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日中両言語における動詞由来複合語の認知言語学的研究

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Academic year: 2021

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(1)

日中両言語における動詞由来複合語の認知言語学的

研究

著者

葉 秉杰

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第16483号

URL

http://hdl.handle.net/10097/59656

(2)

博士論文

日中両言語における動詞由来複合語の認知言語学的研究

葉 秉杰

2014 年

(3)

i 目次 目次 ... i 図目次 ... iv 表目次 ... vi

1 章 序論

... 1 1.1 研究動機 ... 1 1.2 研究目的 ... 2 1.3 研究範囲 ... 4 1.3.1 日本語における考察対象 ... 4 1.3.2 中国語における考察対象 ... 5 1.4 研究方法 ... 6 1.5 本研究の構成 ... 7

2 章 先行研究と理論的な枠組み

... 8 2.1 はじめに ... 8 2.2 先行研究 ... 9 2.2.1 語形成規則、 語形成部門、語形成レベル、生産性に関する 先行研究 ... 9 2.2.2 機能に関する先行研究 ... 15 2.2.3 まとめ ... 17 2.3 本研究の立場及び理論的な枠組み ... 19 2.3.1 本研究の立場 ... 19 2.3.1.1 抽象化と事例化 ... 19 2.3.1.2 定着 ... 20 2.3.1.3 タイプ頻度とトークン頻度 ... 21 2.3.2 本研究のレキシコンと文法の捉え方 ... 23 2.3.3 動機づけ ... 31 2.3.4 百科事典的知識とデフォールト ... 32

(4)

ii 2.4 本研究の仮説 ... 34 2.5 その他の諸概念 ... 36 2.5.1 動名詞 ... 36 2.5.2 非述形容詞(区別 詞) ... 37 2.5.3 イメージ・スキーマ ... 38

3 章 日本語の動詞由来複合語の語形成と意味機能

... 42 3.1 はじめに ... 42 3.2 日本語の動詞由来複合語の先行研究 ... 42 3.2.1 生産性に関する先行研究 ... 43 3.2.2 機能に関する先行研究 ... 44 3.2.3 先行研究のまとめ及び問題点 ... 49 3.3 付加詞複合語形成の動機づけ ... 57 3.3.1 属性を示すのに用いられる複合語 ... 59 3.3.2 行為を示すのに用いられる複合語 ... 63 3.3.3 デフォールト値が前項に入っている複合語 ... 66 3.3.4 より生産的な パターン ... 69 3.4 動詞由来複合語の機能 ... 72 3.4.1 付加詞複合語の機能 ... 75 3.4.2 内項複合語の機能 ... 81 3.5 動詞由来 複合語に見られる多義性及び選択制限 ... 88 3.6 終わりに ... 90

4 章 中国語の動詞由来複合語の語形成と意味機能

... 92 4.1 はじめに ... 92 4.2 先行研究 ... 95 4.3 品詞判定の基準 ... 96 4.4 付加詞複合語(偏正式複合動詞)における複合語ごとに見られる文内機能の差異 100 4.5 複合語の選択制限と前項になれる成分 ...111 4.6 動詞由来複合語形成の動機づけ ... 114

(5)

iii 4.6.1 属性を示すのに用いられる複合語 ... 114 4.6.2 行為を示すのに用いられる複合語 ... 119 4.7「動賓結構」( SVO 構文)以外の構文 ... 124 4.7.1「受事主語句」(意味上の受動文) ... 124 4.7.2 可能構文 ... 126 4.8 付加詞複合語についての考察のまとめ ... 127 4.9 内項複合語(述賓式複合動詞)における複合語ごとに見られる文内機能の差異 . 128 4.10 属性を示すのに用いられる内項複合語の語形成の動機づけ ... 135 4.11 終わりに ... 137

5 章 日本語と中国語の動詞由来複合語の対照

... 140 5.1 はじめに ... 140 5.2 日中両言語の動詞由来複合語の意味の対照 ... 141 5.3 日中両言語の動詞由来複合語の機能の対照 ... 155 5.4 日中両言語における新たな目的語を取れる動詞由来複合語の目的語の現れ方 ... 159 5.5 終わりに ... 168

6 章 結論

... 170 6.1 本研究 の研究成果のまとめ ... 170 6.1.1 スキーマ ... 170 6.1.2 語形成の動機づけ ... 171 6.1.3 生産性に関する問題 ... 171 6.1.4 機能に関する問題 ... 173 6.1.5 多義性に関する問題 ... 176 6.1.6 選択制限に関する問題 ... 177 6.2 対照の結果 ... 178 6.3 今後の課題 ... 179

参 考文 献

... 182

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iv 図目次 図 1-1. 先行研究のポイントと本研究のポイント ... 3 図 2-1. 概念の複合による語形成とレベル ... 12 図 2-2. 言語単位間の関係 ... 20 図 2-3. 英語の規則変化と不規則変化の過去形のタイプとスキーマ ... 22 図 2-4. 記号と慣習性、スキーマ性の関係 ... 23 図 2-5. Langacker(2008)に基づいた本研究の日本語の動詞由来複合語の語形成モデ ル ... 24 図 2-6. 規則的な複合語及び語彙的な複合語の連続性 ... 27 図 2-7. 「斜辺」及びその概念に関わる背景的な知識 ... 32 図 2-8. (典型的な)モノ概念 ... 38 図 2-9. 関係概念 ... 39 図 2-10. プロセス概念 ... 39 図 2-11. (非典型的な)モノ概念 ... 40 図 2-12. (産出的役割が表示されている)モノ概念 ... 40 図 2-13. (目的的役割が表示されている)モノ概念 ... 40 写真 3-1. 「手むき」と「機械むき」の対比 ... 68 図 3-1. 「パン」から「蒸しパン」への概念転換イメージ ... 76 図 3-2. 「蒸しパン」と「窯焼きパン」のイメージの比較 ... 77 図 3-3. 「みかん売り」と「箱売り」の比較 ... 79 図 3-4. 「窯焼きパンと「(みかんの)箱売り」の比較 ... 80 図 3-5. 「ウメ」と「種抜きウメ」の比較 ... 83 図 3-6. 「線香」と「蚊取り線香」の比較 ... 85 図 3-7. 「洗濯物を干すこと」と「部屋干し」の比較 ... 88 図 4-1. 印欧語の品詞と文法機能の対応関係 ... 96 図 4-2. 中国語の品詞と文法機能の対応関係 ... 97 図 4-3. 中国語における付加詞複合語(「 偏正式複合動詞」)に見られる動詞、名詞、形容 詞の連 続 性 ... 109

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v 図 4-4. 「茶」、「魚」から「 冷泡茶」、「紅燒魚」への概念転換 ... 117 図 4-5. 「モノ」(a)、(b)から「デフォールトでないモノ」(c)へ、そして「非典型的 なモノ 」(d)への概念転換 ... 118 図 4-6. 「デフォールトでないプロセス」から「非典型的なモノ」への概念転換 ... 123 図 4-7. 非典型的なモノ ... 127 図 4-8. 中国語における付加詞複合語(「 偏正式複合動詞」)に見られる動詞、名詞、形容 詞の連 続性 (再 掲) ... 128 図 4-9. 中国語における内項複合語(「 述賓式複合動詞」)に見ら れる動詞、名詞、形容詞 の連続 性... 134 図 4-10. 「紙」から「 捕蠅紙」への概念転換 ... 135 図 5-1. 中国語における属性を示す(非述形容詞の) 動詞由来 複合語の語形成 ... 148 図 5-2. 中国語における 動詞由来複合語を含む、行為を示す「動詞―目的語」のモノ名詞 化の過 程... 149 図 5-3. 中国語のモノ名詞化と非述形容詞の 動詞由来複合語の関係 ... 152 図 5-4. 中国語における内項複合語に見られる動詞、名詞、形容詞の連続性(図 4-8.修正 後) ... 158 表目次

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vi 表 2-1. 日本語の動詞由来複合語の品詞等 ... 16 表 2-2. 日本語の動詞由来複合語の品詞と語形成レベルに関する先行研究のまとめ ... 16 表 3-1. 日本語の動詞由来複合語の先行研究のまとめ ... 49 表 3-2. 日本語の動詞由来複合語の先行研究のまとめ及び問題点 ... 56 表 3-3. 付加詞複合語の生産性についての考察結果 ... 72 表 4-1. 中国語の品詞と文法機能の無標な対応関係 ... 97 表 4-2. 中国語における「動詞+名詞」という組み合わせにおける単音節動詞、二音節動 詞の違 い... 99 表 4-3. 中国語の「 偏正複合動詞」に分類さ れた二音節動詞の、単音節名詞、二音節名詞 との組 み合 わせ とそ の意 味 ... 106 表 4-4. 本章の品詞判定の基準及び付加詞複合語、内項複合語の例 ... 138 表 4-5. 中国語の動詞由来複合語の考察結果 ... 138 表 5-1. 先行研究に基づいた 日英中三言語の 動詞由来複合語の 意味のまとめ ... 141 表 5-2. 日中両言語の動詞由来複合語の対照のまとめ ... 168 表 6-1. 伊藤・杉岡( 2002)、由本(2009a)、Yumoto(2010)の日本語の動詞由来複合 語の機 能の 分析 のま とめ ... 173 表 6-2. 同義だと思われる中国語の「偏正式複合動詞」と「述補式複合動詞 」 ... 180 本研究 にお ける 表記 法

