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第 4 章 頭高型効果の存在要因

4.3. 考察

4.2.1節では、平板型を持つ刺激音に「高校」、頭高型を持つ刺激音に「孝行」とい

う意味を付与した上で、語末母音の持続時間を段階的に短くしていきながら、刺激音 が「高校」或いは「孝行」に聞こえるかどうかという知覚実験1を行った。実験結果 により、以下の2点が明らかとなった。

第一に、語末母音の持続時間が明らかに長い/短い場合、日本語話者は主に母音の 持続時間を利用して、語末母音を長母音である (或いは長母音ではない) と知覚する。

これに対し、語末母音の持続時間が曖昧で、長と短の区別がはっきりしない場合、日 本語母語話者は持続時間以外のアクセント核という情報にも頼って語末母音の長さ を知覚する。この語末母音長の知覚とアクセントの対応関係こそが本章の発見である と考え、「語末母音長の知覚に対するアクセント効果」と名づける。また、このアク セント効果は東京方言話者でも近畿方言話者でもあてはまることがわかった。アクセ ント効果の一般性を示すものであると考える。

第二に、平板型よりも頭高型を持つ刺激音のほうが語末母音を長母音(或いはそう ではない)に判断する際に必要な反応時間が短い。言い換えると、語末母音長の知覚

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に関して、日本語母語話者は頭高型というアクセント核の情報を利用し、より早く語 末母音長を判断することができる。語彙認識におけるアクセント核の働きに関する先 行研究にはMasuda (2006)、Minematsu and Hirose (1995)、峯松・中川 (2000) がある。

Masuda (2006)はアクセント核が単語の認識を促進する可能性があると主張し、更に

Minematsu and Hirose (1995) は4モーラ、峯松・中川 (2000) は3モーラ~5モーラ語を

対象として単語同定の知覚実験を行っており、単語音声の同定に必要な語頭からの提 示長は、平板型よりもアクセントが頭高型である場合顕著に短くなるという結果を得 ている。これは「語頭アクセント核に対する知覚が単語同定処理の終了前に完了し (146型アクセントであるとの同定も完了する)、その結果を用いて検索対象となる辞書 空間を有効に狭めている」と説明している。本章の知覚実験1は厳密に言えば単語の 同定ではないが、刺激語に意味を付与し、被験者にその意味を持つ単語に聞こえるか を判断してもらったということから、語彙認識の実験と関係が無いわけではない。本 章の実験で得られた結果は、アクセント核の情報が「知覚を促進する」という点に関 して、上で挙げた先行研究と一致するということになる。

4.2.2節では、刺激語の語末長母音の持続時間を 6 段階に短縮させ、被験者に聞か

せた後、該当母音が長母音に聞こえるか短母音に聞こえるかを判断してもらい、語末 母音長の知覚の長・短境界を調べた。その結果、平板型を持つ刺激語の場合、語末母 音の長さを 146msecから 114msec まで短縮させると、語末母音を長母音と判断する

割合が100%から41.7%へ急激に下がった (=短母音と判断する割合が0%から58.3%

と高まった)。一方頭高型を持つ刺激語は語末母音の持続時間が 115msecの段階で語 末母音を長母音と判断する割合がまだ93.3%と高く、短母音と判断する割合が急激に 高まって半数(58.3%)を超えた時点は、145msec から 100msec まで短縮させたところ であった。このように、平板型と頭高型の違いにより、語末母音の長・短判断境界に

14msec の差が見られた。更に、語末母音の持続時間が曖昧である場合に限り、頭高

型を持つ刺激音の語末母音がより長母音と判断されやすいということが知覚実験 2 を通じて明らかとなった。

反応時間に関して、語末母音の持続時間が明確で、主に持続時間に頼って語末の 長さを判断する段階においては、平板型と頭高型の間に有意な差は見られなかったが、

語末母音の持続時間が曖昧で、語末母音長を知覚するのにアクセント核を利用し始め ると、平板型と頭高型という違いによる差が見られるようになった。この判断時間の ねじれ現象が起こった理由として、日本語母語話者の語末母音長の知覚に関して、平

                                                                                                               

46頭高型を指す。

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板型よりも頭高型を持つほうが長母音と知覚されやすいという認識が存在すること が考えられる。一見矛盾しているように見えるが、実は日本語母語話者の知覚に潜在 する「アクセント効果」を反映した現象であり、この「アクセント効果」は母音が「曖 昧な長さ」のときに起きる。さらに言うと、母音が曖昧な長さであっても、やや長い ときは母音を「長」と判断するのを促進し、やや短いときは母音を「短」と判断する のを遅らせているのである。

4.4. 本章のまとめ

語末長母音の短母音化の生起条件をもう一度書く(第3章9b、c)。

b. 親密度が高い

c. 頭高型を有するHHの音節構造を持つ2字漢語

産出の面において、語末長母音の持続時間は平板型を持つ場合よりも頭高型を持つ 場合のほうが短い。そして、この特徴を認識していることが知覚の面にも影響してお り、語末母音の持続時間が曖昧である場合には、頭高型アクセントという情報を利用 して、(平板型を有する場合に比べ) 語末母音をより長と知覚しやすい。更に、語末 母音の「長」に対する知覚に関して、語が頭高型を持つ場合のほうがより早い段階で 反応することができる。語末母音長には、産出の持つ特徴と知覚の持つ特徴とがお互 いに影響しあうということが言える。更に、この二つの要因が重なって、(9c) の条 件が作られると考えられる。言い換えると、産出と知覚が語末長母音の短母音化を引 き起こす二つの要因として考えられ、語末長母音の短母音化の生起を促進するという こととなる。逆の言い方をすれば、語末長母音の短母音化の生起は日本語話者の産出 と知覚の特徴を反映しているということになる。

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