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付加 詞複 合語 の機能

第 3 章 日本語の動詞 由 来複合 語 の語形 成 と意味機 能

3.4.1 付加 詞複 合語 の機能

再び 「窯 焼き 」を 例に して考 えて み たい。 これは 3.3.1節 で検 討した 通り 、ピッ ツァ な どのパ ン類 を被 修飾 語と してい るた め 、パン 類の 百科 事典 的知 識 によ って 動 機づけ られ て いると 考え られ る。 ここ ではパ ン の イ メージ ・ス キー マと とも に 前節 で例 示 した パ ンに 関 する知 識を 再掲 する 。

(82) パンの イメ ージ と そ れに 関する 知識

(a) (b)

最初 に、 イメ ージ ・ス キーマ の意 味 を もう 一度 説明 する 。 第 2章の 2.5.3 節で述 べた よ うに、太線で 表示 され る(b)の丸 はモ ノ全般 を示 す概 念で ある。パン に即 し て言え ば、(82)

の(a)のよ うな モノ をす べて 捨象 し て得た もの であ る。 また 、右側 に記 載 されて いる の

は、(b)の 枠の 中に 存在し てい ると 考 えられ る 百 科事 典的 知識 の一部 であ る 。

百科事 典的 知識 に入 って いる知 識は 全 てパン とい う概 念を 構成 する 要 素の 一 部であ る ため、 パン の属 性と も言 える。 しか し 、3.3節 でも 検討 した よう に、 そのよ うな知 識は 一 般的に 言わ ずと も 暗 黙で 理解さ れて い る 。3.3.3節で 述べ た対比 など とい った 文脈が ない 場合に 明示 する と、「?小 麦粉 パン」 の ように 余剰 な情 報 が 感じ られる 。一 方 、デフ ォー ル ト値で ない 情報 は指 示物 をより 詳し く 特定で きる ため、「丸 いパン 」や「 長い パン」、「調理 パン」、「菓 子パ ン」 のよ うに、 修飾 語 を加え るこ とが 比較 的に 容易で ある 。 修飾語 は様 々 なモノ を修 飾す るに も使 用され てい る 「丸い 」、「 長い」、「 調理」、「菓 子」 な ど、既 存の 語 からも 選択 でき るが 、既 存の語 に適 切 な表現 がな い場 合、 今ま でにな い表 現 を構文 スキ ー マから 新規 的に「 窯焼 き」な どと いう 表現 を 作る こと もで きる であろ う 。「 窯 焼き」という 表現を 作る 動機 は「 丸い パン」 とい っ た例と 同様 に「 パン 」に 属性を 与え る ため な ら、 こ のよう な複 合語 が 動 詞で はなく 、形 容 詞 にな るの も必 然の 結果 だ と言 える 。 但し、 この よ

構成的 役割 :小 麦粉

形式的 役割 :丸 い/細長 い… その他 様々 目的的 役割 :食 べる

産出的 役割 :小 麦粉 を練 って、 それ を オーブ ン で焼 い作 る

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うな複 合語 は本 来「[[窯焼き][パン]」 ではな く、「[窯 焼き パン]」 のよ うに 一 つのユ ニッ ト であっ たと 考え るほ うが 妥当で あろ う。「窯焼 きパン 」と それに 類似 した「 蒸 しパン 」を比 較して みた い

背景 知識 の前 景 化

(a) (b) (c)

パン 蒸 しパ ン

図 3-1.「パ ン」か ら「 蒸し パン 」へ の 概念変 換イ メー ジ

ここ まで 繰り 返し て 述 べてき たよ う に、 パ ンは 焼い て作 るの が 一般 的で あ る 。従 って 、 特別に 焼く とい う製 造過 程を明 示し「#焼きパ ン」と する 必要 がな い。そ れに 対し 、一般的 でない「蒸す 」こ とによ って 作ら れた パン を 普通 のパ ンと 区別 するた めに 、「 蒸しパ ン」と いう表 現が 用い られ る。

パン のよ うな モノ 概念 は 第 2章の 2.5.3節で の提 示及 び 上 に示 され たよう に、 一 般的 に

図 3-1(a)のよ うに表 示さ れる 。本 研 究は、背景 知識 にお ける「 製 造者 がそ れを焼 いて 作

る」と いう こと を示 すべ く、図 3-1の (b) のよう なイ メー ジ・ スキ ーマ で パンを 表示 す ること にし てい る。(b)にお ける 破線 で描か れた 丸は 動作 主( ここ では パン の 製造 者 )を 示し、 太線 で描 かれ た( プロフ ァイ ル された ) 丸 はモ ノ( ここ ではパ ン) を 示して いる 。 丸と矢 印は 動作 主が 物体 へ働き かけ る ことを 示し てい るが 、 網 掛けは 動作 主 が不特 定で あ ること を、破線は それ が背 景的 知識 であ ること を 意 味し てい る。つ まり、全体 の 意味は「([ 不 特定の ]製 造者 が蒸 して 作った )パ ン 」であ る。

