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行為 を示 すの に用い られ る複 合語

第 4 章 中国語の動詞 由 来複合 語 の語形 成 と意味機 能

4.6.2 行為 を示 すの に用い られ る複 合語

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(59) 「吃泡麵」 のイ メー ジと その百 科事 典 的知識

上記 の知 識 で 注目 した いのは 、「熱 湯 を 容器 に入 れる」や「 鍋 に入 れて 煮る 」とい う部分 である 。即 席麺 は「 熱湯 を注ぎ 、麺 を ほぐし てか ら食 べる 」と いう 食 べ方 が 一般的 だと 思 われる 。つ まり 、こ の「 熱湯を 注ぎ 、 麺をほ ぐし てか ら食 べる 」とい う知 識 が デフ ォー ル ト値な ので ある。それ に対 し、「 熱湯を 注がず にそ のま ま食 べる」とい う、デ フォー ルト 値 に相反 する 知識 が「乾吃」とい う表 現 の 形成を 動機 づけ てい ると 考えら れる 。「乾吃」は「泡 麵」の ほか に「奶粉」 や 「麥片」も 対 象とす るが 、い ずれ も「 熱湯が 必要 」 という 点で 共 通して いる 。

「乾吃」 に関 連し て 、「乾吃」 と 同様 に語構 成要 素に 「乾」が 入って いる 表 現に「乾刮」

(から 剃り )や「乾洗」(ド ライ クリ ー ニング )、「乾煎」(乾 煎り)、「乾拌」( スープ を入 れ ずに和 える )な どと いっ た 複合 語を 見 ておき たい 。こ れら にお ける 「乾」 の 意味は いず れ も「乾吃」 の「乾」 とは 異なっ てい る 。例え ば、「乾刮」は 「鬍子」( ひげ ) を対象 にし て いる。「刮鬍子」(ひ げを 剃る) に一 般 的に 「 水や シェ ービ ング フォー ムを つ ける必 要が あ る」ため、「乾刮」は「 水や シェ ービ ン グフォ ーム をつ けな い で ひげを 剃る 」という 意味 に なって いる 。ま た、「乾煎」は「食 材」を対象 とす る が 、フラ イパ ンで 食材 を 焼く時 に、油 をひい てか ら焼 くの が一 般的で ある た め、「乾煎」は「油を ひか ずに 焼く」と いう意 味 に な ってい る。 どれ もデ フォ ールト 値と 異 なって いる 。

次の 「盲打」 であ るが 、これ は繰 り 返し述 べて き た よう に、 目的語 を取 る (より 正確 に 言うと 、目 的語 を文 に明 示する ) こ と ができ ない 。し かし 、一 般的に 打つ 対 象は「電腦 鍵 盤」( パソ コン のキ ーボー ド)だと 理解 され る 。従 って 、こ こで は「電腦 鍵盤」の 百科事 典 的知識 を例 示す る。

目的: 腹ご しら え

方法:(カ ップ麺 の場 合) 調味 料と 熱湯 を 容器 に入 れ、

フタ をし て 数 分間 待つ 。

(袋 麺の 場合 ) 熱 湯が沸 騰し て いる鍋 に麺 を入 れて 数分 間煮 て、 調味料 が入 れ てある 丼に 移し て食 べる 。

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(60) 「電腦鍵盤」(キ ーボ ード )の イメ ージ と その 百科 事典 的知 識

「泡麵」だ けで は「乾吃」に導 かれ ないと 同様 に、(60)に示さ れて いる「電腦鍵 盤」の 百科事 典的 知識 だけ でも 「盲打」に 導 かれな い。 デフ ォー ルト 値でな いキ ー ボード だけ 考 えれば 、「無線鍵 盤」(ワ イヤレ スキ ー ボード )な どが 思い 浮か ぶであ ろう 。 なぜな らキ ー ボード はコ ード がつ いて いるも のが 先 にあっ たか らで ある 。従 って、「盲打」の語形 成を 動 機づけ てい るの はお そら く「打鍵盤」( キーボ ード を打 つこ と)と いう こと で あろう 。周知 の通り 、キ ーボ ード の操 作を習 い始 め の 時に 、あ るい はキ ーボ ード の 操作 に 慣れ て いな い 人にと って 、キ ーボ ード は見な がら 打 つ必要 があ る。 言い 換え れ ば、 キー ボ ードを 見な が ら操作 する とい うの が「打鍵盤」 の デ フォー ルト 値だ と言 える 。キー ボー ド を見ず に操 作 できる よう にな るま で時 間がか か り 、 見なが らの 操作 より 特殊 な行為 であ る ため、「盲打」 で表現 され る と 考え られ る 。

