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第 7 章 シュワーの借用

7.4. 英語母語話者の産出実験

7.4.3. 実験結果

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文字の情報を加える場合は、fuparの語末シュワーを長母音と知覚する割合が大きく なった。一方、-rなしのfupaに対して、刺激語が音声のみの場合は、7人中4人はそれ を短母音と知覚するが、刺激語に文字という情報を加えて文字・音声のようにすると、

7人中6人は刺激語fupaの語末シュワーを短母音として知覚する結果となった。このよ うに、刺激語の提示に文字情報を加えると、fupaの語末シュワーを短母音と知覚する 割合が大きくなったということが言える。

上記の結果を統計処理した結果、何れの場合においても有意な差が見られた。-r付 きの場合はχ2 =28.805、df=1、p<.001であり、-rなしの場合はχ2 =42.424、df=1、p<.001 である。つまり、予測3が正しいということである。

まとめると、英語からの外来語の語末シュワーの知覚はシュワーに当たる部分の綴 り字に影響され、語末シュワーに当たる部分が1文字 (-rなし) の場合、語末シュワー を短母音に、語末シュワーに当たる部分が2文字 (-r付き) の場合、語末シュワーを長 母音に知覚しやすいということが言える。つまり、予測3が正しいと断定できる。

7.4. 英語母語話者の産出実験

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有無によって異なり、-r 付きの場合は長母音として、-r なしの場合は短母音として 知覚されやすいということである。本章においては、この差を引き起こす要因として、

持 続 時 間 に よ る 差 異 で は な く 綴 り 字 の 影 響 を 挙 げ て い る 。 こ の 節 で は between-language grapheme-to-phoneme correspondence (Vendelin & Peperkamp 2006) を 紹介しながら、この議論の妥当性について説明する。

“Between-language grapheme-to-phoneme correspondence is based on how graphemes of the source language are pronounced in the borrowing language” (Vendelin & Peperkamp

2006)。英語からフランス語に入った外来語における母音の借用を例にして説明する。

英語の綴り字<oo>はフランス語でテンスの/u/と発音されるということが潜在的な知 識としてフランス語母語話者の頭にある。そして、フランス語母語話者は<oo>とい う綴り字を見たら、それを常にフランス語のテンスの/u/として取り入れる。例えば、

footballの<oo>は英語においては、ラックスの/ʊ/で発音されるが、フランス語に入っ た時、フランス語母語話者は<oo>という綴り字を見て、英語の綴り字<oo>はフラン ス語でテンスの/u/と発音されるということを連想し、footballの<oo>もテンスの/u/と して取り入れる。

上記の事実を踏まえて英語から日本語に入った外来語の語末シュワーの長・短の借 用を考える。英語からの外来語の語末シュワーの長・短の借用はシュワーに当たる部 分の-r の有無によって異なり、-r 付きの場合は長母音として、-r なしの場合は短母 音として知覚されやすいということが7.3節で明らかとなった。

そしてその差を引き起こす要因として、語末シュワー持続時間ではなく (図4、図 5)、シュワーに当たる部分の綴り字の数であるということが本章の主張である。具体 的に、アメリカ英語のシュワーに-r が付く場合は-r がない場合よりも/r/を伴うため、

日本語母語話者は/r/の区別をまず知覚する。そして、第6章の表9のような分布は潜在 的 な 知 識 と し て 日 本 語 母 語 話 者 の 頭 に あ る 。 従 っ て 、between-language grapheme-to-phoneme correspondence (Vendelin & Peperkamp 2006) によって、語末シュ ワーの長・短を区別する。

7.7. 本章のまとめ

本章では英語から日本語に入った外来語の語末位置に視点を置き、シュワーの借用 の仕方について論じた。既存語の分布を見ると、語末シュワーの長・短の分類はシュ ワーに当たる部分の綴り字との一定の関係が観察された。薛 (2012) では、語末シュ ワーに当たる部分の綴り字が1 文字である場合、シュワーは短母音として借用され

(e.g. banana → バナナ)、語末シュワーに当たる部分の綴り字が2 文字或は3 文字で

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第6章はシュワーの知覚は-rの有無に拘らず、シュワーをより短母音と知覚されや すいという仮説を立てた上で、英語音声との対応という側面から外来語における語末 長母音の短母音化の生起条件 (母音の条件) の存在要因について分析したが、第7章 の知覚実験で分かったように、シュワーの知覚は-rの有無によって異なり、-r付きな らば、シュワーを長母音として、-rなしならば、シュワーを短母音として知覚しやす いということが確認された。従って、英語音声との対応は外来語における語末長母音 の短母音化の生起条件の存在要因として成り立たないという結論を出した。