1.地域漁業の動向
琵琶湖漁業は、1990年代初めまで、漁獲量約5,000トン、漁業生産金額約50億円で推移していたが、
1990年代以降、漁獲量・生産金額ともに急減し、2000年代には漁獲量2,000トン前後、漁業生産金額15 億円前後で推移している。漁業衰退の主な要因として、1991年のアユ冷水病発生によるアユ苗(活魚種 苗)価格の下落、外来魚の繁殖、水草の大量繁茂、湖岸開発等による生息環境の悪化などが挙げられて いる。
2.水産加工業の動向
(1)琵琶湖における水産物の流通構造
水産物の流通経路は、鮮魚と活魚に大別される。鮮魚の場合、卸売業者や加工業者が直接漁業者から 仕入れる場合と、産地市場・卸売業者を通して仕入れる場合があり、その後、加工製品・鮮魚は小売 店・卸売市場・大手加工業者・料亭・旅館・ホテルへ出荷される。一方、活魚は、主にエリ(定置網)
で漁獲された稚アユが養殖業者へ出荷され、蓄養された後、活魚・鮮魚・冷凍で卸売業者、加工業者、
養殖業者、漁協へ出荷される。
図 2 に、琵琶湖における水産物の流通経路を示した。流通構造自体はこの20年間では大きく変化はし ておらず、琵琶湖外からの原料調達や、新規販路開拓などの大々的な動きは見られない。琵琶湖の加工 業者の事業形態は多様であるが、その中でも、加工業を主とするもの、加工業と鮮魚卸売業を行うもの、
アユ養殖業と加工業を行うものに大きくわけられる。
(2)経営体数
図 3 に、滋賀農林水産統計に記載されている 経営体のうち、淡水魚の加工に関連していると 考えられる品目別経営体(延べ)を 3 項目抜粋 した。佃煮加工業者は「その他水産加工品」に
(150前後)、フナずし用のフナの塩漬けに関する 加工業者は「塩蔵」に(40前後)、冷凍アユなど の冷凍加工に関する業者は「冷凍」に(50前後)
含まれている。『2008年漁業センサス』における 滋賀県の水産物佃煮工場数は83、水産物漬物工 場数は52(ともに実数)であった。
また、滋賀県内の水産加工業者により構成されている水産協同組合法人に滋賀県水産加工業協同組合 がある。現在の組合業者数は56業者で、県下の加工業者には、個人営業など、組合に入っていない業者 もいる。組合員数は25年前くらいがピークで、約130業者あった。加盟業者の生産量・生産額等のデー タは存在していないとのことであった。
各組合員は、地域ブロックに分かれており、大津:13、草津・守山:4 、志賀:6 、湖東:10、今 津:10、知
ち
内
ない
・海津:8(業者数)と、湖南と湖東、湖西に比較的多い。
(3)水産加工品の生産動向
『滋賀農林水産統計年報』に記載されている水産加工品生産量のうち、琵琶湖産水産物に関連するも のとして、水産物佃煮類(魚介類、昆布巻きなど)、水産物漬物、冷凍水産物が挙げられる。以下にそ
図2 琵琶湖における水産物の流通経路
資料:水産加工業者からの聞き取りにより作成
図3 滋賀県の水産加工業経営体数(延べ)の推移
資料:『滋賀農林水産統計年報』
延 べ 経 営 体 数
れらの動向を示した。
1)佃煮:図 4 は滋賀県における魚種別佃煮生産量である。琵琶湖における水産加工業の主たる製品は コアユの佃煮である。近年アユの漁獲量が減少傾向にあり、コアユ佃煮の生産量は約300トン前後で 横ばいとなっている。その他ゴリ、エビなど合計で約500〜600トンで推移している。ただしイサザ、
ゴリ、モロコなどは漁獲量の増減が激しく、特にモロコは近年佃煮生産量が急減している。「その他 水産物佃煮」は1990年代後半に1,800トン近くあったが、近年減少し500トン前後である。
2)昆布巻:水産物佃煮のうち、昆布巻の項目では1970年代より海産物を使用したものはあったがその 後急減している。1999年より、アユの昆布巻の項目が追加された。2000年以降、800トン前後で推移 しており、アユとニシンが大半を占めている。
3)水産物漬物:図 6 に示した水産物漬物の中でも大半を占めるのはフナずしで、1980年代には120ト ンを超えたが、1980年代後半に減少し、現在では50トン前後で横ばいの状態である。南蛮漬は、モロ コが大幅に減少し、コアユは微減から横ばいであったが2003年以降記載されていない。