次の「夜騎」(夜 乗り )であ るが 、そ の対象 は(46)に 見る 通り、「自行車」(自転 車)や

「重型機車( 大 型バ イク)」に 限定 され ている 。従 って 、以 下に は「 自転 車」を例に それ に 関する 百科 事典 的知 識 を 示す。

(61) 「自行 車」(自転 車) のイ メー ジと その 百科事 典的 知識

構成的 役割 : 合 金や ゴム 、革

形式的 役割:フレ ーム 、リム 、ハ ンド ルやサ ドル など に よっ て構 成され る 二 輪 車

目的的 役割 : 移 動す る

構成的 役割 : プ ラス チッ ク 、金 属

形式的 役割 : ア ルフ ァベ ットな どが 印 刷され てい るボ タ ン が並 べら れてい る 長 方 形、パ ソコ ンに 繋 げ るコ ード がつい てい る

目的的 役割 :パ ソコ ンへ 入力す る

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上で 検討 した 例 と 同様、「自行車」の 百科事 典的 知識 だけ でも「夜騎」に導 かれな い。従 って、「自行車」 だけ では なく、「騎自 行車」(自 転車に 乗る (こ と)) につ い て考え る必 要 がある のだ ろう 。

(62) 「騎自行車」(自 転車 に乗 る ( こと)) のイメ ージ とそ の 百 科事 典的知 識

注目 すべ きは 自転 車に 乗る目 的は 上 に示 さ れた 通り、通勤 や通 学な ど様 々あ るが、「夜騎」 は主に スポ ーツ 目的 のサ イクリ ング に 使われ てい ると いう 点で ある。 サイ ク リング に限 ら ず、他 の活 動も日 中に 行う のが 一般 的だ と 思わ れる 。夜が 一般 的に 睡眠 の時 間で あるた め、

日中に 活動 する 、夜 に睡 眠をと ると い う考え に反 する 夜 の 活動 は「夜騎」 の ように 表現 さ れるこ とが 多い 。 睡 眠は 夜が デ フォ ー ルト 値 で、 他の 活動 は日 中が デ フォ ー ルト 値 であ る という 想定 に基 づく と 、 これと 反対 の 時間帯 に行 われ る行 為 を 表す複 合語 の 形成が 動機 づ けられ やす いこ とが 予想 される 。実 際、「晨跑」(「朝 走り 」ジ ョギン グ)や「晨泳」(「朝 泳 ぎ」)、「晨騎」(「 朝乗 り」)、「午睡」(昼 寝)、「夜遊」(夜 遊び )、「夜爬」(夜 登 り)、「夜跑」

(「夜 走り」)など が 実際 に用 いら れて いる表 現で ある のに 対し、「#日跑」(「 昼走り 」)や「#

日泳」(「昼 泳ぎ」)、「#日騎」(「 昼乗 り」)、「#夜睡」(「夜 寝」)、「#日遊」(「 昼遊 び」)、「#日 爬」(「 昼登 り」) など が 用 いら れて いな いこと も 上 記の 主張 の妥 当性を 裏付 け ている 。 「夜騎」 のほ かに 、語 構成要 素に 「夜」が 入っ てい る複 合語 に 「夜 唱」 や 「夜爬」と い った複 合語 も見 受け られ る 。この 中で、「夜 唱」は「 夜に 歌う こと 」と いう意 味にと どま ら ず、「 深夜 まで歌 い続 ける 」や 「朝 まで 歌い明 かす 」と いう 意味 にも使 われ た りする ため 、

「夜騎」とは 意味 が少 し異 なっ てい る 。しか し、「夜 爬」も 夜明 け に かけ て行 われる 活動 で あると 考え れば、「夜 唱」の「 歌い 明か す 」と いう意 味は 以下 に示 され るよ う な 意味 拡張 の 結果だ と考 えら れる 。

目的: 通学 ・通 勤手 段も しくは スポ ー ツとし て

方法: サド ルに 座り 、ハ ンドル に手 を 握って 方向 を制 御 し、 ペダ ルを こい で進む 。

時間:(ス ポーツ とし ての 場合 )日 中

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(63) 「夜 V」に 見ら れる 意味 拡張

一般的 には 日中 に行 うこ とを夜 に 行 う ~ をし て夜 を明 かす

夜遊 、夜 騎、 夜跑 夜爬 夜唱 拡張

ここ まで の考 察結 果は 以下の イメ ー ジ・ス キー マで 表示 する ことが でき る 。

(a) (b)