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vii 1.「*」は非文、もしくは 一般的に認められない表現であることを示す。 2.「?」は一般的に不自然だと思われる表現であることを示す。 3.「(?)」は話者によって不自然だと思われる表現であることを示す。 4.「??」は一般的に非常に不自然だと思われる表現であることを示す。 5.「#」は実在しない語、もしくは 求められている意味と異なっている 表現であることを 示す。 6.中国語の例文の文末に ある「CCL」はその例文が北京大学中国言語学研究センターコ ーパス より 採っ た例 文で あるこ とを 示 す。 7.例文中、 本研究の考察対象 となる部分には下線を引く。

(10)

1

第 1 章 序論

1.1 研究動機

語に 関す る研 究 は 従来 は単に 形態 論 の問題 とし て扱 われ てき たが、 近年 で は統語 との 接 点が注 目さ れ、 語 の 形態 や語構 成、 意 味の分 類だ けで はな く、 語の統 語現 象 ないし 音韻 な ど と の 関 連 性 も 活 発 な 議 論 を 呼 ん で い る 。 日 本 語 の 語 形 成 の 研 究 は こ の 20 年 間 で 影山 (1993)を嚆矢として研究 が盛んになっているが、特に注目を浴びているのは「読み始め る」や 「打 ち上 げる 」と いった 複合 動 詞に関 する 研究 であ る。 一方、 複合 名 詞の研 究は 以 下に引 用す る影 山(2011)のはしがきに触れられている通り、(複 合 )動 詞の 研究と 比べ 、 だいぶ 遅れ てい る。 (1) 国内外の研究の流れを見ても、名詞というのはなかなか手強い存在のようである。 た と え ば 国 立 国 語 研 究 所 の 刊 行 物 に 『 動 詞 の 意 味 ・ 用 法 の 記 述 的 研 究 』( 宮 島 達 夫著、1972 年)と『形容詞の意味・用法の記述的研究』(西尾寅弥著、 1972 年) という 詳細 な研 究が ある が、名 詞を 扱 ったも のは 出て いな い。海 外に 目を 向 けて も、動 詞に 関す る著 書は多 数に のぼ る 反面、 名詞 のみ を論 じ たも ので 目立 っ たも のはな い 。 (影山 2011: ⅲ) 本 研 究 の 研 究 対 象 で あ る 「 歯 磨 き 」 や 「 手 打 ち 」 と い っ た 日 本 語 の 動 詞 由 来 複 合 語 (deverbal compound)もこれまでは複合名詞として扱われて おり、それに関する研究も 語構成 要素 によ る分 類に とどま って い る。し かし 、そ の機 能に 注目す ると 、「 手 作り する 」 の よ う に[-する]を後接させ、述語 とし て用いられるものや 、「手打ち そば」 のように 名詞 の修飾 語と して 用い られ るもの があ り 、 他の 複合 名詞 や 複 合動 詞以上 に複 雑 である こと が 窺える 。ま た、本研 究の第 2 章以降で見ていくように、日本語の動詞由来複合語に はまだ 解明さ れて いな い問 題点 が数多 く残 っ ている にも かか わら ず、 複合動 詞の 研 究と比 べ、 数 が遙か に少 ない 。複 合動 詞の研 究が 進 んでい る 生 成文 法の 枠組 み に基 づい た 理論に よる 動 詞 由来 複 合 語の 主 な 研 究で も 、 影 山(1993,1999,2006)、影山・由本( 1997)、伊藤・

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2 杉岡(2002)、由本(2009a,2009b, 2011)、Yumoto(2010)などと限られている。 筆者 は言 語研 究の 中で もとり わけ 「 語」に 興味 を抱 き、 修士 課程に 在学 中 の頃か ら語 に 関する 研究 を中 心に 進め てきた 。2008 年に、交換留学で来日中に 上記の先行研究の主張で は説明 する こと ので きな い実 例 を数 多 く発見 し、 それ を生 成文 法を始 めと す る構造 主義 の 枠組み で研 究し てい くこ とへの 限界 を 感じた 。し かし なが ら、 当時、 認知 言 語学の 枠組 み による 研究 も 淺 尾(2007,2008)しかなく、納得のいく先行研究を 発見することはなかっ た。 研究 方法 を模 索し なが らも ど うに か 独自の 方法 論を 用い て 修 士論文 を書 き 上げた 後、 淺 尾(2009)、野田(2010、2011)の研究が登場したが、いずれの研究も伊藤・杉岡(2002)、 由本(2009a、2009b、2011)、Yumoto(2010)ほど包括的なものではない。 さら に、 日本 語の 動詞 由来複 合語 の 研究と 同時 に、 中国 語の 動詞由 来複 合 語 にも 基本 語 順の SVO 構文に用いられないなどといった問題点が存在することに気が付いた。しかし、 それに つい て言 及の ある 中国語 の動 詞 由来複 合語 の研 究は 日本 語の動 詞由 来 複合語 の 研 究 にも況 して 、湯 廷池 (1989)の分類以来、体系的な研究が皆無である。 吉村 (2003: 199)が「認知語彙論は名前が付いたばかりの生まれたての分野名で ある」 と述べ たよ うに 、認 知言 語学の 枠組 み による 語の 研究 は今 後ま すます 注目 を 集める であ ろ う。本 研究 は日 中両 言語 の動詞 由来 複 合語に 関す る 生 産性 や意 味機能 とい っ た 問題 点を 解 決する ため に始 めた 研究 である が、今後 のさら なる 研究 の土 台と なる こ とを 目 指して いる 。

1.2 研究目的

本 研 究 は 上 に 述 べ た 問 題 意 識 か ら 、 日 中 両 言 語 の 動 詞 由 来 複 合 語 ( e.g., 台 本 読 み 、 手 作り; 吃飯、 紅 燒) を対 象に、 その 語 形成を 動機 づけ る要 因と は何か を明 ら かにす るこ と を目的 とす る。 さら に、 両言語 の言 語 類型上 の違 い 、 すな わち 、形態 変化 の 有無及 び 基 本 語順の 違い が両 言語 の動 詞由来 複合 語 の意味 や機 能に どの よう な影響 をも た らすの か も 対 照比較 し、 両言 語の 動詞 由来複 合語 の 共通点 及び 相違 点も 明ら かにす る。 詳し くは第 2 章以降で述べるが、これまでの動詞由来複合語を含む 複合語の研究は斎賀 (1957)や西尾( 1961)、ゆもと( 1977)などの語構成要素による分類から 、次第に奥津 (1975)、Makino(1976)、影山・柴谷( 1989)、影山( 1993)などの語形成部門の理論 の構築 へと 移行 した 。生 成文法 の流 れ を汲ん だ先 行研 究 で は特 に語形 成が ど の言語 部門 な

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3 いし語 形成 レベ ル で 行わ れてい るか に ついて 力点 が置 かれ て き たが、 本研 究 はそれ と異 な る言語 部門 を想 定し ない 認知言 語学 の 立場か ら、 複合 語の 語形 成の動 機づ け に焦点 を当 て て考察 を進 める 。 本 研究 と先行 研究 の 違いを 図で 表す と次 の通 りとな る。 複 合語 → 語 形成規 則/部門 動機づけ ⇒ 複合語 生成 文法 の研 究の ポイン ト: 本研究 のポイント: 複 合語 から 語形 成規 則、 複合 語の 形成 を動 機づけ る要 因 を 語 形成 部門 の違 いを 導き出 すこ と 明ら かに する こと → 語 形成 規則 を抽出 する プ ロセス ⇒ 複 合語 の語 形成を 動機 づ けるプ ロセ ス 図 1-1.先行研究のポイントと本研究 のポイント 生成 文法 的な アプ ロー チ では 、様 々 な複合 語は それ ぞれ どの 語形成 部門 な いし語 形成 レ ベルで 処理 され てい るか が明ら かに で きれば 、複 合語 の生 産性 や機能 も部 門 ごとに おの ず と決定 され ると する 。ま た、複 合語 は 文のよ うに 自由 に生 成す ること がで き ず、語 彙的 な 制限が 課せ られ てい ると も見な され て いる。 語形 成の 制約 に一 致する かど う かで「 可能 な 語」と「 不可 能な 語」が 区別 でき、さ らに、「 可能 な語」が「 文脈」の支 持が あれば「実 在 する語 」にな ること もあ ると され てい る( 影山 1993、伊藤・杉岡 2002)。しかし、その「文 脈」と は何 か、 言い 換え れば 、 語、形、成、を、動、機、づ、け、る、要、因、とは 何 かは議 論の 対象 とさ れ て い ない。 本 研 究 は 先 行 研 究 と は 異 な る 認 知 言 語 学 の 用 法 基 盤 モ デ ル も し く は 使 用 依 拠 モ デ ル (usage-based model;Langacker 2000、詳しくは第 2 章参照)と呼ばれる 立場から、語 形成規 則の 究明 やそ の 理 論構築 では な く、先 行研 究で 「文 脈」 と処理 され て きたも のと は 何かに 焦点 を当 て て 考察 を行 っ てい く 。

