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教育

ドキュメント内 2003 3 (ページ 32-37)

第 1 章   ネパールの貧困概況

1.2. 社会経済開発指標の測定

1.2.3 教育

ネパールでは、1990 年から1991 年にかけて大規模な民主化運動が起こり、その結果マ ヘンドラ国王の親政から議会民主制へと移行し、議会の複数政党制が認められ、新憲法 が公布されるに至った。教育の分野でも、新たな学習指導要領と教科書の作成が約束さ れ、1993年からは、都市部を中心に後期中等教育の上に2 年の大学進学課程が設けられ る方向にある。現在のネパールの教育制度は初等教育5 年間、前期初等教育3年、後期 中等教育2 年、高等教育である大学(前期2 年、学士2年、修士2 年)となっている。

33 Chhetry, D., et al., (1998), Poverty and Labor Particpation in Nepal: A Macro-Micro Interface.

34統計的な有意水準を1%としている。

35カースト制度の中で最も地位が高いとされるカースト。

36丘陵部に起源をもっている民族。

1992年に中学1 年までの教育の無償化が行われ、初等教育の義務教育化が進められてい る。

1951年までの約100年に及んだラナ将軍一族による世襲専制政治下では公教育制度は存 在せず、10歳以上の識字率は5.3%であったが、1995/96年時に37.8%と増加した(図1-3)。 これは、i)国民からのニーズ、ii)1971年から実施された国家教育制度計画(The National

Education System Plan)に基づいて特に初等教育への公共投資が実施されてきたこと、iii)

「国民皆教育」の実現に向けて教育開発が進められてきた結果であると言える。しかし、

年齢層別、性別、地域別の識字率の格差はいずれも著しい。年齢別、性別で見ると、11

〜14歳の識字率は男子77%、女子56%であるが、60歳以上は男性29%、女性2%とな っており、成人向け(特に高年齢者)への識字教育が遅れていることが分かる37。地域 別・成人識字率は都市部・農村部でそれぞれ 64.1%、33.2%と格差が著しく、極西部・

山岳部(18.6%)、中西部・山岳部(15.6%)は全国平均よりも低い水準である(表1-22)。

0 10 20 30 40 50 60

1952/54 1961 1971 1981 1986 1991 1995/96

識字率(%)

国全体 男性 女性

[出所] UNDP , (1999), Human Development Report 1998より作成

図 1-3 性別・10歳以上の識字率の推移

37 UNDP , (1999), Human Development Report 1998.

表 1-22 教育指標

(単位:%) 基礎教育指標

初等教育 初期中等教育

世帯主の教育達成度

純就 学率

粗就学 率率

純就 学率

粗就 学率

後期中等 教育・

純就学率 成人

識字率 未就学 初等 (小学)

前期 中等 (中学)

後期 中等 (高校)

大学 全国 57 100 19 39 9 35.6 67.0 15.2 7.0 7.4 3.5 都市部・農村部別

都市部 71 103 37 69 23 64.1 37.8 15.7 8.5 18.5 20.0 農村部 56 100 18 37 8 33.2 69.3 15.1 6.9 6.5 2.3 開発地域別*1

東部 59 99 26 45 17 39.6 64.3 15.5 8.3 8.5 3.2 中央部 51 94 18 37 10 34.1 67.0 14.2 5.6 8.0 5.2 西部 70 110 19 44 8 40.5 65.8 14.3 9.6 7.6 2.8 中西部 52 96 18 35 2 21.0 69.3 20.0 4.1 4.9 1.7 極西部 47 103 9 26 0 26.5 73.0 13.7 7.8 4.8 1.8 地形区分別

山岳部 47 93 17 28 2 24.7 79.3 11.8 3.6 3.9 1.4 丘陵部 65 115 21 43 11 42.3 64.1 15.9 7.5 7.8 4.7 タライ平野部 51 89 18 38 9 31.4 67.6 15.0 7.1 7.6 2.7 開発・地形区分別

