は心静止に対するカルシウム投与はROSC率、生存退院率を改善させていない。1 件の研究でカルシウム 投与群はROSC率を低下させた。
院内および院外心停止患者に対してカルシウムをルーチンに投与することは支持されない。
4
) アトロピン
成人における院内および院外の心停止(心静止、PEA,無脈性VT、VF)に際して、アトロピン単独あ るいは他の薬物との併用がROSC率、生存率などの転帰を改善させるかについては以下の研究がある。
3 件の研究で心静止に対するアトロピン投与により生存率が改善した。2 件はアドレナリンとともに 投与した研究で 1 件はスキサメトニウムとフェンタニル導入後の心静止にアトロピンを単独投与した 研究である。
院外心停止の心静止に対してアドレナリンと炭酸水素ナトリウムが投与された患者においては、ア トロピン投与はROSC率と関連していたが、アトロピン投与群に生存退院例はなかった。
1 件の研究および 2 件の研究では、心停止時にアトロピンを投与しても生存率に影響はなかった。
4 件の臨床研究ではアトロピンの使用は生存率の低下と関連していた。
わが国では院外心停止例でPEAと心静止に対するアトロピン投与の影響を検討した研究があり、心静 止ではROSCと生存入院率の増加に関連していたが、PEAに対するアトロピン投与は 30 日生存率の低下と 関連していた。
心停止に対するアトロピンはPEAと心静止いずれにもルーチンには使用しない。なお、心静止でアド レナリン投与が無効な場合には考慮してもよい。
た。同じ研究で病院前の低温輸液による低体温療法導入群での血清学的マーカーによる評価による神経 障害の軽減はみられなかった。
蘇生中の低温急速輸液が有効であるエビデンスは無かった。
■3 体外循環補助を用いた CPR(ECPR)
CQ
:体外循環補助を用いた
CPR(
ECPR)により、転帰は改善するか?
P:あらゆる状況下の成人の心停止患者 I:ECPR の使用
C:用手または機械による CPR との比較
O:退院時、30 日後、60 日後、180 日後、1 年後の神経学的転帰および生存、ROSC
推奨と提案
ECPR は、実施可能な施設において当初の従来通りの CPR が奏功しない場合に、一定の基準 を満たした症例に対する理にかなった救命治療であると提案する(弱い推奨、非常に低いエ ビデンス)。
エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス
体外循環補助には、血管カテーテル留置、ポンプと人工肺を含む回路が必要であるが、酸 素化された血液を循環させることが可能で組織灌流を補うことができる。体外補助循環を用 いることで、適切な自己循環の回復と、可逆的な背景疾患を治療する時間稼ぎとなる可能性 をもつ。これは、一般に ECLS(extracorporeal life support)と言われ、心停止中に使う際 は ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)と呼ばれる。この治療法は院外 心停止症例にも使われることが多くなってきている。よって、院内心停止と院外心停止症例 を別々に論ずる。
1) 院内心停止に対するECPR
重大なアウトカムである院内心停止から 180 日後、1 年後の神経学的転帰に関する検討で は、2 件の観察研究があり、ECPR で治療された 144 例と、従来の CPR が行われた 434 例が比 較された。180 日後では神経学的転帰良好例が ECPR で増加しており(RR 3.78, 95%CI 2.26~
6.31)、プロペンシティマッチングを行っても同様であった。しかし 1 年後では ECPR と差が なかった(RR 1.72, 95%CI 0.74~4.01) (非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、不精 確さによりグレードダウン)。
重大なアウトカムである院内心停止から 30 日後、180 日後、1 年後の生存については、2 件の観察研究があり、ECPR で治療された 144 例と、従来の CPR が行われた 434 例が比較され た。30 日後(RR 2.25, 95%CI 1.28~3.96)と 180 日後(RR 2.81, 95%CI 1.79~4.39)(RR 2.50, 95%CI 1.31~4.80)では生存が改善していたのに対し、1 年後は改善していなかった(RR 1.92, 95%CI 0.88~4.15)。プロペンシティマッチングを行った検討では 180 日後の生存が改善し
ていた(RR 3.20, 95%CI 1.25~8.18) (非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、不精確 さによりグレードダウン)。
重要なアウトカムである院内心停止の退院時神経学的転帰について、2 つの観察研究があ り、ECPR で治療された 144 例と、従来の CPR が行われた 434 例が比較され、良好な転帰が示 された(RR 2.23,95%CI 1.11~4.52,調整後 RR 3.63,95%CI 2.18~6.02, プロペンシティ マッチング後の RR 4.67,95%CI 1.41~15.41)(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、