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4

1.3 研究範囲

1.3.1 日本語における考察対象

本研 究の 日本 語の 考察 対象 は 「台 本 読み」 や「 手作 り」 のよ うな複 合語 で ある。 この よ うな複 合語 は従 来で は「 名詞+ 動詞 」型 の複合 名詞 と定 義さ れて いるが(影山 1999,杉岡・ 小林 2001)、本研究は考察対象をより限定するために、名詞と動詞の 文法関係を考慮し、 次のよ うに 再定 義す る。 (2) 動詞連用形を主要部(head;Williams1981)とする、その連用形の修飾語または (直接 、間 接) 目的 語、 主語1との複 合 語 具体 例は 以下 の通 りで ある。 (3) [目的語―動詞 ]缶けり、ゴミ拾い 、歯磨き、皿洗い、綱引 き、 草むし り 、 庭 弄り、 灯篭流し… [修飾語―動詞 ]手書き、手打ち、窯焼き、片手割り、飛び蹴り、立ち読み、寝冷 え… [主語―動詞]崖崩れ、地すべり、心変わり、色移り、型落ち、受取人払い … (2)の 定義に 基づ いて 、主 要部 の違 いと語 構成 要素 間の 関係 から 「 手が け る」や 、「 立 ちふさ がる 」、「 旅立 つ」、「若返 る」、「 雨着」、「老 人ぼ け 」、「筑 波おろ し」 の ような 動詞 が 含まれ た複 合語 を考 察対 象とは しな い 。ま た、形態 上「立 ち読み 」に類 似し た「消 し忘 れ」、 「付き 添い 」、「 引き 出し」、「振 り込 み」、「差 し入 れ」、「 売り つく し」 など の例 も考察 対象 とはし ない 。そ の理 由は 、例 えば、「消 し忘れ 」に 対応 する 複合 動詞「消 し忘 れる 」があ る ように 、対 応す る複 合動 詞のな い「 立 ち読み 」と は性 質の 異な った 複 合動 詞 の派生 語 で あ ると先 行研 究で は 見 なさ れ てい るか ら である (野 村 1977)。但し、接辞化していると考え られる[-持ち]や[-乗り]を用いて作られた「家持ち」などの派生語と見なすことができる語 は 、 その 語 構 成 要 素の 関 係 が (2)の定義に一致しており、 影山(2002)な どの先行研究 1 より厳密に言うと、非対格自動詞の主語である。他動詞や非能格自動詞の主語は日本語 では基 本的 に許 され ない (影山 1996,2006,2007,2009;小林 2004 参照)。

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5 でも扱 われ てい るこ とか ら、第 3 章の新語のリストの中にあるものを除き、考察対象とす る。

1.3.2 中国語における考察対象

これ まで の中 国語 の複 合語研 究 に お いては 動詞 由来 複合 語 と いう用 語 は 使 われて おら ず、 また、 それ に関 する 研究 も筆者 の知 る 限りで は 皆 無で ある 。本 研究で は上 記 の日本 語の 動 詞由来 複合 語 に 対応 する ような 中 国 語 の複合 語の 語構 成要 素間 の関係 に基 づ き、 中 国語 の 動詞由 来複 合語 を 次 のよ うに定 義す る 。 (4) 動詞を主要部とする、 それを修飾する 語もしくはその動詞の 目的語、主語と の複 合語 具体 例は 以下 の通 りで ある。 (5) [主語―動詞]地震(地震)、心悸(動悸)、 國營(国営)、 市立(市立)、 私設(私 設)、 專家推 薦(専 門家 推 薦の)、 兒童用( 児童 用の )… [動詞―目的語 ] 賞花(花見)、吃醋(焼き餅を焼く)、動員、熬夜(夜更かし)、 得罪(恨みを買う)、結婚、出版、進口(輸入する)、搬家(引っ越 す)、摸魚(油を売る)、放水(八百長をする)、找 碴(あら探しをす る; 因縁 をつ ける )… [修飾語―動詞 ] 高舉(高く挙げる)、緊握(きつく握る)、合唱、紅燒(しょうゆ 煮込み)、手搖(手回し)、盲打(ブラインドタッチ)、清蒸(酒蒸し)、 乾洗(ドライクリーニング)、夜遊(夜遊び)、飛踢(飛び蹴り)、海 釣(海釣り)、口譯(通訳)、水洗、針織(棒針編み)、火葬(火葬)、 心算(暗 算)、零售(ばら売り)… 上記 の中 国語 の例 で、[動詞―目的語 ]タイプの動詞由来複合語は 、語順が「賞花」(見る ―花) のよ うに 、日 本語 訳の「 花見 」 とは反 対に なっ てい る も のもあ る が 、 それは 動詞 と その目 的語 の組 み合 わせ からな って い る点で 同じ と見 なす こと ができ る 。

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6 また 、中 国語 の動 詞由 来複合 語は 日 本語の 動詞 連用 形に 見ら れるよ うな 形 態変化 がな い ため、形態 的には 動詞 句と 変わ らな いが 、意味 変化 の有無 で両 者を 区別 する こと ができ る。 こ こ で は 先 行 研 究 で よ く 研 究 対 象 と し て 取 り 上 げ ら れ る [動詞 ― 目的 語 ]タ イプ の 動詞 由 来複合 語を 例に 見る こと とする 。 (6) 複合語:吃飯(ご飯を食べる;食事する)、放水(水を放つ;八百長をする)、拔 河 (河 を抜 く; 綱引き )、 吃醋 (酢を 飲む ;焼 き餅 を焼 く)擦 屁股 ( 尻 を 拭う ;後 始末 をする )、 摸魚 (魚に 触る ;油 を売 る)、 抽車 (自 転車 を 引 く; 立ち 漕ぎ ) (7) 動詞句:吃麵(麺を食べる)、放手(手を放す)、做蛋糕(ケーキを作る)、擦桌 子 (テ ーブ ルを 拭く) 上 記 の (6)と( 7)における「吃飯 」と「吃麵」を例に比較すると、「 吃 飯」は「吃」 と「飯」の合 成的 な意 味「ご 飯を 食べ る」の 他に、「吃」と「飯 」から 推測 で きない「食 事 する」 とい う意 味 も 持つ が、後 者は 「 麺を食 べる 」と いう 語構 成要素 の合 成 的な 意 味に と どまっ てい る。「吃 飯 」の ような 意味 が 特殊化 して いる 例は 一般 的にも 複合 語 と見な され る ため、 本研 究は 意味 変化 が認め られ る 例を中 心に 考察 する 。

1.4 研究方法

本研 究は 認知 言語 学の 用法 基 盤/使用依拠モデル(第 2 章の 2.3 参照)の立場に基づき、 実際の 動詞 由来 複合 語の 使用例 を観 察 するこ とを 通し 、各 々の 共通点 を見 出 すとい う帰 納 的手法 を採 用す る。仮説 の検 証は いわ ゆる「既存 の語 」も 対象 とす るが 、本 研究で「新 語」 扱いす る複 合語 のデ ータ の集め 方に つ いては 、 正 規表 現で は「 内項複 合語 」、「付加 詞複 合 語」を 抽出 でき ない ため 、 テレ ビ番 組 や広告 、商 品名 、イ ンタ ーネッ ト な ど で実際 に使 用 されて いる 例 を 使用 する ことに する 。 特に、 先行 研究 の主 張で は産出 され な いはず の複 合 語をよ り多 数文 脈と 共に 取り上 げる 。 また 、各 章に ある 表現 の可否 を判 断 する テ スト 及び 語の 意味 (百科 事典 的 知識) の記 述 につい ては 、日 中 そ れぞ れの 母 語話 者 に チェ ック の協 力を して もらう が、 中 国語 の 例は 筆 者の内 省に よる 判断 も行 う。

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7 本研 究は 先行 研究 では 解決さ れて い ない生 産性 や意 味機 能と いった 問題 点 を解決 する こ とを目 標と する が、 分析 と共に 、 理 論 の妥当 性の 支持 とな る説 明 を目 指す 。

