第 3 章 貧困削減へ向けた国際協力
3.1. 援助の概況
3.1.1 援助額・重点分野の推移と主要ドナー
ネパールの援助純受取額(以下、援助総額)は、1990 年代前半には年間 GNP のおよそ 13%にあたる約4.5 億ドルの規模で推移していた。その後、援助のGNPに占める割合は 徐々に減少してきているが、これはこの間ネパールが達成した経済成長を反映している。
しかし、1996年を境として援助額そのものが減少し始め、1999 年には約3.4 億ドル、対 GNP 比にして 7〜8%ほどまでに低下した。2000 年の援助総額は、やや増加の兆しを見 せている。1990年代後半の援助の全体的な減少傾向は、ネパールで政治情勢が不安定化 した時期と一致している。(表3-1)
援助総額に対する主要ドナーの占める割合の変化を見ると、1990年代前半のネパール援 助は、主に日本、世界銀行(WB: World Bank)、アジア開発銀行(ADB: Asian Development Bank)が中心的ドナーであったことが分かる。この中で、日本は年間1億ドルを越える 規模の援助を実施し、援助総額のおよそ30%を占めるトップドナーであった。また、ADB やWBは援助総額の10〜17%にあたる年間約4,000〜7,000万ドルの支援を行っていた。
1996年から援助総額が減少し始めたのは、主に日本とWBの援助額の減少によるもので あり、その他の主要ドナーは援助を増加させていた。1990年代終わりには、日本の拠出
額は 5,000〜9,000 万ドルに縮小し、この間援助を増加させたADBとほぼ同額の規模と
なった(いずれも援助総額の20%前後)。一方、WBの拠出額は1990年代末には援助総 額の9%にあたる年間3,000万ドルまで減少した。その他の主要ドナーはドイツ、英国、
デンマークなどであり、いずれも 1996 年以降に援助額を大きくは変化させていない。
2000年には、これらのドナーは、それぞれ2,000万ドル前後、援助総額の6%程度の援助 を行っている。次いで、米国やスイスも年間1,000 万ドル以上の援助を行っている。(表 3-2)
援助総額のセクター別割合を見ると、1996年を節目として全体的にその構成が変化して いることがうかがえる。1996年以前は、主に運輸、エネルギーセクターを中心とする経 済インフラ分野の占める割合が高く、社会インフラ分野への援助は減少していた。その 結果、1996年には、経済インフラ分野が援助総額の70%近くを占めるに至った。しかし 1996年以降は、経済インフラが減少する一方、主に教育、保健、水・衛生セクターなど の社会インフラ分野が増加している。この中で、特に増加が著しかったのは、保健と水・
衛生セクターである。2001 年には社会インフラの占める割合は37%ほどに達し、経済イ ンフラとほぼ同額が配分された。その他、生産セクターは全体的に減少傾向にあり、2001 年には援助総額の 9%にまで落ち込んでいる。なお、環境分野への支援はマルチセクタ ーに分類されており、1990年代を通じて総援助額の10%前後を占めている。(表3-3) 各ドナーのセクター別援助配分では、全体的な傾向として、社会インフラ分野にはそれ ぞれのドナーが最低でも10%ほどの援助配分を行っている。その一方で、経済インフラ や生産分野への配分には、ややばらつきが見られる。1990年代の各ドナーの分野別配分 を巨視的に見ると、WB、ADB、英国はすべての分野へ同じような割合を配分してきた という点で共通している。これに対して、日本とドイツは経済インフラ分野へ最も重点 を置いており、またデンマーク、国連開発計画(UNDP: United Nations Development
Programme)、米国などは社会インフラ分野を特に重視しているのが目立つ。しかし、生
産分野において全ての主要ドナーが農林水産セクターに重点を置いているのを除けば、
サブセクターでそれぞれの重点は異なっている。(表3-4)
現在ネパールで活動する主要な国際機関は、いずれも貧困削減政策への支援を表明して いる。政策レベルで貧困削減を最も強調してきた国際機関は、WBとUNDP である。両 機関は、他の援助機関に先立って(UNDP は1963年、WBは1989年)貧困削減をネパ ールへの援助目標に含める方針を示し、この分野でドナー間の協調を主導する役割を果 たしてきた。一方、二国間ドナーが貧困削減を明確に支持するようになったのは 1997 年以降である。これは、ネパール政府が第9次計画で貧困削減を最重要目標とした時期 と重なっている。なかでも英国、デンマーク、スイスの援助機関は、いち早くネパール への援助目標に貧困削減を含めた。それに続いて、日本やドイツも貧困削減を重視する
プロジェクトを開始している87。さらに 1999 年には、ADB や国際通貨基金(IMF:
International Monetary Fund)が貧困削減を主要な課題として取り組むようになった。こう
した流れの中、2000年には、政府と主要ドナーの間で、貧困削減に関し協議するネパー ル開発フォーラム(NDF: Nepal Development Forum)が発足した。
また、ネパールでは1990年代にNGOの活動が盛んになり、この傾向は、国内および国 際NGOの両方にうかがえる。ネパール社会福祉委員会(SWC:Social Welfare Committee) に登録されている国内NGOの数は、1990 年に249であったのが、1996年5,978、2000
年12,388 へと急増している。ただし、ネパールでは独立した資金源をもつ国内NGOは
