第 1 章 各国の電気事業
第 4 節 台湾
8. 近隣諸国とのエネルギー協力の現状
本項では、台湾の地域的エネルギー協力の現状について、①電力取引の基盤となり得る地域的協力枠
96 「海峡西岸経済区:新たな座標上に両岸交流協力先行実証区を打ち立てよ」2009年7月2日。アモイ市人民政府ウェ ブサイト。http://www.big5.xm.gov.cn:82/zt/gclsgwygyzc/gzhx/200907/t20090702_309318.htm
97 「福建省2013年電力運行状況」中国電力企業聯合会、2014年2月19日。
http://www.cec.org.cn/nengyuanyudianlitongji/hangyetongji/dianlixingyeshuju/2014-02-19/116998.html
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組みに参加しているか、②潜在的な電力取引相手国との間で、戦略的物資に関する相互依存関係を築い ているか、③近隣国との関係に関する懸案事項を、国際連系線を通じて改善・解決を図ろうとの意図を 有しているか、という3つの切り口から整理する。
① 地域的協力枠組み
台湾は、正式な国家承認を受けていないという特異な国際法的地位に起因して、国家間の協力枠組み への参加機会は限られている。現在、APECへのオブザーバー参加が認められているが、対外協力は専 ら二国間合意に基づいて行われている。
台湾にとって最も重要な関係である中国との関係は、1992年に形成された「口頭で中台各自が『1つ の中国』原則について表明する」という「92年コンセンサス」を基盤に、台湾における2008年の馬英 久政権成立以降急速に進み、中国における2012年の習近平政権成立を経て一層加速している。中台は 2010 年に、ともに民間機構である海峡両岸関係協会(中国側)と海峡交流基金会(台湾側)の間で Economic Cooperation Framework Agreement:ECFA、海峡両岸経済協力枠組取決め)を締結し、貿 易、観光等の経済交流を活発化させている。2014年2月には、1949年の分断後初めての中台関係担当 閣僚級会談が開かれ、直接対話のメカニズムを作ることが合意された98。
この他の二国間協力としては、台湾が直面するエネルギー政策上の課題(高い輸入依存率、化石燃料 依存率)を背景として、資源供給国との関係や、省エネ・再生可能エネルギー協力に関するものが挙げ られる。1992 年にはオーストラリアとの間で Joint Energy and Minerals, Trade and Investment Cooperation Consultations(JEMTIC)が合意され、エネルギー需給・政策に関する情報交換、省エネ やスマートメーター、太陽熱発電、次世代バイオ燃料、CCS、での技術協力、台湾による豪州炭鉱投資、
LNG輸入などが検討されてきた99。2012年3月には、台湾-ロシア経済・文化協力調整委員会の会合が もたれ、ロシアからの原油・天然ガス・金属資源及びその他工業製品の輸入拡大に向けた関係強化が確 認された100。モンゴルとは2014年2月に再生可能エネルギー及びエネルギー効率に関する協力機構の 設置について合意した101。この他に台湾は原子力発電所を保有していることから、民生用原子力利用に 関する協力関係を米国、フランス、日本ほか多くの国と構築している。
しかし、現時点で、電力取引や国際連系線敷設を視野に入れた協力関係は、いずれの国とも結んでい ない。孤立した島国という地理的条件に加え、台湾周辺が中国との度重なる軍事的緊張を経験した係争 海域であることも、重要な要素である。
② 相互依存関係
台湾が当事者となる国際連系線を検討する場合、最有力の相手国は、地理的近接さから考えて中国で ある。中台間では、1979 年に中国側が経済交流を呼びかけたが、この背景には、台湾の対中経済依存 度を高めることを通じて台湾との統一に有利な環境を作り出す意図があった。従って台湾側には、中国 による経済的手段を梃子とした統一戦略への懸念が根強く、当初は対中国貿易・投資は禁止され、貿易
98 日本経済新聞、2014年2月12日
99 豪政府、技術革新・産業・科学・研究省 ”Bilateral minerals and energy cooperation with Taiwan”
100 Oil Price.com "Taiwan Looks to Russia to Secure Energy Imports and Independence from China”、2012年3月 14日
101 Taiwan News.com “Taiwan-Mongolia MOU signed for cooperation on renewable energy”、2014年2月17日
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品目も制限されていたものが段階的に自由化されてきた。前述のとおり現在では中台双方とも経済関係 の強化方針を掲げているが、中台間の経済規模の格差を反映してその関係は非対称なものである。
エネルギー面では、中台は、共に①石油輸入依存度が高く、海外資源開発の必要に直面し、②近年で は再生可能エネルギーや省エネを重視している、という共通利益がある。特に中国の石油需要増による 価格上昇の影響を受ける台湾側には、省エネ協力を進める誘因が強いといえる。
これを反映して、1993 年に中国が海洋石油開発への外資参入を認めたのに伴い、中台共同で尖閣諸 島近海での石油・ガス探査を実施、2001 年には中国のCNOOCと台湾の CPC が珠江口盆地の石油鉱 区に共同で入札、2009 年にはCPC とCNOOC が台湾海峡周辺および海外での共同探鉱開発について 合意を交わすなどとの協力が進んでいる。電力分野では、2009 年に両岸経済貿易文化フォーラムが、
中台の環境・再生可能エネルギー協力促進が提言した。風力/洋上風力発電、太陽熱、LED 電球の国際 標準化などが協力分野として重視されている。
但し、これらのエネルギー協力も、非対称性は否めない。石油・ガス輸入依存低減は中国の喫緊の課 題ではあるがその深刻さ台湾の比ではなく、探鉱開発では中国側に技術・経験の蓄積が豊富である。環 境・再生可能エネルギー分野でも、台湾は国内市場規模の小ささに加え、中台関係が主要因となって自 由貿易協定(FTA)の締結が進まないなどの制約を抱えており、中国以外のパートナー選定が困難な状 況にある。
③ 国際連系線を通じた外交関係改善の意図
現時点で、中台のいずれも、国際連系線の建設に関する構想や期待を表明した例は把握されていない。
中台関係は通常の国家間関係と異なり、双方が『1つの中国』原則、すなわち自らが唯一の正当な中国 政府でありいずれは相手が消滅することを前提としている。しかも台湾は米国と軍事同盟関係にある。
この関係を、国際連系線という物理的インフラの接続によって解決しようとの意図は、双方とも持ち合 わせておらず、特に台湾側にとって、自国の送電網が中国の送電網の一部分として吸収されるかのよう な状況は好ましくないと推測される。
他方、台湾が第三国との間で国際連系線に関する協定を締結することも、対中国関係上は困難である。
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