第四章 子どもが生まれるまで家事分担
2.2 妻の妊娠から第 1 子の誕生
っていたりするけど、体調が悪い時はなにもしないですね。僕が仕事を終わって帰っ てから家事とか、片付けるという感じですね」。
F カップルの事例では、例え夫の分担意欲が明らかにない場合であっても、妻に分担を促さ れるとやるようになる。これは妊娠という契機に、夫妻間で役割分担について交渉し、これ までの分担の形を調整することである。なぜ夫が妻の意思に従って行動したかについては、
ケンカという明らかな交渉の手段が使われていたことが夫妻双方の話から確認された。
J-F 夫:「本当は嫁にやってもらいたいですけど、ケンカになるから、(妻にやらせる ことを)やめる」。
J-F 妻:「(役割分担は)毎日が最善だと思う。だって(私が)最善だと思わなかった ら、すぐケンカになっちゃうから。すぐね、言いたくなるし。それで『俺が頑張るか ら』って、(夫が)言うから」。
次に二つ目の方向性――役割分担がさらに妻へと偏っていく――を検討する。この方向性 は主に、離職や産休で妻の家にいる時間が長くなることと、夫の仕事が忙しくなることで説 明される。T カップルは、妻の話によると、流産の経験があったため、妻は妊娠に備える時点 から仕事を辞めて家にいた。すると自然に妻が家事をより多く担うようになった。ただし、
もともと T カップルは夫妻で家事を分担しており、夫も協力的である。妻は 1 日中で家にい るとはいえ、家事を自分の裁量で行ったり、家事をせずに帰宅した夫に任せたりすることも 可能である。
C-T 妻:「妊娠したらつらいときは(家事とか)なにもやらないし、まぁなんともない 時はやったりするけど、その時住んでいた家もそんなに広くないから、特に掃除とか しなくても」。
C-T 夫:「(妻が)妊娠したときは、子どもが生まれたらよくなる(夫妻分担の状態に戻 れる)と思っていたけど。(家事とか)二人だけでやっているから。妻が病院に行くと きの付添とか(も私がするし)」。
一方、X と S カップルの場合は、妻は離職していないものの、ちょうど妻が妊娠する前後か ら夫の人事異動などにより夫の仕事が忙しくなった。
C-X 妻:「妊娠から出産後の間は旦那さんが一番つらかった時期だよね。そっちはポ ジションをこう、いろいろ回るタイプだったから、その時がちょうどすごく忙しいポ ジションについてしまって、いつも帰ってくるのがもう夜中になるんだよね。その時 健診とかも全部自分で行くしかないし」。
C-X 夫:「私がそのとき一番下っ端で働いているから、とても忙しくて」。
C-S 夫:「ちょうど妻が妊娠した時に私がものすごく忙しくて。毎日残業で、時間も
自分でコントロールできるような状態ではなかったし、だからその間は本当に、妻に 申し訳ないですね。特に妊娠した後、産前の二三ヶ月が、妻に謝りたいぐらいちゃん と傍にいてあげることができず、それは(結婚してからいままでの間で妻の傍にいる ことが)最も少なかった」。
C-S 妻:「キャリアを積み重ねていくためならやはりすごく忙しくなるし。私だっ て、お父さんにはもっと家にいてほしいし、もっと家のことをやってもらいたいの に。でも(夫に)言っても仕方ないよね。お父さんだって仕方ないよね、仕事には専念 しないといけないし」。
S 妻の話から分かるように、夫には家にいてほしいと思いながらも、稼がないといけないな かで、「夫の仕事が忙しくなる」という状況に妻は対抗のしようがない。一方夫も「妻に申し 訳ない」と感じながらも、働かざるを得なかった。
さらに Y カップルの場合は、Y 妻は結婚した時点でまだ学生であった。本来の予定では卒業 して仕事することだったが、妊娠したことで内定が取り消しになった。夫は当時自分の仕事 も忙しくなったと述べているが、最も大きな原因は妻が専業主婦になったことだと考えられ る。
C-Y 妻:「この子は予想外だったんですよ。元々の予定は卒業したら仕事するし、契 約書とかも全部サインして内定をもらっていたのに。でも当時の(内定をもらった)仕 事は人事関係だったから、卒業式の時に妊娠だということが分かって、それで会社の 社長さんに、『人事担当なのに自分が入社したとたんに妊娠したとはちょっとね』っ て(言われて)、(会社を)やめるしかなかった。そのときはすごく泣いたけど、泣いて も仕方がないから、妊娠したままで就活もできないし、家にいるしかなかった」。 仕事を失うことで非常に悩んでいた妻と比べ、夫はそれをたいしたことではないように語 っている。
C-Y 夫:「卒業したら、元々就職先が決まっていたけど。でも妊娠したから、それな らおとなしく家にいたらいいじゃん、って(妻に)言って。どうせその時妻は家にいる から、料理も洗濯も妻がやるから」。
以上のように、妻の妊娠で夫妻の役割分担が二つの方向性に向かって変化するが、夫の分 担が進む場合は、夫自身の分担意欲や妻からの明らかな交渉で夫の分担が促される。一方妻 の家事分担の割合が増える場合は、夫の仕事の変化と妻の在宅時間の変化が原因であり、そ れらの変化が同一カップルのなかで同時に起こることもある。職場におけるキャリアの形成 と、家庭内で子どもの誕生が、時期的に重なっている場合、夫妻間で明らかな交渉が行われ ないまま、家事分担が妻に偏っていく。