第 4 章 頭高型効果の存在要因
4.2. 知覚実験
4.2.1. 知覚実験 1
4.2.1.5. 結果
まず、語末母音を「長」に聞いた割合を見る。表6では東京方言話者、近畿方言話 者がそれぞれ語末母音を「長」に聞いた割合を示した。0~5は語末母音長の短縮量で、
0は変化なし、5 は母音長を6段階目まで短縮したという意味を表す (語末母音の持 続時間については表 4 を参照)。数字が大きいほど語末母音長の短縮量が多く、語末 母音の持続時間が短くなる。表6の結果に基づきカイ2乗検定を行ったところ、語末 母音長の知覚に東京方言、近畿方言の違いによる差は見られなかった (χ2=0.382、
df=5、p=0.587、n.s)。
表6. 語末母音長を「長」に知覚する率 (%) とアクセント (方言別)
東京方言話者 近畿方言話者
母音の短縮量 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5
高校 100% 91.7% 43.8% 4.2% 0 2.1% 98.9% 100% 48.9% 12.5% 8.0% 3.4%
48/48 44/48 21/48 2/48 0/48 1/48 87/88 88/88 43/88 11/88 7/88 3/88
孝行 100% 100% 95.8% 39.6% 2.1% 0 98.7% 98.7% 89.8% 37.5% 11.4% 5.7%
48/48 48/48 46/48 19/48 1/48 0/48 87/88 87/88 79/88 33/88 10/88 5/88
被験者の使用方言による差が見られなかったため、東京方言話者6人 (T-Bを除く)、
近畿方言話者11 人の結果を合わせて分析した (計 17人)。表 7に、語末母音長の変 化に対して語末母音が「長」に聞こえる割合を示した。図6は表7の結果をグラフ化 したものである。縦軸は語末母音を「長」に聞いた割合で、横軸は母音の短縮量であ る。数字が大きいほど語末母音の短縮量が多くなり、右に行けば行くほど、母音の持 続時間が短くなる。
58
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ʉЉC˷̾ϩ 0 1 2 3 4 5
Тɨ 99.3%
135/136
97.1%
132/136
47.1%
64/136
9.6%
13/136
5.1%
7/136
2.9%
4/136
ƍͲ 99.3%
135/136
99.1%
135/136
91.9%
125/136
38.2%
52/136
8.1%
11/136
4.4%
6/136
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なり低い。カイ 2 乗検定を行ったところ、有意差が見られた (χ2=30.748、 df=1、
p<.001)。4以降の段階となると、平板型の高校でも頭高型の孝行でも語末母音を「長」
に聞く割合は 10%以下に減り、アクセント型の違いによって、僅かな差が見られる ものの、いずれの場合も有意な差ではなかった (4: χ2=0.535、df=1、p=0.464 n.s、5:
χ2=0.104、df=1、p=0.747 n.s)。
まとめると、語末母音の知覚に関して、母音の持続時間が十分長い場合と十分短 い場合においては、日本語母語話者が母音の持続時間に頼って母音を知覚する。母音 の持続時間が長ければ「長」に聞き、母音の持続時間が短ければ「長」に聞かなくな る。しかし、母音の持続時間が「長」と「短」との間にある場合は、平板型を有する 刺激音よりも、頭高型を有する刺激音のほうが語末母音を「長」に聞きやすい。言い 換えると、母音の持続時間が曖昧な場合に限って、日本語母語話者は頭高型というア クセント核の情報を利用し、語末の母音を知覚しているようである。この現象を「語 末母音長の知覚に対するアクセント効果」と名づけ、以下では「アクセント効果」と 呼ぶ。
次の表8では反応時間を見る。図7は表8の結果をグラフ化したものである。縦軸 は反応時間であり、横軸は母音の短縮量である。数字が大きいほど母音の短縮量が多 くなり、右に行けば行くほど語末母音の持続時間が短い。
表8. 語末母音の変動に対する反応時間 (msec) とアクセント
母音の短縮量 0 1 2 3 4 5
高校 912 948 1086 1091 977 963
孝行 857 864 917 982 946 909
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図6. 語末母音長の変動に対する反応時間とアクセント
語末母音長の変動に対する反応時間とアクセント
800 850 900 950 1000 1050 1100 1150
0 1 2 3 4 5
母音の短縮量
反応時間(msec)
高校 孝行
全体的に言えば、平板型の高校でも頭高型の孝行でも、語末母音の持続時間が十 分長い場合と十分短い場合は反応時間が短く、語末母音の持続時間が「長」と「短」
の間にある場合は反応時間が長い。また、平板型の高校と比べ、頭高型の孝行のほう が反応時間が短い。平板型の高校の反応時間が912msecから1091msecまでで、頭高 型の孝行の反応時間が857msecから982msecまでである。全体の結果に基づきカイ2 乗検定を行ったところ、有意差が見られた (t=-4.115、df=5、p=0.005)。すなわち、語 末母音が長であるか否かの判断に関して、平板型を有する高校よりも頭高型を有する 孝行のほうが必要な反応時間が短いということが統計的に明らかとなった。日本語母 語話者が頭高型というアクセント核の情報を利用し、語末母音の長さにより早く反応 をすることから、語末母音の「長」に対する反応には「アクセント効果」が正の影響、
すなわち語末母音を長母音 (或いはそうではない) と知覚するのを促進する効果を 与えるということが言える。