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役割分担を調整していたが硬直化が進む夫妻

第六章 調整されなくなる夫妻の役割分担

1.3 役割分担を調整していたが硬直化が進む夫妻

ん家事や子どもの関わり方を学んできた。しかし夫がある程度家庭役割を担うための経験や スキルを得たものの、夫妻間の勤務時間や収入にあまりに大きな差が残っているため、役割 分担の調整に限界がある。

J-F 妻:「私の意識付けは夫とは平等けど、でも重きとしては絶対ある。向こうは週 6 で働いているから、私は週 4 なんだよ」。

J-F 夫:「仕事のメインはやっぱり僕だと思いますね。嫁も子どもを育てている間に 働いていなかったので、メインは僕が担っているのかなぁ。家事は半々かもしれない ですね。でも嫁が家にいる分、実質的に 4:6 や 3:7 になっているかもしれないです ね。育児に関しては、僕は育児というか、子ども育てるというか、一緒にいるのは楽 しいので、遊んでいる感覚ですね。成長を促してあげたりとか、(そういうことは)少 ないかもしれないですね。嫁はなんか考えているかもしれないが」。

また、本調査で唯一夫妻とも育休を取得した I カップルは、妻が育休中に家事も育児もし てきたのに対して、夫が育児だけをしていた。夫は元々料理ができず、育休の間に学ばせよ うとしたが諦めた経験を妻が述べている。

J-I 妻:「(夫が単身赴任を終えて)戻ってきて、家事分担を始まって。育休をしてい る夫がうちにいるから、家事はしてくれるよなと思いきや、意外としてくれなかった ですね。全然食事はできなかった。私は帰ってきて食事を作っていた。本当に育児だ けの休みなんだよね。…普通の、女性が取る育休ではなかった。女性なら本当に主婦 に戻るような、そこに育児があるという感じだったけど、(夫の場合は)そういう育休 ではなかったですね。しかもさんざん言っていましたけど、『なんでご飯を作ってく れないの』とか。そうしたら、『育児が忙しいから』、『子どもから目を離せないか ら』って(夫が言う)。常に(子どもに)遊んであげないといけないから。最初はけっこ う言ったけど、もう諦めました。本人もそんなに得意じゃないし、言ったら喧嘩にな るし。『(育休で家にいるから)時間があるから、やってみて』って言ったけど。(夫 は)1 年間に 10 回も作っていないと思いますね。それにうちもそうだよね、(夫が普 段料理を作らないから調味料や食材など)どこになにがあるかわからないとかね。で も育休を取ったから、子どもがすごくなついてくるし」。

その結果、調査時点になっても料理は妻が担当し続けている。そして夫は料理を学ぶどこ ろか自分のできる家事すらする余裕がないと述べながら、育休を取得することで「世の中の お母さん」の大変さも分かったと説明している。

J-I 夫:「(夫育休中の一日は)朝ごはんは私が作って、食べた後、(妻を)送り出す。

昼間は私が子どもの面倒。4 時半くらい妻は仕事終わって戻ってくるんですけど、申 し訳ないが晩ご飯も妻に作ってもらっている」、「やっぱり大変だなぁって思いまし た。世の中のお母さんはよく時間のやりくりをしていたなぁって。子どもを見ていた

ら、ぜんぜん家事はできないなぁって。やりたいタイミングに子どもが遊んでほしい と、スケジュールは絶対組めないし、予定通りにはできないですね。洗濯を干すの に、絶対子どもはかかってくるので。すごく大変だなぁって思いました。絶対育休を 取っていなかったら、お母さんたちはそこまで理解できないし、妻にもっとお任せし ていると思います」。

さらに男性であるのに昼間が働いていないことに対する周囲の目線も感じる。

J-I 夫:「やっぱり、平日の昼間に、子どもを抱っこして歩くと、ちょっと見られた りしますね。…宅配の人も(平日で働くべき男性である)私が出たらちょっとびっくり するみたいな」。

このように、夫と妻は役割分担・調整をしてきたプロセスのなかで、どこかのタイミング で分担の仕方に違和感を抱いて調整しようとしたが、現状を考えて断念することがある。I カ ップルの場合は、結局夫が料理を作ることができなかった。ただ育休を取得する経験で妻へ の理解が深め、子どもとの関係性もできていた分、夫が育休を終えた後も家庭役割に関わっ ていた。

本調査が対象にしている都市中間層のカップルは、完全に経済的自由になったわけではな く、そのために共働きや家計の合理性を考えつつ夫妻が行動する一方、ある程度の融通が利 き、調整する余地がある。夫妻とも働いていて子どもを育てていくことは、共通の経験を得 て互いに対する理解も深まるなかで、役割を動態的に調整して分担すると思われる。ところ が調査時点の夫妻の役割分担を見たところ、調整の意思を保ち続け、かつ役割の調整可能性 を保ち続けてきたカップル(パターンⅠ+G、Q)は一部に過ぎない。多くのカップルは、役割 分担を調整していたが子どもが生れた後だんだん調整の可能性が狭められ(パターンⅡの R、

S、E+パターンⅢの F、I、U、C)、やがて夫妻とも偏る役割分担を納得してしまう(パターン

Ⅲの W、D、Y、A、J、Z)。この役割分担が調整されなくなるプロセスにおいて、夫と妻は実際 子どもの誕生を契機に、異なる経験・資源・スキルを得ていく。これについて次節は、家庭役 割と稼得役割の双方に目を向けて検討する。

2.夫と妻:異なる経験・資源・スキル

第 5 章の議論では、子どもの誕生に合わせて夫妻の家庭役割の分担・調整にフォーカスし て考察を行った。子どもの誕生・成長によって、夫妻間で新たな家庭役割が生まれる。子ども のオムツ替えなど、学びながら育児をしていく人がいる。育児役割を遂行していくなかで、

夫と妻のそれぞれが子どもと異なるレベルの関係性にたどり着いたことで、育児の分担が影 響される。一方、つねに子どもの世話をしている方が、子どもが病気になった時も子どもの 付き添いを期待されることがある。つまり、役割を遂行していくなかで夫と妻は異なる経験・

資源・スキルを得ていく、もしくは得ていくと思われるという傾向が示されている。この節 では、これが具体的にどのように起こる事象で、何を意味しているかを分析していく。

また、主に第 5 章の第 2 節で示したように、子どもが成長していくなかで、送迎や急病の 対応などの育児役割をどのように分担して遂行するかは、夫妻の勤務状況とも関連している。

Ahrne&Roman(1997=2001:48-50)は、家庭生活を営む夫妻の役割分担を語る時、少なくとも二 つのレベルがあると考えている。一つは誰が子どもの世話の責任者であるかという、育児役 割の分担のレベルである。もう一つは家庭役割と稼得役割の分担であり、ここでいう家庭役 割には家事と育児の両方が含まれている。夫妻間の稼得役割と家庭役割の分担を検討する際 に、誰が育休を取得するか、誰が時短を利用するかなどが論じられる。男女とも育休の利用 が可能であっても、スウェーデンの調査では育休の大部分を取得し、その後パートタイム勤 務に切り替えるのはほとんどが女性である(Ahrne&Roman1997=2001)。また、結婚・妊娠・出産 で離職する女性も多い。この点について、「平等志向夫婦における妻の労働市場からの退出」

を三具(2018)が検討している。これらの知見を踏まえ、この節では夫と妻の稼得役割につい ても検討する。