CQ
:低体温療法を施行した昏睡患者で、予後不良と評価できる臨床指標は何 か?
P:ROSC 後の昏睡状態で低体温療法を施行された成人
I:臨床的指標(1.臨床所見、2.脳波、3.SSEP、4.画像、5.その他)が異常 C:臨床的指標が正常
O:退院時、30 日後、60 日後、180 日後、1 年後の神経学的予後不良もしくは死亡について 信頼にたる評価
推奨と提案
心拍再開後 72 時間以前に、臨床所見のみで、予後を評価しないよう提案する(弱い推奨、
非常に低いエビデンス)。
単一の検査または所見のみを信用することなく、多元的な検査(臨床所見、神経生理学的な 手法、イメージング、あるいは血液マーカー)を、予後評価のため使用することを提案する(弱 い推奨、非常に低いエビデンス)。
エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス
1. 臨床所見
臨床所見に関する研究において、検査結果に対して医療チームの盲検化がなされた報告は ない。
重大なアウトカムとしての退院時の神経学的転帰不良での生存や死亡について、角膜反射、
瞳孔反射、運動反応、Glasgow Coma Score、ミオクローヌスを指標とした 295 人を含む 4 件 の研究がある(非常に低いエビデンス:非常に深刻なバイアスのリスク、不精確さによりグ レードダウン)。
重大なアウトカムとしての 90 日後の神経学的転帰不良での生存や死亡について、角膜反 射、瞳孔反射、運動反応、脳幹反射、ミオクローヌスを指標とした 388 人を含む 5 件の研究 がある(非常に低いエビデンス:非常に深刻なバイアスのリスク、非常に深刻な不精確さに よりグレードダウン)。
重大なアウトカムとしての 180 日後の神経学的転帰不良での生存や死亡について、角膜反 射、瞳孔反射、運動反応、脳幹反射、ミオクローヌスを指標とした 642 人を含む 4 件の研究 がある(低いもしくは非常に低いエビデンス:非常に深刻なバイアスのリスク、深刻なもし くは非常に深刻な不精確さによりグレードダウン)。
1) 角膜反射
ROSC 後の昏睡患者で、体温管理療法が施行された場合、ROSC から 72~120 時間での両側角 膜反射消失による予後不良の評価について、偽陽性率 2%(95%CI 0~7%)、感度 25%(95%
CI 18~32%)であった(301 人、非常に低いエビデンス)。
2) 瞳孔反射
来院時の両側対光反射(PLR)消失による予後不良の評価について、偽陽性率 32%(95%
CI 19~48%)、感度 86%(95%CI 71~95%)であった(86 人、非常に低いエビデンス)。5 件の研究では、ROSC から 72~108 時間後の両側対光反射(PLR)消失による予後不良の評価 について、偽陽性率 0%(95%CI 0~3%)、感度 19%(95%CI 14~25%)であった(383 人、
低いエビデンス:非常に深刻なバイアスのリスク)。
3) 疼痛に対する運動反応
66 人を含むある研究では、来院時に両側の運動反応が消失あるいは異常伸展反応がある場 合、すなわち Glasgow Coma Scale (GCS) の運動スコアが 1 あるいは 2 (M1~2)の場合にお ける予後不良の評価について、偽陽性率 53%(95%CI 36~68%)、感度 92%(95%CI 75~
99%)であった (非常に低いエビデンス)。635 人を含む研究では、ROSC から 36~108 時間後 において M1~2 の場合における予後不良の評価について、偽陽性率 10%(95%CI 7~15%)、 感度 70%(95%CI 65~74%)であった(非常に低いエビデンス)。
ある研究では、72 時間後に、角膜反射と疼痛に対する運動反応の両方が消失している場合、
神経学的評価を行う 12 時間以内には鎮静薬を投与されていない症例では,投与されている症 例に比較して、予後不良(CPC 4~5)をより正確に評価できた。
4) 臨床徴候の組み合わせ
304 人を含む 3 件の研究では、心停止から 36~72 時間の時点で一つ以上の脳幹反射(瞳孔 反射、角膜反射、頭位変換眼球反射)が両側消失した場合ひ、偽陽性率 8%(95%CI 4~14%)、 感度 56%(95%CI 48~63%)であった(非常に低いエビデンス)。103 人を含むある研究は、
ROSC から 72 時間後に、角膜反射、対光反射(PLR)がすべて消失し M1~2 の場合における予
後不良の評価について、偽陽性率 0%(95%CI 0~8%)、感度 15%(95%CI 7~26%)であっ た(非常に低いエビデンス)。その研究では指標となる検査は、生命維持治療からの撤退の基 準として使用された。72 人を含むある研究は、ROSC から 96 時間後での GCS score 4 以下に おける予後不良の評価について, 偽陽性率 5%(95%CI 1~15%)、感度 46%(95%CI 28~
66%)であった(非常に低いエビデンス)。
5) ミオクローヌスとミオクローヌス重積状態
845 人を含む 6 件の研究では、ROSC から 72 時間以内にミオクローヌスがみられる場合に おける予後不良の評価について、偽陽性率 5%(95%CI 3~8%)、感度 39%(95%CI 35~44%)
であった(非常に低いエビデンス)。
103 人を含むある研究は、ROSC から 7 日以内にミオクローヌスがみられる場合における予 後不良の評価について、偽陽性率 11%(95%CI 3~26%)、感度 54%(95%CI 41~66%)で あった(非常に低いエビデンス)。
