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機能 に関 する 先行研 究

第 3 章 日本語の動詞 由 来複合 語 の語形 成 と意味機 能

3.2.2 機能 に関 する 先行研 究

日本 語の 動詞 由来 複合 語はそ の形 態 から複 合名 詞と して 扱わ れてき た( 奥 津 1975,

Makino 1976,西尾 1988)。し かし 、影山(1999)が指 摘し たよう に 、日 本 語の動 詞由 来

複合語 は機 能に よっ て 、 名詞、 動名 詞 、形容 詞13(的な もの )の 3種類 に分 類 するこ とが できる 。動 詞由 来複 合語 の機能 は如 何 にして 決定 され る の か、 これま では 語 形成レ ベル の 違いに よる とさ れて いる( 杉岡・小林 2001,伊 藤・杉岡 2002,由本 2009a,2009b,2011,

Yumoto 2010)。

伊藤・杉 岡(2002: 130)は前 節で 見 たよう に、日本 語の 動詞 由来 複合語 を 内項複 合語 と 付加詞 複合 語と の二 種類 に分類 し、内 項複合 語は 項構 造(第 2章の 2.2.1節 の脚注 3参 照)

で、付 加詞 複合 語は 語彙 概念構 造 (第 2章の 2.2.1節 の脚注 4参 照) で形 成 され る と主 張 してい る。

伊藤・ 杉岡 (2002)に おい て 項 構造 で 形成さ れる と さ れて いる 内項複 合語 は 「*ボ ール 投げす る」、「*地鳴 りす る」 に見 るよ う に、[-する]をつ けて 述語 とし て用 いら れず 、「ボ ー ル投げ をす る」、「地 鳴り がする 」と い うよう に「 ~を する 」 や 「~が する 」 といっ た 構 文 に用い られ てい るた め、[+V]素性を 有 する動 名詞(2.5.1 節参 照 )で はな く、[-V]素性 の普 通名詞 であ ると され てい る 。

一方、 語彙 概念 構造 で形 成され ると さ れ てい る付 加詞 複合 語は 名詞と して も 用いら れる が、「 手作 りする 」に 見る よう に[-す る]を伴 って 動詞 とし ても 用いら れる[+V]素性を 有す るもの と「 黒焦 げだ 」に 見るよ うに 「 だ」を 伴っ て 形 容詞 的に 用いら れる[-V]素性 を有 す るもの があ る。

伊藤・ 杉岡 (2002)に よれ ば、 付加 詞 複合語 の素 性が[+V]も しく は[-V]で あ るかは 付加

13 由本(2009a) では 修飾 語あ るい は「 ~だ」 という よう に用 いら れて いる 動 詞由来 複 合 語は形 容動 詞と 呼ば れて いる。 その よ うな語 は形 態上 、名 詞の ように 見え る が、機 能的 に は形容 詞と 見な すほ うが 適切で ある た め(連 体修 飾に 「い 」や 「な」 を介 さ ない「 第三 形 容詞」を提 案し てい る村木 2002,2008も 参照 した い)、本研 究も 以降 、形 容 詞と呼 ぶこ と とする 。

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詞の役 割に よっ て決 定さ れる 。 主要 部 動詞 と 複合 する 付加 詞が 主要部 動詞 の 語彙概 念構 造 におけ る動 作(ACT)や 変化(BECOME)とい う意 味述 語 を 修飾 する 要素 な ら、複合 語は

(4)~(6)に 示さ れるよ うに[-する]を つけて 用い られ る[+V]素性 の動 名詞 と なる と いう 。

(4) [道具 ―ACT ON y]水 洗い 、ブ ラシ 洗い、 雑巾 ぶき 、平 手打 ち、塩 もみ ( する)

(5) [様態 ―ACT(ON)y]一人歩 き、よ ちよち 歩き 、早 歩き 、ば か騒 ぎ、大あ ばれ、

立ち読 み、 がぶ 飲み 、つ まみ洗 い、 べ たぼめ 、早 食い (す る)

(6) [原因 -BECOME]日焼 け、雪 焼け 、船酔い 、仕 事疲 れ、ビ ール 太り 、着 ぶく れ、

寝冷え (す る)

伊藤・ 杉岡 (2002: 117-118)

一方 、主 要部動 詞と 複合 する 付加 詞が 主要部 動詞 の語 彙概 念構 造にお ける 状 態(BE)と いう意 味述 語 を 修飾 する 要素な ら、 複 合語は (7) に示 され るよ うに 「 ~ だ 」とい う構 文 にある いは[-の]をつ けて形 容詞 のよ う に 用い られ ると いう (伊 藤 ・ 杉 岡 2002: 118-119)。

(7) [結果 状態 -BE]赤 むけ 、黒 こげ 、び しょ濡 れ、 こま 切れ (だ )

伊藤・ 杉岡 (2002: 118-119一 部改 変)