騎 自行 車 夜騎

図 4-6.「デ フォ ールト でな いプ ロセ ス 」から 「非 典型 的な モノ 」への 概念 転 換

図 4-6の(a)におけ る網 掛け して い ない丸 は特 定の 対象 、こ れま で検 討し た例に 即し て 言えば 、「泡麵」、「電腦鍵盤」、「自行 車」など を示 して いる。ここ で「盲 打」を例に して 言 えば、4.5 節で 検討 した 例と 同様に 、「盲打」 の主 要部で ある 「打」 は本 来「球」(ボ ール ) でも「電話」でも よく 、様々 な目 的語 を取る こと がで きる。しか し、「盲打」の形成 は「打 鍵盤」 とい う行 為 に 関す る知識 によ っ て動機 づけ られ てい る と 考えら れる た め、目 的語 が

「鍵盤」に 限定 され るよ うにな って い る。目 的語 が暗 黙で 理解 される よう に なっ た 結果 、 全体が 目的 語を 取れ なく なり、(人 によ って自 動詞 ある いは )名 詞に な る と考 えられ る 。一 方、「乾吃」の対 象で ある 「泡麵」 も暗 黙で理 解さ れる 対象 とな ってい るが 、「泡麵」 と共 通する 特徴 のあ る名 詞、つま り、「奶粉」と「麥 片」にも 使用さ れる につ れ、動詞に 戻り つ つある と考 えら れる 。但 し、目 的語 が かなり 限定 され てい る点 で、単 音節 動 詞とは やは り 大きく 異な って いる 。

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4.7 「動賓結構」(SVO 構文)以外の構文

上の 考察 で、形態 的に「偏 正式 複合 動詞」と同 じで ある にも 関わ らず 、SVO構文 に動 詞 として 用い られ ない 付加 詞複合 語が 数 多く存 在し てい るこ とを 明らか に し た 。本研 究で は 中国語 の基 本語 順で ある SVO構文 の動 詞位置 に現 れる かど うか という テス ト で、あ る複 合 語が動 詞で ある かど うか を判断 して き た。し かし 、こ こま で見 てきた 複合 語 の中に 、 以 下 に示さ れる よう な、 構文 によっ て動 詞 位置に 現れ 得る 例も ある 。

(64) (=(2))白斑 狗魚 則 肉 質 緊湊, 需 紅燒(CCL)

ノーザ ンパ イク と 言え ば 肉 質 引 き締ま り 必要 醤 油煮 込み

(ノー ザン パイ クは 身が 引き締 まっ て おり、 醤油 煮込 みに すべ きであ る 。)

(65) 雖然 他們 要 聘 的 英 語 翻譯 只要 會 筆譯 ,

けど 彼ら 意 志マーカー 招く の 英 語 翻 訳( 者) た だ できる 翻 訳 底薪 也 很 豐厚(CCL)。

基本給 も と ても 手 厚い

(彼 らが 任用 しよ うと 考え てい る英 語 訳者 は( 通訳 がで きな くて も) 翻訳 さ えで きれば いい し、 基本 給も すごく いい の だが)

まず (64)の 主語 は「白斑狗 魚」(ノ ーザン パイ ク) であ るが 、それ は「紅 燒」( 醤油 煮 込み) の動 作主 では ない 。しか し、 文 の構造 が「 主語 +述 語」 となっ てい る ため、 この 場 合の「紅燒」は動 詞と 見 な される 。次 に、(65)の「筆譯」は能 力を 示す「會」の後 ろに 現 れてい るた め、動詞 と し て捉 える こと もでき る 。では 、これ らの 複合語 はな ぜ SVO構 文以 外の構 文の 動詞 位置 に現 れ得る ので あ ろうか 。

以下で は刘月华 et al.(1983)等多く の 中国語 学の 先行 研究や Goldberg(1995)の 構文 文 法(construction grammar)に見 られ る ような 、構 文ご とに 意味 がある とい う 立場か ら 、 構 文の意 味を 提示 しな がら 、検討 して い く。

4.7.1 「受事主語句」(意味上の受動文)

刘月华 et al.(1983)が 述べ たよ うに 、中国 語の 意味 上の 受動 文は「 把字 句」(目的 語前