第 3 章 貧困削減へ向けた国際協力
3.2. 貧困削減に向けた取り組み
3.2.2 二国間援助機関
(1) 国際協力事業団 (JICA: Japan International Cooperation Agency)
日本の貧困削減政策は政府開発援助大綱や、1999年8 月に採択された「政府開発援助に 関する中期政策」の中で触れられており、ODAが貧困削減や社会開発に重点を置くこと が述べられている。具体的には、基礎教育、保健医療、ジェンダーなどを「貧困層に直 接的に裨益する協力」として重視している。また、開発途上国政府の貧困緩和のための 政策立案・実施能力の強化を支援していく姿勢を明らかにしている。これを受けてJICA は「人間中心の開発を目指す」とし、すべての JICA 事業に「貧困削減の視点」を組み 込むことを決定し、さらに直接的な貧困削減のための事業を拡大することで、貧困削減 を主要な課題として位置づけてきた。
JICAはこれまでに、1992年の経済協力総合調査団の派遣や、「ネパール国別援助研究会」
などの調査を基盤に、ネパール政府と協議を行ってきた。現在JICAのネパール援助は、
i)人材資源開発、ii)水・衛生、保健セクターを中心とした社会インフラ、iii)農業開 発、iv)経済基盤としてのインフラ整備、v)森林などの環境保全、を重視している。
DAC/OECDのCRS(Credit Reporting System)によれば、JICAは、1998年から貧困削減 の要素を含むプロジェクトを実施している。1998年のネパール援助では間接的な貧困削 減プログラムとして、食料保障プログラムのほか、農業セクターで食料生産性増大プロ ジェクトが実施された。1999年には直接的な貧困削減プログラムとして、基礎教育と道 路建設事業が開始され、さらに2000年には保健セクター、2001年にはカトマンズの水・
衛生セクターを含んでいる。その結果、貧困削減の要素を含む援助額の総援助額に対す る割合は、1998年の約40%から2000 年の70%にまで増加し、2001 年には50%に減少し たものの絶対額では一貫して増加を続けている。
また、このほか電力供給の拡大と効率化を目標として、クリカニの水力発電所開発計画 調査を実施中である。今後、エネルギーセクターでは、農村電化の拡大を重視するADB などと協調して、ネパールの国家貧困削減政策に貢献していく方針である。
(2) 英国国際開発省(DfID: Department for International development)
DfID のネパールへの援助は、過去に、i)インフラ整備や天然資源管理を通した「幅広 い経済成長」、ii)教育・医療保健分野を中心とした人間開発、iii)法制度整備や財務省 の組織改革によるアカウンタビリティーの向上、iv)女性の地位向上、を目標にしてい た。しかし、1997年に貧困削減を最重要目標として宣言した開発援助白書が作成される と、ネパールにおいてもそれまでの援助が貧困削減重視の視点から見直された113。
この見直しでは、ネパール政府の政策立案能力、市民社会・貧困層の参加、ドナー間の 協調に問題があり、貧困削減の障害になりえることが指摘されている。これを受けて DfID は、1998 年 10 月にネパール財務省や、WB、ADB、USAID などのドナー、また
Action Aid をはじめとする N GO との協議を通じて新しい国別戦略書(CSP: Country
Strategy Paper)を作成した。このCSP によれば、政府・ドナー協調の改革や、市民社会
113 1997年9月の貧困ワークショップ、1998年3月のグッドガバナンス評価などがある。
の参加を通して実現される貧困削減が、DfIDの中・長期的な目標となった。それを達成 するために、i) ガバナンス114、ii)ドナー協調による人間開発115、iii)農村の生計向上
(Livelihoods)116、iv)農村のアクセス確保117、v)貧困分析118の項目に重点が置かれてい る。
またDfIDはこのプログラムの下、「ドナー主導の開発計画」を「ネパール政府主導のド ナー協調」に転換することを強調し、プログラムの実施を円滑に行うために DfID ネパ ール事務所を開設した。ドナー協調に関しては、保健医療セクターでセクターワイド・
アプローチを支持しており、教育セクターでもその可能性を探っている。
DfIDは、1997年から直接的な貧困削減プログラムとして総合的農村開発を行ってきた。
その後、1998 年には水・衛生、道路セクターでも貧困削減プロジェクトを実施し、1999 年には森林セクターで生計向上(Livelihood)アプローチによる貧困削減プログラムを実 施している。これらすべてがコミュニティーレベルの比較的小規模な農村開発の支援プ ロジェクトである。貧困削減に焦点を当てた援助額は増加傾向にあり、2000年には援助 総額の約55%を貧困関連のプロジェクトにあてている。
(3) デンマーク国際開発庁(DANIDA: Danish International Development Agencies)
DANIDA は、「貧困に配慮した経済成長を通じた持続可能な開発支援」を総合目標とし
ており、その支援政策ではガバナンスと人権を重視している。また、ODA予算が削減さ れていく中で、組織の統合化による援助の効率化や意識改革が図られている。この改革
でDANIDAが重点をおくセクターは、i)教育および医療保健の分野、ii)インフラの整