不精確さによりグレードダウン)。
重要なアウトカムである院内心停止症例の退院時生存に関する検討では、2 件の観察研究 があり、ECPR で治療された 144 例と、従来の CPR が行われた 434 例が比較された。コホート 全体での退院時生存は改善していた(RR 2.33, 95%CI 1.23~4.38)(RR 2.81, 95%CI 1.85~
4.26)。1 件の研究ではプロペンシティマッチングにおいても退院時生存が改善していた(RR 3.17, 95%CI 1.36~7.37)(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグ レードダウン)。
2) 院外心停止に対するECPR
重大なアウトカムとしての院外心停止症例の発症 30 日後、90 日後、180 日後の神経学的転 帰について、2 件の観察研究があり、ECPR で治療された 311 例と、従来の CPR をされた 312 例が比較された。1 件の研究では ECPR で 30 日後(RR 7.92, 95%CI 2.46~25.48)、180 日後 (RR 4.34, 95%CI 1.71~11.00)の神経学的予後良好例が増加した。もう 1 件の研究では 90 日後の神経学的予後良好例が増加した(RR 5.48, 95%CI 1.52~19.84)が、プロペンシティ マッチングでは有意差が得られなかった(RR 3.50, 95%CI 0.81~15.16)(非常に低いエビデ ンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。
重大なアウトカムとしての院外心停止症例の発症 30 日後、90 日後、180 日後の生存につい て、2 件の観察研究があり、ECPR で治療された 311 例と、従来の CPR をされた 312 例が比較 された。1 件の研究では ECPR で 30 日後(RR 3.94, 95%CI 2.24~6.92)、180 日後(RR 5.42, 95%
CI 2.65~11.09)の生存が増加した。もう 1 件の研究では 90 日後の生存が増加し(RR 6.17, 95%CI 2.37~16.07)、プロペンシティマッチングでも同様の結果であった(RR 4.50, 95%CI 1.08~18.69)(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。 重要なアウトカムとしての院外心停止症例の退院時神経学的転帰については、比較した研 究がなかった。
重要なアウトカムとしての院外心停止症例の退院時の生存について、1 件の観察研究があ り、ECPR で治療された 53 例と、従来の CPR をされた 109 例が比較された。退院時の生存は ECPR で増加したが(RR 4.99, 95%CI 2.21~11.30)、プロペンシティマッチングでは有意差 が得られなかった(RR 3.00, 95%CI 0.92~9.74)(非常に低いエビデンス:バイアスのリス ク、不精確さによりグレードダウン)。
推奨と提案
ECPR は、実施可能な施設において当初の従来通りの CPR が奏功しない場合に、一定の基準 を満たした症例に対する理にかなった救命治療であると提案する(弱い推奨、非常に低いエ ビデンス)。
患者にとっての価値と
ILCORの見解
この弱い推奨にあたり、報告された研究では ECPR の適応として選ばれた症例のみを対象と している(注1)ことに注意する必要があり、本推奨についても同様の症例群に対してのみ 適応されるべきである。ECPR は相当量の医療資源を必要とする複雑な処置であるため、すべ ての病院では施行困難であるが、通常の CPR が奏功しない症例において、成功する可能性が ある。また、ECPR は冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)など他の処置ま での時間稼ぎとなるかもしれない。
注1: 報告された研究における適応規準は以下の通りである:①初回 ECG が VF または無脈 性 VT、②病院到着時心停止(病院到着までの間の ROSC の有無は問わない)、③119 番通報あ るいは心停止から病院到着まで 45 分以内、④病院到着後(医師が患者に接触後)15 分間心 停止が持続している(1 分以上の ROSC がない)。除外規準:①年齢 20 歳未満または 75 歳以 上、②発症前の日常生活動作(ADL)不良、③原疾患が非心原性、④深部体温 30℃未満、⑤ 代諾者の同意が得られない、⑥救命の対象外である
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Knowledge Gaps(今後の課題)
・ ECPR と通常の CPR について、心停止症例の臨床的転帰に関して評価する比較臨床試験 が必要である
・ 心停止症例への ECPR における至適流速
・ ECPR 戦略によって最も利益を受ける患者のサブグループは何か
・ ECPR を考慮すべき患者の類型は何か
・ 院外心停止症例の蘇生に関する、病院前 ECPR の役割(役割の有無)
・ 心停止後 ECPR 実施中の症例における至適体温
・ 心停止後 ECPR 実施症例における信頼できる予後因子