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第 3 章 和語、漢語における語末長母音の短母音化

3.1. 先行研究とその検証

3.1.3. 短母音化と親密度

3.1.3.2. 近畿方言

天野・近藤 (1999) の研究によって、文字情報のみ、音声情報のみ、文字音声情報 両方といったような刺激の提示方法によって、親密度が異なることが明らかとなって いる。しかしながら、天野・近藤 (1999) は東京方言しか分析対象としていないため、

音声情報の分析対象をより広げる必要がある。本章では、近畿方言の音声を使い、文 字と共に被験者 (近畿方言話者) に提示し、それぞれの親密度を判断してもらうこと によって、語末長母音の短母音化に親密度が効果を持つかどうかを確認する。

調査語彙は東京方言と近畿方言の違いから単語親密度に大きな差は出ないだろう という考えを前提に、天野・近藤 (1999) に記載される語のうち、語末は長母音であ り、文字・音声による親密度は5.5以上で、短母音化が起こりやすい (3.3節を参照) と 考えられるHHの音節構造を持つ2字漢語、計242語を抽出し、それを調査語彙とし た。語末長母音の短母音化が起こりやすい語例に関しては、表 2 の結果の 15~39 の 25語を利用した。

                                                                                                               

155.70までは5.5~5.7に入るが、5.70からは5.7~5.9に入る。以下も同様。

166.5~6.720語で、6.7以上は3語である。

17本研究で行った統計検定は全て竹安・秋田 (2008-2009) を使用した。

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被験者は近畿方言話者4名で、男性3名、女性1名である。全て20代で、平均年 齢は26.5歳である。

実験方法としては、大阪府育ち、関西を離れて暮らしたことのない男性 (25歳) に 調査語彙242語を発音してもらい、SUGIを用いて録音した。文字 (画面)・音声 (録 音した242語、イアホンを通じて) の情報を同時に被験者に提示し、単語の親密度を 7段階判断してもらった。聞いたことのない、あるいは使ったことのない単語であれ ば1のボタンを、よく聞く、よく使う単語であれば7のボタンを押すように指示した。

3秒以内に何も押さなければ、次の刺激音が自動的に流れてくる。

表4で実験の結果を示す。

表4. 親密度と語末長母音の短母音化 (近畿方言 HH)

親密度 長を維持 短が可能 短母音化の語例 合計

3~418 15 (93.75%) 1 (6.25%) 寸法 16 (100%)

4~5 68 (94.4%) 4 (5.6%) 両方 72 (100%)

5~6 112 (93.3%) 8 (6.7%) 本当 120 (100%)

6~7 22 (64.7%) 12 (35.3%) 学校 34 (100%)

合計 217 (89.7%) 25 (10.3%) 242 (100%)

表4が示しているように、全体的に見ると、親密度が高くなるに従い、語末長母音 の短母音化の生起率が高くなる結果となった。親密度が3~4の場合は語末長母音の 短母音化の生起率が6.25%にとどまるのに対し、親密度が6〜7となると、語末長母 音の短母音化の生起率は35.3%と高まっている。この数値からスピアマンの順位相関 分析を行った結果、有意傾向が見られた (rs=0.800、df=2、p=0.1)。従って、近畿方言 においても、語末長母音の短母音化に親密度 (文字・音声) 効果が観察され、親密度 の高いほど、短母音化が起こりやすいという傾向が見られたと言える。

3.1.4. 短母音化と語末音節に先行する環境 3.1.4.1. Kubozono (2003)、窪薗 (2000)

Kubozono (2003) で は い く つ か の 語 例 を 観 察 し た 後 、 ’long vowels,

especially/oo/19,have tended to shorten word-finally, particularly in bisyllabic Sino-Japanese

                                                                                                               

18親密度の結果は、東京方言の実験では4桁であるが、近畿方言の実験では2桁である。そのため、二 つの方言によって区切りの仕方が異なる。

19 Kubozono (2003) は/oo/の短母音化について、日本語の漢語の中の長母音の70%は/oo/であると説明し

た。

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compounds.’という一文が述べてあり、窪薗 (2000) には「語末短母音化の条件となる

のは「長+長」20という2音節4モーラ構造である」と書いてある。Kubozono (2003)

と窪薗 (2000) を総合すれば、HHという音節構造を持つ2字漢語の構造が語末長母

音の短母音化の条件であるということが主張されている。これを検証するために、表 1で集めた525語に基づき、表2のアンケート調査によって得られた語末短母音化が 起こりうる語例30語を、表5において音節構造ごとに分類した。

