第 3 章
3.3 インタビューの質問内容
リサーチ・クエスチョンの答えを導くため、表 6の質問内容を設定した。
リサーチ・クエスチョンそのものを直接的に尋ねない理由は二つある。
第一の理由は、筆者はS社に属しており、K社とも関係がある。すると「あなた(筆 者)はたぶん全部言わなくても分かってくれる筈だ」という様な思い込みや先入観を
生む可能性がある。このため、満足な回答が得られないことが容易に想像できたため だ。
第二の理由は、リサーチ・クエスチョンである創造性に関する質問の回答を述べて ほしいと設計者に要求しても、それを躊躇う状態が発生することが予見できるからだ。
このことは吉川らがエンジニアの創造性を文脈で捉えることを試みる研究をおこ なった過程で、エンジニアから話を聞き出す時の課題として述べられている。
多くの技術者は、インタビューしても自分たちの考えはなんら体系的でもな ければ科学的でもなく、経験を述べたにすぎないと謙遜する。非公式に尋ねる とさまざまな考えや仮説を持つ技術者は多いが、一部の技術者を除いてほとん ど主張しない。筆者は、これを科学教条主義の弊害であると考えている(吉川 ほか編 1997b: 224)。
設計者の世界は工学の世界であり、理論づけされていて、再現性が存在し、測定可 能であって、同分野の設計者であれば万人に理解できることが期待される世界である。
逆に創造性や相手との関係性のような、設計者達にとっては理論づけ、再現性、測 定可能性がないと考えられる世界を語ることを躊躇うことが予測できる。
設計者とのインタビューで、彼らに「これは私だけの世界だから」と思わせてしま えば、多くの設計者は口を閉ざしてしまう可能性を高めるだろう。
他方で、設計者が語りやすくするための工夫もあわせておこなった。
設計者にとっては可視化されたバウンダリーオブジェクトは日常的に触れていて、
それは理論づけされていて、再現性が存在し、測定可能なものだという思い込みが存 在している。いわば彼らが安心できる世界の物だ。これをインタビューに活用するこ ととした。
具体的には、設計者達には図面について問いかけつつ、図面についてインフォーマ ントが語ったことをきっかけに、設計者間の関係性を探る質問を随時挟むこととした。
表 6:主な質問予定の内容
質
問 質問内容 意図
1 ・経歴と仕事の内容
・インフォーマントが回路設計と基板設計の分業の 様相を語るのに適切な経歴かを確認する
(適切な経歴とはいずれか片方の経験が主で あるということ)
2 ・どのような図面を作成しているか
・インフォーマントの日常業務の役割を確認し 回路設計と基板設計の分業の様相を語るのに 適切かを確認する
3・バウンダリーオブジェクトの 収受の流れを把握する
・分業相手との図面のやり取りの タイミングを明瞭にする 4・バウンダリーオブジェクトに対し
互いが指摘する内容はなにか
・分業相手との図面のやり取りで 双方向性があることを明瞭にする
5・取引が継続する相手は
どのようなものか ・実務的含意を導く 6
・良い分業相手とは どのようなもので
どのような付き合いをするのか
・この答えから、分業相手に対する思いを明瞭にする かつ、共鳴の姿を洞察するための
質問(SRQ2のための質問)への呼び水とする 7
・回路設計者と基板設計者は どのような対話をしているか
・対話でおこなわれている内容は何か
・技術者間で共鳴と知識の創造の様相を 洞察する
8・回路設計者と基板設計者の対話は 常に技術的に解が明瞭な形で進むのか
・もし明瞭であれば、自然科学や工学で 説明可能な世界となる。本研究で
狙う共鳴を通じた知識の創造というよりも 単なる工学知の伝達となる
・明瞭でなければ、なぜ、そのような対話を しているのかを質問する
9
・良いバウンダリーオブジェクトとは なにか
・バウンダリーオブジェクトから 感じることはなにか
・自身が作成する図面で 気を付けていることはなにか
・具体的にお互いが感じ取っている様相が 述べられれば共鳴につながることも考えられる
10
・相手の違いによって
図面の「らしさ」は認識できるのか
・相手との協働で安定した状態に 入ったとは、どのような状態か そのための時間はどのくらいか
・らしさがあれば、認識の強度を洞察する
・共鳴へ至る過程を聞き出す
11・対話によって起きる図面上の 変化は具体的にどのようなものか
・形として明示されるものがあれば本研究の 確かさを高める図として示すことが可能になる
12・4-11の回答から、共鳴のプラス要因となる と考えた回答の阻害要因を質問する。
・共鳴が起きない状態と、それによる行動の変化を 探る
13・対話によってもたらされる行動の
変化はなにか? ・共鳴が起きた時の効果を探る
14・設計者は対話の内容の記録をとり それを次回に役だてているのか
・記録があり、かつ閲覧できれば分析対象とできる
・記録が無く、または閲覧できない場合も 考えられる
その場合は、どうしているのかを探る SRQ1のための質問
「回路設計者と基板設計者の分業の様相とはどのようなものか?」
SRQ2のための質問
「分業状態にある専門が異なる設計者間の共鳴とはどのようなものか?」
SRQ3のための質問
「設計者間で共鳴が生じないのはどのような場合か?」
導入部
MRQのための質問
「設計者間の共鳴には、どのような効果があるのか?」