第5章 裁決
1 裁決の態様
(1)却下裁決
却下裁決は、審査請求が不適法であると審査庁が認める場合に、本案の審理を拒絶するという 判断を示すものである(法45条1項、法49条1項)。
審査請求が不適法であることが明らかである場合には、審理手続を経ないで却下裁決をするこ とができる(法24条。第2編第1章4(22ページ)参照)。また、不服申立要件(審査請求の適法 性)が問題となっていて、具体的な審理を実施しなければ判断できないような場合は、審理手続 を行い、その結果、審査請求が不適法であると認める場合に、却下裁決を行うことになる。
(2)棄却裁決
棄却裁決は、審査請求に係る処分又は不作為を是認するという判断を示すものである。
ア 処分についての裁決 (ア) 通常の場合
処分についての審査請求の場合は、一般に、審査請求が理由がない場合、すなわち、審査 請求に係る処分が違法又は不当のいずれでもないと審査庁が認める場合に、棄却裁決を行う ことになる(法45条2項)。
(イ) 事情裁決
処分についての審査請求において、当該処分が違法又は不当であるが、これを取り消し、
又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合(※)において、審査請求人が受 ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上で、
処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、当該審査請 求を棄却することができる(いわゆる事情裁決)。
事情裁決を行う場合には、裁決の主文で、当該処分が違法又は不当であることを宣言しな ければならない(法45条3項)
(※ 例えば、学校設置基準を満たさない私立学校認可申請に対してされた認可は違法であるが、審査請求時 に既に当該学校が開校しており、当該認可の取消しが当該学校の在籍生徒や関係者に与える影響が甚大で ある場合が挙げられる。)
イ 不作為についての裁決
不作為についての審査請求の場合は、審査請求が理由がない場合、すなわち、当該不作為が
「相当の期間」を経過しているがそのことを正当化する特段の事由があり、当該不作為は違法 又は不当のいずれでもないと審査庁が認める場合に、棄却裁決を行うことになる(法49条2項)。
(3)認容裁決
ア 処分(事実上の行為を除く。)についての裁決
審査請求が理由がある場合、すなわち、審査庁が審査請求に係る処分が違法又は不当である と認める場合は、裁決で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する。た だし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合は、処分庁に対する一般 監督権や処分権限を有しないことから、当該処分を変更することはできない(法46条1項)。 なお、審査庁は、審査請求人の不利益に当該処分を変更することはできない(法第48条)。
イ 事実上の行為についての裁決
審査請求が理由がある場合、すなわち、審査庁が審査請求に係る公権力の行使に当たる事実 上の行為が違法又は不当であると認める場合は、裁決で、当該事実上の行為が違法又は不当で ある旨を宣言するとともに、当該事実上の行為について、以下の措置を講じる(法47条)。
① 審査庁が処分庁の上級行政庁である場合は、処分庁に対して、当該事実上の行為の全部若
しくは一部の撤廃又は変更を命じる。
② 審査庁が処分庁の上級行政庁でない場合は、処分庁に対して、当該事実上の行為の全部又
は一部の撤廃を命じる。
③ 審査庁が処分庁である場合は、当該事実上の行為の全部若しくは一部を撤廃し、又は変更
する。
なお、審査庁は、審査請求人の不利益に当該事実上の行為を変更すべき旨を命じ、若しくは これを変更することはできない(法48条)。
ウ 不作為についての裁決
審査請求が理由がある場合、すなわち、当該不作為に係る申請から相当の期間が経過し、か つ、そのことを正当化する特段の事由も認められない場合は、審査庁は、当該不作為が違法又 は不当である旨を宣言する。(法49条3項)
(4)申請に対する一定の処分に関する措置
申請拒否処分(法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分)又は不作為についての審査請求につ いては、争訟の一回的解決を図る観点から、次のとおり、認容裁決をする際に、申請に対する一 定の処分をする旨の措置をとる手続が設けられている。
ア 処分についての審査請求
処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、申請拒否処分についての審査請求に対する 裁決で当該処分の全部又は一部を取り消す場合において、当該申請に対して一定の処分をすべ きものと認めるときは、以下の措置をとる(法46条2項)。
① 審査庁が処分庁の上級行政庁である場合は、処分庁に対して、当該申請に対する一定の処
分をすべき旨を命ずる。
② 審査庁が処分庁である場合は、当該申請に対する一定の処分をする。
なお、当該処分の根拠となる個別法令において、第三者機関に対する諮問手続や、関係行政 機関との協議等その他の事前手続をとるべき旨の定めが設けられており、上記①②の措置をと るために必要があると認める場合は、審査庁は、その手続をとることができる(法46条3・4 項)。
イ 不作為についての審査請求
不作為庁の上級行政庁又は不作為庁である審査庁は、不作為についての審査請求に対する裁 決で当該不作為が違法又は不当である旨を宣言する場合において、当該不作為に係る申請に対 して一定の処分をすべきものと認めるときは、以下の措置をとる(法49条3項)。
① 審査庁が不作為庁の上級行政庁である場合は、不作為庁に対して、当該申請に対する一定
の処分をすべき旨を命ずる。
② 審査庁が不作為庁である場合は、当該申請に対する一定の処分をする。
なお、当該処分の根拠となる個別法令において、第三者機関に対する諮問手続や、関係行政 機関との協議等その他の事前手続をとるべき旨の定めが設けられており、上記の①②の措置を とるために必要があると認める場合は、審査庁は、その手続をとることができる(法49条4・
5項)。