SWCへ登録する義務がないことを考慮すると、実際に存在する国内NGOの数はさらに 多いものと思われる。同様に、SWCに登録されている国際NGO(INGO)も、1987 年に は5 団体のみであったのが、2001年には96へと増加している。国内・国際NGOのほと んどがコミュニティーレベルの地域開発に携わっているといわれるが、具体的なセクタ ーや資金の規模について、正確な統計は存在しないのが現状である。特に、IN GO につ いての情報は資金規模が大きいのに対して信頼性が低い。このため、ネパール政府は、
今後INGOの一貫した受入態勢を整備し、より厳格な管理を行う方針を明らかにしてい る。
表 3-1 ODA/OA純受取額の推移(1991〜2000年)
ODA純受取額合計 二国間援助 多国間援助
金額
(100万ドル)
対GNP 比
金額
(100万ドル)
純受取額合 計に対する
割合
金額
(100万ドル)
純受取額合 計に対する
割合 1991 452.31 12.91% 290.38 64.30% 161.93 35.86%
1992 435.66 12.23% 275.65 63.65% 160.01 36.95%
1993 366.97 9.65% 245.56 67.34% 121.41 33.29%
1994 451.16 10.88% 269.19 60.00% 181.97 40.56%
1995 433.06 9.63% 266.12 61.45% 166.94 38.55%
1996 391.63 8.56% 236.23 60.32% 155.40 39.68%
1997 400.49 8.03% 233.46 58.29% 167.03 41.71%
1998 402.09 8.25% 212.69 52.90% 189.40 47.10%
1999 343.57 6.81% 204.77 59.60% 138.80 40.40%
2000 386.12 7.15% 231.24 59.89% 154.88 40.11%
[出所] OECD のホームページ(URL:http://www.oecd.org/)の International Development Statistics Online DatabaseからReference Section: Total Net ODA/OA (DAC2a)を用いて作成
87 その他にもフィンランド、スウェーデン、オランダなど、ネパールでは援助額が小さい二国間ドナーも貧 困削減を支持している。
表 3-2 ODA/OA純受取額のドナー別割合の推移(1991〜2000年)
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 純援助受取
総額
(100万ドル) 452.3 435.7 367.0 451.2 433.1 391.6 400.5 402.1 343.6 386.1 DAC諸国
(%)
日本 28.25 24.63 30.41 26.47 29.50 22.68 21.43 13.94 18.68 25.65 ドイツ 8.17 8.53 6.03 5.03 4.51 6.57 6.12 6.00 6.31 5.60 英国 7.41 5.81 4.80 5.34 5.91 5.96 7.12 6.86 7.53 5.91 デンマーク 2.08 2.15 4.48 6.03 5.47 5.88 4.47 5.61 6.78 6.40 米国 3.10 4.16 5.48 4.46 4.39 3.83 5.22 4.14 4.75 4.09 スイス 2.52 3.00 3.61 3.82 3.59 3.79 2.80 3.28 3.83 2.99 フィンラン
ド 3.98 3.72 1.62 1.43 1.41 1.40 1.65 3.19 1.63 1.42 オランダ 1.11 1.14 1.96 1.85 1.97 2.90 2.70 2.81 1.74 1.47 その他 7.69 10.52 8.94 5.58 4.77 7.34 6.57 6.25 7.09 5.82 小計 64.30 63.65 67.34 60.00 61.52 60.35 58.08 52.10 58.33 59.35 国際機関
(%)
ADB 16.55 9.78 17.56 13.92 11.31 14.79 21.53 22.81 16.03 19.30 WB 10.19 15.63 - 15.70 17.18 13.74 11.25 12.71 9.66 8.82 UNDP 4.11 3.24 2.70 1.75 1.14 1.28 1.96 1.88 2.52 2.11 WFP 0.24 1.39 2.73 1.72 1.91 1.95 1.87 2.28 2.86 1.62 UNICEF 1.64 1.90 2.28 2.17 1.69 2.16 1.08 1.13 1.27 0.94 EC 0.70 0.38 1.65 0.91 0.98 1.55 2.04 1.07 2.85 3.79 その他 2.43 4.62 6.38 4.38 4.39 4.22 1.83 4.50 4.36 3.17 小計 35.86 36.95 33.29 40.56 38.59 39.70 41.56 46.40 39.54 39.75 その他 -0.16 -0.60 -0.64 -0.56 -0.12 -0.05 0.36 1.50 2.13 0.89 総合計 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 [出所] OECD のホームページ(URL:http://www.oecd.org/)の International Development Statistics Online
