• 検索結果がありません。

結婚・同居から妻の妊娠

第四章 子どもが生まれるまで家事分担

2.1 結婚・同居から妻の妊娠

第 1 章で示したように、夫妻の役割分担の規定要因として、夫妻の相対資源の格差や時間 の制約、役割分担の意識といった六つの仮説がある。そうした要因のいずれか、もしくはそ の組み合わせによって、夫妻の役割分担が決められるという議論がなされてきた。本調査で は、結婚など夫妻が一緒に生活するときから、家事役割が何に規定されて分担されているか を夫と妻の語りで整理した。その結果、主に時間、家事スキル、意識という三つの要因が確認 された。複数の要因が複合的に作用することがあることも分かった。

時間の制約について、結婚・同居する時点で家事が妻に集中していたカップルにおいて、

夫が帰ってこないから家にいる時間が限られ、分担ができないと説明する妻が数人いる。

J-A 妻:「でもパパは飲み会とか、夜のお付き合いとかあるので、なかなか帰ってこ ないから」、「やっぱり帰ってこないときは、不満に思う自分もあるのね…でも自分も 会社勤めなので、主人のことはよく分かるので、理解してあげないと」。

J-F 妻:「私が全部やっていた。…私のほうが仕事早く終わるし、遅く出発するし。

私のモットーは、『夫が働いている時間に私も働きたい』ですね。給料が出る形では なくても。休日とかも、だらけるのは、私が、心が痛むタイプなので、夫が仕事をし ているなら、家にいても私が掃除したり、何かをしたりするタイプなんですよね」。 一方、夫も自分より妻のほうが家に長くいると主張する形で、妻に偏る役割分担を説明し ている。例えば結婚・同居時点で妻中心に家事が遂行され、その後、夫の仕事が忙しくなるこ とで役割がさらに妻に集中していく Y カップルでは、夫が次のように述べている。

C-Y 夫:「その時(妻が)まだ(大学院の)学生だったから、フルタイムで家にいると同 然でしょう…家事とかもずっと私はあまりやらないね」、「その時(結婚・同居の初期) 私の仕事がまだそんなに忙しくなかったから、料理だけは私のほうがうまいし、妻に も教えているし、私がやることが多かったけど。だんだん(私の仕事が)忙しくなると 妻が料理まで作ってくれるから、(夫はやらなくなった)」。

こうした時間の制約を持ち出して役割分担を説明するカップルは、役割分担が妻に偏って いるカップルである。これに対して、家事を夫妻で分担するカップルは、在宅時間に差があ ってもそれによる家事分担の不平等を補おうとしている。

J-H 妻:「晩ご飯を作るのは、夫は絶対無理。帰る時間が遅くて、朝四時に起きて作 ってもらうのもかわいそうだと思って」、「でも土日とかは作りたくないから、『(夫に は)作って』って言ったのね」、「旦那がけっこう仕事が遅いので、私より早く帰って くることは絶対ないので、その間手が空いているのに、やらないで(夫を)待っている というのも、やっぱりおかしいじゃないですか」、「(私が)料理を作る代わりに、ほ かの全部、片付けとかね、(夫が)やってくれます」。

J-H 夫:「料理は土日とか僕が作ります」。

次に、H 妻や Y 夫も言及していたが、料理を作れるかどうかという、いわゆる家事スキルも 役割分担に影響する大きな要因である。家事が妻に集中する U カップルで、妻は次のように 述べている。

C-U 妻:「料理も全部わたしだし、お父さんがあまりできないから。(夫は)炊飯器の 電源を入れるぐらいしか(できない)…。お掃除もやってくれるならやってもらいたい けど、ちゃんときれいにできないし、それは近視のせいかどうか知らないけど、男 は、やっぱり家事はダメなんだね」、「こっちがどうしても間に合わないときは、お父 さんに(食材の買出し)も頼むけど、野菜とか腐ったやつばっかり買ってくるから(頼 りにならない)」。

