ジゴキシン中毒による心停止を対象として標準的な治療法と特定の治療法とを比較したRCTはない。
ジゴキシンの心毒性に対する抗ジゴキシンFabフラグメントの有用性ついて 14 件の研究がある。
ジゴキシン中毒による心停止患者に対して、心停止の蘇生アルゴリズムを変更するためのエビデン スは十分ではない。成人と小児において、ジゴキシンや配糖体の高度な心毒性に対しては抗ジゴキシン Fabフラグメント療法を行うべきとされているが、わが国では販売されていない。
▲Knowledge Gaps
(今後の課題)
動物実験や比較臨床研究がジゴキシン中毒による心停止の治療の進歩に必要である。ジゴキシンの 心毒性に対する抗ジゴキシンFabフラグメントの薬物動態や臨床研究が抗体の投与量の確立に有益であ ろう。
■ 6 アナフィラキシーによる心停止
アナフィラキシーによる心停止に関して、これまでの蘇生法と他の蘇生法とを比べたRCTは存在せず、
症例報告、心停止にならなかった症例からの推論、病態生理からの考察または動物実験によるエビデン スしかない。
アリの毒を使って 21 人中 19 人にアナフィラキシー症状を起こさせたヒトのRCTでは、輸液とアドレ ナリンの持続点滴が有効であることを示している(ただし心停止になってはいない)。また、ブタクサ に感作させたイヌのRCTでは、0.01mg/kgのアドレナリンの持続静脈内投与が何も使わなかった群や1回 静脈内投与群よりもショック前の 70%の血圧を保つのに有効であった。
少数例の症例報告で、心停止の有無にかかわらずアナフィラキシーショックの患者で一般的な治療 が無効の場合に、バソプレシンが有効であった。同様に少数例の症例報告で、以下のα作用薬が初期に 有効である可能性を示している;ノルアドレナリン、メトキサミン、terlipressin、metaraminol。ま た少数例ではあるが、アナフィラキシーから心停止に至った場合には人工心肺や、循環補助装置(LUCAS)
が有用であった。その他に通常のALSに加えてステロイドおよび抗ヒスタミン薬を使用して救命できた という症例報告もある。
アナフィラキシーによる心停止患者に対して、心停止の蘇生アルゴリズムをルーチンに変更するた めのエビデンスは十分ではない。
アナフィラキシーは急速な循環虚脱と気道閉塞から心停止に至ることがあるので、徴候を早期に認 識し,アドレナリンの投与と輸液による治療を早期に開始するべきである。
▲Knowledge Gaps
(今後の課題)
アナフィラキシーによる心停止の分野で今後の研究課題としてあげられるのは、さまざまなα作用 を有する静脈投与薬間の比較、持続静脈投与と1回投与の比較である。また、グルカゴンや抗ヒスタミ ン薬また輸液やステロイドの有用性も研究する必要がある。
■ 7 致死的喘息による心停止
重篤な喘息による心停止に対して、一般的な蘇生法以外の方法の有効性を比較検討したRCTはない。
文献の多くは症例報告かそれをまとめたものである。
気管支喘息によって換気が困難なときには、換気量の減少・換気回数の減少・呼気時間の延長が効 果的である。心停止ではない喘息患者を扱った 3 編の症例報告(合計 35 名)によれば、とくに 1 回換 気量や回数の多い換気を行った場合には、心停止患者においても、肺内に気体が溜まって過膨張してし まう可能性が高い。また、健康成人を扱った研究によれば、PEEPを上げるにつれて経胸郭インピーダン スは増加する。
合計 37 名の患者を扱った 7 編の症例報告によれば、いわゆるスクイージングは換気を楽にしてROSC 率を増加させる可能性があるが、スクイージングによって心停止を起こしたとの 1 例報告がある。
換気が困難なときには、換気を短時間中断する方法で効果があった。また、喘息による心停止を扱っ た 3 編の 1 例報告(2 つは手術中、1 つは救急外来)によれば、開胸して肺を圧縮することによって換 気が良好となり心拍が再開できた。
心停止ではない喘息患者においてではあるが、様々な薬物療法が致死的喘息発作に効果があるのか を検討した研究が小児患者を対象に報告されている。合計 143 人の小児患者を対象にした 1 編のRCTに よれば、硫酸マグネシウムの静注投与によって人工呼吸器管理を行った患者数、PICU入室期間を減少す ることが出来た。合計 1,558 人の小児喘息患者を対象にした 1 編の後ろ向き観察研究で 47 人に揮発性 麻酔薬を使用したところ、死亡率に差が無いばかりか、コスト上昇および在院期間延長を認めた。合計 120 人の小児喘息患者を対象にした 1 編の後ろ向き観察研究では、救急外来において早期にテルブタリ ン静注を行った群は、PICUに入室してからテルブタリン静注を行った群と比較して人工呼吸器管理を 行った患者数が減少した。
