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偏る役割分担を納得する夫妻

第六章 調整されなくなる夫妻の役割分担

1.2 偏る役割分担を納得する夫妻

一般的に子どもの年齢が小さい、もしくは子どもの人数が多いカップルの育児ニーズが大 きく、夫の分担が進むと予想される。しかし永井(1999)は、夫の育児役割遂行は子どもが幼 い時に限られる、あるいは一人目の子どもに限られると指摘し、子ども数が多いほど妻の夫 の稼得役割に対する期待が大きくなり、夫妻の役割分担が伝統的な性別分業に近い形で固定 化することを示した。本研究においては、子どもとの関係性は家事育児を主に担ってきた妻 のほうができており、夫の分担が進んだのは息子が生まれたカップルを中心に見られている。

そのため図 2-3 で示したように、調査時点では家庭役割が全体的に妻へと偏っている傾向に ある。

そしてそのなかでは、パターンⅢの下半部に、夫たちは基本役割分担の現状に満足してい るのに対して、妻たちは自分がもっとやるべきだと思うカップルが複数いる。

D カップルは妻が妊娠することをきっかけに夫が掃除を 100%担うようになった。この分担 の形は妻が子ども産んだ後も続いている。これを妻は「自分の甘え」として説明している。

J-D 妻:「妊娠して(夫に掃除をやってもらうことに)甘えるようになって。もういま 妊娠じゃないけど、やってもらっている」。

ほかの家事育児はほとんど妻が担いながら働いているにもかかわらず、妻は掃除を夫に甘 えていると気にし続けている。調査時点の役割分担が最善だと思うかと尋ねたところ、D 妻は 次のように答えた。

J-D 妻:「私が怠け者だろうかね、(旦那が掃除を)やってもらえるなら甘えるけど、

でもそれは旦那さんにも負担をかけるから」。

このようにすでにかなりの家事育児を担っているにもかかわらず、夫の分担を高く評価し て、自分が十分やっているかを疑問に思う妻は D 妻だけではない。Y カップルは調査時点で夫 が安定的に分担しているのは、子どもの送迎(送り)のみで、それ以外の家事育児は基本的に 妻に任されている。それでも妻は次のように述べていた。

C-Y 妻:「家事はやってくれるならやってほしいけど、どうも(夫のは家事が)好きで はないし、できないし。だからもうこれでいいや、とりあえず子どもの面倒を優先に して、家が乱れていてもいいから、あとで(私が)なんとかするから」、「今稼ぐことは 両方とも稼いでいるし、子どもも夫が送っているから。(これで)かなり分担してもら っているから。まぁ、私のほうが多いけど、家事の 99%が私だから」。

妻たちは不満に思わなくなり、現状を受け入れるだけではなく、育児や家族のことを考え て自分の仕事のやりくりをしたり離職まで検討したりする。J 妻は第 1 子を妊娠するときに、

仕事を辞めたくないと夫に意思を示し、育休を取る前提で働き続けていた。しかし夫と家事 育児分担のやりとりをしていくなかで、夫妻間のリズムの相違ややり方の違いで、夫から分 担を得てもそこに限界があると考えるようになった。そして第 2 子の誕生で家事も育児も量

が膨大にあるなかで、妻の離職が検討されている。

J-J 妻:「私が仕事を辞めたくないって言ったのが、最初のきっかけかなぁ。『仕事続 けます』って、言って、『お願いします』って、最初に話し合いはしたね。でも育休 とか取る予定だし」。「私がもうちょっと手伝ってほしいって言って、だんだんいまの 状態に近づいてきた感じだね。それと、わたしがああこういうもんだなぁって、これ ぐらいしかできないと、諦めた部分も(多い)」。「相手になにかやってもらいたいとき はなかなか(夫が)いないので、(私が)やらざるをえないというか。そういう時間がま ずほしいから。でも向こうに勤務時間を減らすというまでは、いいかなぁ。けっこう 働いてくれて、家計を支えてくれているので、ありがたいです、それだけで」。「育児 とか家事とか自分のほうが得意だから、私がやる」。「両立が難しいですね、ぎりぎり 両立できたとしても、自分の子どもと一緒にいる時間がすごく短いですね」。 J-J 夫:「最初はちょっと金銭的にきびしかったけど、共働きが助かるし。いまは生 活に余裕が出たので、もうやめてもいいし、最近は『辞めたい』って言いだしたの で、『辞めていいよ』って(夫が言う)」。