1.5 本研究の構成

本研 究は 6 つの章によって構成される。第 1 章では以上の通り、本研究 の研究動機、研 究目的 、研 究範 囲及 び研 究方法 につ い て 述べ た。 第 2 章では先行研究を概観し、その問題点を指摘した上で、本研究の立場、仮説及び論 文で扱 う概 念を 提示 する 。 第 3 章では日本語の動詞由来複合語 を対象に考察を行う 。まず非生産的とされている日 本語の 付加 詞複 合語 の「 新語」 を提 示 し、複 合語 の生 産性 は語 形 成レ ベル の 違いの みで は 捉え切 れな いこ とを 指摘 する。 その 上 、 本研 究の 仮説 を導 入し 、 動詞 由来 複 合語の 語形 成 は語構 成要 素の みな らず 、 外部 名詞 に 関する 百科 事典 的知 識 に よって 動機 づ けられ てい る ことを 論証 する 。さ らに 、 動詞 由来 複 合語の 生産 性 だ けで はな く、先 行研 究 の主張 では 説 明でき ない 複合 語の 機能 や選択 制限 に ついて の問 題も 本研 究の 仮説で 説明 を 試み、 本研 究 の仮説 を検 証す る。 続い て第 4 章では中国語の動詞由来複合語 を対象に考察 を行う。日本語と は異なり、中 国語の 動詞 由来 複合 語に 関する 研究 は いまだ 品詞 分類 の研 究に とどま って い る 。ま た、 本 研究の 考察 対象 であ る動 詞由来 複合 語 は 湯廷池( 1989)な どの 先行研 究で 複 合動詞 に分 類 されて いる 通り、 名詞 では なく 動 詞と して扱 われ てい る。第 4 章では品詞の分類基準を提 示した 上で 考察 を進 める 。まず 、中 国 語の動 詞由 来複 合語 に動 詞だけ では な く、形 容詞 、 名詞と 見な せる 複合 語も あるこ とを 指 摘し、 品詞 の連 続性 を提 示する 。次 に 、なぜ 形態 的 に動詞 のよ うに 見え るに もかか わら ず 、形容 詞や 名詞 とし て用 いられ てい る かの理 由を 本 研究の 仮説 で分 析す る。 第 5 章では第 3 章、第 4 章の考察結果を踏まえた上 で、形態変化の有無及び語順 といっ た日中 両言 語の 言語 類型 上の違 い が そ れぞれ の動 詞由 来複 合語 にどの よう な 変化を もた ら してい るの かを 見る 。第 3 章、第 4 章に関連しつつ、両言語の動詞由来複合語の意味と機 能を中 心に 分析 して いく 。 第 6 章では本研究が如何に先行研究の問題点を 解決した のか及び対照の結果を述べ、今 後の研 究課 題を 提示 する 。

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第 2 章 先行研究と理論的な枠組み

2.1 はじめに

第 1 章でも述べたように、生成文法の考えを汲んだ先行研究では言語を処理する部門が 存在す ると 想定 され 、分 析も語 形成 部 門が存 在す るこ とを 前提 に進め られ て きた。 本研 究 はその よう な言 語を 処理 する部 門を 想 定しな い 認 知言 語学 の立 場から 考察 を 進める が、 認 知言語 学の 理論 的な 枠組 みで複 合語 に 関する 統語 現象 がど のよ うに捉 えら れ るのか 、 語 形 成規則 がど のよ うな 概念 で捉え られ る のかな ど、 前提 とな って いる 概 念を 述 べる。 2.2 節では日本語の動詞由来複合語の先行研究における研究視点を概観し、先行研究で 明らか にな った こと や動 詞由来 複合 語 に関す る統 語現 象が どの ように 説明 さ れてい るの か を見る 。続 いて 2.3 節では本研究の立場及び議論の展開上必要な概念や作業仮説について 述べ、2.4 節では本研究の仮説を提示する。

2.2 先行研究

本節 では 先行 研究 の研 究視点 を 中 心 に概観 する 。こ れま での 日中両 言語 の 複合語 研究 は ともに 複合 語の 語構 成要 素 の分 析を 中 心に進 んで きた 。そ のア プロー チに 共 通の問 題点 が あるが 、中 国語 の動 詞由 来複 合語の 研 究は筆 者の 知る 限り では 湯廷池( 1989)の複 合動 詞 分類を 除き 皆無 であ る 。そ のた め、中 国 語に関 する 問題 点は 第 4 章で検討することとする。 以下で は主 に日 本語 の動 詞由来 複合 語 の先行 研究 を中 心に 見て いく。 また 、 先行研 究の 問 題点に 関す る具 体的 な議 論は第 3 章で述べる。ここでは先行研究の研究視点 の問題点のみ を取り 上げ る。 日本 語の 動詞 由来 複合 語の先 行研 究 は研究 目的 によ り(1)に示される 2 種類に分類す ること がで きる 。

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9 (1) a.語形成規則、語形成部門、語形成レベル、生産性について考察したもの b.機能を考察したもの 以下 、2.2.1 節では(1a)の先行研究の視点とその問題点を、2.2.2 節では(1b)の先行 研究の 視点 とそ の問 題点 を、2.2.3 節では両者においてともに見られる問題点を見る。

2.2.1 語形成規則、語形成部門、語形成レベル、生産性に関する先

行研究

まず 、動 詞由 来複 合語 の語形 成規 則 、生産 性に つい て考 察し た先行 研究 を 見てい く。 第1章 でも 述べ たよ うに 、日本 語の 動 詞由来 複合 語の 研究 は語 構成要 素に よ る分類 から 次 第に語 形成 の理 論の 構築 に移行 した 。 英語と の対 照を 通し 、 例 えば、 主語 と 基本的 に結 合 できな いと いう 点は 英語 と同じ であ る が、目 的語 以外 の要 素と も結合 でき る という 点は 英 語と異 なっ てい る( 影 山 1982)などといった 両言語の動詞由来複合語の異同が明らかにな った。 先行 研究 で議 論の 中心 となっ てい た のは「 名詞― 名詞 」や「 名詞 ―動詞 」、「 動詞― 動詞 」 などの 様々 な複 合語 の中 で、そ れぞ れ の語形 成様 式の 生産 性は どうな のか 、 また、 その 語 形成は どの よう な 規 則を 受け て でき て いる の かと いっ た問 題 で ある。 特に 、 言語部 門を 想 定した 生成 文法 の枠 組み での研 究の 中 で、動 詞由 来複 合語 を含 め、複 合語 の 語形成 は統 語 部門で 行わ れて いる か、 語彙部 門で 行 われて いる か、 それ とも 複数の 部門 に 跨って 行わ れ ている かに つい て様 々な 議論を 呼ん だ (影山 ・柴谷 1989)。 変形 規則 を想 定し た分 析は奥 津(1975)、統語構造による分析は Mihara(1988)、複数 の言語 部門 を想 定し た分 析は影 山(1993,1999)、伊藤・杉岡( 2002)、Yumoto(2010) などが ある 。 これ らの 研究 に は 、既 存の複 合語 か ら語形 成規 則を 導き 出す ことを 目的 と するも のや 、 複合語 を考 察す るこ とを 通し、 理論 を 構築す るこ とを 目的 とす るもの があ る 。それ ぞれ の 目的は 異な るが 、生 成文 法で想 定さ れ ている 言語 部門 の存 在を 前提と し、 複 合語の 語構 成 要素に のみ 注目 して いる 点で共 通し て いる。 確か に、 語構 成要 素間の 関係 を 考察す るこ と で、既 存の 動詞 由来 複合 語の語 形成 パ ターン の傾 向を ある 程度 把握で きる 。 しかし 、そ の 語形成 規則 だけ では ある 表現が 新し い 造語と して 成立 する かし ないか を 予 測 するこ とは で

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10 きない 。以 下、 語構 成要 素を中 心に 考 察した 先行 研究 に見 られ るこの 問題 点 を見る 。 まず 、生成 文法 の考え に基 づい た 分 析を行 って いる 奥津(1975)を見る。奥津( 1975: 160) は「我 々は 、未 知の 複合 語に出 会っ た 時、そ れを シン タク ティ ックな 構造 に 還元し て理 解 するで あろ う」と述 べ 、複 合語を「 文 の凝縮 」として 、文と 同様 に 構文 部門2(の 中の 複合 名詞生 成部 門) で(2)に示されるような変形規則を受けて形成されると主張している。 (2) 味ヲ ツケル コト⇒味ツケコト⇒味ツケ カンヲ 切 ル モノ ⇒カ ン切り モノ ⇒ カン切 リ モノヲ ト ル ヒト ⇒モ ノトリ ヒト ⇒ モノト リ 左ガ 利ク サ マ⇒ 左利 キサマ ⇒左 利 キ 日ガ 暮レ ル トキ ⇒日 暮レド キ⇒ 日 暮レ 水ガ タマ ッタ ト コロ ⇒水タ マリ ト コロ⇒ 水タ マリ 早ク 起キ ル コト/サマ/ヒト⇒早起キ 共ニ 稼グ コ ト/サマ⇒共稼ギ ヨチヨ チト 歩 ク コト/サマ⇒ヨチヨチ歩キ 奥津(1975: 169-170) 奥津 の変 形規 則の 提案 とは異 なり 、Mihara(1988)は統語構造におけるどのような意 味役割 が最 も複 合語 に編 入 (incorporate)されやすいかを (3)のように検証している。 (3) ガ格 agent *歌手歌い、*スーパーマン飛び、*ランナー走り ガ格 experiencer *政治家悩み、*両親恐れ、*合格者喜び ガ格 patient *有名人死に、*子供泣き、*勝者笑い ガ格 theme *家賃上がり、*ベル鳴り、*天気変わり、 *景気崩れ、*雪降り、 *煎 餅 割れ 、*電線切れ、 *ドア開き ヲ格 theme 人殺し、コメ作り、おむつ洗い、手紙書き ニ格 goal *学校行き、*風呂行き、*出版社送り、*両親送り、 *保育所預け、 *被災者あげ、*課長渡し 2 奥津が述べている構文部門は生成文法で一般的に統語部門と呼ばれている言語部門のこ とであ る。

