第 4 章
4.3 基板設計側(K 社側)の事例
4.3.2 基板設計者 木村氏の事例
木村氏の経歴を質問した中で、木村氏は学生時代に多くのことをやったと述べ、そ れには基板の設計や製作も含まれていたとし、それを自身の強みとし次のように発言 した。
木村氏:学生時代のその知識はだいぶ役立ってますよ。基板って知ってる方は 知ってますけど、知らない人はほんと知らないんで。結局その工程ってあるじ ゃないですか、穴開け5る、エッチング6する、その前に現像7しなきゃだめだ、
5 穴開け:スルーホール、ビアを形成するための穴をあけること。
多層になったらプレス8しなきゃだめだとか、そこら辺を理解してるっていう のは強みではありましたけどね。
筆者:ものの作り方を知っているアートワークやっている人と、知らないでア ートワークやっている人がいるということですか?知らないでアートワーク やっている人ってがいるのですか?
木村氏:います。います。まさに今の会社がそうなのですけど、基板、今の会 社、工場持っていないのですよ。会社としては、基板製造、基板実装という工 場を持ってないのです。なので、K社の時代は会社自体が工場、実装全てを持 っていたので理解しなきゃだめですし、自社の工場のスペックに合わせて設計 をしなきゃだめっていう縛りがあったんですけど、今の会社は工場を持ってな いので、言い方悪いですけど上から、こういうアートワークをしたからもう作 りなさいっていう立場になっていますね。なんで今の会社の、例えばある人は、
アートワークはできるけど、基板の作り方はわからない。例えばアートワーク のガーバーデータを出したら、それが例えば最初に何を、CAM編集9って何?
例えば、CAM編集をしたあと最初の工程は何?っていう人も結構います。
そこで、基板の製造工程を知らない基板設計者が、基板設計や製造にどのような影 響を与えているのかを質問した。
筆者:実際そういう人と、木村さんのように工程をご存じの人と、仕事の結果 を何で比較するかというのは難しいと思いますが、例えばお客様からのクレー ムとか、質の差を感じることはありますか。
木村氏:差は大いにありますよ。試作レベルだったらいいのですけど、量産と
6 エッチング:基板上にパターンを形成するため、余分な銅箔を溶かす工程のこと。
7 現像:エッチングの工程で、パターンとなる銅箔を溶かさないように、銅箔の表面 に被膜を形成する工程のこと。
8 プレス:複数の絶縁版・銅箔を加熱プレスすることで張り合わせる工程。多層基板 を製造する時に必要になる。
9 CAM編集:CAMとはコンピュータ支援製造 (computer aided manufacturing)
の略語。基板設計後、基板設計図を基板製造用のデータとして、コンピュータを用い て整えることをCAM編集という。
かになると、歩留まり。結局そういう工程を知らないと、不良率が上がるんで すよ。アートワーク的には不良ではなくても、設計、製造として 10 枚つくっ たら5枚ダメになる、それはでもある意味設計の不良かなと思うんですよね。
木村氏は、製造工程の知識の有無は、大いに質やクレームに影響するとした。木村 氏は工程を知っていることから、製造上の品質まで意識した基板設計をしていること もわかる。
しかし、基板設計者によって木村氏が認識するほど大いに差があっても許容されて しまうものだろうか。これについて質問をおこなった。
筆者:それでも今の会社では許容されるのですか。
木村氏:許容されることもありますね。結局、どこまで責任を取るかっていう ところなんですけど、アートワーク屋って、ある意味クリーン(な立場)で、
結局ショート10してなかったりとか、仕様をちゃんと守ってるってなると、言 い方は悪いんですけど非はないんですよ。
基板設計者の立場では提示されたネットリストデータどおりであること(ショート していないこと)と、指示書や仕様書を守っていれば、非が無いと言える側面がある ことを示した。
では、木村氏の感じている課題の改善はできないものだろうか?と疑問に思い、次 の質問をした。
筆者:その歩留まりが悪いのも、何か工夫しようみたいな動きは、工程の事を ご存じでない方はやらないままなのですか?
