第 4 章 頭高型効果の存在要因
4.2. 知覚実験
4.2.1. 知覚実験 1
4.2.1.2. 刺激語
母音の種類について、産出実験と一致させるため、語末母音を/o/に限定した。音 節構造には、HH の音節構造を持つ 2 字漢語に限定した。語頭・語末、頭子音などの 環境を揃えた場合に平板型と頭高型の対立を成すのは「高校」と「孝┓行」であった。
そのため、本章での知覚実験は「高校」と「孝行」を刺激語に選んだ。
(2) 刺激語の作り方
「高校」について
1 名の日本語東京方言話者 (女性) に「彼は高校と言った」というキャリア文を十 回発音してもらい、SUGI SpeechAnalyzerで録音した。まず、10回の発音の中で、語 中長母音の持続時間と語末長母音の持続時間が最も近似するものを抽出した (語
中:146msec、語末:145msec)。そして、語末長母音を削除し、語中長母音をコピーした
ものを語末の母音として貼り付けることによって、語中母音の持続時間と語末母音の 持続時間がまったく同じになるような刺激語を作った。図1はその波形図である。
43刺激語に意味を付与することによって刺激語の持つ意味の親密度に差が出る。親密度の高い語ほど、
語末長母音の知覚が容易にできると予測できる。語の意味が刺激語を知覚する際に影響を与えるの避け るため、刺激語に意味を付与しない知覚実験2も用意した。しかし、後ほど述べるように、語末母音長 の知覚に対して、この二つの実験に大きな差は見られなかった。
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図1. 刺激語 (高校 語中:146msec 語末:146msec)
彼は 高 校 と言 っ た
そして、語中母音の長さを固定し、語末の母音を 4 周期、16msec ずつ (1 周期は
4msec) 短縮し、146msecから66msecまで6段階の刺激音を作った。図2は刺激語の
サンプルである。
図2. 刺激語のサンプル (高校 語中:146msec、語末:146msec-32 msec =114 msec)
彼は 高 校 と言 っ た
「孝行」について
1 名の日本語標準語話者 (女性) に「彼は孝行と言った」というキャリア文を 10 回ずつ発音してもらい、SUGIで録音した。そして、10回の中で、語頭長母音の持続
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時間と語末長母音の持続時間が最も近似しており、「高校」の語中・語末の持続時間 とも最も近いものを刺激語に選んだ (語中:146msec、語末:145msec)44。図3はその波 形図である。
図3. 刺激音 (孝行 語中:146msec、語末:145msec)
彼は 孝 行 と言 っ た 次に、語中の母音長を固定し、語末の母音長を3周期、15msec ずつ (1周期は5msec)
短縮し、145msecから70msecまで6段階の刺激音を作った。図4は刺激語のサンプ
ルである。
444.1節の産出実験では、「高校」と「孝行」の間に語末長母音の持続時間に差が見られなかったため。
「孝行」は頭高型アクセントを持つため、語中の「孝」をコピーすることで、語頭、語末の長母音の長 さを全く同じにすることができなかった。
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図4. 刺激語のサンプル (孝行 語中:146msec、語末:145msec-30msec=115msec)
彼は 孝 行 と言 っ た
表4に「高校」と「孝行」の各段階の母音の持続時間を示した。得られた音声の1 周期の持続時間は平板型を有する高校の場合は 4msec であり、頭高型を有する孝行
の場合は 5msec であるため、各段階の母音長を厳密に揃えるのは困難であったが、
表4が示しているように、6段階目までは「高校」と「孝行」の母音長に見られる差
は0~4msecであって、極めて小さいことから、両者を比較することができると考え
る。
表4. 各段階の刺激語の語末母音の持続時間 (msec) 母音の短縮量 0 1 2 3 4 5 高校(平板型) 146 130 114 98 82 66 孝行(頭高型) 145 130 115 100 85 70