「#焼きパ ン」 は一 般的 に使 用さ れ る表現 では ない が、 それ は焼く とい う 製造過 程は 図

3-1 の(b)の破 線で 示され たよ うに 、パンの 背景 的な 属性 の一 つと捉 え る こ とがで き る か

らであ る。 この 「焼 く」 という デフ ォ ールト な製 造過 程 と 異な ったパ ンの 出 現によ り、 そ れを特 徴づ ける ため 、 製 造過程 (産 出 的役割 ) が 前景 化さ れる 。前景 化の 結 果、本 来破 線 で表示 され た部 分が(c)のイ メー ジ・スキー マに おい て 実 線で 表示さ れて い るよう に 、パ ンから 形態 素が 一つ 増え、「 蒸し パン」に なっ てい る。但 し、プ ロフ ァイ ルさ れてい るの は

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パン( 網掛 けし てい ない 太線の 丸) だ けであ るた め、 全体 の意 味は( 一般 的 なパン と違 う が)パ ンの まま であ る 。

「 窯焼き パン 」は「焼 く 」とい う 部 分がデ フォ ール ト 値 であ る が 、3.3.1 で 見たよ うに 、 道具と して 用い られ る「 窯」はデ フォ ールト 値で はな い。「蒸し パン 」も「窯 焼きパ ン」も 一般的 なパ ンと 区別 する ため の 造語 だ と考え られ るが 、両 者 が 異なる のは 、 前者は 製造 過 程全体 がデ フォ ール ト 値 ではな いの に 対し、 後者 は製 造過 程で 使用さ れる 道 具がデ フォ ー ルトで はな いと いう 点で ある。 イメ ー ジ・ス キー マで 両者 の違 いは次 の図 の ように 表示 す ること がで きる 。

(a) (b)

蒸 しパン 窯 焼き パン

図 3-2.「蒸 しパン 」と 「窯 焼き パン 」 のイメ ージ の比 較

「蒸 しパ ン」と同様 に、「 窯焼 きパ ン 」のイ メー ジ・スキー マ(図 3-2の b)にお ける 網 掛けし た丸 はパ ンの 不特 定の動 作主 ( ここで はパ ンの 製造 者) を示し 、網 掛 けして いな い 太線で 描か れた 丸は パン を示し てい る 。丸 と丸 を連結 した 矢印 は「(不 特定 の )動 作主 がパ ンに働 きか けを する( ここ では パン を 焼く)」とい う意 味で ある 。また、四角 いボッ クス は パンの 製造 過程 に使 用さ れる「 窯」 を 示して いる 。

両者 は上 のイ メー ジ・スキ ーマ に示 された よう に、「窯 焼き パン 」の ほう に 形態素 の数 が 一つ多 いが 、い ずれ も 一 般的な パン と 区別す るた め、 パン の背 景的な 知識 が 前景化 され て いる。 従っ て、 いず れも パン の 一種 で あるこ と は 変わ らず 、そ れを修 飾す る 「窯焼 き」 も 基本的 に形 容詞 とし て用 いられ 、 動 名 詞とし て用 いら れな い。

このよ うな タイ プの 複合 語は他 に 「 包 丁切り (う どん)」、「 手延 ばし (ナ ン)」、「ガ ス炊 き(ご 飯)」 など 道具 を意 味 す る名 詞と 複合し た表 現 や 「春 掘り (じゃ がい も)」や 「 朝採 り(野 菜)」、「旬 摘み (茶 )」 な ど時 間 を意味 する 名詞 と複 合 し た表現 など と 多数観 察さ れ る。

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注意す べき 点は、「付 加詞 複合 語+ 名詞 」 とい う構 成で あれ ば、 必ずし も 後 項 の名詞 が 付加詞 複合 語の 形成 を動 機づけ てい る とは限 らな い こ とで ある 。例 えば、「 釜 揚げ製 法 」と いう構 造は ある が、 これ は必ず しも 「 製法」 とい う名 詞が 「釜 揚げ」 の形 成 を動機 づけ て いると いう わけ では ない 。実 際、「釜 揚 げとい う製 法 」のよ うに 、同定 を意味 する「と いう」

の挿入 が可 能な ため、「釜 揚げ 」自 体が「製 法 の一 種」を意 味し 得る し、この 点、「*手焼 き という 煎餅 」に 言い 換え られな い「 手 焼き煎 餅」 とは 対照 的で ある 。