備、iii)民間セクター育成であり、これに「ジェンダー格差の是正」をセクター横断的 に組み入れている。今後は他のドナーと協調して良いガバナンスと人権の尊重を援助の コンディショナリティーとして求めつつ、各国が作成する国家貧困削減政策とそのオー ナーシップを積極的に支援していくとしている。
ネパールは、DANIDA が重点をおく 15 の開発協力プログラム国の一つであり、その援 助額は英国やドイツのそれに等しい規模となっている。しかし、政治情勢や政府の援助 管理能力の問題視され、ある程度の援助額が削減される予定である。DANIDAはこれま で特に貧困削減を目的とする援助プログラムは行っていない。ネパールでは、教育セク ターで女性を対象としたノンフォーマル教育、および中等教育普及のプロジェクトを行 っている。また、環境分野で持続可能な森林管理のための地方政府支援を、エネルギー セクターでは再生可能なエネルギーの開発支援を行っている。
114市民社会・貧困層の権利を確保、地方分権化の支援、ADB と協調してネパール政府の運営管理改革、
WBと協調して公共支出評価、官営企業の民営化など。
115セクターワイド・アプローチを通して医療保健(可能であれば教育)分野政策の改善。
116 ADB、WB と協調してコミュニティーレベルでの総合的プログラム改善、主に農業、道路、金融、自然
資源管理分野を中心にし、農業以外の収入向上を含む。
117 ADB、WB、GTZ、SDCとの協調を通して農村道路整備などを中心に上記の重点目標を支援。
118ドナー・政府・市民社会と情報を共有しながら、ネパール政府へ英国が蓄積した貧困調査分析の知識の 移転など。
(4) ドイツ技術協力公社(GTZ: Deutsche Gesellschaft für Technische Zusammenarbeit)
2001 年に GT Z が更新した援助政策は、貧困削減を「持続可能な開発の原則を基盤とす る全体的な政策の中の重要な要素」と位置づけ、経済社会分野からだけでなく、民主主 義の発展、法の整備、紛争解決など政治的な側面からも対応されるべきとしている。ま た貧困削減のためのドナー協調を重視し、PRSPを積極的に支持していく方針を示した。
具体的な優先分野は、i) 経済成長を達成するための経済基盤の整備、ii) 食糧保障、iii) 公 正な貿易、iv) 対外債務の削減、v) 基礎的社会サービスの整備、vi) 貧困層への天然資源
確保、vii) 人権と労働権の確保、viii) ジェンダーの平等、ix) 良いガバナンスと貧困層
の参加、となった。
GT Zはネパール政府との協議を通してその活動を調整しており、i)地方政府の政策策定 能力の自立性と市民社会への支援、ii)医療保健と家族計画、iii)再生可能エネルギーの 開発、の3 分野に重点を置いてプロジェクトを実施している。
GT Zはマオイスト運動の激化による貧困層への悪影響を重視しており、2001年10月に
「ネパールの紛争の変容と平和構築に向けた調査」(Nepal Country Study on Conflict
Transformation and Peace Building)を実施し、ネパールにおける開発計画への提言を行っ
てきた。また、本報告書に基づき、欧州諸国ドナーや UNDP と協調し、「平和と開発の ための信託基金(T rust Fund for Peace and Development)」を設立したほか、GTZが紛争地 域で実施している 3 つの保健医療関係プロジェクトのためのドイツ緊急援助基金
(German Emergency Fund)を設立している。
CRSへの報告によれば GT Zは貧困削減に向けて、1999年から主に農村コミュニティー の自立支援や地方政府の能力育成などの要素を含むプロジェクトを実施している。代表 的なものに農村開発分野での農村開発計画(Rural Development Programme)がある。ま た、森林セクターのChuria森林開発プロジェクト(Churia Forest Development Project)は、
森林保全を目標に雇用創出の要素を含むことで貧困削減に貢献することを目的としてい る。これに加えて、農村の貧困層を対象に小規模金融の普及を支援する農村金融プロジ
ェクト(Rural Finance Project)、農村部の食料確保を目的とした総合食料保障プロジェク
ト(Integrated Food Security Project)などを実施中である。
GT Zは従来からエネルギーセクターへの支援に重点をおき、民間セクターへの支援を通 じて小規模の水力発電を促進するプロジェクトを実施してきた。これは農村電化の促進 を目的としており、貧困削減への配慮もあるものと考えられる。
(5) その他の二国間援助機関
その他の貧困削減関連の活動を行っている主要ドナーとしては、スイス開発協力事業団
(SDC: Swiss Agency for Development and Cooperation)と米国国際開発庁(USAID: United States Agency for International Development)がある。特に、SDCは1997年からネパール で全面的に貧困削減プロジェクトを開始している。直接的な貧困削減プロジェクトは保 健や水・衛生セクターに集中しており、間接的な貧困削減には運輸、農業、森林、環境 セクターでの関連プロジェクトがある。1997 年とその翌年には総援助額の70%を貧困関