夫妻の相対資源の格差だけではなく、家事スキルの差も役割分担の規定要因となる。

C-Z 妻:「私のほうが、料理がうまいし、基本私が作るから…家事は全部私だね」。

「私がね、結婚する前から料理とか上手だし、実家のほかの女の子みたいに、怠けて 何もしないような人じゃないから、ずっと上手だったのよ」。

そして自分の料理がおいしいことや掃除が上手にできているなど、自分の家事スキルを主 張することで、好きな家事を独占するよう、パートナーと交渉することもある。

J-B 妻:「食事は(夫より)ずっと私が得意なので、ずっと食事は私だった」、「家事は ね、やらなくていいと言われても、食事は絶対作りますね。好きっていうか、好きな ものを(自分で作って)食べたいから」。

J-B 夫:「僕は作ってくれなくてもいいので(って言うけど) 。まぁ一緒に作ってくれ るし、(妻は)モノを作るのは好きなんだよね、ご飯とか」。

一方で、家事を学んでやるようになる人がいるのに対して、学んでもできない人もいる。

C-W 妻:「(夫は)自分はできないと思っているから。何度か試しに作ってみたけど、

家族が誰も(夫の料理を)食べられなくて。何回か試したのにね」。

このように家事ができなくても許容されることは、夫/男性にみられることが多い。これは 伝統的な性別分業の意識と関連して理解できる。

C-Q 妻:「中国の伝統はずっとこういうものだったの。男はまずこんなに長い間勉強 してきたし(学歴のこと)。だから洗濯ももちろん私のほうが上手にできるし、中途半 端にやってくれるなら最初から私が洗った方が早いじゃないか」。

C-U 妻:「男って、仕事をするほうがまだ才能を発揮できるけど、家事なんかはダメ だよね」。

J-A 妻:「結婚してからずっとそうなんだけど、旦那さんは、旦那さんの人生がある から、私がそのサポートをしていけるようになりたいと思っているから、旦那さんの やりたいことは極力、やらせたいし、それを自分がサポートできるようになりたい し。パパが仕事でがんばることも、旦那さんのやりたいことなので、それをサポート していくのが一番なんです」。

こうした妻たちの考えは、祖父母からの影響を受けた結果でもある。

J-A 妻:「自分の母親は専業主婦だったけど、兄弟の面倒、父のサポート、家事のこ ととかも全部して、父をすごく立てる母親だったので、それが当たり前だと思う」。 J-A 夫:「(妻も家事が)好きではないと思うけど、やっぱ(妻の)親が厳しい親なん で、『夫のためにきちんとやってあげな』って」。

J-C 妻:「父も母も共働きだったので。父はずっと、あまり家に帰ってこない長時間 労働だが、母も働きながら家事育児を全部やって。母のことをすごく尊敬しているの で、そうであるべきだとは思っていますね」。

一方、最初から家事を夫妻で分担するカップルは、相対的に平等な分担意識を示している。

J-H 夫:「僕からしては、(妻と)対等な立場でいたいので。…ずっと一人暮らしだっ たので、家事とかは苦じゃないので、やらなきゃいけないと普通に思っているし」、

「結婚した時から、互いは独立した人だと思っていて、夫婦なんだけど、それぞれ尊 重する、自由にやっていく、でも家庭はきちんとしましょうと(合意した)」。

ここまでの整理から、夫と妻の在宅時間の差が分担を決める出発点であるものの、この要 因は主に妻に偏る役割分担を説明する際に用いられる。時間の制約と関連して家事スキルの 差も取り上げられているが、夫妻分担の状態を実現しようとするカップルほど、時間の調整 や家事を学ぶことでそうした要因の制約を乗り越えている様子が分かる。

ただし、個人の力で左右できない要因によって役割分担が変ることもある。本調査では、

主に妻の妊娠による体調の変化や、夫妻の仕事上の調整が挙げられた。これについて次項で 検討する。