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11 デ格 instrument *洗濯機洗い、*盥洗い、*日本語書き、*英語書き、 *折り紙作 り 、*金属作り、 *旋盤引き、*水車挽き、 *貯金買い、*空手割り、 *落ち葉焼 き 、*縄殺し、*毒殺し、*箸食べ、 *素手食べ、*バット殴り、*こん棒殴り、 *接着剤付け、*ホチキスとじ デ格 locative *パリ死に、*大学学び、*卒業式泣き、*寄席笑い、*友人宅泊まり、 *アパート住み カラ格 source *田舎来、*入門コース始め、 *ブドウ作り Mihara(1988: 66-85 一部改変) Mihara は上記の例に見 るように、動詞とヲ格 theme という関係で結ばれている複合語 のみ新 語が 作り やす く、 他の関 係で 結 ばれて いる 複合 語は ほと んど作 れな い という 理由 か ら、「only theme arguments of transitive verbs can be productively incorporated into compound structure」(Mihara1988: 94)と結論づけている。 上記の 2 つの先行研究は変形規則か意味役割で異なるが、いずれも複合語は統語部門で 形成さ れる と主 張し てい る。そ れに 対 し、影 山・ 柴谷 (1989)、影山( 1993)は語の「意 味の慣 習化 」や 「形 態的 な緊密 性」 な ど、文 との 相違 点を 指摘 した上 で、 複 合語の 語形 成 は単一 の部 門で はな く、 複数の 部門 に 跨って 行わ れる もの と主 張して いる 。 そして 、複 合 語には 統語 部門 で形 成さ れる 「 統語 的 な複合 語 」 及び 語彙 部門 で形成 され る 「語彙 的な 複 合語」 があ ると 提案 して いる。 影山(1993)によれば、「意味の慣習化」とは、「紅葉狩り」が紅葉を狩るという意味で はなく 、紅 葉を 観賞 する という よう に 、意味 が文 字通 りで はな く、特 殊化 し ている とい う 現象で ある 。こ のよ うな 意味の 慣習 化 、特殊 化は 一般 的 に 文に は見受 けら れ ず語特 有の 現 象だと 指摘 され てい る。 また、「形 態的な 緊密 性」 とは 語が 句や 文と異 なる 一つ のま とま りとな って い る性質 で ある 。影 山(1993)が「形態的な緊密性」を裏付ける現象として挙げた「句の排除」と「統 語的要 素の 排除 」を 例に 見ると 、「 句の 排除」 は例 えば 「[[*高い山]登り]」に見るように、 「高い 山 」と いう 句が 語の内 部に 侵入 しない 現象 であ る 。ま た、「統 語的 要素 の排除 」は「山 登り」 と「 岩登 り」 が適 格な表 現で あ るのに 対し 、「と 」が 挿入 され た「[[*山と岩]登り]」 が不適 格な 表現 にな るよ うな現 象で あ る。

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12 影山は 、語 彙的 な複 合語 も統語 的な 複 合語も 以上 に述 べた 「語 」特有 の性 質 を持つ と論 じた上 で、「山 登り 」の よう な動 詞由 来 複合語 は音 韻上 アク セン トが一 つと な り、語と 語の 間にポ ーズ が置 かれ てい る「[ 地価 :高 騰]」、「[社 員: 募集]」の よう な統 語的 な複合 語と 区別さ れ、 語彙 部門 で形 成され ると し ている 。 影山が 提案 した 統語 的な 複合語 と語 彙 的な複 合語 とい う区 別を 踏まえ た上 、 伊藤・ 杉岡 (2002)は日本語の動詞由来複合語の語構成要素間の関係によって、日本語の動詞由来複 合語を 内項 複合 語 (e.g.,皿洗い)と付加詞複合語(e.g.,手書き)3と二種 類に分 けて い る。両 者の 音韻 、意 味、 機能な どに 見 られる 相違 点を 指摘 した 上、両 者の 違 いが語 形成 レ ベルの 違い によ る結 果で あると 述べ 、 さらに 、2 種類の動詞由来複合語の語形成レベルの 違いは 生産 性に も反 映さ れてい ると し 、次の 図を 示し てい る。 図 2-1. 概念の複合による語形成とレベル(伊藤・杉岡 2002: 144 一部改変) 伊藤・杉 岡(2002: 130-131)によれば、項構造 で形成される内項複合語は規則的(rule) である ため 、 適 切な 文脈 さえ 与 えら れ れば 、 電車 の中 のア ナウ ンスの 「窓 締 めにご 協力 く 3 生成文法など言語部門を想定した理論では、統語構造(の深層構造)に投射される述語

の語彙 情報 に項 (argument)に関する情報、つまり項構造( argument structure)が記 載され てい ると 想定 され ている が、 項 は外項 (external argument)と内項(internal argument)に区別されている。外項とは他動詞あるいは非能格自動詞( unergative verbs) の主語 で、 意図 的に 動作 を行う 動作 主 (agent)のことである。内項とは他動詞の目的語 あるい は非 対格 自動 詞(unaccusative verbs)の主語で、意図的でない動作に係る対象 (theme)のことである。また、項構造に含まれない副詞的な要素は付加詞(adjunct)で ある( 影山 1993)。この定義に従うと、非対格自動詞の主語との複合語も内項複合語に入 るが、「内 項複 合語 」とい う用語 を用 い た先行 研究 では 非対 格自 動詞の 主語 と の複合 語に つ いての 言及 が少 ない。従っ て、以 下特 に断ら ない 場合、「内 項複合 語」は他動 詞の目 的語 と の複合 語を 指す 。

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ださい 」や 「ス プー ン曲 げ」な どに 見 るよう に、 容易 に新 しい 語を作 るこ と ができ 、生 産 性が高 い 。そ れに対 し 、語 彙概 念構造(lexical conceptual structure)4で形 成され る付 加

詞複合 語は レキ シコ ン(lexicon)にリストされているため、( 4)のような「可能な語」で も「実 在す る語 」に なる ことが 困難 で あり、 生産 性が 低い 。 (4) 道具+動詞: #車運び(車で運ぶ)、 #ハサミ切り(ハサミで切る) 様態+ 動詞 :#早喋り(早く喋る)、 #網採り(網で採る) 原因+ 動詞 :#仕事悩み(仕事で悩む)、 #雨濡れ(雨に濡れる) 結果+ 動詞 :#薄伸ばし(薄く伸ばす)、 #高積み(高く積む) 伊藤・ 杉岡 (2002: 131) 伊藤・杉 岡(2002: 132)は、付加詞複合語もまれに次のような新しい語が作られること がある が 、そ れは 規則に よる もの では なくア ナロ ジー(XY→ZY)による造語であるため、 何らか の作 為が 付き 纏う と述べ てい る 。 (5) キャベツの 百切り(粗い千切りの意味) 立ち読 み及 び 座 り読 みを 禁ず このテ ープ レコ ーダ には ななめ 聴き の 機能が ある 最近は 、 片 働き の世 帯が 減って いる 伊藤・ 杉岡 (2002: 131) 4 語彙概念構造とは動詞が表す意味を抽象的な述語で表示する構造のことである。語彙概 念構造 では あら ゆる 動詞 が動作(ACT)、変化(BECOME)、状態(BE)、使役(CAUSE) などの 意味 述語 に分 解さ れ、次 のよ う に表記 され てい る。

活動 (activities) 動詞 [x ACT(-ON y)] 到達 (achievements) 動詞 [y BECOME [BE z] 状態 (state) 動詞 [y BE z]

達成 (accomplishments)動詞 [[x ACT-ON y]CAUSE[y BECOME[BE z]]]

(x と y は動詞の項を意味する) 活動 動詞 は自 動詞 の場 合、ACT のみによって構成されているが、他動詞の場合なら ON y も含まれる。到達動詞は一瞬の変化を表すため、変化を意味す る BECOME と変化後の 状態で ある BE によって構成されている。状態動詞は変化を含まないため、 BE のみによ って構 成さ れて いる 。達 成動詞 は動 作 の及ば され た対 象に 変化 が起き るこ と を表す ため 、 上記の 意味 述語 がす べて 含まれ てい る 。

