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経済成長と所得配分

ドキュメント内 2003 3 (ページ 61-65)

第 2 章   ネパール政府の取組み

2.1. 貧困問題を取り巻く経済環境

2.1.2 経済成長と所得配分

前節で見たように、ネパールのマクロ経済の基盤は安定せず、経済成長率は非常に変動 が激しい。1990年から2001年までの実質経済成長率は年率5%であるが、ほとんどの年 はこれを下回る3〜4%の成長率であった。こうしたマクロ経済の脆弱性は、農業セクタ ーの不安定性と政治的混乱による経済活動の阻害要因によるものである。

各セクターの成長率を見てみる。ネパールの農業セクターは、モンスーンに依存した天 水農業が主体であり、天候により生産高が左右されやすい。このため、農業セクターの 成長率は変動が激しく、安定しない。農業セクターの過去 11 年間の平均成長率は年率 2.6%であるが、天候不順が多かった1990年代前半はマイナス成長が続いた。1994年に は8%を超える成長を見せたものの、1995年には再びマイナス成長に落ち込んだ。1990 年代後半では、基本的にはプラス成長であったが、概して低調である。こうしたことか ら、変動の激しい農業セクターの動向が、マクロ経済成長の足を引っ張っていることが 明らかである。

これに対し、高い成長率を示しているのは製造業セクターであり、1990 年代前半には 30%を超える成長を見せた。1990年から2001年までの平均成長率は年率9.3%と非常に 高い水準であった。製造業の高成長は、繊維産業を中心とする輸出指向型産業によるも のであったが、1990年代後半からの欧米諸国の不況による需要低下から輸出は減少して おり、成長は鈍化した。

また、建設セクターおよび商業セクターもそれぞれ年率 6%の成長率であった。建設セ クターの伸びは、第9 次計画における雇用創出政策の一環として、開発プロジェクトの 実施の際に地域の労働力を雇用するプログラムが実施されたことを反映している。しか しながら、1990年代後半には、マオイストの反政府武力闘争が激化し、ネパール全体の 治安状況が悪化したため投資が落ち込み、建設および流通・商業など経済活動が停滞し た。2000 年には成長率は回復し、建設セクター9.6%、商業セクター6.8%であったが、

ビレンドラ国王の暗殺事件のあった2001 年には、それぞれ 0.98%、2.8%と著しく落ち 込んだ。特に、商業セクターに含まれる観光産業は、外貨獲得産業としてネパールの重 要産業であったが、1999 年 12 月のカトマンズにおけるインド航空機ハイジャック事件 の影響により旅客数が減少し、その後も国王暗殺事件、マオイストの活動による治安悪 化とマイナス要因が続き、深刻な打撃を受けている。

-5 0 5 10 15 20 25 30 35

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

(%)

GDP 農業 製造業 建設 商業

〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.282-283より作成

図 2-7 実質GDP成長率の推移(1994/95年度価格=100)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

1 00%

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2 001

その他 サービス 建設 鉱工業 農業

〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.282-283より作成

図 2-8 産業別GDP構成比(1994/95年度価格=100)

ネパールの伝統的な主要産業は農業であり、GDPシェアで見ると農業セクターは依然と して重要な位置を占めている。1990 年代半ばまでは、農業セクターのGDP に占めるシ ェアは40%を超えていたが、年々低下しており、1990年47%から2001年36%と10ポ イント以上低下している。他方、非農業部門の GDP シェアは増加しており、1990 年代 半ばから60%を超えている。そのうち、サービスセクターのシェアが37%と最も大きく、

1999年以降、農業セクターを上回っている。成長率の高い製造業や建設は、それぞれ10

〜11%のシェアとなっている。

ネパールにおいては、農村人口が全人口の90%近くを占めており、農業セクターに依存 する世帯の割合が非常に高い。そのため、ネパールのほとんどの人口が、マクロ経済全 体の動向よりも、農業セクターの動向の影響を強く受けている。過去11年間のマクロ経 済全体の平均成長率は年率 5%であったものの、農業セクターではマイナス成長を経験 している。また、農業セクターの GDPに占めるシェアが低下しているということは、農 村における成長の分配をより縮小させているものと考えられる。