215 人を含む 3 件の研究は、ROSC から 72~120 時間にミオクローヌス重積状態(持続性で 遷延する全身性のミオクローヌスと定義)がみられる場合における予後不良の評価について、
偽陽性率 0%(95%CI 0-4%)、感度 16%(95%CI 11~22%)であった(低いエビデンス)。 しかし、早期に発現し遷延した全身性のミオクローヌスであっても、神経学的に良好に回復 した例が報告されている。これらの症例のいくつかは覚醒後にもミオクローヌスが続いてお り、慢性期に動作性ミオクローヌスに移行した (Lance-Adams 症候群)。
2. 神経電気生理学的検査
1) 短潜時体性感覚誘発電位 (SSEPs)
重大なアウトカムとしての退院時の神経学的転帰不良での生存もしくは死亡について、571 人を含む 8 件の短潜時体性感覚誘発電位 (SSEP)、脳波、あるいは BIS を指標とした研究があ る(非常に低いエビデンス:非常に深刻なバイアスのリスク、非常に深刻な不精確さにより グレードダウン)。
重大なアウトカムとしての 30 日後の神経学的転帰不良での生存もしくは死亡について、77 人を含む1件の SSEP に関する研究がある(非常に低いエビデンス:深刻なバイアスのリスク、
非常に深刻な不精確さによりグレードダウン)。
重大なアウトカムとしての 60 日後の神経学的転帰不良での生存もしくは死亡について、26 人を含む 1 件の BAEPs に関する研究がある(非常に低いエビデンス:深刻なバイアスのリス ク、非常に深刻な不精確さによりグレードダウン)。
重大なアウトカムとしての 90 日後の神経学的転帰不良での生存もしくは死亡について、
362 人を含む 5 件の SSEP や脳波に関する研究がある(低いもしくは非常に低いエビデンス:
非常に深刻なあるいは深刻なバイアスのリスク、非常に深刻な不精確さによりグレードダウ ン)。
重大なアウトカムとしての 180 日後の神経学的転帰不良での生存もしくは死亡について、
566 人を含む 10 件の SSEP、EEG、BIS に関する研究がある(中等度、低い、あるいは非常に 低いエビデンス:非常に深刻なあるいは深刻なバイアスのリスク、非常に深刻な不精確さに よりグレードダウン)。
重大なアウトカムとしての 1 年後の神経学的転帰不良での生存あるいは死亡について、106 人を含む 1 件の脳波に関する研究がある(非常に低いエビデンス)。
ほとんどの予後評価の研究で、復温後の N20 波の消失は、それ単独か他の測定を組み合わ せて、生命維持治療からの撤退を決定する際の判断基準として用いられている。しかし、そ れは結果として、自己充足的予言(注)となる危険性がある。
注:自己充足的予言(self-fulfilling prophecy):このようになるのではないかといった 予期が、無意識のうちに予期に適合した行動に人を向かわせ、結果として予言された状況を 現実につくってしまうプロセスをさす(中島義明、他編:心理学辞典,有斐閣,東京,1999,
p.331 より)
ROSC 後の昏睡患者で体温管理療法が施行された場合、424 人を含む 4 件の研究では、施行 中に SSEP で両側の N20 が同定されないことによる予後不良の評価について、偽陽性率 2%
(95%CI 0~4%)、感度 28%(95%CI 22~34%)であった(中等度のエビデンス:深刻なバ イアスのリスクによりグレードダウン)。629 人を含む 10 件の研究では、復温後 SSEP の N20 が両側消失していることによる予後不良の評価について、偽陽性率 1%(95%CI 0~3%)、
感度 45%(95%CI 41~50%)であった(非常に低いエビデンス:非常に深刻なバイアスの リスク、深刻な非一貫性によりグレードダウン)。
SSEP の測定は電気的干渉を受けやすい。ある研究では、体温管理療法中に両側の N20 が同 定できなかった 3 症例が、復温後に意識が急速に回復して最終的には転帰良好であった。事 後解析により、2 人の経験豊かな神経生理学者が盲検化された状態で元の SSEP 記録を再調査 し、SSEP は過度のノイズにより評価不能であったと結論した。
2) 脳波
burst-suppression は、その定義が報告間で一致していない。てんかん様活動(epileptiform activity)、脳波上てんかん発作(electrographic seizures)、てんかん重積状態(status epilepticus)の定義も報告間で一致していない。
① 背景脳波活動の反応性消失
249 人を含む 3 件の研究では、体温管理療法中に脳波を測定して背景脳波活動の反応性が 消失していることによる予後不良の評価について、偽陽性率 2%(95%CI 1~7%)、感度 63%
(95%CI 54~72%)であった(非常に低いエビデンス:非常に深刻なバイアスのリスク、深 刻な不精確さによりグレードダウン)。223 人を含む 3 件の研究では、復温後の脳波を測定し て背景脳波活動の反応性が消失していることによる予後不良の評価について、偽陽性率 0%
(95%CI 0~3%)、感度 62%(95%CI 53~70%)であった(非常に低いエビデンス:非常に 深刻なバイアスのリスク、深刻な不精確さによりグレードダウン)。ROSC 後の背景脳波活動 の反応性の消失について報告している 4 件の予後評価の研究のうち、3 件は一つの研究者の グループからの報告である。