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国家開発計画における貧困削減政策の位置付け

ドキュメント内 2003 3 (ページ 75-79)

第 2 章   ネパール政府の取組み

2.2. 貧困問題をめぐる諸政策

2.2.1 国家開発計画における貧困削減政策の位置付け

(1) 国家開発計画の変遷と貧困削減

1991 年に民主化が 行わ れる 以前か ら、 国家 計画委 員会 (NPC: National Planning

Commission)により3ヵ年計画および5ヵ年計画が策定され、また実施されていた。開

発目的としての貧困削減が初めて明示されたのは、1980 年から実施された第 6 次計画

(1980〜1985 年)であり、続く第7 次計画では、開発政策として貧困撲滅政策が掲げら れた。

しかし、体制転換後の新たな政権下で策定された第8 次計画(1992〜1997年)では、そ れまでの長期開発計画は一定の成果をあげたものの、目標と具体的目的、優先分野、戦 略、プログラムとの間の一貫性がなく、期待された成果はあげられなかったと総括して いる。

民主化以降に策定された第 8 次および第9 次計画(1997〜2002 年)の枠組みは表 2-12 のとおりである。

第8 次計画は、セクター政策・プログラムおよび主要国家開発政策の2つの柱から構成 されている。同計画では、貧困撲滅は主要国家開発政策の筆頭として位置付けられた。

セクター政策・プログラムは、農業、鉱工業、各インフラセクター、教育、保健など17 セクターが対象とされた。主要国家開発政策は、貧困撲滅政策を筆頭に、人口、雇用、

金融、財政等、19の政策が掲げられた。

第9 次計画においては構成が変更され、開発上の問題点を横断的に整理した上で、それ に対応する政策を掲げるという構成となっている。そのため、11 のセクター横断的な政 策が上位政策として示され、その枠組みのなかで各セクターに関する政策がまとめられ ている。貧困撲滅は、「貧困撲滅及び雇用促進」という上位政策として掲げられている。

表 2-12 開発5ヶ年計画の枠組み

8次計画(19921997年) 9次計画(19972002年)

( セクター政策・プログラム)

・ 農業、林業及び土地改革

・ 灌漑

・ エネルギー

・ 水力・気象資源

・ 道路及びその他運輸

・ 通信

・ 鉱工業

・ 貿易

・ 観光

・ 教育・文化

・ 保健・家族計画

・ 飲料水・衛生

・ 住宅及び都市開発

・ 労働及び社会福祉

・ 地方開発

・ 供給

・ その他(計画・行政改革)

( 主要国家開発政策)

・ 貧困撲滅

・ 人口

・ 労働力及び雇用

・ 環境・資源保全

・ 土地利用

・ 地域開発

・ 地方分権化

・ 価格

・ 資金動員(Financial Resource Mobilization

・ 貨幣、銀行、信用

・ 資本市場

・ 政府支出及び民営化

・ 開発行政

・ 科学・技術

・ 開発における女性(WID

・ 児童育成

・ 非政府組織(NGO

・ 食糧・栄養

・ モニタリング・評価

・ マクロ経済政策

・ 貧困撲滅及び雇用促進

・ 人口及び人材

・ 地域及び地方開発

・ 環境及び持続的資源

・ 農業

・ 工業、商業、観光

・ インフラ整備

・ 科学・技術・代替エネルギー

・ 社会科学及び社会保障

・ 女性及び青年育成

・ 良いガバナンスと開発マネジメント

〔出所〕NP C, (1992), The Eighth Plan (1992-1997) および (1998), The Ninth Plan ( 1997-2002)より筆者作成

また、第9 次計画において、長期的な開発目的を、「ネパールにおいて広範に広がってい る貧困を撲滅することにより、教養の高い、かつ近代的な開発指向をもった、また技能・

技術を与えられる社会を創造すること」としている。そして、長期的な開発目標として、

貧困撲滅を掲げている。具体的には、第9次計画が開始された1997 年から20年間で、

貧困ラインを下回る貧困人口を10%減少させるとし、ネパール政府の貧困削減に対する 取り組みの姿勢はより明確なものとなった。

ネパール政府は、貧困削減の中心課題として農業・農村開発を掲げ、1995年に策定され た農業開発計画であるAPP を第9次計画にも取り込み、農村電化、地方道路整備、給水 などの農村インフラ整備、農村における教育・保健等社会サービスの向上など包括的な アプローチを取る姿勢を明確にした。第9次計画の主なセクター政策における貧困削減 の取組みは、以下のとおりである。

表 2-13 主なセクター政策における貧困削減の取組み

セクター 貧困削減の位置付け 方策

農業 経済セクターとしての成長により、

所得獲得機会および雇用機会の拡 大を通じて貧困削減に貢献する

・ 農業インフラの整備

・ 農業信用の拡充

・ 農村インフラの整備

・ 女性農家育成プログラム インフラ ・ 農村電化により農村の経済開発

を進める

・ 山岳部の遠隔地におけNGOの 支援による参加型の小水力・マ イクロ水力発電プロジェクト

・ 山岳部の遠隔地における送電網 の整備

・ 遠隔地における道路網の建設を 通じて貧困削減および地域間格 差の是正を図る

・ 地域住民の労働力を活用した低 コストの道路建設・補修

・ 貧困削減につながる社会道路網 教育 貧困削減に不可欠な人材育成のた

めの手段としての教育を普及する

・ 無償教育による教育機会の均等 化

保健 健康な労働力による所得向上を通 じて貧困削減に貢献する

・ 栄養プログラム

・ 医療回転基金 栄養 人材育成による貧困削減のために、

人々の栄養状態の改善を図る

・ 国家栄養補給プログラム

・ 学校給食プログラム 飲料水・衛生 人々の健康状態を改善し、所得機会

の向上と保健支出の削減を通じて 貧困削減に貢献する

・ 農村セクタープログラム(地域 ごとに優先順位付けをしたプロ ジェクトを実施する)