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14 先述 した よう に、 語構 成要素 間の 関 係によ る分 類、 語構 成要 素間の 関係 か ら導き 出さ れ た語形 成規 則は 既存 の動 詞由来 複合 語 の語形 成パ ター ンの 傾向 をある 程度 把 握でき るが 、 その語 形成 規則 だけ で必 ずしも ある 表 現が新 しい 造語 とし て成 立する かど う かを説 明で き るわけ では ない 。ま た、 それに 加え て 、 どの 部門 、ど の語 形成 レベル で形 成 される かを 仮 定して もあ る表 現が 新し い造語 とし て 成立す るか どう か予 測で きない。例え ば、以下 の(6) ~(8)の例は生産性が高いとされている「目的語―動詞」という関係 で結ばれている 内 項複合 語で ある にも 関わ ら ず 、一 般に 認めら れる 表現 では ない 。ま た、(9)の例は、それ ほど生 産性 が高 くな いと されて いる 「 副詞的 要素 ―動 詞」 とい う関係 で結 ば れてい る 付 加 詞複合 語で ある にも 関わ らず、 実際 に 使用さ れて いる 用例 であ る。 (6) ??桃見 、??植物 見、??肘 掛け椅 子と り ゲーム 、 ??家具 とり ゲー ム(河 上 1996: 35) (7) *質高め、*生地丸め、*新聞広げ、*生活楽しみ… (8) *牛肉切り落とし、*現金引き出し… (9) 窯焼き、手ごね、家飲み、宅飲み、堅あげ、春摘み、朝摘み、朝採り 、包丁切り、 手包み 、手 切り 、湯 捏ね 、水車 挽き 、 石臼挽 き、 甕出 し、 釜炒 り 、時 間貸 し 、直 火炊き 、ガ ス炊 き 、 お尻 歩き、 爪先 立 ち… 内項 複合 語を 生産 的に 作れな い動 詞 が存在 して いる こと は斎 藤(2005)も指摘している。 斎藤(2005)は「雨降り」、「霜降り」が容認されるのに対し、「 *霰降り」、「*雹降り」が 容認さ れな いと いう こと は統語 レベ ル では起 こら ない こと とし て (同:127-128)、「語構成 要素レ ベル の選 択制 限」 を提案 し、 そ の制限 は結 合相 手を 列挙 すると いう 方 式の開 かれ た 集合で ある とし てい る( 同:132)。 結合 相手 が開 かれ た集 合とい う主 張 は 2.3.1 以降に見る認知言語学の考え に近いが、斎 藤の主 張に よれ ば、 ある 表現が 複合 語 として 成立 する かど うか はやは り語 形 成規則 によ っ て制限 され るこ とに なる 。しか し、 語 形成規 則や 語構 成要 素間 の関係 の記 述 はある 新し い 造語が 成立 する かど うか を予測 する こ とがで きな い。

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2.2.2 機能に関する先行研究

動詞 由来 複合 語の 機能 につい て考 察 したも のに は影 山(1999)、杉岡・小林( 2001)、伊 藤・杉 岡(2002)、由本( 2009a,2009b,2011)、Yumoto(2010)がある。影山( 1999) は従来 では 単に 複合 名詞 と して 扱わ れ てきた 日本 語の 動詞 由来 複合語 には 、 次に示 され る 3 つのタイプがあると指摘している。 (10) a. N+V 複合語が全体として名詞になる場合 山登 り、 あら 探し b. N+V 複合語が全体として動詞(述語)として働く場合 ジー パン を丸 洗い する 、運賃 を 値 上 げする c. N+V 複合語が全体として形容詞的に働く場合 大学出 の( 野球 選手)、 親 譲り の( 無鉄 砲) 影山(1999: 118 一部改変) 上記 の例 にお ける(10a)と(10b)は[-する]を付けて述語として用いられるかどうかで 区別さ れる 。 例 えば、「山 登り 」は 「*山登りする5」で はな く、「 山登 りに 行く 」とい うよ うに、 文に おけ る一 般的 に名詞 が現 れ る位置 に用 いら れる ため 、名詞 と見 な されて いる 。 一方、「丸 洗い」 は上 に見 るよ うに 「ジ ーパン を丸 洗い する 」と いうよ うに 、[-する]をつ けて用 いら れる ため 、動 名詞 ( 本章の 2.5.1 節参照)と見なされている。( 10c)は「の」 で連体 修飾 をす るが、「*大学出をする」や「*大学出する」に見るように名詞としても動詞 として も用 いら れな いた め、形容 詞(的 )だ と見 なさ れて いる(由本 2009a,2009b 参照)。 この よう に、 多岐 にわ たる動 詞由 来 複合語 の機 能は どの よう に決定 され る かにつ いて 、 上記の 先行 研究 は複 合語 の語構 成要 素 間の関 係( 内部 構造 )を 分析し た上 、 語形成 部門 の 違いに よる もの だと 主張 してい る。 例 えば、 伊藤 ・杉 岡(2002) は前 節で も 見たよ うに 、 語構成 要素 間の 関係 によ って次 の 2 種類に分け、次の表のように主張している。 5 「*山登りする」をそれほど不自然ではないと感じる日本語母語話者もいるだろうが、そ れは話 し言 葉の 場合、「 を 」が省 略さ れ る場合 が多 いた めで ある 。し かし 、書き 言葉の 場合 、 「を」 がな いと 非文 法的 になる 。( 伊藤 ・杉岡 2002: 112 も参照したい。)

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16 内 項 の 複合 付 加 詞 の複 合 例 ゴミひ ろい 手書き 、薄 切り 品 詞 普通名 詞 動名詞 、 形 容詞 的 名 詞 連 濁 起こさ ない 起こす レ ベ ル 項構造 語彙概 念構 造 伊藤・ 杉岡 (2002:130 一部改変) 表 2-1. 日本語の動詞由来複合語の品詞等 Yumoto(2010)は表 2-1 の、伊藤・杉岡( 2002)にある 項構造で形成された内項複合 語は普 通名 詞、 語彙 概念 構造で 形成 さ れた付 加詞 複合 語は 動名 詞また は形 容 詞にな る と い う主張 を認 めた 上で 、動 名詞と して も 用いら れる 「砂 糖が け」 のよう な内 項 複合語 を取 り 上げて いる 。Yumoto は、そのような内項複合語は音韻的にも付加詞複合語の主要部の第 一音と 同様 に連 濁が 起き ている ため(e.g.,手づくり)、項構造ではなく、語彙概念構造で 形成さ れて いる と主 張し ている 。 以上 の伊 藤・杉 岡(2002)の主張及び Yumoto(2010)の主張をまとめると次の表のよ うにな る。 内 項 複 合語 付 加 詞 複合 語 例 ゴミ拾 い 値上げ 車庫入 れ6 手作り 黒焦げ 品 詞 名詞 動名詞 動名詞 形容詞 語 形 成 レベ ル 項構造 語彙概 念構 造 語彙概念構造 語彙概 念構 造 表 2-2. 日本語の動詞由来複合語の品詞と語形成レベルに関する先行研究のまとめ しか し、 語構 成要 素( ないし 語構 成 要素間 の関 係か ら導 き出 された 語形 成 レベル )の 違 いだけ では 、生 産性 の問 題でも 見た よ うに、 既存 の動 詞由 来複 合語が どの よ うに機 能す る 6 ニ格に相当する要素に関して伊藤・杉岡( 2002)では論じられていないが、Yumoto(2010) では必 須項 と認 定さ れて いる。 よっ て 、ここ では 内項 複合 語と 同じグ ルー プ に分類 する 。

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17 のかの 傾向 をあ る程 度 把 握でき るが 、 すべて の動 詞由 来複 合語 の機能 を説 明 できる とは 限 らない 。例 えば、「窓 越し 」に おけ る「 窓」と 「越 し」 の関 係は 「窓を 越す 」 と分析 でき 、 内項複 合語 に分 類さ れる が、表 2-1、表 2-2 に示された普通名詞であるとは言いにくい。 なぜな ら、「窓越 し」 は表 2-1、表 2-2 の「ゴミ拾い」のように「~をする」(ゴミ拾いを する、*窓越しをする)として 用いられないからである。 他に、「川 釣り」 は「 川で 釣る 」と、「 足こぎ 」も 「足 でこ ぐ」 と分析 でき る ため、 動名 詞とさ れて いる 付加 詞複 合語に 分類 で きるが 、「*魚を川釣りする」、「*自転車を足こぎする」 とは言 えな いこ とか ら、 動名詞 と見 な すのは 適切 では ない 。 さら に、 主要 部が 同一 の動詞 であ り 、語構 成要 素間 の関 係も 同じだ と思 わ れる「 現地 入 り」と「 箱入 り」、「 ガラ ス破 り」と「 心臓破 り」を比べ ると 、「現 地入 り」は「(被災 地に ) 現地入 りす る」 とい うよ うに動 名詞 と して用 いら れる のに 対し、「箱 入り 」は 「*箱入りす る」で はな く、「 箱入 り娘 」と いう よう に形容 詞 的 に用 いら れ る 。また 、「 ガラ ス破り 」は 「(空 き巣 による )ガ ラス 破り (を 防ぐ )」と いう よう に 用い られ るの に対 し、「心臓 破り 」 は「心 臓破 りの 坂」 の よ うに用 いら れ る。つ まり 、語 構成 要素 ないし 語構 成 要素間 の関 係 で導き され た語 形成 レベ ルの違 いの 分 析のみ では 動詞 由来 複合 語の機 能を 完 全に予 測す る ことが でき ない 。

