第 6 章 Twitter データを用いた施策評価の実践
6.3. 調査対象
6.3.1.イベント概要
調査対象である『上野「文化の杜」アーツフェスタ(以下,フェスタ)』は,東京都台東 区にある上野恩賜公園内の竹の台広場にて行われたイベントである(図 6-1).入場料は無 料であり,上野公園に訪れる都内,都外の様々な人々が来場する.フェスタは大きく「ア ートプログラム」と「ステージプログラム」の2種類のプログラムが軸となっている.前 者では,東京藝術大学や国立西洋美術館などによる芸術性の高い展示物や地域文化に関わ りの深い飲食物などが提供される.後者では,特設ステージにて有識者の講演会や有志の 学生やプロ演奏家によるコンサートが催される.
このイベントを評価対象とした理由は,イベントを継続して実施していく意向があり,
イベントの改善に向けた評価を行う必要性が高いためである.また,2016年3月に初めて 開催された試みであり,主催者の持つ事前情報が少ないため,具体的な調査設計や仮説設 定を必要としない探索的リサーチの必要性が高く,Twitterデータの有用性が高いと考えた ためである.
図 6-1 上野恩賜公園内の会場周辺図
東京都美術館
大噴水 アーツフェスタ
会場
上野 動物園
国立科学博物館 20m
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6.3.2.評価ツールとしての Twitter の特徴
Twitterには自身の投稿であるツイートに対し,他者のツイートを引用して拡散するリツ
イートの機能がある.このリツイートにより,一個人のツイートが数百万人の目に触れる 可能性もあり,このような拡散性の高さがTwitter最大の特徴と言える.Twitterのユーザは 若年層に偏りがあるものの,国民全体の利用率は年々増加しており(総務省情報通信政策 研究所 2016),2016年には国内の月間利用者数が初めて4,000万人を超えるなど日本にお
いてTwitterの利用者層は拡大傾向にある(Twitter Japan 2016).
アンケート調査によるデータ収集との相違点としては,イベントの開催有無に関わらず 毎日膨大な量の情報が蓄積されていくため,イベントの開催日や開催時間以外の情報を収 集できる.これにより,イベント開催時と非開催時の比較が可能である.また,イベント 来場者のツイートに対する反響(リツイート)を分析することで,非来場者の関心を把握 することも可能である.そして,これらのデータは無料で比較的容易に取得することがで きる.さらに,ツイートは調査を受けて記入した意見ではないため,イベント関係者に閲 覧されることを考慮したものではない.これにより,本音に近い意見を収集できる可能性 が高く,イベントの改善に役立つネガティブな意見が多く収集できると考えられる.
なお,3 章で述べたように,観光イベントの主催者を担うことが多い観光協会では,
Twitterが十分に活用されていないというのが現状であり,2017年現在,日本における多く
のイベント主催者のTwitterに関する理解度は低いことが予想される.
6.3.3.研究の制約
本研究を行うには大きく分けて二つの観点からの制約がある.一つはTwitterに関する 制約であり,もう一つは実践的な研究を行うことに関する制約である.以下ではこれらの 制約について詳述する.
ます,Twitterを活用するうえで以下のような制約がある.本論文では,4章や5章にお
いてツイートを行わない多数のROMの存在に着目し,これらのユーザからも情報を収集 するための手段としてユーザプロフィールに着目してきた.しかし,本章の分析の目的は 来場者の関心対象やイベントの改善点の抽出であり,ユーザプロフィールからこれらの情 報は導出することは難しい.また,4章ではTwitter, Inc.から認証を受けたアカウントを対 象とし,5章では「観光地に関心を示すユーザ」として市町村観光協会のフォロワを対象 とするなど対象ユーザの選定を行ってきた.しかし,評価対象のフェスタは今回が初めて の開催であるため「イベントに関心を示すユーザ」を抽出することも困難である.
以上の理由から,4章と5章ではユーザプロフィールの分析を行ったのに対し,本章で はツイートの分析を行うため,対象となるユーザが「ツイートをするユーザ」に限られて しまうという制約がある.一方で,ツイートを分析することで,一つ一つの情報量がユー ザプロフィールよりも多くなるという利点がある.また,鶴見ら(2015)は,飲料のツイ ート数と売上が有意に連動していること明らかにしており,限定的であると考えられてい るツイートからも消費者の動向を把握することが可能であるとしている.その他にも,実 世界の事象を観測するためのセンサ(ソーシャルセンサ)としてツイートが利用可能であ るとも指摘されている(榊・松尾 2012).ただし,鶴見ら(2015)は,分析対象とした商 品が新商品であったため,商品に関するツイート数が売上と有意に連動した可能性があ り,ツイートを活用できる対象は限られるという問題を指摘している.この問題に関して は,イベントは限定された期間内で行われるため,新商品と同様に局所的にツイートが増 加する可能性が高いと考えられる.したがって,ツイートからもイベント参加者の動向を 把握することは可能であると考えられる.
次に,本研究はイベント主催者と協力のもとで行われる実践的研究であるため以下の ような特徴がある.Twitterやビッグデータ分析に関する専門知識を持たないステークホ ルダでも理解可能な,可読性の高い結果を示すことを目指す.また,分析にかかる経済的 コストや時間的コストも最小限に抑える必要がある.以上の理由から,複雑な解釈を伴う 分析手法や,コストの高い分析ツールを使うことが難しいなど,方法論に関する制約があ る.さらに,分析対象はイベントの主催者から協力を得られた一つのイベントのみであ り,得られた知見を一般化することは難しいと考えられる.