作成動 詞は 材料 を意 味す る名詞 と複 合 する場 合が ある が、 材料 は結果 状態 の 一部だ と考 えられ るた め 、そ のよ うな 複合語 は(8)に 示さ れる よう に「~ だ」をつ け用 いられ る[-V]

素性に なる とい う( 伊藤 ・杉岡 2002: 120)。

(8) [材料 ―BE] 石作り 、木 彫り 、モ ヘア 編み、 毛織 り( だ)

伊藤・ 杉岡 (2002: 120)

上記の 伊藤・杉岡(2002)の分 析に よ れば、同 じ作 成・使 役変 化動 詞を 主要 部とし た付 加詞複 合語 は、付加 詞が 修飾 する 要素 によっ て 、素性 が[+V]ある いは[-V]に 変わる が、(9)

に示さ れる ような 2種類の 用法 が 観 察 される 例 も ある 。

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(9) ペン書 き す る/ペン 書き の答 案 肉を炭 火焼 きす る/炭火 焼き の肉

(cf. 日 焼け する/*日焼 けの肌 、手 洗い する/*手 洗い のセー ター )

伊藤・ 杉岡 (2002: 121一 部改 変 )

伊藤・ 杉岡 (2002: 121)は 、上記 のよ うな 2種類 の用 法が 可能な 複合 語は 作 成・使 役 変化動 詞が 道具 ・様 態を 意味す る要 素 と複合 した 場合 に限 られ ており 、ま た 、2種類 の用 法が可 能に なっ たの は動 作にあ る焦 点 が結果 状態 に移 動し た結 果であ る と 述 べてい る 。 由本(2009a,2009b,2012)、Yumoto(2010)は 伊藤・ 杉岡(2002)の 主張を 踏ま え た上で 、伊 藤・杉岡(2002)では[+V]素 性を持 たな い普 通名 詞と され てい る内項 複合 語 には、 形容 詞と して 用い られて いる 例 及び動 名詞 とし て用 い ら れてい る例 も 存在し てい る ことを 指摘 して いる 。

まず 、形 容詞 とし て用 いられ てい る 例を見 る。

(10) 箱入り の本 、泥 まみ れの シャツ 、 内 住 みの女 中、 水浸 しの 床、 外付け のモ デ ム、

瓶詰め のジ ャム 、こ の白 菜は 塩 漬け だ 、この 箪笥 は 漆 塗り だ、 表紙は 革張 り だ

由本(2009a: 216一部 改変 )

伊藤・杉 岡(2002)の 主張に よれ ば 、形容 詞と して 用い られ る 動 詞由来 複 合語は 主要 部 動詞の 語彙 概念 構造 にお ける状 態(BE)を 修飾 する 要素 と結合 した 付加 詞複 合語の みで あ る。そ れに 対し 、由 本は(10)に示 さ れた複 合語 の前 項は「本 が箱に 入( っ て)い る」、「ジ ャムを 瓶に 詰め る」とな るよ うに 、主 要部に とっ て 必 須項 であ る ため 、「 もと の動詞 の内 項 を叙述 対象 とす る形 容動 詞は、項、付 加 詞に関 わら ずそ の状 態や 属性を 表す 要 素であ れば 、 複合語 を形 成し 得る」(由 本 2009a: 216-217)と 述べ てい る。その上 、形容詞 として 用い ら れる動 詞由 来複 合語 は伊 藤・杉岡(2002)が 主張 した よう に語 彙概念 構造 で 形成さ れる こ とが妥 当だ と 主 張し てい る。

以上 の複 合語 の被 修飾 語とな るの は 主要部 動詞 の本 来の 項(e.g.,「ジ ャム 」=「詰 める」

の項) であ るが 、由 本は 複合に よっ て 、前項 の名 詞の クオ リア 構造( 第 2章 の 2.3.4節参 照)か ら新 たな 項を 獲得 した複 合語 も あるこ とを 指摘 して いる 。

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(11) a. 先 割れ (の スプ ーン)、景 気が 先細 りだ、 先太 り、 尻下 がり 、尻す ぼま り 、頭 勝 ち、 腰抜け

b. 尻 上が り( の語 調)、 右肩 上が り、 前上が りの (着 付け ) c. (この ピー ナッ ツは )皮 付き だ。( さや付 き、 骨付 き、 種付 き)

d. ( この カー ドは )期 限切れ だ。(品 切れ、 種切 れ、 尻切 れ)

由本(2009a: 223)

上記 の被 修飾 語は 主要 部の本 来の 項 ではな い(e.g.,「 スプ ーン 」≠「割 れる 」の項 )が 、 前項は 何か の一 部を 意味 してい るた め 、それ が含 まれ てい るモ ノが複 合語 の 被修飾 語に な

