国産スルメ(前浜スルメ)を原料とした差別化さ れた国産アタリメ市場の方が大きいと考えられることから、それらの一次加工業者についても、ダルマ 加工業者(約10社)よりも多くのスルメ加工業者(約40社)の存立が可能になっているものと考えられ る。しかし、スルメ加工とダルマ加工の決定的な違いはそれらの生産物の汎用性の違いにある。すなわ ち、国産ダルマは近年では全て特定の珍味加工業者の製品と直結したひも付きダルマであるのに対して、

スルメは今日でも広範な利用が可能な汎用スルメが主体である。その結果、ダルマ加工では、受注生産 を行う少数の中小ダルマ加工業者を除く多くの零細経営は珍味加工業者の下請となることが必然化され てきた。そして、その大半は輸入ダルマや輸入サキイカのシェア拡大に伴い廃業を余儀なくされていっ た。これに対して、スルメ加工業者では、基本的に販売先を自由に選択できることから、小規模生産で

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