東部・山岳部 63 114 28 49 8 40.5 74.4 15.5 2.9 5.2 2.0 東部・丘陵部 65 116 16 31 11 41.6 71.3 12.7 6.9 5.9 3.2 東部・タライ平野部 55 86 32 55 22 38.6 59.3 17.1 9.8 10.5 3.3 中央部・山岳部 57 95 19 31 0 23.0 78.9 10.4 3.5 5.1 2.0 中央部・丘陵部 66 119 23 53 15 45.8 57.2 16.6 5.9 11.1 9.2 中央部・タライ平野部 41 80 14 26 6 26.6 73.1 12.8 5.7 5.9 2.5 西部・山岳部 20 25 - - - 6.9 - - - 西部・丘陵部 74 124 23 48 11 47.6 63.7 14.8 11.0 7.0 3.5 西部・タライ平野部 65 94 12 37 4 31.4 68.4 14.0 7.4 8.9 1.4 中西部・山岳部 20 64 6 10 0 15.6 86.0 8.3 2.8 1.4 1.5 中西部・丘陵部 57 103 23 35 2 34.4 64.8 23.6 4.6 5.9 1.2 中西部・タライ平野部 55 97 13 43 2 31.4 71.1 18.2 3.8 4.5 2.4 極西・山岳部 39 96 9 17 0 18.6 77.9 13.9 5.4 2.8 - 極西・丘陵部 47 96 13 30 1 26.1 76.5 10.7 7.7 5.0 0.1 極西・タライ平野部 49 114 5 28 0 30.9 65.5 17.3 6.4 5.7 5.0 性別

 男性 67 - 23 46 13 53.5 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.

 女性 46 - 14 31 6 19.4 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.

支出階層別

貧困層*2 43 66 9 20 3 23.2 77.6 14.0 4.7 3.0 0.6 非貧困層 69 104 26 53 13 43.3 60.7 15.9 8.3 9.9 5.2

5分位分布

Q1(0〜20%層) 39 58 6 15 1 19 79.8 13.8 3.6 2.6 0.2

Q2(20〜40%層) 49 73 10 24 6 26 75.5 14.8 5.5 3.3 1.0 Q3(40〜60%層) 57 90 17 37 5 29 72.9 13.6 6.0 6.7 0.8 Q4(60〜80%層) 74 109 30 51 10 42 62.6 18.1 9.6 7.2 2.3 Q5(80〜100%層) 76 119 32 69 22 55 51.2 15.1 8.9 14.2 10.4

[出所]  CBS, (1996), National Living Standard Survey 1995/96.

[注]  ここでいう「貧困層」は、食糧貧困ライン未満の人口を示す

識字率の向上と同様に、初等教育の就学率も特に1985年から上昇しており、1995/96年 時の粗就学率は男子100%、女子72%となっている。この高い就学率の要因として、i) 1985から1994年の10年間で初等教育の校舎数が17,500校から32,600校、教師数も46,484

人から82,645人と倍増したこと38、ii)児童や両親が初等教育に対して価値を見出してい

るなど、が挙げられる。純就学率は全体で57%と粗就学率と比べて低く、粗就学率との 格差から学齢時の年齢以上または以下の生徒が多く就学しているからだと考えられる。

また、表1-23に示されているように、進級率は第1 学年で低く全体で37.6%、留年率、

退学率もそれぞれ41.9%、20.6%と高い。注目すべき点は、初等教育の就学期間中(5〜 13 年間)に全体で 62%が退学しており、37%が全課程を修了することができ、わずか 10%が留年することなく修了できることである。退学率が高い理由は、以下の通りであ る39

i) 特に女子の家事労働の負担(特に収穫期)により休学しなければならず、授 業についていけなくなり、そのため心理的に学校に行きづらくなる。

ii) 季節、日により授業の時間が異なり、教師不在の場合があるなど不規則な学 校運営により、生徒の学習意欲を阻害する(本来、授業時間は1 日6時間で あるが実際の平均で1日3時間である)。

iii) 初等教育は無償であるにも関わらず、両親は学校運営に関わる諸費用を負担 しなければならず、貧困世帯にとっては負担となる。

iv) 物理的に通学距離が遠い。

v) 両親は授業の内容と将来の雇用機会の向上や社会生活の充実と関連性がない と認識している。

vi) 教師や生徒の低いカーストや民族への差別意識からこれらの生徒の学習意欲 を阻害する。

vii) ネパール語を母国語とする生徒は全体の約半数であるが、ネパール語を中心 としたカリキュラムにより成績が向上しないため、これらの生徒の学習意欲 を阻害する。

表 1-23 初等教育での学年別・進級・留年・退学率       

進級率 留年率 退学率

学年数 国平均 女子 国平均 女子 国平均 女子

1 37.6 37.0 41.9 40.5 20.6 22.5 2 70.1 71.1 18.9 19.1 11.0 9.8 3 77.3 77.8 17.0 15.8 5.7 6.3 4 73.2 75.4 16.9 16.9 9.9 7.7 5 67.0 66.8 17.4 16.8 15.6 16.5 [出所]  MoE, (1997), Education Statistics 1995.