る(e.g.,ス プー ンに は先 (先 端)が あり、 カー ドに は期 限が ある)。

次に、動名 詞と して 用い られる 内項 複 合語 を 見る 。伊 藤・杉岡(2002)の「 内項複 合語 は普通 名詞 であ る」 とい う主張 に対 し 、Yumoto(2010)は 次の よう な反 例 を取り 上げ 、 なぜ以 下の よう な内 項複 合語は 動名 詞 として 用い られ るか を論 じてい る。

(12) ご飯を パッ ク詰 め す る スープ に 味 付け す る

(13) 山菜を 灰汁 抜き する 株が値 下が りす る

Yumoto(2010: 2389一部 改変 )

Yumoto(2010) は上 記の 内項 複合 語 は 「早 起き する 」 や 「ペ ン書き する 」 などの 付加

詞複合 語と 同様 に、直 接[-す る]を つけ 動名詞 とし て用 いら れる ほか 、音韻的 に も下 の(14)、

(15)に見 るよ うに 、付 加詞複 合語 と 同様に 連濁 が起 きて いる ことか ら、こ の種の 内項 複

合語は 伊藤・杉 岡(2002)が主 張し た ように 項構 造で 形成 され るので はな く 、語彙 概念 構 造で形 成さ れる もの と主 張して いる 。

(14) 箱 + つめ る → 箱 づめ

湯 + とお す → 湯 どお し

色 + つけ る → 色 づけ

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(15) 値 + ひく → 値 びき

幅 + つめ る → 幅 づめ

代 + かわ る → 代 がわ り

Yumoto(2010: 2393一部 改変 )

さらに 、Yumoto はこ の種の 内項 複合 語は元 の動 詞( 主要 部) と比べ 、項 が 減るか どう か及び 主要 部動 詞の 違い で下位 分類 す ること が で き、 項が 減る かどう かは 前 項の ク オリ ア 構造か ら項 を獲 得し てい るかど うか に よ ると して いる (Yumoto 2010: 2393)。

(16) 項が減 るタ イプ :

a.箱 詰め、 袋詰 め、 船積 み、 湯通 し 、油通 し、 棚上 げ、 陸揚 げ、

車庫入 れ、 枝打 ち、 蔵入 れ、壁 塗り

b.味 付け、 意味 付け 、色 付け 、風 入 れ、て こ入 れ、 砂糖 がけ 、荷積 み、 ダ メ出 し、ペ ンキ 塗り 、景 気づ け

c.ベ ンチ 入り 、仲間 入り 、蔵 入り 、迷 宮入り 、親 離れ 、乳 離れ 、食あ たり

(17) 項が減 らな いタ イプ :

a.あ く抜き 、し み抜 き、 裾上 げ、 格 上げ、 底上 げ、 格下 げ、 値下げ 、値 引 き、

塩出し 、頭 出し 、種 明か し、幅 詰め 、 口止め

b.色 落ち、 気落 ち、 格落 ち、 型崩 れ 、値崩 れ、 値上 がり 、値 下がり 、面 出 し、

目移り 、気 崩れ 、代 替わ り

Yumoto(2010: 2394)

Yumoto(2010: 2394-2398)によ ると、(16a)、(16b)、(16c)は主 要部 動詞 に よっ て生

産性が 異な るが 、 い ずれ も状態 変化 の 意味合 いが 強く 、状 態変 化動詞 のよ う に機能 して い るとい う。例 えば 、「車 庫入 れ」は 単に 車を移 動さ せる とい う意 味では なく 、車が保 管さ れ ている 状態 に す ると いう 意味で ある 。「 湯通し 」は「 湯に通 す 」だけ では 表せ ない「食材 の 脂や匂 いを 除去 する 」と いう 意味 を持 つ。また、「砂 糖が け」は「 イチ ゴ に 砂 糖をか ける の ではな く、 ケー キを 砂糖 でコー ティ ン グする 」と いう 意味 を持 つ と Yumoto が説明 して い る。

一方、(17) の項 が減 らな いタ イプ が 取 れる 項は 複合 によ って 前項名 詞の ク オリア 構造

49 から新 たな 内項 を獲 得し た複合 語で あ る。

(18) シャツ をし み抜 きす る/??シ ャツ を抜 く

(19) ワカメ を塩 出し する/??ワカ メを 出す

Yumoto(2010: 2399)

(18) の「??シ ャツ を抜 く」 及 び(19)の「??ワ カメ を出 す」 に見 るよう に、「シャ ツ」

は本来 動詞 「抜 く」 の 項 ではな く、「ワ カメ」 も動 詞「 出す 」の 項では ない 。「 シャツ 」が

「しみ 抜き 」の 、「 ワカ メ 」が「塩 出し 」の 項に なるの は「し み」、「塩 」の クオ リア構 造(し み=シ ャツ の一 部 ; 塩= ワカメ の一 部 )によ って 項( =シ ャツ ) が提 供さ れ ている ため で ある。 そし て、(16) と(17)は 項の 数が 異 なる が、 いず れの 語形成 も 影 響 を被る 項を 前 景化す るた めに 動機 づけ られて いる (Yumoto 2010:2403-2404)。