・ 農村給水・衛生基金プログラム

〔出所〕NP C, (1998), The Ninth Plan ( 1997-2002)より作成

さらに、現在策定中の第10次計画では、貧困削減をより中心的な開発課題としてとらえ、

貧困削減戦略ペーパー(PRSP: Poverty Reduction Strategy Paper)を取り込むこととされて

おり、「PRSP/第10次計画」と呼称されている。2002 年2 月に「PRSP/第10次計画構想」

および「中期歳出枠組(2002/03〜04/05年度)(MT EF: Medium Term Expenditure Framework) が公表された。2002年7月には、「PRSP/第10次計画」の最終版が発表される予定であ ったが、2002年11月には第10 次計画のアプローチペーパーが公表されたのみで、2003 年1 月時点で作業は完了していない模様である。74

国家開発計画において、ネパール政府は、国家開発を進めるにあたって貧困削減が不可 欠であるとの姿勢を政策上明確化している。しかしながら、1990年の民主化以降の政治

74公式の英訳版は公表されていないため、内容については確認できていない。

的混乱により政策実施における一貫性を欠き、5 カ年計画は必ずしも当初の計画どおり 実施されず、十分に成果をあげられておらず、政府に対する国民の不信感を招いている。

また、地方を中心に、反政府ゲリラであるマオイストの活動が活発化しており、治安悪 化の要因となっている。治安情勢の悪化により、地方政府は本来の行政、社会サービス、

開発計画の実施を行うことが困難な状況にある。こうしたことが、さらに国民に対する 政府への不信感を増長することになり、マオイストの活動を勢いづかせている。政治的 不安定性が社会経済開発の進展の妨げとなっており、その克服が貧困削減戦略の実施に とって重要な課題となっている。

(2) 開発計画の実施主体と地方分権化

ネパールの行政は、中央政府、郡、市、村という行政単位から構成される。中央政府は、

国家計画委員会(NPC)、財務省(MOF: Ministry of Finance)、農業協同組合省(MOAC:

Ministry of Agriculture and Cooperatives)など19の省からなる。地方政府としては、全国 で75郡設置されている。

民主化支援の1990年に制定された憲法において、民主化の基本的要素としての「地方分 権化」が規定された。1991 年の憲法改正を経て1992 年には、「郡開発委員会法(the District Development Committee Act)、「村落開発委員会法(the Village Development Committee Act)、

「市町法(the Municipality Act)が制定された。その後、1996年に首相を委員長とする「地 方分権化調整上級委員会」(High Level Decentralization Coordination Committee)の提言に 基づき、1999年に「地方自治法」(LSGA: the Local Self-Governance Act)が施行された。

これにより、関連法制が整備され、行政、法制、財政に関する地方政府への権限委譲の 法的枠組みが作られた。また、2000年には、地方自治令および財政令が承認され、地方 自治法の施行にあたっての具体的な法制度の整備が行われた。

地方分権を進めるにあたっては、地方開発省(MLD: Ministry of Local Development)が設 置され、郡開発委員会(DDC: District Development Committee)および市町村職員、各省 の地方事務所など向けにオリエンテーションプログラムを策定し、実施した。一部の郡 では、村落開発委員会(VDC: Villea ge Dvelopment Committee)の職員や開発プロジェク トの実施者向けに、同様のプログラムを自発的に実施した。

地方分権化の具体的な動きとしては、以下のとおり。

i) 地 方 分 権 化 合 同 協 調 会 議 (JCFD: Joint Coordination Forum for

Decentralization)の設置:省庁、市民社会、民間部門、援助機関の代表に

よって構成

ii) 地方分権化実施計画(DIP: the Decentralization Implementation Plan)の策 定

iii) 各地方自治体財政委員会による地方自治に向けた提言策定

こうした動きに加えて、公共支出評価委員会(Public Expenditure Review Commission)の 勧告を受けて、政府は、地方レベルにおける開発プロジェクト実施において、重複を避 け、効率を高めるために、飲料水、灌漑、住宅、都市計画をそれぞれ管轄する地方局を 統合し、地方開発官のもとに郡技術局(DT O: District Technical Office)を設置した。

地方分 権化 に向け た組 織強 化につ いて は、 国連 開発計 画(UNDP: United Nation Development Programme)、 英 国 国 際 開 発 省 (DfID: Department for International

Development)、ドイツ技術協力公社(GT Z)等のドナーが支援を行っている。

地方分権化に向けての枠組み作りは進められているものの、地方レベルにおける実施に おいてはさまざまな問題が山積している。地方分権化がネパールの開発において機能し、

成果をあげるにあたっては、以下の課題を克服することが求められる。

i) 地方行政、財政、開発にかかわる組織能力の向上 ii) 地方財政の透明性の確保

iii) 中央官僚の既得権益の開放

こうした課題に加え、2002 年10 月に国王により首相が解任され、主要閣僚の入れ替え が行われたことから、今後実態として地方分権化が進められるかどうかについては、懐 疑的な見方が出てきている。地方自治に民主化の基礎となる地方選挙が見送られている ことに加え、中央官僚の抵抗が根強い。そのため、PRSP / 第10次計画の実施体制にお いて、地方政府がどのように位置付けられるのか、注目されている。

ドキュメント内 2003 3 (ページ 75-79)