1
) アドレナリンとプラセボ
CQ
:
CPR中のアドレナリン投与は転帰を改善するか?
P:あらゆる状況下の成人心停止患者 I:アドレナリンの投与
C:プラセボ投与やアドレナリン非投与
O:退院時、30 日後、60 日後、180 日後、1 年後の神経学的転帰および生存、ROSC、生存退 院
推奨と提案
心停止患者に標準用量のアドレナリン投与を提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス
2010 年以降、薬物投与群と非投与群を比較したもの、アドレナリンとプラセボを比較した もの、の 2 つの RCT が行われた。Olasveengen の試験は薬物を静脈内投与した群と、コント ロールとして静脈投与しなかった群、つまり薬物非投与群とで比較したものである。Post-hoc サブグループ解析では無作為化されていない患者でアドレナリンを投与された群と投与され ていない群を比較して、アドレナリンは生存入院を改善させたものの、生存退院や神経学的 転帰については有害である可能性を示唆した。しかしながら Olasveengen のオリジナルの研 究はレビューの対象から除外されたものの、この研究の post-hoc サブグループ解析は観察研 究や RCT の系統的レビューに含まれており、ILCOR はこの post-hoc サブグループ解析を調整 済み、もしくは未調整の観察研究の 1 つとして定義しレビューに用いた。
PICO で挙げた 4 つの長期的、短期的転帰について、標準的な量のアドレナリン(SDE)と プラセボをと比較した 1 件の 534 症例の RCT があった(低いエビデンス:バイアスのリスク によりグレードダウン)。
重大なアウトカムとしての生存退院について、プラセボと比較して SDE の有益性も有害性 も確認できなかった(RR 2.12, 95%CI 0.75~6.02, p=0.16)(ARR 2.14%, 95%CI -0.91~
5.38%, つまりアドレナリンを用いた場合 1,000 例あたり 21 例生存数が増し、95%CI では 1000 例あたり 9 例減少~54 例増加)。
重大なアウトカムとしての神経学的転帰良好(CPC1−2)な退院については有益性も有害性 も確認できなかった(RR 1.73, 95%CI 0.59~5.11, p=0.32)(ARR 1.4%, 95%CI −1.5~
4.5%)、つまりアドレナリン投与により 1000 例あたり 14 例神経学的転帰良好が増したと解 釈できる(95% CI では 1000 例あたり 15 例減少~45 例増加)。
重要なアウトカムとしての生存入院について、SDE 投与を受けた症例で生存入院率が高かっ た(RR 1.95, 95%CI 1.34~2.84, p=0.0004)(ARR 12%, 95%CI 5.7~18.9%、つまりア ドレナリンを投与することで 1,000 例あたり 124 例生存入院が増加し 95%CI で 1000 例あた り 57 から 189 例生存入院が増加した)。
重大なアウトカムとしての院外での ROSC について、プラセボを投与された群と比較して RR が 2.80(95%CI 1.78~4.41, p<0.00001)、ARR は 15%(95%CI 9~21%) であり、つま りアドレナリンを投与することで 1,000 例あたり 151 名の ROSC の増加を得た(95%CI で 1000 例あたり 90 例から 212 例の ROSC の増加を得た)。
当初観察研究はエビデンス評価からは除外されていたが ILCOR は過去の大規模観察データ の結果と RCT の結果を比較することを試みた。
重大なアウトカムとしての生存と神経学的転帰良好について、Jacobs の RCT と 2 つの観察 研究が含まれた 2014 年の Patanwala のシステマティックレビューを用いて比較を行った。院 外心停止では 4.7%、院内心停止では 14%と心停止後の生存率は非常に低かった。院外心停 止の状況下では、アドレナリンの使用が生存退院の転帰悪化に関連し(アドレナリン投与群 5.4% vs 非投与群 4.7%, 未調整 OR 1.15, 95%CI 1.07~1.53, 調整後 OR 0.46, 95%CI 0.42~0.51)、神経学的転帰不良とも関連していた(アドレナリン投与群 1.4% vs アドレナ リン非投与群 2.2%, 未調整 OR 0.61, 95%CI 0.53~0.71%, 調整後 OR 0.31, 95%CI 0.26~
0.36)。院内心停止でのアドレナリン投与は、アドレナリン投与群も非投与群も生存退院(OR 1.16, 95%CI 0.52~2.58)や神経学的転帰(OR 0.43, 95%CI 0.08~2.29)には何れも差がな かった。
推奨と提案
心停止患者に標準用量のアドレナリン投与を提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。
患者にとっての価値と
ILCORの見解
この勧告を作成するにあたり短期転帰の利点(ROSC および生存入院の改善)と生存退院や 神経学的転帰について有益か否かについては、観察研究の限界があるため不明確であること を考慮した。この勧告は長期転帰に関する質の高いデータが出るまで、現状を変えようとす るものではない。標準的アドレナリン量は 1mg とする。
▲
Knowledge Gaps(今後の課題)
・ 心停止患者に対するアドレナリンの用量設定試験およびプラセボを対象とした有効性 試験が必要である。ILCOR は英国で現在進行中である院外心停止のアドレナリンとプラ セボの RCT(PARAMEDIC 2: The Adrenaline Trial, ISRCTN73485024)に注目している。
2
) アドレナリン投与のタイミング
CQ
:アドレナリンの適切な投与のタイミングはいつか?