2.2.3 まとめ

以上 で日 本語 の動 詞由 来複合 語に 関 する先 行研 究の 視点 を概 観した 。生 産 性、機 能に 関 する問 題点 は以 下の よう にまと めら れ る。 (11) a. 動詞由来複合語の語構成要素間の関係から導き出された語形成規則は分類及 び 語構 成の パタ ーン の傾向 を記 述 できる が、 それ と同 じ構 成の 新 しい 造 語の 成 立可 能性 を予 測す ること はで き ない。 b. 語構成要素間の関係を記述することによって、動詞由来複合語がどのように 用 いら れる かの 傾向 をある 程度 把 握でき るが 、語 構成 のパ ターン のみ で は 機 能 を説 明し 切れ ない 。 (11a)は複合語の語形成(規則)や生産性を考察した先行研究に見られる問題点で、(11b)

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18 は動詞 由来 複合 語の 機能 を考察 した 先 行研究 に見 られ る問 題点 である 。両 者 が共通 する の はいず れも 言語 を処 理す る部門 が存 在 してい るこ とを 前提 とし 、 語構 成要 素 (ない し語 形 成部門 、語 形成 レベ ル) にのみ 焦点 を 当てて いる こと であ る。 本研究 は(11a)(11b)の 問題点 を解 決 す るた めに、「動 機づ け」 という 概念 を導 入す る( 本章の 2.3.3 節参照)。繰 り返し 述べ たよ うに 、 こ れまで の研 究 は生成 文法 の枠 組み で語 構成要 素か ら 語形成 規則 を 導き出 すこ とや 語形 成レ ベルの 違い を 明らか にす るこ とに 重点 を置い て進 ん できた 。 そ れ は言語 を処 理す る生 得的 な部門 があ り 、文と 同様 に、 複合 語の 語形成 を司 る 語形成 部門 や 語形成 レベ ルを 解明 する ことに よっ て 、複合 語の 生産 性や 機能 なども 説明 で きると 考え ら れてい るか らで ある 。 本研究 はそ のよ うな 生得 的な部 門や 語 形成レ ベル を想 定せ ず、 語形成 規則 を 事例か ら抽 象化さ れた 構文 スキ ーマ (本章 の 2.3.1.1 節参照)と見なす認知言語学の立場から、先行 研究で は不 問に 付さ れた 「文脈 」を 積 極的に 解明 しよ うと 試み る。 (12) 従来の研究: 表 現 → 語形 成 規則 ⇒(文脈 )⇒ 表現 表現か ら( 生得 的な )規 則の抽 出 本研究 : 表現→ (経 験に よる )規 則⇒ 動 機 づ け ⇒表 現 (経験 によ る) 規則 を利 用し表 現を 作 るのは 何に よっ て動 機づ けられ てい る のか (太線 は議 論の 中心 を示 す) → 語 形成 規則 を抽 出す るプロ セス ⇒ 規 則を 使い 表現 を作 るプロ セス 語形成 規則 を生 得的 なも のでは なく 、 事例か ら抽 象化 され た構 文スキ ーマ と 見なす 立場 からす れば 、複 合語 の生 産性は 規則 や 語形成 部門 の違 い に よっ て決ま るの で はなく 、新 し い造語 が成 立す るか しな いかは それ を 動機づ ける 要因 があ るか どうか によ る ことに なる 。 また、 ある 新し い造 語が 成立す る場 合 、その 機能 も動 機づ けに よって おの ず と決定 され る と考え られ る。

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2.3 本研究の立場及び理論的な枠組み

2.3.1 本研究の立場

先述 した よう に、 従来 の複合 語に 関 する 研 究は 多く の表 現に おいて 見ら れ る共通 点を 規 則とし て抽 出す るこ とに 重点を 置い て いる。 特に 、生 成文 法の 流れを 汲ん だ 立場に よる 複 合語の 研究 は語 形成 部門 や語形 成レ ベ ルの解 明に 力を 入れ てい る。そ のよ う な立場 に基 づ くと、 複合 語の 機能 や生 産性な どは 語 形成部 門の 違い によ り、 おのず と決 定 される こと に なる。 しか し、 上で 見た ように 、語 形 成部門 や語 形成 レベ ルの 違いの みで は 説明で きな い 問題点 も数 多く 残っ てい る。 本研 究は 、上 記の 立場 を採っ た先 行 研究の 主張 では 前節 で見 たよう に 説 明 できな い問 題 点が数 多く 残っ てい る理 由から 、そ れ らの先 行研 究の 立場 とは 異なっ てい る 認知言 語学 、 特に認 知文 法(cognitive grammar)の使用依拠 /用法基盤モデルと呼ばれるアプローチで 考察を 進め る。Langacker(2000)、早瀬・堀田( 2005)、山梨(2009)などによれば、用 法基盤 モデ ルの 言語 観は 次のよ うに 規 定され る。 生成 理論 は経 済性 に基 づき、 生得 的 な規則 を 想 定し 、ご く少 数の規 則を 利 用して なる べ く多く の言 語現 象を 説明 しよう とし て いる極 小主 義で ある が、 用法基 盤モ デ ルはそ れと は 反対に 、規 則が 生得 的な もので はな く 、 現実 に用 いら れて いる 個々の 言語 現 象 の事 例か ら 共通事 項と して ボト ムア ップ的 に 抽 出 された もの と想 定す る極 大主義 であ る 。 また 、生 成 理論は 言語 の意 味が ある 表現の 構成 要 素から 得ら れる とい う還 元主義 であ る のに対 し、 用 法基盤 モデ ルは 言語 の意 味が組 成分 の 総和だ けで はな いと いう 非還元 主義 で ある。 用法 基盤 モデ ルは 言語 を 認知 能力 か ら独立 した もの とせ ず、 他の認 知現 象 と本質 的に 変 わらな いと して いる が、 本研究 が前 提 として いる 用法 基盤 モデ ルにお ける 認 知現象 を以 下 提示し てお く 。

2.3.1.1 抽象化と事例化

抽象 化(abstraction)またはスキーマ化( schematization)と呼ばれる認知現象 は、複 数の経 験か らそ の共 通す る部分 を抽 出 し、新 たな 構造を 作る 認知 プロ セス であ る。反 対に 、 抽出さ れた スキ ーマ から 具体的 な構 造 に応用 され る認 知プ ロセ スは事 例化 (instantiation)または精緻化(elaboration)と呼ばれる。

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20 ス キー マ [A] より抽象的 [B] [C] より具象的 事例 事例 図 2-2.言語単位間の関係(Taylor・瀬戸 2008:16) スキ ーマ と似 た概 念は 国語学 の西 尾(1988)にも示唆されている。西尾( 1988)は新し い複合 語の 語形 成は 既存 の複合 語の 実 例から 抽出 され た「 型」 を通し て類 推 的創造 (analogical creation)が行われると述べ、また、「型」が有力であるか どう か、つ まり 、 生産的 な語 形成 パタ ーン である かど う かは既 存の 語の 数( タイ プ頻度 ;本 章 の 2.3.1.3 節 参照) に依 存し てい ると 述べて いる 。 西尾と 同じ よう に、 本研 究も動 詞由 来 複合語 の語 形 成規則 を一 種の 構文 スキ ーマ(schema)と見なす。この主張に基づくと、例えば、[[X]動 詞連用 形]という語形成規則は「缶切り」や「手もみ」など、数多くの事例から抽象化さ れ た構文 スキ ーマ とな る。 但し、 西尾 の 示唆は 「名 詞+ 動詞 」や 「形容 詞+ 動 詞」な どの 品 詞レベ ルに とど まっ てい るが、 用法 基 盤モデ ルで は事 例間 共通 の意味 の抽 出 や抽象 度の よ り低い スキ ーマ の設 定な ども重 要視 さ れてい る。スキー マは 複数 個あ ると 想定 される ため 、 [[X]動詞連用形]という抽象度の高いスキーマの下に、 [[内項]動詞連用形 ]や[[付加詞]動詞 連用形]などのより抽象度の低いスキーマの存在 が考えられる。さらにその下には[[N]狩 り]や[[手]動詞連用形]など、より抽象度の低く、具象度の高いスキーマ も存在していると 考えら れる7

2.3.1.2 定着

「定 着」(entrenchment)または「ルーチン化」(routinization)、「自動化」

(automatization)、「習慣化」( habit formation)などと呼ばれる認知現象 は、例えば、

7 本研究と同じ用法基盤モデルである淺尾( 2008,2009)は構文( construction)という

用語を 使っ てい るが 、意 味の透 明性 や 音韻、 コー パス によ る検 証で 、 規則 は 事例か ら抽 出 された もの とい う 主 張の 妥当性 を論 じ ている 。

