第二章 未就学の第 1 子を持つ共働き家庭の役割分担
1.2 調査フィールドの概要
本研究での分析は、中国と日本で行った調査を区別しない形で行うが、両国の制度設計に よる、出産・育児や育休・保育体制の違いについて説明しておきたい。
子どものケアを支える社会的ネットワークを形成するものとし、子どもの両親、その他の 親族、地域コミュニティ、家事育児代行業者、保育・託児施設などが挙げられる。子どもを中 心に考えると、こうした様々な個人や団体が子どもの育ちをサポートし、社会的ネットワー クを作り上げている(落合 2007:285)。落合(2013)では、中国と日本の社会的ネットワークと その効果を表 1 のように示している。表 1 の社会的ネットワークのカテゴリーである「母親」
「父親」「親族」などは、中国と日本のいずれの地域においても重要な役割を果たしているカ テゴリーである。
表 1 子どものケアをめぐる社会的ネットワーク
母親 父親 親族 コミュニティ 家事労働者 施設(3 歳未満児対象) 中国 A- A A B C(大都市 B) A
日本 A+ C(共働き B) C(共働き B) B D C(共働き B) A 効果的、B ある程度効果的、C あまり効果的ではない、D ほとんど効果的でない14。 注:「母親」にのみ用いられた記号 A-は、非常に効果的であるが、他地域の母親ほど責任が 集中していないこと、A+はとりわけ集中していることを意味する。
出典:落合(2013:181)から一部抜粋して作成
表 1 は、落合を代表とする研究チームが中国と日本を含むアジア諸社会15でインタビュー調 査と質問紙調査を行い、その結果と調査担当者の意見を合わせて作られたものである。なお、
こうした評価自体がそれほど客観的とは言えないが、「数少ない指標についての測定結果か ら数量的に評価するよりも、それぞれの地域の人々が生活の中で受け止めている効果をでき るだけ反映しようとする」(落合 2013:286)、評価方法として積極的に位置付けることが可能 である。
また、郭(2017)は支援学の観点から中日の育児援助を五つの類型に分け、日本札幌市と中 国北京市で行った実証調査の分析をした。五類型はそれぞれ、①私的援助―自助:自助努力、
家族からの援助、②相互援助―互助:支援者と非支援者のボランタリーな関係、③共同援助
―共助:コミュニティレベルにおける支援、④公的援助―公助:専門家による専門的サービ ス、⑤企業活動―商助:福祉ビジネスとしての専門的サービス(郭 2017:47)である。その結 果、日本では互助が弱く、残りの自助、共助、公助と商助が同じくらいのレベルである(郭 2017:
61)。一方中国も互助が相対的に弱いものの、共助と公助が日本と同じレベルの強さであり、
自助と商助は日本よりも強い(郭 2017:81)。
14 落合(2007:286)によると、ここでいう「A 効果的」とは、夜間も含む日常的なケアの与 え手であること、「B ある程度効果的」とは、日常的なケアの与え手に代わる、あるいは時 間限定的なケアの与え手であること、「C」は不定期で臨時的にケアを提供する、もしくは 一部の人しか利用できないこと、「D」は全くケアをしないという意味である。
15 ほかにはタイ、シンガポール、台湾、韓国においても調査を実施した。
育児をめぐる家族福祉制度は主に、出産・育児休業(以下「産休」、「育休」)、時間短縮勤 務(以下「時短」)、所得保障、そして保育施設の整備などが挙げられる(表 2)。両国とも女性 の産休取得はある程度保障される一方、男性の出産付添休暇や育児休暇の取得率が低いまま である。この点に関して、女性ばかりが産休や育休を取得することが、再び労働市場での男 女不平等を生み出し、女性自身もケア役割を担うなかで性別分業意識を内面化するという、
二重の回路が懸念されている(舩橋 1998)。そして育休が設けられていない中国では、出産し た後に女性は離職するか、復職して祖父母の協力を得ながら家庭と仕事の両立を図っている。
なお、落合(2007、2013)で整理されているように、中国は 2000 年代前半までは「単位(企業)」