4)冷凍水産物:図 7 は冷凍水産物生産量の推移である。1980年代初頭まではエビが中心であったが、
エビの減少と対照的に、徐々にアユが増加し、冷水病が発生した1990年代には一時800トンまで増加 した。現在も 6 〜 7 割がアユである。
図4 滋賀県における魚種別佃煮生産量の推移
資料:『滋賀農林水産統計年報』
図5 滋賀県における昆布巻生産量の推移
資料:『滋賀農林水産統計年報』
生 産 量︵ ト ン
︶
生 産 量︵ ト ン
︶
(4)小活
琵琶湖の水産加工業は、地元原料・地元消費を存立基盤にしており、地域漁業・地域社会と密接なか かわりをもっている。陸封型アユであるコアユや、ニゴロブナなどの固有種を原料にした加工食品が琵 琶湖周辺地域で消費されており、それが琵琶湖水産業の存立基盤になっている。しかし、1990年代以降、
上述した漁場環境における諸問題、および食生活の多様化や輸入魚介類の増加等の要因により琵琶湖産 水産物の地元消費は減退する傾向にある。
3.水産加工業を巡る状況と地域としての課題
(1)地域における水産加工業の経営実態
1990年代に発生した冷水病に伴うアユ活魚の需要減退や、鮮魚の地元消費の減退により、加工原料に 仕向けられる割合が高くなっている。また、図 8 で示したように、近年、地元水揚げの減少が著しい地 域があり、業者が地域外から魚介類を仕入れているところもある。
水産加工業者の地域的展開をみると、沖島や堅田などの専業漁業者集団のいる地域では水揚げが安定 しており、加工と同時に鮮魚卸売業を行っている業者がみられ、水揚げの少ない他地域への出荷も行わ れている。湖東・湖西地域ではアユの養殖から発展し加工・販売を一貫して行う業者がある。
生 産 量︵ ト ン
︶
生 産 量︵ ト ン
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図6 滋賀県における水産物漬物生産量の推移
資料:『滋賀農林水産統計年報』
図7 滋賀県における冷凍水産物生産量の推移
資料:『滋賀農林水産統計年報』
(2)各地域の加工業者の調査事例
水産加工業協同組合のブロックを参考に加工業者に聞き取り調査を行った。前述したように、農林統 計以外に定量的資料が存在しないため、加工業者の事業内容と地域漁業の状況との関係に注目して調査 を行った。そのため、対象は必ずしも組合加盟業者に限ってはいない。調査時には主な項目として、事 業種類、年間売上、主な製品、年間生産量、従業員数、原料調達事情、販路などを聞き取った。
事例1:A水産(長浜市)
A水産の事業は、佃煮製造・販売・卸及び鮮魚販売・卸で、年間売り上げは約 2 億円、従業員はパー トを含め12名である。売上および取扱量に占める、加工品と鮮魚の割合は半々くらいである。
主な製品はコアユの佃煮であり、約 7 割を占める。残りがイサザ、モロコ、エビ、フナなどである。
また、彦根市以北の地域では鮮魚の食習慣があり、需要が他地域よりも多いという。A水産もコアユの 鮮魚での取り扱いは多く、鮮魚が 7 〜 8 割に対し、加工用は 2 〜 3 割である。
年間の生産体制は、先ず 2 〜 3 月頃にエリで漁獲されるアユを佃煮加工し、同時期にはフナずし用の フナの塩切りも行う。その後、初夏のコアユシーズンから 7 月頃まではコアユ中心に加工・販売を行い、
アユが禁漁になる 8 月以降は、エビやゴリ、冬場から春にかけてはモロコ、コイ、フナなどを加工・販 売する。特に取扱量の多いアユの加工に関しては、シーズンには自社工場で加工しきれない量が必要と される時があり、下請け加工業者と契約をして、不足分を生産させる方式をとっている。また、佃煮は、
加工したのち、必要量以外は急速冷凍して、必要時に販売ができるようにしている。(このような年間 生産体制は、どの加工業者でもほぼ同様であった)。
原料は主に地元(湖北地域)の複数の漁協から仕入れている。販路は地元中心である。地元スーパー 図8 水産加工業協同組合ブロック別業者数と各ブロック内の漁獲量の推移