P:あらゆる状況下の成人の心停止
I:早期のアドレナリン投与(たとえば静脈路あるいは骨髄路により蘇生を始めて 10 分以 内)
C:アドレナリン投与のタイミングが遅い場合(たとえば蘇生を始めて 10 分以上)
O:退院時、30 日後、60 日後、180 日後、1 年後の神経学的転帰および生存、ROSC
推奨と提案
初期 ECG 波形がショック非適応リズムの心停止において、アドレナリンを投与する場合は、
心停止後可能な限り速やかに投与することを提案する(弱い推奨、低いエビデンス)。 初期 ECG 波形がショック適応リズムの心停止においては、アドレナリン投与時期に関する 推奨や提案をするほどの十分なエビデンスを、特に電気ショックとの関係においては見い出 すことができなかった。理想的なタイミングは患者自身や状況の違いによって大きく異なる 可能性がある。
エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス
(1) 院内心停止
重大なアウトカムとしての生存退院について、ショック非適応リズムの院内心停止 25905 例の観察研究が 1 件あった(低いエビデンス:深刻なバイアスのリスクによりグレードダウ ン、用量反応効果によりグレードアップ)。その研究では早期のアドレナリン投与によって転 帰の改善を認めた。投与時期によって調整した結果、心停止が起こって 1~3 分内に投与した 場合と比較すると、調整後 OR で 4~6 分において 0.91 (95%CI 0.82~1.00)、7~9 分で 0.74 (95%CI 0.63~0.88)、9 分以後で 0.63(95%CI 0.52~0.76)であった。
重大なアウトカムとしての退院時神経学的転帰良好(CPC1あるいは2)について、ショッ ク非適応リズムの院内心停止 25905 例の観察研究が 1 件あった(低いエビデンス:深刻なバ イアスのリスクによりグレードダウン、用量反応効果によりグレードアップ)。その研究では 早期のアドレナリン投与は転帰の改善を認めた。投与時期によって調整した結果、心停止が 起こって 1~3 分内に投与した場合と比較すると、調整後 OR で 4~7 分において 0.93(95%CI 0.82~1.06)、7~9 分で 0.77(95%CI 0.62~0.95)、9 分以後で 0.68(95%CI 0.53~0.86)で あった。
重要なアウトカムとしての ROSC について、ショック非適応リズムの院内心停止 25905 例の 観察研究が 1 件あった(低いエビデンス:深刻なバイアスのリスクによりグレードダウン、
用量反応効果によりグレードアップ)。その研究では早期のアドレナリン投与は転帰の改善を 認めた。投与時期によって調整した結果、心停止が起こって 1~3 分内に投与した場合と比較 すると、調整後 OR で 4~7 分において 0.90(95%CI 0.85~0.94)、7~9 分で 0.81(95%CI 0.74~
0.89)、9 分以後で 0.7(95%CI 0.61~0.75)であった。
初期 ECG がショック適応リズムであった院内心停止に対して、アドレナリン投与のタイミ ングが及ぼす効果に注目した研究は 1 件もなかった。
(2) 院外心停止
重大なアウトカムとしての退院時神経学的良好な生存(CPC 1 あるいは 2 と評価)につい て、アドレナリンが投与された 262,556 例以上の院外心停止症例を含む 4 件の観察研究で、
早期の投与によるいくつかの有益な効果が示された(非常に低いエビデンス:バイアスのリ スク、非一貫性、非直接性、不精確さによりグレードダウン)。ROSC に至った 1,556 名の院 外心停止患者での 1 件の研究では、アドレナリン投与と退院時神経学的転帰不良には関連が あったが、アドレナリン投与の時間が短いほど悪化する傾向は少なかった。病院前にアドレ ナリンを使用しなかった患者に比してアドレナリン投与患者の調整後 OR は 9 分未満で 0.54 (95%CI 0.32~0.91)、22 分以降では 0.17 (95%CI 0.09~0.34)であった。
209,577 の院外心停止症例の登録研究では、アドレナリンを使用しない場合と比較し 9 分 以内にアドレナリンを投与した場合、非投与の場合と比べて 1 か月後の神経学的転帰(CPC 1~
2)に有意差を示さなかった(OR 0.95,95%CI 0.62~1.37)
別の 3,161 例の院外心停止が登録されている研究において、VF/無脈性 VT による院外心停 止における早期のアドレナリン使用(救急通報からアドレナリン投与まで 10 分以内)はアド レナリンを使用しない場合と比較し、1 か月後の神経学的転帰良好と相関を認めた (OR 6.34,
95%CI 1.49~27.02)
49,000 例以上の院外心停止が登録された別の研究では、早期(救急隊の CPR 開始から 10 分以内)にアドレナリンを投与された患者は統計的には有意でないものの神経学的転帰の改 善傾向を認めた。(心原性での OR 1.39, 95%CI 1.08~1.78,非心原性での OR 2.01,95%
CI 0.96~4.22)
重大なアウトカムとしての院外心停止後の生存退院について、4 つの観察研究があり、そ れらは 420,000 例以上の院外心停止を含み、早期アドレナリン投与のさまざまな効果を示し た(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、非一貫性、非直接性、不精確さによりグレー ドダウン)。Gotoによる観察研究では、9 分以内のアドレナリン投与によりショック適応症例 の 1 か月生存率に有意差を示さなかったが(OR 0.95,95% CI 0.77~1.16)、非ショック適応 症例の 1 か月生存率は改善した(OR 1.78,95%CI 1.5~2.1)。別の研究では、心原性心停止