第 7 章 結論
7.3. 研究の課題と制約
を設定し,機械的あるいは人手でデータのクレンジングを行っており,本研究においても,
4章,5章,6章において分析前に条件設定を行い,ノイズデータを適宜取り除いている.
しかし,この一連の作業は各分析者の知識や技術に強く依存するため,デスティネーショ ン・マーケティング実施者への負担が大きい.したがって,ノイズデータが分析に影響を 与えないように除外する,あるいは内容に応じて価値の重み付けを行うなどの方法論を確 立し作業を簡便化することは,当該分野における新たな研究課題の一つとして挙げられる だろう.
また,ソーシャルメディアデータを活用するうえでのリスクについても理解しておく必 要がある.ソーシャルメディアデータは基本的に無料で公開されており,API によって容 易に取得可能である.本研究で対象としたTwitterデータはその代表例と言えるだろう.し かし,今後ソーシャルメディアデータの価値がさらに認められることで,他のアプリケー ションのようにデータの取得方法が有料での売買のみになり,API での取得が不可能にな ることも十分に考えられる.また,反対に代替品の出現によってソーシャルメディアユー ザが減少し,データの価値が低下することも,過去の人気サービスの衰退から考えれば十 分にありえるため,リスクへの対応策についても議論の余地が残されている.
7.3.2.研究の制約
本研究では,Twitterデータの分析によってデスティネーション・マーケティングに役立 つと考えられる知見が得られた一方で,この知見が観光客の誘致などの具体的な効果に繋 がるのかという検証は行われていない.これには以下のような理由がある.まず,調査期 間の問題がある.デスティネーション・マーケティングでは,マーケティング・リサーチ によって得られた結果をもとに戦略を立案するまでに一定の期間が必要であることに加え,
実施された戦略の効果が表れる時期も変動的である.したがって効果を検証するまでに長 い期間が必要である.次に,協力組織の問題がある.2 章でも述べたように,日本の市町 村観光協会の多くは調査分析に基づくデスティネーション・マーケティングを実施する業 務体制をとっていない.また,行政機関との関わりが深く補助金に依存した運営体制をと っているため,先進的な取り組みに対して慎重である.以上のような観光振興組織の現状 に対し,前述のように,効果検証には長期的な協力が必要であるため,効果検証のための 協力を得ることが困難である.最後に,マーケティングの役割の問題がある.山田(2010) は「マーケティングとは基本的に「解き方」であって「答え」ではない.マーケティング で示される諸情報源は,様々に解釈することが可能であり,機械的に答えが出てくるわけ ではない.」と述べている.つまり,ソーシャルメディアデータから導かれる結果はあくま で「諸情報源」の中の一部であり,また,マーケティングを行うことが必ずしも成功には 繋がらないため,本研究で示した手法による効果を検証することは難しい.
また,本研究では日本語のデータのみを対象にした分析が行われている.これは,対象 とした市町村観光協会の Twitter アカウントが日本語のみで情報発信をしていることが大 きな要因であるが,以下のような制約も関係している.まず,自然言語処理を行う際に多 言語を混同して分析を行うことが困難であるため,それぞれの言語ごとの分析が必要であ り,分析に使用したツールで対応できる言語は限られている.また,分析の過程で単語の 意味の解釈が伴うが,母国語ではない言語を解釈することによる人的な誤りが分析結果に 影響を与えることが懸念される.以上の制約と,収集したデータの大半が日本語データで あることから本研究では日本語データのみが分析の対象となった.しかし,1 章でも述べ たように今後は訪日外国人旅行者が増加することが見込まれており,各観光振興組織が多 言語による情報発信を導入する可能性は高いと考えられる.このような変化に対応するた め,今後は日本語以外の言語にも対応した分析手法の確立が望まれる.
本研究では基本的に観光協会アカウントを対象としており,5 章では観光協会アカウン トへの関心を観光地への関心として扱ったが,観光者にとって観光地を代表するアカウン トが必ずしも観光協会のアカウントとは限らない.実際に,浦安市のように観光協会アカ
ウントから地域の特徴が読み取れないアカウントも存在した.今後は,観光地への関心と 対応したフォロワを持つ観光関連アカウントを選定するための議論や,複数の観光関連ア カウントを組み合わせた分析など,ソーシャルメディアデータから観光地に関する情報を より適切に読みとるための取り組みが必要であると考えられる.
最後に,ツイートの収集の際に適切なキーワードについては十分に議論されていない.
6 章では,イベント名とイベント開催地をキーワードとしてツイートを収集し,分析に必 要な量のツイートを収集することができた.しかし,イベントの開催場所や規模によって は,分析に必要な量のツイートを収集できない可能性もあり,データ量を確保するための キーワードの設定方法についても議論の余地が残されている.また,ツイートの分析手法 についても,今回の分析では実務への導入の観点から可読性の高い結果の出力を目的とし たため,限られた手法のみを使用した.その結果,イベント主催者からは「十分な結果で ある」という意見を得ているが,Twitterデータを用いた分析手法は多岐にわたり,本研究 とは異なる様々な分析が可能である.例えば,投稿者の過去の投稿の分析(西村ら 2015) や,フォロー関係の分析(桑野ら 2012),位置情報の分析(Hawelka et al. 2014)などが行 われている.今後はイベント主催者との協議のうえ,より高度な方法論の確立を目指す試 みが必要であろう.