非農業セクターの成長要因の一つとして、農業セクターが停滞したことから、農村にお ける自給自足的農業が立ち行かなくなっていることが指摘されている。65農村の低所得 者層や貧困層は、収入を得られる雇用機会を求めて、国内外での出稼ぎを行うことが増 加している結果、非農業セクターの割合が高まっているといえる。一方で、非農業セク ターは投資環境の悪化の影響を受けやすく、出稼ぎ労働者にとって必ずしも安定的な収 入源となりえていない。また、出稼ぎの機会・アクセスの有無により、所得分配に格差 が生じやすい状況となっていると考えられる。したがって、現状における非農業セクタ ーの拡大は、必ずしも安定的な経済成長基盤としてネパール経済全体の底上げにつなが るものではなく、むしろ、所得分配の不均衡をさらに拡大させるものと懸念される。

(2) 成長による貧困・不平等への影響

最近のネパールにおける全国を対象とする家計調査はNLSS1996のみであるが、2000年 には農村のみを対象とする農村家計消費調査(HCSRN: Household Consumption Survey of

Rural Nepal)が実施されている。ネパールでは農村人口が9 割を占めており、農村にお

ける貧困削減が主要な課題になっていることから、NLSS1996 の農村の計測結果と

HCSRNの計測結果を比較し、ネパールの経済成長による農村の貧困および不平等指標へ

の影響について、分析を試みる。66

成長と不平等の貧困削減への影響は、表 2-3のとおりである。

65 Adhikari, J., (----), Foreign Employment and Remittance Economy of Nepal.

66 HCSRNの貧困指標および不平等指標の測定は本調査独自に行っており、測定結果の妥当性については必 ずしも確保できていない。

表 2-3 成長および不平等の貧困削減への影響

経済成長率 貧困率の 変化率

不平等指標 の変化率

貧困の 経済成長弾性値

不平等の 経済成長弾性値

農村部全体 10.8 -2.4 -1.6 -0.22 -0.15 地形的区分

 山岳部 9.7 -10.1 -3.1 -1.04 -0.31

 丘陵部 10.0 -4.4 -5.1 -0.44 -0.51

 タライ平野部 11.9 -1.0 -1.0 -0.08 -0.08

〔出所  NLSS 1996およびHCSRNのデータに基づく独自推計

〔注1〕経済成長率は、1人当たり消費(名目)による推定値。

〔注2〕不平等指標の変化率はジニ係数の変化率。

農村全体では、経済成長率は年率10.8%と推定され、これに対し貧困率が年率2.4%改善 し、同時にジニ係数も年率 1.6%改善した。貧困の経済成長に対する弾性値は-0.22 で、

これは経済成長率1%の上昇に対し、貧困率が0.22%減少することを示している。また、

不平等の経済成長に対する弾性値は-0.15 で、経済成長率1%の上昇に対し0.15%改善す ることを示すものである。

表 2-3の数値については、サンプルの偏りやデータの制約などから信頼性について問題 があるものの、計測結果とネパールの社会・経済構造の現状から、以下のことが推測さ れる。

丘陵部の農村における貧困率およびジニ係数の経済成長に対する負の弾性値が高く、経 済成長率 1%の上昇による貧困率およびジニ係数の改善度が大きい。これは、丘陵部に はネパール最大の都市部であるカトマンズ近郊の農村が含まれているため、経済成長の 恩恵が大きく、貧困層の底上げに貢献したものと考えられる。また、丘陵部からの都市 部またはインドへの出稼ぎの機会が多いことも、経済成長による所得への影響が大きい ことの要因となっているものと見られる。同時に、出稼ぎには低所得者層が多いため、

経済成長による所得機会の増加が不平等の改善につながっているものと予測される。

NLSS1996 以降、全国レベルの家計調査が行われていないため、経済成長が貧困に与え

る影響が実態としてどのようなものかを把握するのは困難である。また、経済成長によ る農村貧困の削減効果が持続的である保障は無く、むしろ、同国の農業部門および労働 市場は、成長の稗益効果を限定的にさせる内性的な障害を抱えている。そこで、次節に おいてネパールの経済構造と、この経済構造が貧困に与える影響について概観する。

2.1.3 ネパールの経済構造と貧困

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