表5. 語末長母音の短母音化と音節構造 (525語の中の30語) 母音長

音節構造 長を維持 短が可能 計 HH

語例

217 89.7%

25 10.3%

(学校)

242 100%

LH

語例

122 99.2%

1 0.8%

(微妙)

123 100%

LLH

語例

81 98.8%

1 1.2%

(おはよう)

82 100%

その他

語例

75 96.2%

3 3.8%

(おめでとう) 78 100%

計 495 94.3%

30 5.7%

525 100

例: HH: らっきょう、本当、弁償、(お)弁当、寸法、(西)高校、格好、結構、

両方、貧乏、(英)文法、先生、(一生)懸命、学校、最高など

全体的に言えば、語末長母音の短母音化の生起率は低く、525語のうち、短母音化 が起こりうる語は30語しかなく、5.7%に過ぎない。しかし、表5に基づきカイ2乗 検定を行ったところ、有意差が見られた (χ2=18.636 、df=3、p<.001)。次に残差分析 を行った結果 (表6)、HHとLH、HHとLLHの間に、有意差が見られた。すなわち、

                                                                                                               

20ここでの「長」は重音節(H)の意味を表す。

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HHという音節構造を持つ2字漢語において、他の音節構造よりも語末長母音の短母 音化現象が起こりやすいのは明確である。

表6. 残差分析の結果

音節構造 HH LH LLH

HH - *** **21

LH *** - n.s

LLH ** n.s -

その他 n.s n.s n.s

Kubozono (2003)、窪薗 (2000) の主張が統計的に実証された。つまり「HHという

音節構造を持つ2字漢語」は語末長母音の短母音化が起きる場合の条件として適切で あると言える。

3.1.4.2. Alfonso (1980)

Alfonso (1980) では、日本語においてある語が二つ連続した子音を含む場合には、

語末の長母音が短母音になることが多いと述べられている。日本語においては、促音、

撥音以外の子音連続が許されないため (窪薗1995)、ここで述べられている2個連続 した子音とは促音と撥音であると解釈することができる。以下の (1)~(4) はAlfonso

(1980) で挙げられた例である。また表 7 は、表 1 のアンケート調査の結果から集め

た4モーラを持つ語を、先行するセグメントごとに語末長母音の短母音化の生起率を 分けて示したものである。

(1) 格好(kakkoo → kakko) (2) 学校(gakkoo → gakko) (3) 本当(hontoo → honto)

(4) 面倒くさい(mendookusai → mendokusai

                                                                                                               

21 *** p<.001** p<.01* p<.05 以下も同様

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表7. 語末長母音の短母音化生起率と先行するセグメント 母音長

セグメント 長を維持 短が可能 計 促音・撥音22

(HH) 語例

107 85.6%

18 14.4%

(学校)

125 100%

長母音・二重 母音 (HH) 語例

110 94.0%

7 6.0%

(最高)

117 100%

LLH

語例

81 98.8%

1 1.2%

(おはよう) 82 100%

計 298 89.7%

26 10.3%

324 100%

例: 促音・撥音:らっきょう、格好、結構、本当、弁当、面倒、貧乏、文法、文章、

先生、憲法、(一生)懸命など

長母音・二重母音:高校、給料、両方、情報、通帳、影響、最高など

表7について、先行するセグメントが促音、或は撥音である場合の方が、そうでな い場合よりも語末長母音の短母音化の生起率が高く、14.4%となっている。次に短母 音化の生起率が高いのは、先行するセグメントが長音、或は二重母音の場合である。

先行するセグメントが軽音節の場合が、短母音化の生起率が最も低く、1.2%しかな い。この数値からカイ 2 乗検定を行った結果、有意差が見られた (χ2=12.690、df=2、

p=0.002)。次に表8で残差分析の結果を見る。

表8. 残差分析

先行するセグメント HH (促音・撥音) HH (長音・二重母音) LLH

HH (促音・撥音) - n.s **

HH (長母音・二重母音) n.s - *

LLH ** * -

                                                                                                               

22促音と撥音を分けて短母音化の分布を見た結果、有意差が出なかった (χ2=0.272、 df=1、p=0.602、

n.s) ため、促音と撥音を分けずに短母音化の生起と先行する環境の関係を見た。