むろ ん、「製 法」自体 は様 々な 方法 を 含意す るた め、具体 的に どれ を指 すか 詳細に 指定 す ること によ って、「釜 揚げ 」の よう な様 々な 複 合語 を作 るこ と も できる 。こ れ は 3.3.4で見 た「~ 階建 て( のビ ル)」 に似 てい る。 つまり 、「 ビル」 と は 一見 、明 確な 概念 である よう に思え るが 、実際に 2階 以上 であ れば 、階 数を 詳細 に指定 し 、様 々な表 現を 作れる 。デフ ォール トな 階数 が想 定さ れてい ない 「 ビル」 は具 体的 に 「 何階 建て」 かを 詳 細に指 定す る ように 、「製 法」も「 どの よう な」を 詳 細に指 定す るこ とが 可能 である 。言い 換える と、「3 階建て 」や「70 階建 て」はビ ルに 関す る知識(の 詳細 指定)によ って 動機 づ けられ てい る と考え られ るよ うに、「釜 揚げ 」も「製 法」に関す る知 識( の詳 細指 定)によ って動 機づ け られて いる と考 えら れる 。

次に 、「 箱売り 」の 検討 に移 る。 最初 に、「 箱売 り」の 対象 であ り得 る「 みか ん」の イメ ージ・ スキ ーマ とそ れに 関する 知識 を 下記の 通り に 例 示す る。

(83) みかん のイ メー ジと それ に関す る知 識

3.3.2節 で検 討し た「一 個売 り」 と「 まんじ ゅう 」の 関係 に見 られる よう に、「売る 」と

いう行 為も 一般 的に 「み かん」 とい う ものの 目的 的役 割と は 考 えにく い 。 し かし、 販売 者 側に立 てば 、「み かん 」は「 食べ る」た めのも の で はな く、金 儲け のた めの「 売り物 」で も あり得 る。 みか んは 売り 物であ ると い う観点 から すれ ば 、 みか んを売 る 際 に どのよ うに 売 るかを 考え る必 要が ある ため 、「 箱売り 」の 形成 を動 機づ ける知 識 は「 みか ん」のみな らず 、

「みか んを 売る こと また は売り 方 」 で あると 考え るほ うが 適切 であろ う 。 構成的 役割 :果 肉、 皮

目的的 役割 :食 べる

産出的 役割 :農 家が 栽培 した果 樹か ら 採取す る

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(84) みかん を売 るこ との イメ ージと それ に 関する 知識

上記 のイ メ ー ジ・ スキ ーマ に おい て 、 太線 で描 かれ た楕 円の 中にあ る、 網 掛けし てい る 丸は不 特定 の動 作主 (こ の場合 はみ か んの [ 不特 定の ]販 売者 )を示 して い る。ま た、 網 掛けし てい ない 丸は みか んを示 す。 丸 と丸を 連結 する 矢印 は動 作主が みか ん に働き かけ を する( この 場合 はみ かん を売る )こ と を意味 する 。矢 印と 繋が ってい る 破 線 及び破 線で 描 かれた ボッ クス はみ かん を売る 時の 方 法 や様 態な どを 示す 。

第 2章の 2.3.4 節で 述べた よう に、 本研究 はモ ノと 同様 、行 為 や過 程な ど にも背 景的 な

百科事 典的 知識 が存 在し ている と 考 え る。み かん を売 る方 法は(84)に例 示 してい るよ う に一個 や複 数個 で販 売す る など 様々 で ある。 売り 方 に より 値段 も異な るた め 、それ ぞれ を 区別す べく 、 本 来背 景に 存在し てい る 「 如何 に売 るか 」に つい ての知 識 が図 3-3 のよ うに 前景化 され る。 その 結果 、「箱 売り 」や 「袋売 り」 など の複 合語 が形成 され て いる 。

背 景知識 の前 景 化

み かん売 り 箱 売り

図 3-3. 「 みか ん売り 」と 「 箱 売り 」の 比較

対照 的に 、 本 来段 ボー ル箱に 詰め て 販売さ れ て いる もの であ れば、 特別 に 売り方 を前 景 化し「 箱売 り」 と 表 現す る必要 がな い ため、 家電 製品 など は「#家電 の箱 売 り」と 表現 さ れない 。

以上 の考 察の よう に、複合 語の語 形 成を動 機づ ける 知識は 2種 類あ ると 想 定する こと に よって 、複 合語 の機 能も 説明で きる 。 モノに 関す る知 識に よっ て動機 づけ ら れた複 合語

目的: 金儲 け 方法: 一個 一個 で

場所: 八百 屋や スー パー など