第五章 子どもが生まれた後の家庭役割分担とその変化
1.1 第 1 子の誕生
調査協力者からは、子どもが生れたことで家族が一人増えたことに対する違和感が語られ ている。子どもが生れて夫妻以外の誰かがいることに対する感覚を、D 夫は次のように述べて いる。
J-D 夫:「子どもを初めて(病院から)家に連れて帰ってきたとき…本当に、子どもが できて家族が増えた時の、なんだろう、違和感をすごく覚えていますよね。なんだ か、二人、そんなに二人だけでいる時間がそんなに長いわけではないですけど、なん だか、二人以外の『生き物』の存在に違和感をすごく感じた。すごい、なんか変な感 じだなって、すごく鮮明に覚えて」。
そして自分の趣味ができなくなると実感する人が多い。それは家事育児の量が増えていく なかで余裕がなくなるだけではなく、子どもを中心に家庭の生活自体が切り替えられたから である。具体的には家でテレビや映画を見なくなったり、帰宅の時間を調整したりすること が挙げられている。
C-T 夫:「妻のほうはわりと子どもの立場から物事を考えるから。私も、たしかに悪 い癖かもしれないけど、仕事から帰ったら家で映画とかを見るけど、そうしたら遊ぶ なら(寝室から)出てって、妻に言われるね。もう時間だからちゃんと子どもには寝か せないと」。
C-Y 夫:「(子どもの寝かしつけによくないから)できるだけ子どもが就寝する時間帯 には家に帰らないように。これは妻に言われたから(そうしている)。だから早く帰る か、一層(子どもが寝てから)遅く帰る」。
C-Q 夫:「子どもができたら自分で朝食を作るようになったし、家に戻ったらなんで も子ども中心になって、自分がテレビを見ようとするときですら子どものことを考え てチャンネルを選ばないといけないから。もともと(子どもは)昼寝をするからその間 に映画でも見られるけど、今昼寝もしなくなったから(映画も見られなくなった)」。 さらに Q 夫が言及したように、子どものために料理を手作りにすることや、味付けなどの 工夫もなされている。
C-Y 夫:「妻の料理は私が教えたけど、でも今はわりと子どもの好きなものや味付け で作っているね」。
J-C 妻:「外で買った弁当とか、味が濃いじゃないですか。体にいいものを食べたい と、自分で作らないといけないので」。「子どもが小さいと、食べさせるのよね。私が 食べさせるので自分が食べられないのよね。料理を作りながらつまみ食いをしている から、私が基本つまみ食いなので。座って食べる時は子どもを見ているから、こんな に大変なんだねって、自分が座ってゆっくりご飯を食べる時間すらなくて」。 料理だけではなく、洗濯も子どもの誕生でやり方が複雑になる。
C-Q 夫:「洗濯についてもやっぱり妻と意見が分かれるね。私ならなんでも洗濯機に 投げ入れていけばいいと思っているけど、妻は『分けて洗わないといけない』って。
『大人のものと子どものものとか、洗剤も違うから』って。『洗濯機を使うと(服は) 長く持たないから』って(妻が言った)。でもそれなら(洗濯機の)手洗いコースを使え ばいいじゃない。せっかく洗濯機を買ったのに(自分で)手洗いするのもね、ちょっと おかしいじゃないですか」。
C-T 夫:「洗い物はけっこう(妻に)言われるね。男は適当にやるから。でも妻はお洋 服の色とか、素材とかで分けるし、子どものものとも分けるし、洗ってからの干し方 なども、結構教えてもらっているから、服に跡が残らない干し方とか。教えてくれた らその通りにやる」。
以上の引用で夫と妻のどちらの語り手を見ても分かるように、子どもが生れてからの家事 育児の担い手は妻であり、妻ができる限り子どもの立場から物事を考えて夫に指示を出して いる。これは次章で述べる夫妻が見る家事育児役割の風景が異なっていくことにもつながる。
こうして育児によって家事の量が増え、丁寧さも求められるようになった。これだけではな く、子ども教育の観点からも、夫妻が役割分担や交渉するときに気を遣っている。
C-S 夫:「子どもができたらケンカも減ったね。たぶんその(子どもが生まれる)後は 前の五分の一くらいになって。いまはケンカしても子どものことを考えたらすぐ冷静 になるし、子どもにこんな環境にいさせたくないからね。子どもがだんだん大きくな ると、私たちがケンカしているとすぐ感じ取るから、私たちもあの子を見てすぐ冷静
になって、もう(ケンカの言葉を)言わなくなる」。「私もだいぶ怠けてきたので、基本 はお母さんに動かされている。お母さんは取締役で私が実行役でね」、「たまに言われ てイラっとするときもあるけど、でもやっぱりこの家のためだから(妻に)言われた通 りにやるよ」。
J-H 夫:「半々でいたいですね。…もし(女性が)働いていないのだったら、そうです ね、家のことをやってほしいですね。でも働いているなら、家事育児も半々で、むし ろ子どもにも、お母さんお父さんが、対等でいられるというか、(知ってもらいた い)」。
また、子どもには伝統的な家庭像を知ってもらいたいと考える人もいる。
J-A 夫:「ご飯は母の手料理だということを子どもに知ってもらいたい。日本の一般 的な核家族のイメージを、子どもに知ってもらいたい」。
第 1 子の誕生で夫妻が抱える役割が増えていき、生活が子どもに合わせて組み立てられる ようになる。さらにパートナーとの関わり方が変わり、また、子どもに示そうとする家庭像 が意識されるようになる。