喘息による心停止患者に対して、心停止の蘇生アルゴリズムをルーチンに変更するためのエビデン スは十分ではないが、致死的気管支喘息は末梢気道の閉塞と肺の過膨張を特徴とし、呼吸停止から心停 止に至ることを理解して蘇生を行うのは合理的である。
喘息による心停止患者でエアートラッピングによる肺の過膨張によって換気が困難または不可能な 場合には、30~60 秒間の換気を中断する(呼吸回路を大気に開放する)方法を試みてよい。肺の過膨 張に伴い、経胸郭インピーダンスが増加しているので、初回の電気ショックが不成功の場合、2 回目以 降の除細動ではエネルギーの増加を考えてもよい。また、肺の過膨張に伴い気胸が発生する可能性があ るので、気胸の発生を常に念頭におき、必要に応じて脱気を考慮する。
▲Knowledge Gaps
(今後の課題)
喘息による心停止の分野で今後の研究課題としてあげられるのは、以下のようなものである。陽圧 換気を中止する方法の有用性の確立とその適切な時間、スクイージングの意義と胸骨圧迫とのタイミン グ、またこれらの方法の比較と組み合わせ効果の有無、マグネシウム等の薬物投与とECMOの役割。
■8 高度肥満者の心停止
高度肥満者の院外心停止についての複数の研究では、除細動に必要なエネルギー量や転帰に差があ ることは示されていない。
肥満のある心停止患者に対して、心停止の蘇生アルゴリズムを変更するためのエビデンスは十分で はない。
▲Knowledge Gaps
(今後の課題)
この分野の研究はほとんど行われていない。高度肥満者の心停止の疫学的分析、特殊な蘇生手技と その有効性、およびこれらに関する簡単な動物実験などが今後必要である。
■9 冠動脈カテーテル中の心停止
CQ
:心臓カテーテル中の心停止は、特殊な治療で転帰が改善するか?
P:心臓カテーテル検査室内で心停止した成人
I:特殊な治療あるいは処置の変更(CPR 中のカテーテル治療、人工心肺、大動脈バルーン パンピング、電気ショック実施のタイミングの変更など)
C:一般的な蘇生処置(例えばガイドライン 2010 治療アルゴリズムに沿った CPR、薬物投 与、電気ショックなど)
O:退院時、30 日後、60 日後、180 日後、1 年後の神経学的転帰および生存、ROSC
推奨と提案
冠動脈カテーテル検査中に心停止を生じた患者に対して初期治療が奏功しない場合は、緊 急処置として体外循環補助(ECLS)を提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス
心臓カテーテル検査中に発生した心停止に対して一般的な ALS(例えば除細動)に加えて、
新しい治療を比較した数件の研究の文献を調査した。この調査により、治療の順序あるいは 最新の循環補助装置のルーチンでの使用について変化をもたらす研究を見つけることを目的 とした。
機械的 CPR による生存に関する有益性を評価する比較対象研究はなかった。しかし、個々 の対照症例のない症例報告では、さまざまな生存率が示された。
重大なアウトカムとしての退院時、30 日後、60 日後、180 日後もしくは 1 年後での神経学 的転帰および生存、退院時、30 日後、60 日後、180 日後、1 年後での生存のみについての研 究はなかった。
重大なアウトカムとしての生存退院や 6 ヶ月生存、重要なアウトカムとしての ROSC につい て、1 件の観察研究では、ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)に対する PCI(経皮的冠動脈インター ベンション)の最中に起こった心原性ショックに対して大動脈内バルーンパンピング (intra-aortic balloon pump;IABP)を併用した体外循環補助による蘇生(extracorporeal life support;ECLS)と、内科的治療とが比較された(非常に低いエビデンス:深刻な不精 確さ、バイアスのリスクによりグレードダウン)。PCI 中の心停止 21 例において、すべての