資料:水産加工業協同組合資料および県漁連資料をもとに作成
※地図内のアルファベットは調査対象業者の所在地
※堅田は漁獲量のデータ なし(数百トン分)
漁 獲 量︵ トン
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漁 獲 量︵ ト ン︶
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漁 獲量
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内に自店のブースを有しており、加工品・鮮魚ともにそこで販売している。また近隣の道の駅や直売所 にも加工品や鮮魚を出荷している。良い製品を地元に提供することにこだわっている。
事例2:B水産(近江八幡市)
B水産は元々沖島で漁業を営んでいた社長が、1970年に開業した。事業は、佃煮製造・販売・卸及び 鮮魚卸で、売上は約 2 億円、従業員は10人である。売上に占める加工:鮮魚の割合は年により異なるが、
7:3 〜半々くらいである。
主な製品はアユとウロリ(ゴリの小さいもの)の佃煮が中心であり、他にエビ、イサザなど含め年間 50トン程を佃煮に使用。フナずしは 5 トン程漬けている(天然ニゴロブナ)。鮮魚は70トン前後を他の 加工業者や小売店に卸している。
原料は沖島の漁業者10隻程から、全ての漁獲物を年間を通して買う契約を結んでおり、琵琶湖産原料 はほぼそこから入手する。養殖アユは付き合いのある養殖業者から仕入れる。販路は、道の駅など観光 施設、中央卸売市場、佃煮問屋への出荷が中心であるが、本社を含む近江八幡市内の 2 店舗でも販売し ている。大手佃煮加工業者の下請け等もしている。またフナずしは、京都の伊勢丹の地下売り場でも販 売している。
事例3:C水産(近江八幡市)
C水産は1991年に開業した比較的新しい業者で、事業は佃煮製造・卸・販売及び予約制湖魚料理店で ある。年間売上げは約5,000〜6,000万円で、近年比較的安定している。従業員は夫婦+ 1 人の計 3 人で、
時期によりアルバイトを雇う。
主な製品はコアユとウロリが 3 割ずつ、残りがエビやハス、シジミ(中国産)など季節によって変わ る。加工量は、一日 1 トンが限界で、全て自社加工であり、下請け加工業者等は持たない。年間生産量 は約30〜40トンくらいである。
原料はすべて沖島の漁業者から直接仕入れる。販路は、インターネットや電話注文などによる全国へ 向けた直販が 7 割を占める(県内が約1/3、近畿地方が約 7 割)。残りはホテル・旅館、自店舗で販売し ている。以前は沖島で製造・販売を行っていたが、地元の人気が高まり、2008年に本土に店舗兼料理店 を開設した。顧客は現在、年間約12,000人で毎年1,000人ほど増加しているという。特に営業活動などの 販路拡大は行っていないが、加工業を開始した際、社長が「島に戻る若者」として新聞に取り挙げられ て以来、マスコミから定期的に取り挙げられ、それが宣伝効果につながったのだという。
事例4:D水産(高島市)
D水産の事業は、佃煮製造・販売、アユ養殖・販売で、年間売上は約 3 億円、従業員は10人である。
元々は種苗販売業から始めたが、冷水病発生以降のアユ種苗の需要減から食用中心の養殖に転化し、加 工業も始めた。養殖したアユはほとんどが自社で加工品になる。
主な製品は、養殖の「子持ち大アユの甘露煮」で、生産量の約 8 割(約30トン)。コアユなどの琵琶 湖産佃煮が 2 割弱(約 3 トン)。残りは、歳暮時等にギフト用の昆布巻(子持ちアユ一本に鮭やニシン 数本を合わせる。約10万本)、フナずし( 1 トン未満)などである。
原料に関しては、アユは主に地元漁協から(養殖アユは自社生産)、他の琵琶湖産魚は沖島のものな どを仲買人から仕入れる。
販路は関東、関西の大手百貨店(20〜30店)である。また、2009年には自店舗を開設した。ここでは、
琵琶湖の旬の魚を地元で販売していくことで、地域の情報発信をしていく意向であるという。