院外心停止患者を対象とした報告では、高度な気道確保器具の挿入のタイミングの遅れと神経学的 予後が良好な症例の割合減少の関係が示されている。また、発症後 12 分以内に気管挿管が実施された 院外心停止症例は、それ以降に気管挿管を実施された症例よりも生存退院率が高いことが報告されてい る。院内心停止患者を対象とした検討では、5 分以内に高度な気道確保器具を挿入された症例は、それ 以降に挿入された症例よりも 24 時間後生存率が良好であったと報告されている。しかしながら、いず れの報告も観察研究であり、その解釈には注意を要する。
遅いタイミングの高度な気道確保は転帰不良と関係していたが、適切なタイミングについては不明 である。
■3 気管チューブの先端位置確認
CQ
:
CPR中に気管チューブの先端位置を確認するための至適な方法は何か?
P:あらゆる状況下の成人の心停止で、CPR 中に高度な気道管理を必要とするか気道管理を 行っている患者
I:何らかの資機材(例えば、波形表示のある呼気 CO2モニター、CO2検知器、食道挿管検知 器、気管超音波検査)の使用
C:非使用
O:気管分岐部より上への気管内留置または気管挿管の成功
推奨と提案
CPR 中の気管チューブの位置確認や連続モニターには、身体所見に加えて、波形表示のあ る呼気 CO2モニターを用いることを推奨する(強い推奨、低いエビデンス)。
もし、波形表示のある呼気 CO2モニターが使用できない場合には、身体所見に加えて、波 形表示のない CO2モニターや比色式 CO2検出器、食道挿管検出器、あるいは気管超音波検査で 代用することを推奨する(強い推奨、低いエビデンス)。
エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス
食道挿管に気付かないことは CPR 中の気管挿管施行に関する重大な合併症である。正しく 気管チューブが挿入されていることを確認するいくつかの方法、すなわち、呼気 CO2モニター、
CO2検知器、食道挿管検知器、および気管超音波検査がある。
1. 呼気二酸化炭素検知器・食道挿管検知器
1) 波形表示のある呼気CO2モニター
重要なアウトカムとしての CPR 中の気管チューブの気管内留置の判定について、1 件の観 察研究をみとめた(非常に低いエビデンス:バイアスのリスクと非直接性によりグレードダ ウン)。153 例の重症患者(うち 51 例が心停止)に対する病院前気管挿管において、波形表 示のある呼気 CO2モニターを使用すると、波形のないものと比較して、来院時の認識していな い食道挿管の割合が低かった(0% vs 23%, OR 29, 95%CI 4~122)。
そのほかに、3 件の観察研究における 401 例と、1 件の RCT の 48 例において、波形表示の ある呼気 CO2 モニターによる気管チューブの気管内留置の判定の特異度は 100% (95%CI 87~100%)であった(非常に低いエビデンス:深刻なバイアスのリスクと不精確さによりグ レードダウン)。
病院前における気管挿管の直後に波形表示のある呼気 CO2モニターを使用した 1 件の研究
では、感度は 100%であり、食道挿管の割合は、平均(1.5%)よりも少なかったと報告され た。
救急外来で院外心停止患者への気管挿管後に使用した他の 3 件の研究では、感度は 65~
68%の間であった。
この結果の違いは、長時間の蘇生による肺血流障害もしくは血流不全に関連しているのか もしれない。
これらの研究で集積された感度/特異度の結果と、想定される食道挿管の発生割合が 4.5%
と仮定すると、波形表示のある呼気 CO2モニターの偽陽性率は 0% (95%CI 0~0.6%)であっ た。
2) 比色式CO2検知器
重要なアウトカムとしての比色式 CO2検知器による CPR 中の気管チューブの気管内留置の 判定について、7 件の観察研究(総計 1,119 例)がみとめられた(非常に低いエビデンス:
バイアスのリスク、非直接性によりグレードダウン)。それらの特異度は 97%(95%CI 84~
99%)、感度は 87%(95%CI 85~89%)、偽陽性率は 0.3%(0~1%)であった。
3) 食道検出装置
重要なアウトカムとしての食道検出装置による CPR 中の気管チューブの気管内留置の判定 について、4 件の観察研究(総計 228 例)(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、非直 接性、非一貫性、強い出版バイアスの疑いによりグレードダウン)と 1 件の RCT(48 例)(低 いエビデンス:バイアスのリスク、非直接性によりグレードダウン)、および 1 件の観察研究
