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第 5 章

5.2 回路設計と基板設計の分業の営み

5.2.1 技術的理想と現実のはざま

基板設計における技術的理想を、木村氏はこのように語った。

木村氏:配線長0が理想なんですよ、当然。

木村氏が言う配線長(パターン)0が理想、とは少しでも配線があれば、そこで信 号伝送や電力伝送の損失が生まれるためだ。

近年の基板設計では、技術の進化(信号の高速化)に伴い配線をどのような形状で 引き回すか、等長にするのか、等遅延にするのかなど、基板設計が影響する要素が大 きくなっている。それを理想状態にするには配線長(パターン)を0にすることにな

る。

しかし、現実として多数の部品間を接続する配線(パターン)は、必須のものであ り、その結果理想は実現できない。このことを木村氏はこのように述べた。

木村氏:けどパターンをちょっとでも引く、っていうこと自体で妥協なんです よ。

木村氏は「妥協」が前提であるが、そうであっても技術的工夫、例えば等遅延など で配線の影響を見えなくなうような工夫を凝らすとした。

配線長0といった実現できない理想と現実の間で、常に妥協が生まれている状態が 回路設計者と基板設計者のはざまにある世界である。

更に、別の視点で技術的理想状態を考える。それは回路設計データを基に基板設計 を自動化するという設計自動化の観点である。設計自動化が困難である要素は次よう になる。

・配線が、繋がっているだけでは100点にならない。

木村氏:アートワークって不思議なもので、(ネットリストデータどおりに)

全部繋がってれば、全部繋がってる、ショートしてない、っていったらそれは 正解なんですよ。けどそれは100点じゃないんですよ。

・顧客の好みを読み取ることが重要な要素である。

木村氏:重要なファクターとしては、お客さんの好み、が入りますね。その好 みを読み取るっていうのも、アートワーク者としての結構大きなファクターと いうか、にはなるのかなと。

回路設計者は、基板設計者の妥協の状態を捉えているのだろうか?それを捉えてい ることを示した発言は次の通りである。

佐藤氏:(基板設計に)1 対 1 の回答はないよね。真っすぐ引いてもいいし、

曲がって引いてもいいわけで、それは誰が悪いのかっていう、そういう状態に なりますよね。考え方になると思いますけどね。

田中氏:ああ・・。何でしょうね、パターン図面でいうと、例えばある層で、

1層だけで引けるというようなものが、無駄に複数の層にいっているというよ うな感じ、だからネット上はつながってますけど、本来そうしなくても、もっ とスマートに引けるというようなのは垣間見られたり、多数基板内で見られた りとかすると、その辺はちょっと気になったりはします。

回路設計をおこなう佐藤氏の場合は、基板設計に正解は無いとし、それは考え方次 第だと述べた。田中氏は具体的な例をあげたが、田中氏は気になった箇所があっても、

常に完全に除去しようとはしていない。そのことは、気になる箇所を発見した時の田 中氏の対応の様子の発言からわかる。

田中氏:気付いたらですね、実質その何かしらの修正案件があれば一緒に修正 してもらいます。ただ、それだけ、っていうもののときは、依頼しません。

基板設計に正解はないという発言や、必ずしも修正を依頼しないことからは両氏と も基板設計に正解は無いと認識していることがわかる。

また、基板設計に正解がないことは、佐藤氏のこの発言からもわかる。

佐藤氏:真っすぐ引いてもいいよね、曲がってもいいよね、でも人によっちゃ 真っすぐしか許さないっていう人もいるわけですよ。俺なんかどうでもいいか ら。ちゃんと線がつながってればいい。いうように、理屈が合って動けばいい んだよっていう言い方をすれば、彼らは精神的には楽なんだよね。中に入って くれればいいんだよ、最大の条件がちゃんと動くことでしょ。

この発言からは回路設計者によってもこだわりの程度が違うことが示された。佐藤

氏の場合は基板設計者の自由度を高くしているが、その場合でも、完全に自由にする 訳ではない。それは佐藤氏の「理屈が合って動けばいい」という発言で示された、佐 藤氏の回路設計者としての一定のこだわりである。

回路設計者(依頼者)の好み、こだわりや回路設計者側でも基板設計の内容につい て妥協が容認されている状況から、このように基板設計をすれば問題が無いとする正 解は現時点で存在しないことになる。このことは基板設計の自動化を困難にする要素 である。

まとめると、電気の観点での技術的理想とされる配線長ゼロは、物理的制約から実 現できない。また、設計自動化という技術的理想は、基板設計の過程で回路設計者と 基板設計者の好み、こだわりの多様性があることから実現できない。

これらから、回路設計者と基板設計者の分業においては、技術的理想と、それから 乖離した現実のはざまを認識しながら、設計をおこなっていると考察する。