第 4 章
4.3 基板設計側(K 社側)の事例
4.3.4 基板設計 営業 渡辺氏 山本氏の事例
渡辺氏、山本氏とも50人前後の回路設計者と日常的に対話をしていた。
そこでまず、顧客である回路設計者についての認識について質問をおこなった。
筆者:今日は回路設計者のお話をお伺いするのですけど。端的にいい回路設計 者ってどういう設計者さんですか?
渡辺氏:ぶっちゃけた話をすると、我々としては、喜んでいただけるのが嬉し いところがあるので、本当にこうすべてに対して僕としては感謝してくれてい るお客さんは、やっぱりやりがいは感じます。あとは、結構購買さんには多い んですけど、下請け感覚で来られるお客さんもいるんですけど、やっぱりウィ ンウィンで我々もことも考えてくれてっていう仕事をしてくれる方は、やっぱ り嬉しいですね。
筆者:そういう方はどのぐらいいますか?
渡辺氏:技術さんはいい方、優しい方も多いので。それでも全体の6割、7割 ぐらいはそういった感じでお仕事はやらせていただいていますね。
まず、渡辺氏は感謝が示されることと述べた。それによって渡辺氏はやりがいを感 じている。続けてWIN-WINの関係が構築されることだと述べた。回路設計者の6-7 割がこのような関係だと述べた。続けて残りの4-3割について尋ねた。
筆者:残りの4割はどういう感じですか?
渡辺氏:残りの4割はですね、会社の方針だとは思うんですけど、やっぱりガ チガチアイミツ(相見積)とったりとか、毎回、駆け引きをしてくるじゃない ですけど、やっぱり数社の1つとしてしか見ていないというお客さんが多いで すね、イメージ。
筆者:駆け引きしないのが良いお客さん?感謝してくれるのが良いお客さん?
渡辺氏・山本氏:(笑)
渡辺氏:理想形ですけど、そんなことはほぼほぼなくて(笑)。まぁ駆け引き あったとしても感謝はしてもらいたいというのが正直なところです。そういう お客さんに対してはこっちも頑張れるし、結構無理な要求にも応えたいなとは 思えてくる。
渡辺氏は駆け引きが無いのは理想状態であり、現実ではその状態はあまりないこと を述べた。また、感謝してほしいといった欲求は強いようだ。他方で、山本氏はどう だろうか。
筆者:山本さんはどう思いますか?
山本氏:いいお客さん?
渡辺氏:難しいよね、でもね。
山本氏:うん、僕が思ういいお客様というと、やっぱり営業としてで考えると、
渡辺さんが言っていた内容というのはそのとおり。やっぱりお客さんとしては いいお客さんなんですけど。同じような話でいくと、一緒にやっていこうとか
というふうに考えてやってくれるお客様が、一緒にじゃ、道筋を変えていこう ねとか、一緒にいろいろやっていこうというお客様が、僕にとっていいお客様、
僕が思う、営業としてはいいお客様じゃないかなとは思いますね。
山本氏は、渡辺氏の話を肯定し、更に「一緒にやっていこう」という顧客が、良い 顧客だと答えた。では、そのような顧客がどの程度存在するかを質問した。
筆者:どのくらいの比率ですか?
山本氏:そういう人の比率は意外と少ないかもしれない。3 割、4 割ぐらいじ ゃないですか?一緒にやっていこうというところまでいってくれる人は。
山本氏は「一緒にやっていこう」となる顧客(回路設計者)は3-4割であると言う。
このような顧客は少数派だと認識している。
それ以外に、顧客(回路設計者)に対しての思いを引き出すため、逆に悪い設計者 はどのようなものかと質問した。
渡辺氏:たまにいるのが、結構理不尽なことを言ってくる。例えば、お客さん の都合で納期が延びたけど、ものづくりで何とか縮めさせようとするんですけ ど、そこも、本当に困っているんで、助けてくださいというスタンスで来れば、
我々も頑張るんですけど、そういうのを「何とかしろよ」みたいな感じで。そ の辺が理不尽というか、お客様の都合で振り回されるじゃないですけど、そう いうところがちょっと――何だろうな、難しいなぁ(笑)。
筆者:この人、いい設計者だなと思える要素は何ですかね?