38 UNDP , (1999), Human Development Report 1998, p.80

39 UNDP , (1999), Human Development Report 1998.

純就学率は地域間格差もあり、都市部71%、農村部56%、また山岳部47%に対してカ トマンズを含む丘陵部65%となっている。特に中西部、極西部山岳部での就学率が低く、

これは物理的なアクセスが制限されていることも大きく影響している。表1-24は小学校 への通学時間を示している。全国では、通学時間が30分以内の割合が88.4%であり、30 分から1 時間が7.96%、1時間から2時間が2.85%となっているが、支出階層でみると 格差はより顕著である。支出階層の上位20%層で30分以内が92.33%、30分から1 時間 が5.57%である。一方で、下位20%層の場合は30分以内が79.15%、30分から1時間が

13.37%となっており、通学までの物理的な距離・時間が就学率を低下させている要因と

なっている。

表 1-24 小学校までの通学時間

単位:(%)   

30分以内 30分〜1時間 12時間 23時間 3時間以上 5分位分布

Q1020%層) 79.15 13.37 5.54 0.63 1.31 Q22040%層) 87.93 8.56 2.69 0.40 0.42 Q3(40〜60%層) 88.46 8.83 2.37 0.11 0.23 Q4(60〜80%層) 91.48 5.12 2.75 0.31 0.34 Q5(80〜100%層) 92.33 5.57 1.57 0.33 0.21 都市部・農村部

 都市部 97.40 2.11 0.49 0.00 0.00  農村部 87.67 8.42 3.03 0.37 0.50 全国 88.38 7.96 2.85 0.34 0.47 [出所] CBS, (1996), Nepal Living Standard Survey 1995/96.

初等教育において、前述のような問題を抱えているため、必然的に前期中等教育や後期 中等教育の就学率も低くなっている。前期中等教育の純就学率は全国で 19%、都市部 37%、農村部18%となっており、全体の水準も低い上に地域間格差が著しい。学校数は 増加しており、1971年に677校であったが、1995 年には5,041校と7 倍近くに達してい るが、学校建設は都市部を中心に行われたために就学率に地域間格差を生み出す結果と なった。後期中等教育の就学率で周辺国に比べると低く、全国で9%、都市部23%、農 村部8%と地域間格差が大きい。前期中等教育と同様に学校数は494校から2,654校に増 加したが、都市部中心に学校建設が行われたことにより農村部では学校へのアクセスが 限られている。また、農村部の44%を占める貧困世帯では、生計を立てるために学齢児 が労働力となっており、高等教育になるほど就学率が低くなっている。

表1-22に示すように、貧困者比率と世帯主の教育水準には相関性がある。各教育レベル で、貧困層の就学率は非貧困層よりも低い。例えば、世帯主が学校教育を修了していな い場合の貧困者比率は 77.6%である。世帯主の教育水準が上がるにつれ貧困者比率は低 くなり、各教育レベルの貧困者比率は、初等教育 15.6%、前期中等教育 8.3%、後期中等 教育9.9%、大学5.2%である。支出階層5 分位の平均の割合を見ても、世帯の経済状態と 教育水準に相関関係があることが分かる。初等教育の粗就学率は最下位10%層で58%、

最上位10%層で119%と半分以上となっており、支出階層が上がるにつれ、就学率も上 昇しており、各教育水準でも同様である。これは、授業料が無料とはいえ、中央からの

予算が限られているために、一部学校運営や維持管理の資金を両親が負担しなければな らず、貧困層には負担となっているからである。したがって、教育レベルが低いと高収 入の雇用機会に恵まれないため貧困のリスクが高く、貧困層は収入が不十分であるため 学齢児を就学させる経済的余裕がないといった悪循環を形成している。

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