第 7 章 シュワーの借用
7.3. 日本語母語話者の知覚実験
英語から日本語に入った外来語の語末シュワーの借用はシュワーに当たる部分の 綴り字によるかどうかを確認する (仮説1の検証)。
7.3.2. 実験手順
被験者は日本語母語話者 (近畿方言話者) 7名である。性別は男性4名、女性3名 であり、年齢は20代から30代までである。表1 は被験者情報を示す。
表1. 被験者情報一覧表
被験者 性別 年齢 主な生育地
1 女性 22歳 神戸市
2 女性 23歳 神戸市
3 女性 22歳 大阪府
4 男性 24歳 神戸市
5 男性 26歳 大阪府
6 男性 22歳 神戸市
7 男性 23歳 神戸市
平均年齢 23.1歳
刺激語の作り方は以下の通りである。Vendelin & Peperkamp (2006) で用いられてい る1音節語の後ろに-a/-arを加えた、2音節語の無意味語からなるミニマルペア12組 を用意した(5)。そしてアメリカ英語話者 (20 代、男性) に各刺激語を単独で発音し てもらい、Praat を用いて録音した。被験者にミニマルペアごとに、その第一音節の 母音を固定して発音してもらった。例えば、mipaとmiparはそれぞれ /miːpəә/ , /miːpəәr/
と発音してもらった。他のミニマルペアも同様である。
110 (5) mip → mipa/mipar64
次に、実験方法を紹介する。刺激語を犬の名前であると被験者に指示し、「私は…
が好き」という文脈に埋め込み、文字のみ、音声のみ、文字・音声という3パターン でパソコンのプログラムを通じてランダムに被験者に提示した。そして、それらの刺 激語を見てから、或は聞いてから日本語のカタカナに書き直してもらった。刺激語は 納得できるまで繰り返し見る、或は聞くことができる。
7.3.3. 結果の予測
実験結果を紹介する前に、まず結果の予測を3点述べる。
予測1:刺激語が文字のみの場合は、日本語母語話者がシュワーに当たる部分の文 字数に頼って語末の母音を借用するということが予測できる。つまり、語末シュワー に当たる部分の綴り字の数が1文字であれば (-r なしの場合)、語末のシュワーを短 母音として取り入れ、語末シュワーに当たる部分の綴り字の数が2文字であれば (-r 付きの場合)、語末のシュワーを長母音として取り入れる。
予測2:刺激語が音声のみの場合については、シュワーは持続時間が短く、音質が 不明瞭である (西原1987) ため、短母音に知覚されやすいと考える。つまり、シュワ ーに当たる部分の綴り字が1文字 (-r なしの場合) であっても、2 文字 (-r 付きの場 合) であっても、日本語母語話者はより短母音として知覚しやすいということが予測 できる。
予測3:刺激音語文字・音声両方で提示された場合については、もしシュワーの借 用がシュワーに当たる部分の綴り字に影響されるのであれば、シュワーに当たる部分 の綴り字が1文字 (-rなし) の場合は、刺激語を短母音と知覚する割合が、刺激語が 音声のみの場合と比べて大きくなる。これに対し、シュワーに当たる部分の綴り字が 2 文字 (-r 付き) の場合は刺激語を長母音と知覚する割合が音声のみの場合と比べて 大きくなるということが予測できる。
7.3.4. 実験結果
図 1 で実験結果を示す。縦軸は刺激語を長母音と聞く割合であり、横軸は文字、
文字・音声、音声という刺激語の提示方法の3パターンである。
6412組のミニマルペアは pada/padar, mipa/mipar, fupa/fupar, mapa/mapar, fapa/fapar, fipa/fipar, pida/pidar, puda/pudar, mupa/mupar, mepa/mepar, fepa/fepar, peda/pedarである。
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文字の情報を加える場合は、fuparの語末シュワーを長母音と知覚する割合が大きく なった。一方、-rなしのfupaに対して、刺激語が音声のみの場合は、7人中4人はそれ を短母音と知覚するが、刺激語に文字という情報を加えて文字・音声のようにすると、
7人中6人は刺激語fupaの語末シュワーを短母音として知覚する結果となった。このよ うに、刺激語の提示に文字情報を加えると、fupaの語末シュワーを短母音と知覚する 割合が大きくなったということが言える。
上記の結果を統計処理した結果、何れの場合においても有意な差が見られた。-r付 きの場合はχ2 =28.805、df=1、p<.001であり、-rなしの場合はχ2 =42.424、df=1、p<.001 である。つまり、予測3が正しいということである。
まとめると、英語からの外来語の語末シュワーの知覚はシュワーに当たる部分の綴 り字に影響され、語末シュワーに当たる部分が1文字 (-rなし) の場合、語末シュワー を短母音に、語末シュワーに当たる部分が2文字 (-r付き) の場合、語末シュワーを長 母音に知覚しやすいということが言える。つまり、予測3が正しいと断定できる。
7.4. 英語母語話者の産出実験