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21 靴紐を 結ぶ こと の学 習や アルフ ァベ ッ トの暗 唱 の 際に も観 察さ れる認 知プ ロ セスの こと で ある。 認知 文法 では 、 複 雑な動 作を 繰 り返す こと によ って 、 一 つ一つ の動 作 を意識 しな く てもで きる よう にな るよ うに、言語 のよ うな 複 雑な 構造 でも 繰り 返すこ とに よ って定 着し 、 様々な 段階 を経 て最 終的 にはほ ぼ意 識 的な検 討が 不要 なユ ニッ トまた は単 位 (unit)にな ると考 えら れて いる 。 西尾 (1988: 111)は「はなむけ」(馬の鼻向け)や「こめかみ」(米噛み)、「ものさし」 (物指 し) は語 源的 には 「名詞 +動 詞 」とい う形 式に 属す るが 、今や そう 意 識され ない と 指摘し てい る。 また 、Taylor・瀬戸(2008: 19)も「ウイスキーの水割り」の「水割り」 は「水 」と 「割 り」 の合 成より 「水 割 り」と いう 一つ の単 位で 記憶さ れて い る可能 性を 示 唆して いる。本研 究で はそ のよう な現 象も「定 着」の 一種 と見 なす ことが でき ると考 える 。 つまり 、慣 習化 する につ れ、分 析可 能 性(analyzability)が低くなっていく のである。さ らに、「ス ポー ツ目 的」に限 定さ れて い ると指 摘さ れる「山 登り 」( 影山 1999)は「山」と 「登る 」分 析可 能性 が残 ってい るが 、 慣習化 によ る意 味の 限定 も 「定 着」 の 一種と 捉え る ことが でき る 。

2.3.1.3 タイプ頻度とトークン頻度

認知文 法で は上 述し たス キ ー マ の 抽 出 と 定 着 に 頻 度 が 関 わ っ て い る と 考 え ら れ て い る 。 ここでは Langacker(2000)、早瀬・堀田( 2005)の英語の動詞過去形[ V-ed]と [C-{a/o}-ught]に対する説明 を通してスキーマの抽出と定着の頻度との関連性を見てい く。Langacker(2000)、早瀬・堀田( 2005)によれば、日 常生活で頻繁に遭遇する cooked や played、caught、bought など基本的な動詞の過去形から[ V-ed]と[C-{a/o}-ught]と いうス キー マが 抽出 され ると考 えら れ るが、 二つ のス キー マの 生産性 に違 い が見ら れる の はその 後に 遭遇 した 事例 の数の 違い に よるも ので ある 。前 者は cooked のほかにも stayed や danced など同じ[-ed]で終わるパターンに頻繁に遭遇するのに対し、 caught などと 同じ[C-{a/o}-ught]というパターンの表現にはそれほど出会わない。[ -ed]というスキー マは多 くの 異な った 事例 に見ら れる た め、規 則と して の力 が強 くなる 。そ の 結果(図 2-3 左)、 新し く作ら れた e-mail や xerox などの動詞にも適用できるようになる。一方、 [C-{a/o}-ught]というパターンの事例はそれほど多くないが、それに属する caught など はその まま 頻繁 に使 われ るため 、[-ed]という規則が適用せず、caught、bought のまま定

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22 着する (図 2-3 右)。 太線: 定着 図 2-3. 英語の規則変化と不規則変化の過去形のタイプとスキーマ 早瀬・ 堀田 (2005: 104 一部改変) タイプ (type)及びトークン( token)という二つの 概念を導入し、個々の異なった事 例をタ イプ と、タイ プの 実現 例を トー クンと 言い 直す と、[-ed]は[C-{a/o}-ught]よりタ イプ頻 度が 高い。その ため 、新し い事 例にも 適用 され やす く、生 産性 が高 い 。一方、caught などは cooked などよりトークン頻度が高いため、そのまま定着する。 本研究 では 動詞 由来 複合 語の語 形成 規 則を上 述し た通 り 、 一種 の構文 スキ ー マと見 なす が、ス キー マと して 抽出 される かど う かがタ イプ 頻度 に左 右さ れると 考え る 。つま り、 既 存の動 詞由 来複 合語 に共 通の語 構成 要 素が多 けれ ば多 いほ ど、 その語 構成 要 素がス キー マ として 抽出 され 、規 則と して働 く可 能 性が高 く、 新し い事 例に も応用 され や すい が 、共 通 の語構 成要 素が 少な けれ ば少な いほ ど 、スキ ーマ とし て抽 出さ れ、規 則と し て定着 する 可 能性が 低く 、新 しい 事例 に応用 され る ことも 少な いと 考え る。 例えば 、[-食べ]は「*ご飯 食べ」、「*麺食べ」に見るように、事例が少ないため、動詞由来複合語を作る規則として抽 出され てい ると は考 えに くいが、[-作り]は「田作り」や「街作り」、「家作り」など様々な 表現が ある ため 、動 詞由 来複合 語を 作 る規則 とし て抽 出さ れて いると 考え ら れる。 また 、複 合語 が 語 彙的 である かど う か、つ まり 、一 つの ユニ ットと して 定 着して いる か どうか はト ーク ン頻 度に 左右さ れる と 考え ら れる 。[-狩り]で終わっている動詞由来複合語 を例に 見て みる と、[-狩り]で終わっている動詞由来複合語に「いのしし狩り」や「りんご 狩り」、「 キノ コ狩 り」など 、相当 の数 があり 、タイ プ頻 度が 高いた め 、[-狩り]が一つのス

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23 キーマ とし て抽 出さ れ、意 味も「~ を採 集する」とい う意 味に 定着 してい ると 考えら れる 。 また、 それ で作 った 「果 物狩り 」や 「 ぶどう 狩り 」、「 さく らん ぼ狩り 」な ど も「~ を採 集 する」とい う意 味で ある 。一 方、「 鷹狩 り」は「鷹 を狩 る/採集する」という意味ではなく、 「鷹で 狩り をす る」 とい う意味 にな っ ている 。そ れも 「鷹 狩り 」がそ うい う 場面で 慣用 化 されて おり 、つ まり 、ト ークン 頻度 が 高いと 言い 換え られ る。

2.3.2 本研究のレキシコンと文法の捉え方

本 研究は Langacker(2000,2008)などに基 づき、レキシコン を「ある言語の固定 (fixed)表現の集合」と規定する。注意すべきは、この立場で想定されているレキシコン は従来 のよ うに 、単 に個 別言語 にお け る単語 の集 合体 と見 るだ けでは なく 、 単語よ り複 雑 な構造 、例 えば イデ ィオ ムのよ うな 構 成要素 から 意味 を予 測で きない 表現 な ども入 って い る。 ある 構造 がユ ニッ トと して定 着し 、 語彙項 目と なる か、 それ ともユ ニッ ト として 定着 せ ず、新 奇な (novel)表現と捉えられるかは図 2-4(a)に示されるように、定着度、慣習 性によ ると 捉え られ る。 破線: 境界 を明 確に 区別 できな いと い う意味 図 2-4. 記号と慣習性、スキーマ性の関係 Langacker(2008: 27 一部改変)

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24 また 、文法 とレキ シコ ンは図 2-4(b)に示されているように、スキーマ性と記号として の複雑 性と いう 2 つのパラメーターによって相互に位置づけられている。ある構造のスキ ーマ性 が高 い場 合、 従来 と同様 に認 知 文法で も 文 法だ と考 えら れてい る。 一 方、認 知文 法 でレキ シコ ンと 見ら れる 構造は 、記 号 として 単純 で、 意味 もか なり具 体的 な 従来の プロ タ イプ的 な語 彙項 目に 加え 、それ より サ イズの 大き いイ ディ オム なども レキ シ コンと 見な さ れてい る。 上記 の考 えを 導入 した 本研究 の動 詞 由来複 合語 に対 する 捉え 方 は図 2-5 で表される。 点線: スキ ーマ の抽 出 図 2-5.Langacker(2008)に基づいた本研究の日本語の動詞由来複合語の語形成モデル8 先述し たよ うに 、 本 研究 は文法 現象 を あらゆ る事 例の 共通 する 部分か らボ ト ムアッ プ的 に抽象 化さ れた もの と捉 える使 用依 拠 モデル に基 づき 、動 詞由 来複合 語の 語 形成規 則を 個々の 事例 から 抽象 化さ れた構 文ス キ ーマと 見な す。 図 2-5 に示されている[[X]動詞連用 形]や[[内項]動詞連用形]、[[原材料]入り]は構文スキーマ に、「山登り」や「綱引き」など は事例 にそ れぞ れ対 応 し ている 。 ま た 、点線 は個 々の 事例 から スキー マを 抽 出する 過程 を 8 図 2-5 に示した「山登り」や「綱引き」の例は「記号としての複雑性」が異なるように 見える が、 表示 の難 しさ の問題 であ る 。形態 素の 数が 同じ であ る語例 同 士 の 「記号 とし て の複雑 性」は同 等だ と考 えた い。また、「山 登り 」や「田 作り 」な どのス キー マ性も 同等 だ と考え たい

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