付属の保育施設、またはゼロ歳児を含む「全託(フルタイム託児)」の寄宿システムがあった。
ただし、2000 年代後半からはこのような公的保育が大幅に後退している。そこから主流にな るのは表 2 に示した託児所と幼児園である。
表 2 育児をめぐる中国と日本の主な家族福祉制度
中国 日本
出 産
出産休暇 所得保障
産前産後 98 日+各省規定最長 60 日 98 日間×100%+生育保険手当
産前産後 112 日 日給×2/3≒67%
付 添 休 暇 所得保障
7 日+自己申請
7 日×100%+生育保険手当
配偶者入院から出産の日後 2 週間ま での間に 2 日間
育 児
時短勤務 哺乳期終了まで 6 時間勤務 3 歳まで原則 6 時間勤務 育児休業 公的制度なし
雇用先次第で無給休暇制度あり
180 日目まで月給×67%
181 日目以降月給×50%
保 育
利用要件 保育中心の託児所:0~3 歳 教育中心の幼児園:3~6 歳
保育目的の保育所と教育目的の幼 稚園に分かれ16、いずれも 0~6 歳 出典:日本は厚生労働省、中国は政府網資料を参考に筆者作成
就労状況と社会保障については、日本では男性の終身雇用が特徴的であるのに対して、女 性は年齢別の就労率がいわゆる M 字型を示している。高度経済成長による家電の普及といっ た変化で、女性が家事労働から解放され、共働き家庭の割合が増えてきた。総務省の労働力 調査によると、共働き世帯は年々増え、専業主婦がいる世帯の数を上回っている。2014 年で は共働き世帯が 1114 万世帯、専業主婦世帯が 687 万世帯である。しかし、日本で「男女雇用 機会均等法」や「労働基準法」はいずれも男性の正規雇用という働き方を変えないことを前 提としており、女性雇用の非正規化と均等待遇の形骸化が見られる(大森 2010)。いまだに戦 後の専業主婦がいる伝統的な家庭像を想定する社会保障制度が女性の就労を阻害する(嵩 2017)。
一方、中国は様々な社会福祉改革がなされ、新中国が成立する時期から女性の就労が一般 化している。特に都市部では共働き家庭が一般的である。社会保険は雇用者経由の加入が主 流である。「生育」以外に、「養老」、「医療」、「失業」、「労災」という五種類の保険と
16 現在は幼保一体化の動きで認定子ども園も増加している。
「住宅積立金」を合わせて「五険一金」と呼ばれ、この「五険一金」が社会保障制度の基本を 構成する17。また、中国では終身雇用や年功序列ではなく、転勤・転職が一般的である。発達 地域ではファミリー・フレンドリー制度を導入する会社なども少なくない。「停薪留职(ポジ ションを保障する無給休暇)」以外に、子連れ出勤、会社食堂、会社保育施設の整備なども見 られる。
中国と日本の都市部は、社会や制度的な背景から見て違いがあるものの、いずれも家族主 義が強く、祖父母や親族も含むインフォーマルなネットワークで家事育児をこなす傾向が共 通している。ただし、日本は男性の雇用が中国と比べて安定的であるが、女性の就労率が上 昇し共働き家庭が増えている。中国は転勤・転職も頻繁にあるなかで各自の力でキャリアを 形成していくが、都市部では従来から共働き家庭が多かった。また日本も中国も、夫妻の役 割分担に関して伝統的な規範と平等的な規範が共存している。
17 中国の場合、社会保険料は納付基数に納付比率を乗じて計算する。納付基数は納付する 労働者本人の前年度(1 月~12 月)の賃金総額を 12 で割った月平均賃金額である。納付比率 は地域によって異なる。調査地である東南沿海 Z 省 2019 年の納付比率は次の通りである。
「養老」の雇用者納付分の比率は 14%で労働者納付分の比率は 8%。「医療」は雇用者が 10.5%で労働者が 2%、「失業」は雇用者と労働者がそれぞれ 0.5%ずつ、そして「労災」
(職種労災リスクによっておおよそ 0.4-1.6%)、「出産」(1.2%)のいずれも雇用者のみが納 付する。なお、年間保険料の最低金額は前年度の地域すべての労働者の平均年収の 60%、上 限は当平均年収の 300%と設定されている。
2.調査結果