第 7 章 結論
7.1. 研究の流れ
以下では,1章から6章までの研究の流れを整理する.
7.1.1.日本のデスティネーション・マーケティング
1章と2章では,本研究の背景として,日本の各地域で行われるデスティネーション・
マーケティングの現状と観光におけるソーシャルメディアデータの位置付けについて述べ た.まず,マーケティングの視点から日本のデスティネーション・マーケティングの現状 を整理し,日本のデスティネーション・マーケティングがマーケティング 1.0 の段階に留 まっているという課題を明らかにした.次に,日本にはデスティネーション・マーケティ ングを主導する組織であるDMO が存在せず,その役割を期待される観光協会も予算不足 など多くの課題を抱えていることを明らかにした.本研究では,これらの課題の解決策の 一つとしてソーシャルメディアデータに着目した.マーケティングにおいてICTは,プロ モーション,製品流通,コミュニケーション,マネジメント,リサーチなど様々な場面で 活用され,顧客志向のマーケティング2.0,社会志向のマーケティング3.0を実現する原動 力となった.観光分野においてもICTの影響力は強く,特にソーシャルメディアの影響が 顕著に現れている.ソーシャルメディアから取得されるソーシャルメディアデータは他の ビッグデータと比べて安価に情報を入手することが可能であることに加え,観光者にとっ て重要な情報源であり,観光者間での相互作用によってユーザ数や投稿数以上に影響力を 持つデータである.このソーシャルメディアデータの特徴を活かし,多くの先行研究では,
ソーシャルメディアデータを分析することで観光者の関心対象や行動を把握しようとする 試みが行われてきた.しかし,データを収集する対象のソーシャルメディアによって,得 られるデータの範囲や内容が大きく異なるにも関わらず,これらの研究では,メディアを 選定するための議論が不足していた.これは選定したメディアからどのように有益な情報 を得るかという方法論に主眼が置かれているためである.したがって,分析を行う組織や 地域の現状について,あるいは分析から得られる情報が必要となる具体的な利用場面など については議論されていない.
以上の背景から,3 章では,日本の観光振興組織のソーシャルメディア活用について調 査・分析を行い,その実態について整理した.この調査では,まず,可能な限り多くのユ
ーザを対象とするため,数多く存在するソーシャルメディアの中でも,日本と世界におい てユーザ数の多いTwitterとFacebookに対象を限定した.そしてこれらメディアの利用実 態を調査した結果,FacebookはTwitterよりも利用率が高く,重要性が高く認識されている ことが明らかになった.さらに,Facebookの方がTwitterよりも利用目的が多様であること も明らかになった.しかし,マーケティング・リサーチのツールとして両メディアの特性 を比較すると,Facebookから収集できる情報は非常に限定的であるのに対し,Twitterは幅 広いリサーチが可能であり,マーケティングの基礎的な分析の一つである 3C 分析を行う ためのデータを収集することができる.実際に,Twitterの様々な用途の中でも,Twitterを
「情報収集」の手段として利用している組織は利用していない組織に対してTwitterの重要 性を高く認識しており,Twitterのリサーチツールとしての有用性がうかがえる.以上の結 果から,本研究では,日本のデスティネーション・マーケティング・リサーチにおいて今 後重要なメディアに成り得るとして,ソーシャルメディアの中でもTwitterを研究対象に選 定した.
7.1.2.Twitter データによるマーケティング・リサーチ
4 章では企業や組織による「非個人アカウント」と一般個人によるアカウントが区別さ れていないという Twitter データの問題の解決に取り組んだ.まず,先行研究をもとに
Twitterアカウントを分類するための手法を整理し,非個人アカウントとその他のアカウン
トを分類するための手法を提案した.また,その際に,先行研究で分類に用いられている
「ツイート」はTwitterユーザの約半数が行っていないという現状を踏まえ,ツイートでは なく,ROMでも登録している場合が多い「ユーザプロフィール」を分類に使用した.その
結果,87.8%の正答率で非個人アカウントを分類可能なモデルを作成した.さらに,作成し
たモデルを用いて観光協会アカウントのフォロワを分類し,非個人フォロワ率の傾向を可 視化した.
5章では,観光振興組織が目標策定や戦略立案の際に参考となる情報を得るため,Twitter データによる地域の特徴分析手法を提案した.提案手法では,4 章の分析と同様にユーザ プロフィールを使用し,フォロワのユーザプロフィールにおける単語の出現傾向から特徴 量を算出した.また,地域間の類似性を感覚的に把握するため複数の特徴量を MDS によ って低次元化し観光地ポジショニングマップを作成した.そして,Twitterデータを分析し た際に得られた結果と,既存の観光統計を分析した際に得られた結果を照らし合わせるこ
とで,Twitterデータを活用することによって,人々の関心の傾向を把握できるなどの利点
を明らかにした.
6 章では,観光振興組織が実際に施策を行った際に,それを評価し改善に繋げるための 情報を得ることを目的として,イベントを対象にしたリサーチを行った.6章では,4章5 章とは異なり,ツイートを対象にした分析を行った.これは調査対象であるイベントの特 性が,「観光地」のように恒常的に多くの人々から関心を寄せられるものではなく,期間や 参加者が限定されるものであることから,ツイートによる分析の有用性が高いと考えられ るためである.分析の結果,時系列分析によってイベントの反響が,ツイート内容の分析 によってイベント内のコンテンツへの反響が定量的に示された.これらの結果に加えてイ ベント主催者の意見からも,反響の度合いが把握できるなど,Twitterデータを用いたイベ ント評価の有用性が示唆された.