DatabaseからReference Section: Total Net ODA/OA (DAC2a)を用いて作成
表 3-3 ODA/OA 純受取額のセクター別割合の推移(1991〜2001年)
(単位:%)
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 社会インフラ 46.2 25.1 23.4 33.3 25.0 11.5 25.8 21.2 22.7 31.9 36.8 教育 6.4 12.4 8.4 12.0 9.6 4.2 16.0 0.4 9.0 5.5 2.7 保健 5.3 1.6 6.9 12.0 2.5 1.4 1.1 1.8 3.0 3.9 6.4 水・衛生 28.9 7.7 3.9 4.5 2.2 3.2 0.5 2.2 5.2 14.5 21.1 人口プログラム 4.4 1.1 2.6 0.2 3.4 1.5 7.3 13.7 2.8 4.5 3.0 政府・市民社会 1.1 0.6 0.4 0.9 6.2 0.6 0.6 1.6 1.6 1.9 3.3 その他 0.0 1.7 1.4 3.7 1.1 0.7 0.3 1.6 1.0 1.7 0.2 経済インフラ 24.5 30.8 31.5 51.2 29.9 66.7 25.2 9.0 54.4 27.9 38.3 運輸 16.1 5.4 20.0 30.9 10.9 8.0 15.4 5.6 13.2 10.4 31.8 通信 5.4 12.0 0.3 9.7 0.0 4.3 0.0 0.3 0.7 0.0 6.0 エネルギー 3.0 13.2 9.8 10.5 19.0 54.3 9.6 1.6 37.3 15.4 0.1 銀行・金融 0.0 0.0 1.4 0.0 0.0 0.0 0.2 0.1 3.2 0.4 0.1 ビジネス・その他 0.0 0.3 0.0 0.1 0.0 0.2 0.0 1.4 0.0 1.8 0.3 生産セクター 18.2 31.2 17.6 8.1 17.0 15.6 33.9 46.4 4.7 18.3 8.8 農・林・水産 16.2 26.4 11.2 7.5 12.1 13.3 28.9 46.2 4.3 18.0 6.2 工・鉱・建設 2.0 3.0 6.4 0.5 4.8 0.2 0.2 0.2 0.3 0.1 0.9 貿易・観光 0.0 1.7 0.0 0.0 0.1 2.1 4.8 0.0 0.1 0.2 1.7 マルチセクター 6.4 8.1 17.9 3.4 14.1 3.7 10.1 8.3 12.1 12.3 7.9 プログラム 1.7 2.9 1.2 1.6 3.7 0.7 0.4 5.0 0.3 1.1 0.0 債務関係 2.5 1.2 4.2 1.9 9.7 1.6 2.5 9.5 4.1 6.5 7.2 緊急援助 0.1 0.2 3.4 0.3 0.4 0.1 0.7 0.3 1.1 0.2 0.6 分類不可 0.4 0.6 0.6 0.2 0.2 0.0 1.4 0.3 0.5 1.8 0.5 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
[出所] OECDのホームページ(URL:http://www.oecd.org)の Creditor Reporting System のOnline Database からCRS/Aid Activities - Aggregated by sectors : 1990-2001を用いて作成。
[注] *データは2002年11月現在公開されているものを使用。
表 3-4 主要ドナーのセクター別資源配分(1991-2001年)
(単位:%)
日本 ドイ
ツ 英国 デンマーク 米国 スイ
ス ADB WB UNDP 社会インフラ 21 11 26 38 59 24 17 27 50
教育 5 1 4 29 10 14 5 11 0
保健 4 4 6 1 5 4 0 5 0
水・衛生 11 0 9 0 0 1 12 11 0 人口プログラム 0 6 4 0 37 3 0 0 5
政府・市民社会 0 1 1 4 4 1 0 0 36
その他 0 0 1 3 2 0 0 0 9
経済インフラ 50 67 34 18 4 33 42 45 14
運輸 20 6 32 0 0 32 8 20 0
通信 3 0 0 18 0 0 0 14 0
エネルギー 27 60 1 0 2 1 32 12 14
銀行・金融 0 0 0 0 2 1 3 0 0
ビジネス・その他 0 1 1 0 0 0 0 0 0 生産セクター 8 7 33 11 18 20 37 23 8 農・林・水産 8 3 31 7 13 17 30 19 6
工・鉱・建設 0 4 0 4 4 3 2 0 0
貿易・観光 0 0 1 0 0 0 4 4 2
マルチセクター 2 8 6 33 17 12 4 5 28
プログラム 2 7 0 0 2 0 0 0 0
債務関係 15 0 0 0 0 0 0 0 0
緊急援助 1 0 1 0 0 3 0 0 1
分類不可 0 1 1 0 0 8 0 0 0
合計 100 100 100 100 100 100 100 100 100 [出所] OECDのホームページ(URL:http://www.oecd.org)の Creditor Reporting System (CRS)のOnline
DatabaseからCRS/Aid Activities - Aggregated by sectors : 1990-2001を用いて作成。