(168 例)(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、非直接性、非一貫性、強い出版バイ アスの疑いによりグレードダウン)がみとめられた。
これらの特異度は 92%(95%CI 84~96%)、感度 88%(95%CI 84~92%)、偽陽性率 0.2%
(95%CI 0~0.6%)であった。
1 件の研究では、自己膨張バルブで確認する食道挿管検知器と空気をシリンジで吸引するタイプ とで精度に統計学的有意差はなかった(感度:71% vs 73%、特異度:100% vs 100%)(低いエ ビデンス:バイアスのリスク、出版バイアスの疑いによりグレードダウン)。
4) 気管チューブ同定のための超音波検査
重要なアウトカムとしての超音波検査による CPR 中の気管チューブの気管内留置の判定に 関する検討では、3 件の観察研究(総計 254 例)、がみとめられた(低いエビデンス:出版バ イアスの疑い、非直接性によりグレードダウン)。これらの特異度は 90%(95%CI 68~98%)、
感度 100%(95%CI 98~100%)、疑陽性率は 0.8%(95%CI 0.2~2.6%)であった。
推奨と提案
CPR 中の気管チューブの位置確認や連続モニターには、身体所見に加えて、波形表示のあ る呼気 CO2モニターを用いることを推奨する(強い推奨、低いエビデンス)。
もし、波形表示のある呼気 CO2モニターが使用できない場合には、身体所見に加えて、波形 表示のない CO2モニターや比色式 CO2検出器、食道挿管検出器、あるいは気管超音波検査で代 用することを推奨する(強い推奨、低いエビデンス)。
患者にとっての価値と
ILCORの見解
強い推奨をするにあたり ILCOR は、気づかれない食道挿管を避けることに重きを置いた。
ILCOR が検討した 11 の研究では、心停止症例で食道挿管に気付かれないことが 4.3% (range 0~14%)に発生していた。食道挿管の見逃しは非常に高い死亡率につながる。したがって、
偽陽性率(使用した器具が、気管チューブが実際には食道に留置されているにもかかわらず 気管内にあると示す割合)の低い器具を推奨することを重視した。
さらに、波形表示のある呼気 CO2モニターは、CPR 中の他の用途(例えば、呼吸数のモニター や CPR の質の評価)にも使用できる可能性を鑑みて強い推奨とした。
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Knowledge Gaps(今後の課題)
・ 遷延性心停止例での CO2測定器の意義についてのエビデンスは限られている。
・ これらの器具の臨床的影響(費用、適時性)を比較した研究は非常に少ない。
・ 超音波検査の使用についてはさらに研究が必要である。
2. 胸郭インピーダンス法
全身麻酔下の成人を対象とした 2 件の研究と小児を対象とした 1 件の研究において、胸郭イン ピーダンス法が高い感度(97.5'-100%)と特異度(92.5'-100%) で気管挿管と食道挿管を判別したこと が示されている。また死体を対象にした観察研究において、食道挿管が気管挿管に比べて胸郭インピー ダンスの変化の小さいことが示されている。その他には、心停止症例に対する胸骨圧迫中の換気の確認 を胸郭インピーダンス法によって試み、感度 90.4%、陽性的中率 95.5%で予測できたという報告があ る。また、2 編の症例報告における心停止 6 症例において、CPR中の食道挿管時に、換気に伴う胸郭イ ンピーダンス変化が消失することが報告されている。胸郭インピーダンス法による換気量の適切さの判 断に関するエビデンスは乏しい。動物実験において、胸郭のインピーダンスの信号の強度が換気量に比 例することが示されている。心停止患者を対象とした研究においても、胸骨圧迫をしていないときの胸 郭インピーダンスの変化と 1 回換気量の変化の間にほぼ直線的な関係のあることが報告されているが、
その直線の傾きに相当するインピーダンス係数(Ω/kg/mL)には大きなばらつきがあった。
胸郭インピーダンス法は、心停止患者の気管チューブ先端位置確認のための補助手段として使用で きるかもしれないが、今後の研究集積が得られるまでは、胸郭インピーダンス法単独で判断するべきで はない。なお、わが国では胸郭インピーダンス法による気管チューブ先端位置確認は行われていない。