木村氏:正しくいうと、やれないです。予測ができない。例えば基板をこうい う工程でつくるから、こういう設計をしたら危ない、という予測が知識として ないんで、予測できない。
筆者:その人が知識を、みんながその知識を身に付けるというのは?
10 ショート:電気回路において、設計上必要がない電気的接続が発生してしまうこと。
木村氏:それはもう、経験則でしかないので。
筆者:ああ、現場見ないと分かんないということですか?
木村氏:そうです。製造の方法を知らないと身に付かないですし、例えば1回 そういう危ういことをやって、今度からそうやらないどうこうする、っていう レベルなんですよね。そういう体(てい)を知ってると、何ていうんでしょう、
予測ができるというか、細かいところがいっぱいあるんですよ、基板でもやっ ぱり。そこの予測できるかできないかっていうのは、経験則でもあり、知識量 っていうところはかなりありますよね。
木村氏は、経験と知識がなければ、そもそも改善することはできないと述べた。
そして、経験と知識の具体例として基板の隅に開ける穴の位置について述べた。
木村氏:基板端に(穴が)近すぎると。多分何も知識がない人は、お客さんに 言われたとおりやるんですけど、これぐらい近かったら、外形加工するときに、
基板割れちゃうかもしれないですよ、っていう指摘ができる、っていうところ は、どうしても経験になっちゃいますよね。知識がない人は疑問にすら思わな いので、お客さんの図面どおり。お客さんも当然基板は知らないので、自分の 都合でしか書かないですからね。
木村氏はここで現在の会社の同僚の話に加え、顧客側も基板のことを知っている人 が少ないと述べた。それが現れる具体例として穴開けを例示した。基板設計者によっ ては基板のことを知らない顧客の指定のままに基板設計をおこない、歩留まりを悪く してしまうことがあることを述べた。
次に木村氏は歩留まり(量産性)優先なのか、顧客の指定を優先するのかについて の質問をした。
木村氏:例えば製造の歩留まりがすごく悪い。10 個つくって 7 個不良になっ ちゃうような基板でも、電気的にいいものをつくりたいお客さんも当然いるわ けで、けどその10個つくって10個良品を出すために、電気的なところを若干 犠牲にする、どっちがいいかっていうのはもうお客さんの好みになってしまう
ので。
筆者:木村さんはその好みは聞くのですか。
木村氏:自分は聞かないです。自己判断です。
筆者:木村さんはどっちが優先なんしょうかね。特性優先なのか、量産性優先 なのか。
木村氏:2者択一するのであれば、量産性を優先します。
筆者:なるほど。確実に判断するのであれば、例えばお客様のほしい数を聞い て判断してもいいのではないでしょうか?
木村氏:何ていうんでしょう、電気的な特性も、NGだと当然NGなんですよ。
ベストじゃなくても、ベターであればよしとする。レベルっていうところです ね。結局でも最終的には基板って量産、よほどの(数が少ない)試作基板とい うか、評価基板とかじゃなければ、製品になるものは量産入って、数がある程 度出て、ってなる中で、最終的に問題になってくるのはコストなんですよね。
歩留まりって直にコストに響くところなんで。
木村氏は電気的な特性を優先するか、量産性を優先するかは自己判断すると述べた また、木村氏の電気的な特性と量産性のバランスのとり方の判断は「ベターであれば よしとする」との言葉に端的に表れた。「ベターであればよしとする」という表現は、
木村氏がQCDのバランスをとることを優先して考えているということだろう。
つづけて、木村氏がなぜそのように考えるようになったのかを質問した。
筆者:なぜその思いが木村さんに生まれたんでしょう。
木村氏:本質としては、CADオペレーターになりたくないからです。
筆者:なるほど。
木村氏:言われたとおりにやる、それはもう別に海外の設計者であっても、日 本人じゃなくてもできることなんですよ。結局回路図渡されて、考えて、基板 つくるにあたって、簡単に言うといいものをつくろうっていう発想になると、
製造だったり、後々の量産になったときの歩留まりだったり、LED とかスイ ッチとか見た目、スイッチの操作性、とかも考えてやるっていうのが、CAD オペレーターじゃなくて、そういうことができる人が、CAD オペレーターじ