渡辺氏:基本的にはすべてが正論というか、それはもうやるしかないですねと か。
渡辺氏は、説明するのが難しいとしながらも、悪い設計者は理不尽、振り回すとし た。それの逆の意味を尋ねると、「全てが正論な設計者であれば、やる」と答えた。
この時点で筆者は、両氏に緊張が見られることを察知した。K社と筆者が所属する S社には取引関係があるので、自然と緊張が生まれたのだろう。そこで、緊張を解き
ほぐすこと考え、あえて渡辺氏にこれまでの発言の矛盾を問うことにした。その際、
筆者の声の調子や表情によって、より緊張感が増すことが無いよう配慮をした。
筆者:ちょっと意地悪な質問をさせていただいてもいいですか?
渡辺氏:あっ、はいはい。
筆者:駆け引きするというのは、ある意味、会社としては正論なことをやって いると思うんですよ。
渡辺氏:そうですね、そのとおりですね(笑)。そうなんです。そこも重々理 解はしております。あくまで我々がやりやすい――難しいな。
筆者:やりやすい要素というのは、駆け引きとしないとおっしゃいましたね。
渡辺氏:正直、我々納得ができれば、もう全然いいんですけど。納得できれば、
それはもうやりますよと。中身はそういう、裏付けというか、理論もなく話し て。そういう理由ならしようがないという、その辺はやっぱりありますけど・・・。
筆者:これもまたちょっと意地悪だと思うんですけど、どんな理由を言われて も結局、それはあなたの都合でしょう?ということにならないんですか?
渡辺氏:そういうのもありますけど(笑)。なんだろうなぁ。あとですね・・・
いろいろ・・・難しいな。
渡辺氏は困ったように頭を掻く仕草を見せ、山本者は隣で苦笑いをしていた。
そこで筆者は両氏が会社の立場での発言をすることに、力を注ぐことが少なくなる ように次のように述べた。
筆者:渡辺さんは今まで15年間、山本さんだと8から9年ですか。その間こ の回路設計者と付き合って面白かったなというのを思い出してお話していた だけば。会社対会社で丸めようとするのではなくて。一般論になるよう頑張っ てお話しいただかなくても大丈夫ですよ。
渡辺氏:なるほどなるほど
渡辺氏は大きく頷き、納得した表情を見せた。ここで次の対話の口火を切っていた だいたのは山本氏である。
山本氏:僕がやっぱりいいと思った設計者さんっていうと、今までやっていた 中でいくと、設計だけじゃなくて、全体を見ている、全体を知っている。物を つくったりだとか、製品出しますとかというときに、企画全部を知っていると か、全部話ができるのが、結構いい設計者さんかなと。ものづくりの流れとか、
時間がかかるようなことを兼ねて、何かその辺を知っている設計者さんって、
付き合っていてもいい設計者さんですね。自分が知らないことも教えてくれる し。
渡辺氏:そうだね。でもやっぱり、そういう人だとね、納得できる話にもして くれるからね。
山本氏:そうですね。ここをどうすればいいとかというので。
筆者:なにか回路設計という枠を超えているような気がしますね。製造技術み たいな。
山本氏:結構知っているかたって意外といる。意外といる。(自分自身で確か めるように、「意外といる」を繰り返した)意外と少ないですけど、そういう 設計者さんだと、すごい。いい仕事したなあと思う。
渡辺氏:いい設計者というか、できる設計者。
このあたりで、インタビュー開始当初にあった相手の発言を交互に確かめつつ、筆 者の様子をうかがうように多めの間を開けながら話す様相はなくなった。両氏の間で の対話も始まり、言葉が円滑に紡がれるようになった。
両氏は、数は少ないが両氏の知らないことを教えてくれる設計者を「いい設計者」
「できる設計者」と表現した。その設計者が両氏に教える内容は、その物の企画、も のづくりの全体の工程の流れ、時間軸などだと語った。渡辺氏はそのような設計者と 仕事をすると「いい仕事をした」という感覚を覚える。
筆者:一言でいうと仕事の流れを教えてるっていうことなんですね?
渡辺氏:我々はですね、基板しか知らないところがあるんで、ものづくりはそ んなに、全体的なところは知らないので、やっぱり教えていただくケースはあ りますね。