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第 5 章

5.7 設計者間の関係構築のための時間

回路設計者と基板設計者は多くの対話によって、「こだわり」「好み」といった言葉 で表された「意志」を感じ取りつつ、設計を互いにより良い物に変えていっている。

では、このような関係性が構築され円滑に設計が動き出すために要する時間はどれ ほどであろうか。

まず、基板設計者が変わることによって、回路設計者は基板設計者との関係性の構 築をやり直していることを示す発言があった。

筆者:担当の人が変わったときに、多分最初その方が書いたアートワークを見 る時があると思うんですけど、その時はどのように感じられました?

田中氏:そうですね、今までは痒い所に手が届いてたのが、届いてないとか、

もう1回その関係性を構築しないといけないというか、私が意図するものを具 現化してもらうためのやり取りが発生するな、っていうのはちょっと。(否定 的なニュアンスで。手間がかかってしまうという気持ちを表す)。

田中氏は、担当が変わると「痒い所に手が届いてたのが、届いてない」とし、再度

「私が意図するものを具現化してもらうためのやり取りが発生するな」と述べた では、回路設計者と基板設計者の関係性において円滑に設計が動き出すための時間、

言い換えれば設計者間で、阿吽の呼吸で設計がおこなわれるのにはどのくらいの時間 がかかるとインフォーマントは考えているのだろうか。それを示す発言は次のような ものであった。

・回路設計者 佐藤氏の場合

筆者:大体落ちつく、そういうのが落ち着いてくるまでって、最初仕事始めて からどのぐらいの期間、もしかしたら何回…

佐藤氏:1年以上かかりますよ。

(佐藤氏が基板設計者に望む「黙ってても、ものができる」に近い状況になる 時間についての質問)

・回路設計者 田中氏の場合

筆者:なるほどね。大体痒い所に手が届くよっていう人って何年ぐらいお付き 合いされた方ですか。

田中氏:そうですね、3、4、3~4年ぐらい付き合ったんじゃないですかね。

筆者:3~4年で、1年あたり何回ぐらいお仕事されてます。

田中氏:2回、3回、2回か、3回はいかないか、2回ぐらいはあるかなと。

筆者:一年に2回で3~4年というところで。

田中氏:そうですね。

回路設計者の視点では、少なくとも1年以上、最大で4年くらいはかかるとした。

ただし、佐藤氏からはその期間における設計の内容によっても違いがあると語られた。

筆者:1年間で何回ぐらいお仕事頼んで。

佐藤氏:どのぐらいだったんだろうね。難しさにもよるから、何とも言えない んじゃないのかな。要するに、線引くだけの簡単な仕事が毎回毎回行ったら、

10回でも100回でもやってもダメだよね。難しいことをやりだして、何回か、

5~6 回やんないとダメなのかな、基本は 1 年以上一緒にやってないとダメで すよ。

筆者:1年間で何回ぐらいお仕事頼んで。

佐藤氏:どのぐらいだったんだろうね。難しさにもよるから、何とも言えない んじゃないのかな。要するに、線引くだけの簡単な仕事が毎回毎回行ったら、

10回でも100回でもやってもダメだよね。難しいことをやりだして、何回か、

5~6 回やんないとダメなのかな、基本は 1 年以上一緒にやってないとダメで すよ。

他方で基板設計者の場合は次のように語られた。

・基板設計者 木村氏の場合

木村氏:例えば何十年もこの人にアートワークをやってもらいました、不具合 もありません、っていうのは本当の信頼だと思うんですよね。

筆者:何十年。

木村氏:何十年。2~3 回やって、この人のアートワークよかったから、ほか のところはどうでも大丈夫だろう。車の運転じゃないですけど、「だろう」っ ていうのが一番危なくて、「大丈夫だろう」と思ったらそこは誰も見ないわけ ですよ。アートワーク者としては、お客さんが見てくれる「だろう」。回路設 計者としては、このアートワーク者だったらちゃんとやってくれる「だろう」、

と思って。そこが何かあるかも、って見る人がいなくなるわけですよ。それは ちょっと怖いなと思いますけどね。

木村氏の言うような、実際に何十年も付き合いがあることは極めて稀な関係であろ う。ここからは、木村氏は常に慎重な態度を崩さないことと、顧客には相互に確認し てほしいといった気持ちを感じた。それは、木村氏が語った基板設計のこだわりを、

常に顧客に見てほしいという気持ちも込められていたのかもしれない。

まとめると、今回のインフォーマントにおいては、回路設計者の「痒いところに手 が届く」や「黙ってても、ものができる」に近い状況になるには数年、基板設計者の 場合は、数十年と開きがあった。

ただし、初回でそのような関係性が構築されることは無く、数年以上、数回、比較 的規模が大きい設計をおこなうことが、回路設計者と基板設計者との関係性が構築さ れ、円滑に設計が動き出すために要する時間であることもわかった。

第6章