第 5 章 長母音の短母音化に見られる位置の非対称性
5.3. 知覚実験
5.3.5. 結果
図6は刺激音が「高校」である場合に得られた結果を示す。
85
̽θDТɨ>ĔȰ,^6ĝŅaʹ.ɷθDʉЉC˷̾ϩaʹ0ŁAͲ(E&
N?ʉЉCȒ̴Ɂϱ#˷ǙˀΖ·Ζɗ1^CůŅA!<TʉЉC Ȓ̴Ɂϱ#˷&@]CAǤ9<Тɨ>ĔȰ,^]ĝŅ#°#9<&P6 ΖɗC̹#Ζ·C̹Z\ŁõA\Ζ·"[ΖɗA"(<ʉЉϮC˷̾AϪǹA
@]ZAͻ ]#lf2¼ɰƓa"(<Q6̯ɢɐǷƺ#ΕS[^@"96 (χ2 ж1.238dfж5pж0.266 n.s)**=DĠƷ[ (1998) AȥȒ.6̯ɢ#ǥ[^@
"96:P\ǂɟŧCТɨAƢ.<Ζ·«Ζɗ>Ú́CϗDȷɘΖ ʉΖΑ͇CʉЉϮC˶;AǞЋa² @> ]*^DǂɟŧC2ƋʴΖD˷ʉ Љħ#ΰ*\A&>΅ΖÁƕAT͗.<]
ɼAƍͲC̯ɢaͻ] (Ş7)
86
縦軸は刺激音を「孝行」と判断された割合を表し、横軸は母音の短縮量を表す。右 に行けば行くほど、母音の持続時間が短い。図7が示すように、語中の場合において も、語末の場合においても、母音の持続時間が短くなるのに従って「孝行」と判断さ れる割合は下がっていく。また、語末の線が語中の線より右側にあり、語中から語末 にかけて、母音長の時間変動に鈍感になるという結果が得られた。カイ2乗検定をか けてみた結果、有意差が認められた (χ2=21.085、df=5、p=0.001)。刺激 2 と刺激 3 の間に語中・語末の最も大きな差が見られた。刺激2のときは、「孝行」と判断され る割合は語末において 93.8%で、100%に近い一方、語中では 61.6%であり、半数ぐ らいしかない。刺激3の場合は、「孝行」と判断された割合は語末において49.0%で あるのに対し、語中の場合は13.5%である。まとめると、頭高型の「孝行」において、
長母音が語中位置にあるか語末位置にあるかの違いによって、母音長を知覚する際に 差が見られた。語中位置にある母音と比べて、語末位置にある母音のほうが母音の持 続時間が短くてもそれを長母音と知覚しやすいといえる。これは頭高型を有するHH の音節構造を持つ 2 字漢語は短母音化が起こりやすいという言語事実にも一致して いる。
最後に、「高校」と「孝行」と比較しながら議論を行う。まず、語中位置に絞って 見ると、「孝行」も「高校」も、刺激0~1では長母音と判断された割合はほぼ100%
で、刺激3で急に0%近くに下がった。しかしながら、刺激2では、それぞれ61.5%、
41.7に減り、「孝行」と「高校」の長母音の知覚に対する率に19.8%の差が見られた。
カイ2乗検定をかけてみた結果、有意差が認められた (χ2=16.154、df=5、p=0.006)。
つまり、語中位置の場合、「高校」の「高」と「孝行」の「孝」との間に、刺激2の 場合のみ差が見られ (19.8%)、「孝行」の「孝」は「高校」の「高」よりも長母音と 知覚されやすいということが明らかである。「高」と「孝」の違いは、「高」はfalling
pitchを伴わないが、「孝」は伴うというところにある。先行研究Kinoshita,Behne,&Arai
(2002)、Nagano-Madsen (1990)と一致した結果が得られた。
次に、長母音と知覚される割合を語末位置に絞って見る。語末位置では「孝行」と
「高校」の間に更に大きな差が見られ、特に刺激 2、3 の場合が顕著である。刺激0 から刺激 2 にかけて、「孝行」の「行」を長母音と判断される割合はほぼ 100%であ るが、「高校」の「校」を長母音と判断される割合は53.1%だけである。刺激3の場 合においても、語末の母音を長母音と判断される割合が、「孝行」は49%で、「高校」
は僅か13.5%である。
87
この結果から、日本語母語話者の母音長の知覚は、語末位置においては、その前の 音節にアクセント核があるかどうかによって、かなり影響を受けることが分かった。
具体的に、前の音節にアクセント核を有する場合、後ろ (語末) に来る音節の母音の 長さが物理的に短くても、それを長音と判断される傾向がある。本章ではこの現象を
「アクセント核効果」と呼ぶ。
実験結果をまとめると、日本語母語話者の場合は、語中位置においても、語末位置 においても、平板型を有する刺激と頭高型を有する刺激との間に大きな差が見られた。
詳しく言えば、母音長が同じである場合、頭高型を有する語のほうが長母音と感じや すいという結論になる。これは頭高型を有するHHの音節構造を持つ2字漢語が短母 音化を起こしやすいという言語事実に一致している。