ここでは妻は直接離職については語っていないものの、調査時点に至るまで夫から十分な 協力を得られず、それでも夫が家計を支えていることと自分がそれまで家事育児を担ってき て上手にできることから現状を容認してきた結果、両立ができず、毎日が大変だという様子 が分かる。調査時点までに家事育児の量が増えていく事実を考えると、実際結婚や第 1 子誕 生の時点くらべ、夫妻間の分担割合がより不平等な方向へと移行し、妻一人が抱える家事育 児の量も増えている。しかし、妻たちは当時ほどの不満を持たなくなることに留意する必要 がある。

Z カップルは第 4 章でみたように、結婚時点で妻が夫の分担を促そうとしたが、夫が「電話 に出たフリ」でそれを逃れている。その後子どもが生まれた後、妻はまた何度か夫の分担を 促そうとしたが、夫が根に持つタイプで態度も横暴であると分かった。

C-Z 妻:「夫はね、自ら(家事など)やらないどころか、せっかく私がきれいに掃除し たところを汚してしまったりすることもあるのよ」。「例えばいつも言っているのは

『風呂上りにちゃんと体を拭いて』とかね。そうじゃないとあっちこっちに歩き回っ たら床がまた水で汚れるでしょう。何度言っても汚すからイラっとするよね」。「もう 本当に、こっちは死ぬほど疲れているし。子どもも家のことも全部私がしていたし、

疲れると本当にすぐきれるから、何度も言ったし。それでも聞いてくれないから怒っ てケンカするよね」。「でも私はケンカしても終わった話はすぐ終わるし。ケンカにな ると彼のほうが(私よりも)立派に怒るよ。また凶悪な顔するし横暴な態度を取るし、

彼は根に持つタイプなんだよね」。

調査時点で妻は現状を消極的に受け止めている様子が語られていた。

C-Z 妻:「いくら分担しようとしても無駄だよね。(夫の)会社がたまに用事とかもあ るし。私が多めにやってもいいから、二人でなんとかうまくいけばね。互いの相性が ね、合わないときもあるから、家事育児とか誰がやったって、いいからね」。「もうど うでもいいから、どうせ仕方ないでしょう、どうせ彼と分担はできないよね。いくら 今週が疲れて大変だとしても、彼に食材の買出しを任せるわけにはいかないし。彼に はこう、なんだろう、親しんでくれないというか、忙しいのかなんなのか分からない けど、私や家のことには関心を示さないの」。

一方 Z 夫の話によると、会社が引っ越すことで妻の職場が遠くなる。通勤時間の長さが家 事育児の支障になるため妻が離職する可能性が高い。いずれもまだ検討中ではあるが、こう して J カップルや Z カップルのように、最終的にもし妻が離職すると、平等な役割関係に向 けた夫妻の役割シフトができなくなる。そして何より、こうした離職は、妻たちが家事育児 を引き受けていくうちに不満に思わず「スムーズに」導かれている。

A 妻は、職場からの配慮をありがたく思いつつ、自分も長年働いてきたから「よほどのこと がない限り、辞めることはないですよね」と述べている。それでも「ただ、あくまで、家族が 一番なので、家庭のことや子どもに支障が出るのであれば、それはもちろん(仕事を)辞める けど」と説明している。A 妻も調査時点に至るまで、夫の家庭役割の分担があまり進まないこ とを経験してきた。A 妻はこれまで取り上げた協力者と比べて、調査時点で自分に偏る役割分 担の状況に、より「積極的な」意味付けを与え、それを受け入れている。

J-A 妻:「最近は(夫のことを)『よくできた彼氏だよね』って、思うようにして。旦 那さんだから『やるのは当たり前』というのはどこかにあるから、でも彼氏だったら 遊びに来る感じで、『なのに、家のこともしてくれる、子どものこともしてくれる』

って、なんっていい彼氏なんだろうって、思ったんですよ」。

以上のように、調査時点の役割分担を、図 2-3 で示したパターンⅢの下半部にあるカップ ルに注目して見ると、妻たちが不平等な役割分担に対する不満が吸収され、偏った家庭役割 の分担が維持されるだけではなく、離職まで検討している妻が複数いて伝統的な性別分業カ ップルに押し戻される動きがみられる。これは役割分担の硬直化レベルが高いカップルの特 徴として捉えられる。